俺たちのトップオブザワールド
「さーてやってまいりました!第1回暇つぶし選手権!」
「誰が1番上手く暇を潰せるか見ものですねぇー。」
「司会は私[暇を撲滅しようの会]会長の飯田狩虎と、」
「[醤油さえあれば何もいらない]会長のイリナ=ヘリエルでおおくりします!」
パチパチパチパチと黒垓君が拍手をしてくれる。
ただいま俺たちは暴竜カオスさんを懲らしめるため、そいつがいる洞窟まで歩いている。なぜ黒垓君がいるのに歩いているのかというとどうやらカオスがいる場所がわからないらしい。曰く「オラは見たところにしか行けないんすよ。経験重視派なんで。」だそうだ。だから仕方なく歩いているのだが……………長い!洞窟までの道のりがアホみたいに長い!かれこれ2時間は歩いているけれど全くもってつく気配がない!最初は話すネタもあったけど2時間も経てばそんなのすべてなくなってしまった。だから今こうして苦肉の策として暇つぶし選手権を開いたというわけだ。
「狩虎さん。この大会のルールは何でしたっけ?」
「そうですねぇー。まず個々人で暇つぶしをするアイデアを提出してもらいます。ただし、条件として今この場所で出来るものじゃないといけません。」
ちなみに俺たちが歩いている場所は丘だ。さっきまで森を歩いていたのだけど……………ようやく小説始まって以来、森以外の場所を見れたというわけだ。
「そして私とイリナさんによる投票の結果。選ばれた者はザベストオブ暇つぶしの称号を得ることができ、私たちから温かい拍手が送られます。」
「なるほど。確かにそれは名誉なことですね………選手全員には頑張ってもらいたいものです。」
選手は俺とイリナと黒垓君だ。
「それでは、今から暇つぶし選手権を開始します!」
こうして俺たちの暇を潰すための案を提出する大会が開催された。
「まず第一としてここから洞窟まであとどれくらいなんだ?」
「そうだねー。大体1時間ぐらい?走ればもっと早いんだけどトロイ奴がいるからねー。」
俺の方を凝視するイリナ。えぇえぇ、悪うござんしたね弱っちくて。
「いや、面目ないっす。オラがもっと旅を愛する風来坊だったならばこんなめんどくさい展開にはなってなかったんすけどね。」
「そうなってたら行き来は楽だろうけど君と接するのはめんどくさくなりそうだ。」
会話の途中で[オラは家を持たない根無し草さ………]みたいなことをぶっこんで一向に会話が進まなくなりそうだ。
「まぁそんなにうじうじしなくてもさ、剣を直すには必要なんだって昨日王様に言われたでしょ?」
昨日、上部が崩壊したお城を後にして俺たちはさっさと帰ることにした。その時に王様に「お城を修理するの大変じゃないですか?」と聞くと「ああ、これなら1日ぐらいで直せるから安心してちょっ。」と言われてめまいをしたのを覚えている。
そして寝て起きて学校でテスト受けて帰って今に至る。
だけど、ちょっと昨日考えたのだがこの下剋上システムおかしくないか?確かこの世界では魔族と勇者が戦っていて滅ぼしあってるって言ってたよな?
