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Face of the Surface  作者: 悟飯 粒
狩虎の章
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暴君降臨〜食後の涙に甘いソテーを〜

「さぁイリナよ。俺が勝ったら染島さんを解放しろよ。」

「勿論。勝てたら胸美を渡してやろう…………ふっ、私の手を読むことが出来るかな?」


俺と、こめかみ辺りにバンソーコーをつけたイリナは向かい合い、各々自分に適したポーズをとる……………染島さんはというとイリナの後ろでモジモジとしていて、黒垓君がその傍らで剣をチラつかせている。


「手を読む?はっ!心理戦じゃねーんだよ、いいか?どんなに戦略や作戦を考えたところで、最後に勝敗を決めるのは絶対に勝つという気持ちだけだ。」


ただ[勝つ]とひたすらに念じ続けた思いは磨かれてゆき、その研ぎ澄まされた思いはどんな壁だろうと打ち崩し、己に勝利を呼び込む。そしてこの[ただ勝つ]という言葉が本多忠勝の名前の一部だから、俺は本多忠勝が好きなのだ。まぁ、だからなんだという話だが。


「下らない自論はもういい。ここから先は待ったなしだからね?……………それじゃあ一瞬でくよ。」


すうっっっ

俺とイリナが同時に深呼吸をする。


シーーーン……………………


俺とイリナの動きは止まり、辺りに静寂が漂う。

……………くっ、先に動くべきだろうか………いや、待て。考えるな、感じろ。この世の勝利という名の宇宙全体にある流れに身を委ねるのだ………………どのタイミングに、どう出るか?それを全て委ねるのだ。

ポタリ。俺の頬に一筋の汗が浮かぶ……………待て、拭うなよ俺。ここで相手に隙を見せてはダメだ。


「…………………さ」


俺とイリナの声が同時に出る。これだ、これが全ての始まりだ。


「いしょはっグー!」


俺とイリナの拳が同時に繰り出される。そう、俺たちが今していることはただのジャンケンだ。グーはチーに強くてチーはパーに強くてパーはグーに強い、本当にただそれだけだ。別に、その手で相手を殴るとか目潰しをするとか張り手とかはない。叩いて潰してジャンケンポンではないのさ。どんだけ血の気が多いんだよ、ただですらちょっと、ほんのちょっと暴力表現が多いってのにこれ以上血が吹き出るようなことがあっては全年齢対象に出来なくなってしまう。

そもそも何故こんなことになったのかというと説明をしなくちゃいけないよな。いや、しなくていいか。正直そこまで面白いこともなかったし。…………いや、やっぱり説明はしなくちゃいけないか、いくらめんど………ゲフンゲフン。話がつまらないからってしなくてはいけないだろう。


そう、あれは確か…………


「入り方がまるで遠い過去を語るときのようですね。」


俺が回想に入ろうとした時、清楚な感じの声が頭に響いた。


「……………いや、染島さん。なぜ俺の回想の途中に入ってきてるんですか。」


今この瞬間は俺の拳とイリナの拳の力が同じで相討ちになっている状態だ…………おっ、意外とカッコいい感じにボカせだぞ。まるでバトルマンガのワンシーンのようだ。まぁ、この話は置いといて。そんな緊迫するような状況下において今俺は走馬灯のようにいままでの出来事を語ろうとしているのだ。つまりテレパシーだろうと何だろうと、今この瞬間に俺の意識に潜り込んで俺と会話をするなんて時間的に合わないって事になる。ただですら一瞬でこんなことを考えるのはあり得ないっていうのに、あり得ないことがダブルで起きちゃ、無能な俺じゃあそれらしい言い訳が思いつかないぞ。


「安心して下さい。私のテレパシーの能力は、なんと!他人の走馬灯のようなものなどにも干渉することが出来てしまうんですよ!伊達に魔族の最高幹部と名乗っていません。」


そう、これだ。これのせいで話はややこしくなってしまったんだ。




遡ること5分前


「私魔族ですぅ。」


ピキキッ

イリナと黒垓君が固まる


確かに染島さんの剣さばきは素晴らしかったけど、イリナや黒垓君ほど速くはなかった。ってか比べてしまったら圧倒的に遅い。おかしいんだよ勇者の身体能力の高さ………………特にイリナ。あいつがピンチになってる所とか殆ど見たことがない。だから前作ではイリナとカイが人助けをするってお話にしたのだ。正直イリナが人助けとか今は信じられないけど、昔はちゃんとしていたのだ。今はこんなんでも、人をボコボコにしたり頭蓋骨をへし折ったりしてるけど。