んでだ、強くなるには自分よりも強い相手を倒さなきゃいけない。だけどそんなの階級=強さのこの世界では無理だから敵と組む。そして自分よりも身分が高い相手を殺すというわけだ。………いや、バカだろ。仲間が1人減ってるじゃないか。それじゃあこの世界での戦いで確実に不利になってしまう。
例えば昨日の戦いで優馬とやらが王様を倒したとしたら彼は王様となり元王様は死ぬ。てことは第二類勇者が1人いなくなってるってわけだ。え?確実に勇者側が不利になるだろ。何、どういうことだ?下剋上システムは自分にしか得を生まないアホな理念だということで全ては丸く収まってしまうのか?いや、でもだからと言って優馬がそこまでバカかと言われると………………いや、バカか。自分で自分の能力を言うぐらいだからな。だけど本当にそれだけなのか?システムをよく理解できてないバカがバカな行動をしてるってだけなのか?もっとちゃんとした理由があるべきなんだけどな………………くそっ俺にはよくわからん。
「暴竜カオスねぇー。どんだけ見た目が怖いんだろうな。」
睨まれただけで死ぬって…………魔眼持ちの誰かじゃないんだからあってたまるかって話だ。
「恐怖で相手を縛り付けて心臓が動かなくなるんだって………………いやー、出来るものなら戦いたくないよ。」
「あれ?そういえばイリナは1度その竜さんと対峙してたんだよな。」
魔剣の封印してる場所って言ってたから取りに行く時に戦っているはずなんだけど。
「あーーあれはね。光速で剣をゲットして光速で逃げただけの話だから、激しい戦いとか見ていた誰もが興奮するようなかっこいいことはないよ。かっこよかった要素なんて敵の攻撃をかわす私の至極華麗な姿ぐらいじゃない?」
お金の稼ぎ方といい敵との戦い方といい、こいつマジで勇者向いてないな。絶対盗賊の方が合ってるだろ。
「でもそれが1番すよね。オラも回復アイテムを手に入れるためにダンジョンの奥地まで行きましたけど、巨大なサイクロプスがいて焦ったっすからね。全力で走って逃げて来ましたよ。」
「お前もかい!なんで敵を目の前にして逃げるんだよ!もう少し面白くないと俺の小説で使えないだろうが!」
あっ、そういえば昨日家に帰った後PCを見てみると雪さんの仮のキャラクター白夢白尾さんとお城の名前ホワイトドリームが被っているのに気付いてしまった。いやー、奇妙な偶然もあるものだ。そして名前の変更を余儀なくされ、考え抜いた結果。骨太元気君…………じゃなくて遠藤 世南となった。彼は骨太牛乳が大好きという設定だ。
「小説?…………ほうほうほう。それは一体どういうものなんすか?教えてほしいっすねぇええ。」
あっ!くそ!うっかり口が滑っちまったぜ!めんどくさい奴に絡まれてしまったぜおい!
「…………いや、小説じゃなくて消石灰って言ったんだ。俺は消石灰愛好家でな、面白い話をお供に消石灰を鑑賞しないとその日1日を充実した気分で送れないんだ。」
何言ってんだこいつ?自分で言っておいてなんだけどまじで何を言ってるんだこいつ。
「ふーーん。そうなんすねー。それじゃあ、いつか消石灰をあるだけ持ってきてあげるっすよ。」
うんうんと頷く黒垓君。あれ?納得しちゃった?まさか騙せるとは思っていなかったのだが……てか消石灰くれるなんて嬉しくもなんともない!俺としては消石灰よりも幼馴染のお節介の方が嬉しいんだけどな…………だが宏美に期待するのもなぜか申し訳ない気分になる。なぜだろう、なぜか申し訳なくなる。
「よかったね。消石灰マニアとしてはたまらないでしょ。」
クックックッと笑いながら俺の肩に手をかける
「あ、ああ…………マニアとしてはたまらないな。」
お節介の方が……………いや、諦めよう。儚い夢を見ることほど虚しいものはない。
「さあて、状況把握もできたところですし、どうです?良い案が出てきましたか?」
イリナが実況者イリナへと姿を変える。
「そうですねぇー。丘ということなので転がりながら進むのはどうでしょうか?」
「ダメです。そんなものは論外でしょー、私の髪が乱れちゃうもん。」
艶やかなブロンドの髪をまくしあげる
「………………そうだな。俺の十分にお手入れされた髪が汚れるもんな。」
シャープーでしかお手入れをしてなくてかつ寝癖を直さないこの髪が汚れてしまったら大変だ!
「そうっすね。師匠の髪はともかくイリナさんの髪が汚れるのは我慢ならないっすね。自分金髪推しっすから。黒髪とか論外ですよ。黒髪?ははっおしゃれセンスがないんですかって話ですよ。」
「なっ、なんだとおぉぉ!黒の良さがなぜ分からないんだ!黒だぞ!?あの全ての光を吸収してしまうのではないかと思えずにはいられない艶やかな髪をお前はなぜ、なぜ分からないんだ!!」
てっきり黒垓君は俺と同じタイプだと思っていたがどうやら俺とは対極にいるようだ。
「分からないですねぇー。良い物から良さを見つけるのは簡単ですけど良さがない物から良さを見つけるのは無理ですからねぇー。」
「良さはあるわ!さっきから言ってるだろ!?」
「艶やかな髪?はっ………笑わせないでくださいよ。そんなのどんな髪でも手入れさえ怠らなければそうなるんすよ。分かりますか?金髪のあの光り輝く高貴な感じ、日本では珍しいその髪型がより高潔を出すんすよ。分かりますか?そんじょそこらにいる黒髪なんかじゃ遠く及ばない威光があるんですよ。」
くっ…………どういうことだ!?黒垓君の周りから赤色の覇気が飛び回っているように見える!話し始めた黒垓君の目は光り、髪の毛が逆立つ………ようにも感じる!なんて熱い想いなんだ!!金髪に対する想いが俺に形になってチクチクとダメージを与えてくる!
「………君の想いは並々ならないようだ。確かに、金髪は素晴らしい。金、そう。それは金属の中で最も展性と延性が優れたもので、そして最も価値があると言ってもまぁ、ある程度OKだろう。」
「……………金髪の話をしてるんすけどね。」
「ああ、そうだ。なぜ今俺が金属について話したのかは自分でもよく分からないんだけど…………とにかく。金髪は素晴らしいぜということを言いたいわけだ。」
「髪のことには触れてないっすけどね。」
「とにかく!金髪は素晴らしいということにしてくれ!さっきのはあれだ、言葉をミスっただけだ!」
「仕方ないっすねー。で?何を言いたいんすか?」
あれ?なんか俺適当にあしらわれてる?…………気のせいだよね。
「だがな、黒髪の方が素晴らしいことを俺は言わなきゃいけないん………………」
「おーっと?前から敵が来てるっすよ!こいつは雑談をしてる暇はないっすね!!」
まじかよなんてタイミングの悪さだ!俺の最も言いたかった事を遮るとは!敵め、許すまじ!
前方から複数の人影がこちらへと向かってくる。人影……嫌な予感しかしない。
「あれがイリナ=ヘリエルか……………へー結構かわいいじゃん。」
1番前を歩いていた男が声を上げる
「可愛いからって変な事をしないでくださいよ。殺せるチャンスがあったらさっさと殺してください。あの方は強いんですから。」
1番前の男よりも少し背が低めの男が男の背後にぴったりとつくように歩いてくる。
1.2.3…………7人か。なるほど、これはめんどくさそうだ。
「よっしゃ!黒垓君!俺をどこか、ここより離れた場所に飛ばしてくれ!」
今日ここに来る途中に3人で戦闘状態になった時について話し合ったのだが、「相手が3人以上になったらミフィー君はどこかに飛ばそう。」という意見が出てきたのだ。理由はシンプル。戦闘において俺が足手まといになるからだ。いや、相手がモンスターならまだなんとかなるらしいんだけど、魔族と勇者の混合チームという脅威が現れたことにより万全を期すために俺を隠すことにしたらしい。というわけで俺は今から黒垓君が出してくれた白色の扉に突っ込むのだった。
「え!?これドアノブ握れないんだけど!?」
握ろうとしても手が通り抜けてしまう。
「これドアの形をしてますけど開ける必要ないんすよ!扉に飛び込んでください!」
ええぇえ!!ちょっと待ってくれよぉ!どこの時代に自ら扉に突っ込むバカがいるんだよ!扉の前でマゴマゴしてしまう!