「……………で」


いままで固まっていたイリナが口を開く。まぁ、言うことはほとんど分かっている。「魔族ぶっ殺す」か「巨乳許すまじ」だろ?そんなの想像することなど簡単だ、もう、手に取るようにわかるのさ。


「飯田さん、まさか私のことをそんな風に見てたんですか?」


頭の中に染島さんの言葉が直接響いてくる。それには若干の拒否の念が込められていた。


「………………いや、僕は思っていませんよ?」


やばい。染島さんが聞いているのを忘れていた…………こいつはうかうか説明してらんないな。もし印象悪い言葉を言ってしまったら染島さんから冷たい視線を浴びせられてしまう………………ちょっといいかも………いや、やっぱり良くない。くそっ、なんか一瞬変な考えがよぎったぞ!?


「僕?さっきまで俺って言ってませんでした?」

「ん?ああ、これはいつもの癖でしてね。女性と2人っきりで喋る時は僕ってなってしまうんですよ」


なんて言うのかな、男友達とでは「これからラーメン食べに行こうぜ!」だけど好きな人の前では「なぁ君たち、これからフレンチレストランへボンゴレパスタを巻きに行かないかい?」みたいな、カッコつけるではないけれど、好印象を与えようとするっていうのかな……………とにかくそんな感じだ。ようはいい感じに見られたいのだ。自分の嫌な部分とか醜い部分とかが分かっていてそれを他人に見られたくない。でもそんな浅ましさも相まって、こんな自分が嫌いなんだ。自分の汚い部分を隠して、外見だけを取り繕おうとするこの姿が。


「難しいお年頃ですね……………ふふっ、大丈夫ですよ。飯田さんは優しい人ですから…………」

「…………なんでそんなことわかるんですか。」


初対面の人にこんなことを言われたのは初めてだ。だがまず、俺は優しくない。だって俺はあの時染島さんを見捨てようとしたのだから。そして宏美に宿題を見せることもしなかったし、イリナを…………………ダメだ、自分に嫌気がさす。


「私の能力はテレパシーです。私の力は声や意志だけじゃない、感情と気持ちも敏感に感じ取ります。飯田さんからは温かいと言いますか、暖かいと言いますか、それとも熱いと言いますか……………とにかく、体をあたためてくれるストーブのような優しいぬくもりを感じました。」


この人の能力ってすごいな。戦闘はからっきしだけれど、人の気持ちを安らがせることが出来るなんて。


「それに、飯田さんは私を見捨てようとしたと言ってますが、それじゃあなぜ立ち去る時に大声を出したんですか?何も言わずに立ち去った方がいいに決まってるじゃないですか。」

「いや、あれは癖で。」

「それに宏美さんという方に宿題を見せなかったのだって彼女のためにならないからでしょ?」

「……………そういう捉え方も出来ますけど俺の場合はち。」「そしてイリナさんのことは………まぁ、言わないほうがいいですよね。」


隠したいことまで知られてしまうのか…………恐ろしいな本当に。


「……それじゃあさっきの話を続けましょうか。」


これ以上話していたら染島さんに全ての秘密がバラされてしまう。そう思った俺は話を元に戻すことにした。


「ええ、どうぞ。」


そして染島さんはもう言いたいことは全部言い切ったような声で俺に応える。


………………うわーテンションガタ落ちだよ。説明したくねぇー!だがここで頑張らなくては!どんなに心が沈んでいようと説明しなくては!!




そして固まっていたイリナが口を開き始める


「[ですぅ]とか、ぶりっ子みたいに言うなやぁああぁああ!!!」


「怒るとこそっち!?」


まさか口調の方に怒るとは想像もつかなかった!いいじゃないか別に、可愛ければそれで!!