「早く!何が起こるか分からないんすから!」
あーもーー!えーい、ままよ!
バッ!扉の中へとダイブすると狩虎の姿が扉の中へと消えていった。
扉の中へと入って行っていたのを見届け、イリナと黒垓君は戦闘態勢へと入る。
「さーてと。それじゃあやりますか。」
「そうっすねー。」
イリナの体が雷に包まれ、黒垓君は白い球体から長めの刀を取り出した。
「早めに倒してミフィー君のことを連れ戻さないとね!!」
「………………あの野郎。どこに俺を飛ばしたんだ?」
俺がいる場所は沼地だ。辺りには沢山の枯れ木がある。
いや、ぶっちゃけそんなことはいい。枯れ木とか沼地とか本当、ぶっちゃけ。ぶっちゃけぶっちゃけぶっちゃけどうでもいい。
なんで俺の目の前で戦闘が起こってるんだよって話だ。1人の女性を10人ほどの人間が囲んでジリジリと追い詰めているのだ。
「えーーーっとおぉぉ…………よし!隠れよう!」
なんで逃げた先で戦わなきゃいけないんだよ!ここは[ガンガンいこうぜ]じゃなくて[いのちだいじに]だ!命を見捨てるというのは気が重いがいたしかたない。自分の命が一番大切なのだから!辛い選択を涙を飲んで選び、その場からこそこそと離れようとした時だった。
「あっ、ちょっと君!そこの君ですよ!制服着てる方!助けてくれませんか!?」
……………くそーー!どこからか必死に助けを呼ぶ女の人の声が聞こえる!あーーこうなっちゃったら無視できないなー。
「へい!なんでしょうかお姉さん!俺に助けを求めるなんて高くつきますよ!」
「わかりました!とにかく助けて頂けたらそれ相応の見返りはあげますから!」
十数人と剣で戦いながらこちらに話しかけてくる。なんて器用な人なんだ。しかし見返り?見返りと言ったのか?………大きめな(どこがとは言わないが)お姉さんから見返り?こいつは答えるしかないな!
「わかりました。それで貴方の能力はなんでしょうか?」
「あれ?なんでそんな敬語なんですか?…………それはともかく私の能力はテレパシーなんですよ。ほら、今もその能力を使って会話してますよね?」
あ、確かにこうも堂々と会話をしてるのに誰も俺の方を振り返らないもんな。しかもよく考えると俺口開いてないし。
「なるほどですね。確かに便利な能力です。ですが戦闘ではかなり不利な能力と言わざるをえないでしょう。」
戦闘でテレパシーを使う機会なんてそうそうないよな。なにがあるだろうか………死ぬ間際に愛する恋人に最後の言葉を贈るときとか?………俺にその機会はなさそうだ。
「そうなんですよー。戦闘に不向きで不向きで、今も結構苦戦してるんですよ。」
俺と会話をしながら数多の剣を軽々と捌ききっている。本当に苦戦してるのか?
「おい!あっちに弱そうな奴が1人いるぞ!」
俺と女の人が喋っていると、女の人を囲むうちの1人が俺に気付いたらしく大声を上げた!
「あっべ。まぁ、仕方ないですね、貴方は身体強化の存在を知ってますか?」
5人ほどがこちらへと走って来る。
「……………知ってますよ。」
「それじゃあそれでいきましょうか。」
バキゴキメキ!
身体の構造が変わっていくような不思議な感覚が俺を包んでいく。ああ、すっごく気持ち悪い………この感覚苦手なんだよなぁ。
「隙あり!」
ガン!
いつの間にか来ていた敵の短刀が俺の喉まで伸びる!が、それを俺は顔を右にひねることでかわし、その時ついでに相手の顔をつかみ地面に叩きつける!
「ひ と り め!」
ブン!