「そうだぁぁ!!私はあひる口とぶりっ子とJKが大っ嫌いなんダァァァア!!!」


イリナの怒りの叫びが沼地全域に響き渡る


「いや、お前もJKだろ。」

「いいや違うね。私は女子高生なんだよ。」

「何が違うんだよ。」


JKは確か女子高生の略称だろ?一体何が違うというのだ。

俺の言葉に反応してイリナは俺の顔にぐっと近づき、超至近距離で話し始める。正直吐息がくすぐったい。てかイリナの顔がいつになく真剣だ、テスト前日並みだ。


「いい!?女子高生っていうのは神聖なの、わかる?大学生とか社会人なんかじゃ比べられないような素晴らしい輝きを持っているの。でもJKは女子高生と違って腐っているっていうかあんなことやこんなことを平然とやっちゃう人のことを指すんだよ。」


あんなことやこんなこと……………おっと、俺の想像はモザイクをかけないとお見せできないなーー。だがまぁ、確かになんとなくわかる気がする。あれだろ?ファブリーズを短縮してファブにしたらすごくチャラそうだ。みたいな感じだろ?


「ああ、お前の言わんとすることは分かった。だがな、染島さんがお前の提唱するJKなわけがないだろ。分かるはずだ、この立ち姿。そう、ただ立っているだけで高貴なオーラが発せられているだろ!?」


高貴ですよオーラがビンビン俺にぶつかってくる。こいつぁ、俺のような安い人間には直視できないぜ!!


「……………確かに胸美の立ち姿からは高貴な香りが醸し出されているね、君のようなやっすい感じじゃなくて。」

「だろ?もはや価値が違う。新聞紙とゴキジェットのように似つかず非なるものだ。」


どちらもゴキブリを殺すという役割は変わらない。ただ、新聞とゴキジェットでは価値が違う。いや、そもそも俺と染島さんじゃ役割が違うか。ソックスとスマートフォンの方がいい例だな。スマートフォン中毒の方はいるけどソックス中毒の人はまぁ、確実にいないだろう。てかいないで欲しい。ぐへっぐへへへと言いながらソックスをベタベタ触るような奴がいたら俺は確実にそいつを通報してしまうだろう。そしてスマートフォンとソックスの違いなど言うまでもない。まず違いしかないのだから。


「自分が馬鹿にされたことにまず反論しましょうよ。」


ようやく衝撃に立ち直れたのか黒垓君が俺に反論する。


「いいんだ。イリナが言っていることは正しい。ああ、そうさ。的確だよ、百発百中だよ。俺から高貴な雰囲気が出てるわけがない。」

「百発百中の使い方間違ってるっすよ。それと師匠からは高貴さで溢れてるっす、だからオラは弟子入りしたんすよ?」

「そいつは初耳だな。お茶漬けを食べて感嘆の叫びを上げているこの俺がそう見られていたとは。」

「お茶漬け?………まぁ、その話は置いといて、胸美だよ胸美。高貴であるところは放っておいてだよ、階級だよ階級。えーっとなんだっけ、くるクルセイダーズだっけ?」

「カスクルセイドっすよ。」


すぐさま黒垓君が訂正を入れる


「カースクルセイドな。」


そこに俺がすかさず訂正を入れる


「そう、なんたらクルセイドに狙われてたってことはさ、かなり階級が高いんじゃないの?」


…………結局覚える気はないんだな。


「そうなんですよぉ〜。実は私最高幹部でして。」


ピキッ

この発言にイリナと黒垓君がまた固まる。ただ、さっきと違うのはイリナのこめかみに血管が浮き出ているところだ。さっきあんなに怒ってはいたが血管までは浮き出ていなかった………さて、ちょっと逃げる準備でもしておこうか、ここ周辺に雷が落ちる前に。


「本当困ってるんですよぉ〜、魔族なのにテレパシーの魔力を授かってしまい、ただですら戦闘が苦手だというのに集団に囲まれて攻められたんですよぉ〜。」


ピキッビキビキ

イリナのこめかみが音を立て、血管が更に浮き出てくる。ここで怖いことはイリナが全くの無表情なのだ。いつもは怒る時は笑顔なのに今は全くもって笑顔がない。これはまさか…………いつも以上にキレてるってことか?……………ちょっと体をほぐしておくか。


「ですがその時!飯田さんが白い世界から飛んで来てくれて私を助けてくれたんです!あれほど素敵なシーンを私は今まで見たことがありません…………この方がきっと白馬の王子様なのだと、私は思ってしまいました。」


ブチン!!