足をつかみ大空に敵を投げ飛ばす!そして、投げ飛ばした後すぐに3人ほどの塊に突撃する!
「んのやろう!」
ズババババ!!
左右、5回の剣による攻撃か。俺はサイドステップで突き攻撃をかわし、途中でバックステップを織り交ぜ、敵が浮き足だった一瞬をついて間合いを詰めて剣をはたき落とす!
相手の一人は腕が6本あるな。それともう一人の攻撃してくる奴は能力を使ってこないから、あの女性の方と同じでテレパシーか、それとも戦闘に影響しない能力?そして、あと1人は………
パンパンパンパン!
剣戟の隙間をぬって甲高い音が聞こえた!
「っっと。」
それを紙一重でかわし、その音の方向を向くと1人の男が拳銃を片手に握っていた。それを捨てるとすぐさま両腕に二丁の拳銃が現れる。なんだろう、コルトパイソン?銃の種類とかよく分からないんだ。とにかく敵の1人が二丁拳銃をめったやたらに撃ち続け、俺はそれをギリギリでかわし、さらに他の2人の剣による攻撃をいなし続ける!
邪魔だなあいつ。能力は銃の無限生成といったところか?王様の銃バージョンてな感じかねぇ。倒すとしたらやっぱり遠距離攻撃の弱点をついて近くに乗り込むのが丸いのか?………ああでも、近距離に対応できるやつが2人いるのか。離れていたら拳銃の餌食、近づけば剣がか…………よし!考えるのがめんどくさい!強行突破だ!
ッッパァアンン!!!
銃声が発せられると同時に地面をえぐりとるほどの力でスタートをきる!それを見てすぐに相手も反応して剣を振りかざすが、ああ遅い。まるでスローモーションのように腕が振り下ろされる光景が俺の目に映し出される。そんな速度じゃ剣が振り下ろされた時には、俺はもうあの拳銃男を倒しているぞ?だがまぁ俺はそんな風に人の努力を無駄にするようなことはしない。ちゃんと君の攻撃にも答えてあげよう。
腕六本男の一番近い腕と胸倉をつかんだ!
「こんなんだったっけ?体落としって。」
ゴン!
自分の腰を相手に入れて相手の足を動かないようにし、無理矢理地面に叩きつける。そして、そのまま相手を空の彼方まで投げ飛ばす!
「これで2人目か。」
ガン!ガガガガガ!!
そして2人になった瞬間、さっきまで魔力を使っていなかった男が地面を叩きつけ、無数の岩がこちらへと押し寄せてくる!なるほど、確かにこの規模の攻撃じゃあ近距離攻撃のやつとは連携取れないよな。足場を悪くして近接の人間の旨みを半減させてしまう。
「フン!!」
だが俺は足を高々と上げ、こちらへと突き進んでくる岩を踏みつける!
バガバガバガン!
岩は粉々に砕け散り、周辺の地面も崩れて足場が不安定になる。これだとさっきの攻撃をされても一直線で俺のところまでは来れないだろう。
パン!
そして、岩の男のところへ向かおうとした時に横から銃声が響く。が、弾丸は俺の元まで来ず、目の前にある水の壁によって遮られた。
「ほんの少し飛んでいてくれ」
岩を出す男。略して岩男の元まで走り腕を掴み、その状態で足払いをして、空中にいる岩男を全力で明後日の方向へと投げ飛ばす!
「くそっ!なんだこれ!全然弾が出ないぞ!」
カチッカチッ!そして、俺の後ろで拳銃男が銃を突きつけ引き金を引くが虚しく乾音がなるだけだ。さっき水の壁を出すついでに銃の内部に水を侵入させて火薬を湿気らせておいたのだ。
「さぁて、今度は君の番だ。ほんの少しのフライトを楽しんでくれ。」
グッと持ち上げた男をすごい初速度で投げ飛ばす!