イリナの頭付近から何か紐状のものが切れる音がした。あれがきっと堪忍袋の緒ってやつだろう、やっぱり人間には堪忍袋の緒はあるんだな。


ブシャァァァアア!!


そして、その緒が切れてしまった為かイリナのこめかみ辺りから血が噴き出す!


「キャアアアアア!!!!」


それを見た染島さんは盛大に悲鳴をあげる!正直俺も叫びたい!出来ることなら大いに、喉が割けんばかりに叫びたい!だが今叫んでイリナの機嫌を煩わせてしまったら俺の体が果たして五体満足でいられるだろうか?……………きっと、西から太陽が昇って東に沈むことが起きる確率よりも低いだろう。


「ごちゃごちゃギャーギャーニャーニャー言いやがって!貴様は兎か!?ああ!!??」


パアァァンンン!!!


右足が地面に振り下ろされ、大量の泥水が辺りへと吹き飛んでいく。おかしい。ここは沼地だ、水が少なめで、あったとしても0.3mmぐらいで他は泥となっている。だから地団駄を踏んでも普通は水は跳ね飛ばないはずなんだが。まさか、やつの足を振り下ろすスピードは泥が変形するのよりも速いってのか!?……………落ち着け、無になれ。心頭滅却すれば火もまた涼しだ。それと兎の鳴き声はプーな、そして怯えてる時はキィキィだ。


飛んで来た泥水を俺は水を操って自分の体にぶつからないようにする。勿論黒垓君や染島さんに対しても同じようにする。


「なんであいつを守るの!?こんなに腹たつのに!!」


おっほほほーい!矛先が俺に向いちまったよ!!どうしよう本当に!!


「落ち着けイリナ。深呼吸だ、そしてストレッチとホットヨガだ。いいか?マットを敷いてその上で体をクネクネ動かすんだ、そうすれば落ち着くはずだ。それと絆創膏をこめかみに貼れ、ある程度血の噴出も収まるはずだ………へい!黒垓君!絆創膏とか持ってなっ逃げようとしてんじゃねぇぇ!!」


俺は黒垓君に絆創膏を求めて振り向くと、既に扉を作り出しそこに右手を入れているところだった。


「ち、違うっすよ!!これはちょっと絆創膏を取ろうとしただけっす!ほら、新しい絆創膏だよ!受け取って!!」


扉から引き抜いた右手には医療用機材が詰め込まれたバッグが握られていた。あの白色に赤色の十字のやつ。

それを思いっきり俺にぶん投げてきやがった!


「ばっごぉぉっ!!」


俺のお腹にジャストミート!!第一類勇者という恐ろしい実績を携えた男が投げたものが俺のお腹にジャストミート!!あまりの衝撃に俺は内股になってしまった。倒れないようにするのが精一杯だ。だけど、こんなことで倒れてはいられない。少しでもイリナの気を紛らわして怒りを鎮めない限り、俺だけじゃない、染島さんや黒垓君が死んでしまう。

俺は救急バッグを開き、中からバンソーコーと書かれた容れ物を見つけた。

バンソーコー………………可愛らしいな!


俺はズルズルとイリナの元まで行く。ゔッッ…………内臓は大丈夫か?傷ついてないか少し不安だぞ……………

そして、ようやくイリナのすぐ目の前へと辿り着き俺はバンソーコーをぺりぺりと剥がす。イリナはというと体中から雷が弾け、今にも染島さんに突撃しそうだ。てか俺のこと見えてるのか?染島さんしか見てないぞ?しかも声も聞こえてないんじゃないのか?


「イリナ動くなよ……………間違って目に貼っちまったら大惨事だ。」


だけど、だからと言って声をかけないわけにはいかない。俺の今の役目はイリナの気持ちを他に向けることだ。少しでも染島さんへと向けさせないようにしなくてはならない。


「よーし、ちょっと待ってろ…………今から貼るからなー。」


ぺとり


と俺はバンソーコーを両手で持ち、優しく、砂の城を触っても壊れないぐらいの力でイリナのこめかみに貼る。


「え?あ…………ミフィー君…………え!?」


ボンンン!!

ようやく俺に気づいたかと思いきやイリナの頭から煙が立ち上がり、顔は真っ赤で目をぐるぐると回している

…………本当、表情豊かだな。それだけ自分に正直だということか……………え?じゃあなんで今混乱してるんだ?まぁ、そんなことはどうでもいい。イリナが染島さん以外に意識を向けてくれたということを今はまず素直に喜ぼう。


「なぁ、イリナ。」

「な、何かな!?」


目を回して、手を前でブンブン振りながら答えてくれる。


「人間には好き嫌いがたくさんあるよな………俺にだってある。イカとかタコとか…………特に椎茸だ。正直俺はあれを食べ物だとは思えない。友達がよく椎茸を食べれないとか人生損してるわー。とか言ってくるんだけど、俺からすれば食ってるお前らのほうが人生損してるわ。と思ってしまうんだ。それほど俺は椎茸が嫌いだ。きっと食事の時に出されたら俺はキレるかもしれない。」


なんでこんなものをだすんだぁぁ!!と言いながらテーブルをひっくり返そうとするかもしれない。でもまぁ、それを花華が見ているわけで、そんなことをしたら顔面が二倍ほどに腫れ上がってしまうからする気はないのだけれど。


「だけどな……………だからと言って怒って椎茸をダストシュートしても良いだろうか?いいや、良くない。椎茸だって本当は生きたかったはずなんだ!ただ、俺たちはその椎茸たちの生きたいという意思を無視して摘み取り、食卓に届けているんだ。そう考えると、俺たちはそれに腹を立ててゴミ箱に捨てるんじゃなくて、真剣に向き合い、お礼をして、お口に運び、咀嚼しなくてはいけないのではないだろうか?」


そうだ。どんなに嫌いだからと言って、残すのはダメだ。それはつまり食べ物を、生き物を無駄死にさせているわけだ。豚だって、牛だって、キャベツだって………………種を作り、次代を残して枯れ果てて幸せな老後を過ごしたかったはずだ。

俺は小学生低学年の頃に[豚がいた教室]という映画を見たのだが、最後のシーンで涙が止まらなかった。確かに俺はそのとき泣き虫だったけど、別に感動系で涙を流すようなやつではなかった。

だけど、あの最後のシーンを見た俺は、なぜか無性に悲しくなって、映画館だというのに泣きわめいてしまった。

そしてその夜に豚肉が出てきて、さらに泣きじゃくったのは懐かしい。


「だけど、確かにイリナの気持ちも正解だ。その通りだ、人間なのだから嫌いなものができてしまうのはどうしようもない。それに対してぶちぎれてしまうのもどうしようもない。俺はイリナの気持ちも汲んでやりたいんだ。だから……………こうしないか?」


「……………こうとは?」


パニックから少し落ち着いたイリナは俺の話を真剣に聞いてくれていた


「ジャンケンをしよう。イリナが勝ったら染島さんを好きな様に扱えばいい。だけど、俺が勝てば今回の件は水に流してくれ。それと、俺がお勧めする映画を見てくれ」


勿論オススメするのは豚がいた教室だ


「………………仕方ないなぁー…………そうしてあげるよ」


イリナは俺の顔を見て笑いながら承諾してくれた。



んで今に至る


「ジャン!ケン!!………っ」


そしてその言葉で俺の右腕はおおいにしなり、宇宙の気の流れに完全に委ねた俺の手は、確実に勝てる手を感じ取ったのだろうか?目的の手になろうと踊りだす!


勝つ!ここで俺は勝ち、染島さんを救い、イリナに豚がいた教室を見させ、少しでも命の尊さを知ってほしい!


「ポンッッッッッッ!!」


俺とイリナが繰り出した拳の勢いは凄まじく、それによって起きた風が俺とイリナの髪をなびかせる


俺の手はチーだ。そして、イリナの手は……………パーだ


「よっしゃあああ!!勝ったぞおぉぉぉぉ!!!!」


俺は拳を高々と突き上げ、勝利の雄叫びをあげる


「ふふっ………良かったね、ミフィー君」


そして負けたイリナは笑っている。清々しいほどに笑顔だ


「いやーー流石は師匠っす!感動しました!」


黒垓君は剣をしまい、こちらへと歩いてくる


「はい!もう、かっこよかったですね!!」


染島さんもトコトコとこちらへと歩いてくる


「さぁ、イリナ。約束だ。豚がいた教室を見ろよ!いいな!?」


「…………もっと他に言うべきことがあるんじゃないの?」


「あっ、そうだな。そうだったそうだった。俺の家に豚がいた教室のDVDがあるんだよ。もし借りるのが億劫だったら俺のDVDを貸そうか?」


あまりの感動に買ってしまったのだ。良い、あれは何度見ても良い。


「もっと!もっと他のことだよ!!」


「もっと他のこと?…………んーーなんだろうな………………あっそうそう。最近パズ○ラのランクがやっと200台にいってさ」


ようやくランク200だ。一回間違って消してしまったのだ。

そう、あれは朝起きてすぐのことだった。パズ○ラをつけてログインボーナスをもらい、あまりにも眠いからもう一度寝ようと思い、なんかボタンを2回押して指でさっと上にスクロールして消すやつ。履歴を消すっていうのか?わからんけどそれをやろうとしたのだけれど、寝ぼけていたせいか間違ってアプリを消してしまったのだ。

その後眠りから覚めてパズ○ラをしようとしてアプリが消えていたのを見て、絶望したのは自明の理である。


「違う!私が胸美を好き勝手弄るってやつ!」


「ああ、それ?それは当然のことだろう。言う必要もない。俺は、お前がちゃんとそのことを理解してくれていると思えたからな」


だって黒外君の本気の動きは俺では目で追えないほどなのだからイリナはそれ以上だ。そして、イリナはその動きに対応できる。

つまりイリナはどんな速いものでも見れるんだ。

だから、普通はジャンケンで負ける様なことはない。だって相手の手を見ることができるんだから、直前に自分の手を変えればいい。

なのにイリナは負けたのだ。それはつまり自分で負けたということ。


「お前がわざと負けたってことはさ、俺の言葉がちゃんと伝わってたって証拠だろ?」


俺はイリナに向けニッと笑う。挑発をするためではないけれど、なんのためだと言われたら答えることはできない。なぜか笑ってしまったのだ


「まぁ、そういうことにしておいてあげるよ」


それに対抗してイリナもニッと笑う。これも俺にはどういう意図か分からないけど、実にいい笑顔だ。この笑顔百万点だ。


「いやーー、でもオラなら確実に師匠にジャンケンに負けることはないっすよ」


「だろうな。俺の手を見ることができるもんな」


要は究極の遅出しだ。勇者の特権はジャンケンでまず負けないことだろう


「そうですね。流石は白馬の王子様です」


染島さんはうっとりとした目で俺を見つめている


「ちょっと待ちましょうか染島さん。そういう発言は出逢って………間違った。この漢字はダメだ。出会ってすぐにその発言はまずいですよ」


まずいというかダメだろ。そういうのはじっくりと長い年月置いた後にじゃないとダメだと俺は親から教わっている。だからそういうのはダメだ


「そこは安心してください。私の家では一目惚れしたらすぐさま告白しなさいと教えられてますから」


ワァオ!うちの家とは真逆だ!きっと染島さんの家では直感の方が優先されているに違いない

……………………なんか、後ろから殺気を感じるんだけど


「………………黒垓君。」


「はい、なんすか?」


黒垓君は既に扉を作っていた


「イリナの顔はどうなってる?」


「えーーっと……………般若とエリザベートバートリーと若かりし頃の阿修羅を足して5倍した感じっす」


「よっしゃ逃げろ!!」


俺と黒垓君と染島さんは扉へと全力でダイブする。その後すぐに沼地の方が明るく光だし、鼻腔を突き刺す様な焼けこげた匂いがした。


どうやら染島さんとイリナの確執が取れるのはまだまだ先の様だ。

そんなこんなで俺たちは新しい仲間である染島梅雨美さんと出会った。

梅雨美って珍しいな………………まぁ、俺の名前ほど珍しくはないんだけどさ



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