「ふぅ、こっちは片付いたな……………さて、女性の方の方はどうかな?」
ちらっと女性の方を見ると戦闘はすでに終わっていた。全員が切られていたのだ、輪切りってやつ?わからんけど彼女の周りに血の池が出来ていた。あまりにも理解できない状況なので、目を思いっきり瞑ってまた見てみたが、やはり景色は変わらない。確実な事実であるようだ。
「ふぅー…………そっちも終わりましたか。」
女性がこちらの方を振り向く。
「さぁて、これからはお楽しみの時間ですよ…………」
バッグに手を入れ笑いながらこちらへと近づいてくる……………な、なんだ?何をする気なんだこの人は!?俺の胸中に一抹のきた……不安が募っていく。
「ちっ!まさか相手に魔法無効の魔力を持つ奴がいたとはね!」
相手に向けて雷を放とうとした時、指先から雷が出なかったのだ。
「本当面倒くさいっすよね、しかも相手さんの能力は使用可能ってところがさらに腹立つっすよ。」
チャラそうな口調の男が腕をふるうとその周辺が爆発し、真面目そうな男が腕をふるうと辺りに竜巻が起きる。しかもその後ろでは2人が常に回復魔法を使えるようにスタンバッていて、残り2人が常に遠距離魔法を使ってくるわけだ。めんどくさくないわけがない。
「ひゃっひゃっひゃっー!!最初の威勢はどうしたんだいかわい子ちゃーん?」
ボゴン!ボゴンボゴンボゴン!!
爆発が地面を吹き飛ばす!
「さっさと倒れてください。」
ゴウッッ!!
イリナの周りに竜巻が現れる。巻き込まれたらある程度の高さまで飛ばされそうだ。
「ひゃひゃひゃっ!吹きとべ!アトミックボム!!」
竜巻の中で巨大な爆発が起こり、巨大な風の塊がそれを助長してより大きな爆発となり辺りをイリナ諸共吹き飛ばす!だかイリナは上空に吹き飛ばされただけで目立った外傷はない。ただ黒垓君風に言えば素晴らしき金髪が汚れてしまった!ぐらいだ。
「くっそ、うざったいなーー。黒垓君、彼らの階級はどれくらいだと思う?」
ボゴン!ビュオアアア!
2人の攻撃を回避しながら隣の黒垓君に話しかける。
「んーーーそうっすねぇーー。大体聖騎士長とかじゃないですかね?そして後ろの方々がきっと魔族で幹部以下って所ですかね。」
カンカンカン!
遠距離魔法を剣ではたき落としながらそれに応える
「ふーん…………OK。それじゃあそろそろ真面目に行こうかな。」
ダン!
イリナが空高く飛び上がる!
「黒垓君。ちょっと避けててね」
バッッッツガンンンンン!!!!
かかと落としが地面に炸裂し、草が生い茂る高さ10メートルほどの丘に放射線状に亀裂が入り、壊れ、上空へと吹き飛んでいく!だがチャラそうな男と真面目さそうな男は地面が崩れる前に上空へと逃げていた!
バゴン!バゴン!バゴン!バゴン!
空中の岩が男たちに近づくように音を出しながら破裂していく!どうやらイリナが飛び散った岩を足場にして空中を移動しているらしい!
「まじかよ!」
「イリナメガトンパーンチ!」
ボキボキボキ!!
全くの棒読みで放たれたその拳はチャラい男の腹に綺麗に決まり、骨が折れる音が響く。そしてチャラい男は上空へと吹き飛んでいく!
パンパンパンパンパン!!
だがそれを追うようにまた岩が破裂していく!
「イリナ百烈けーん!」
ズドドドドドドドドドドドドドド!!!!
「あががががが!!!」
またも棒読みで繰り出されたその攻撃はチャラい男の体全てに当たり上へ上へと押し上げていく!
パリッ!
イリナの体が雷に包まれ、辺りを眩しいほどに照らし出す!
「やっぱりここら辺が魔力の届く範囲なんだね!」
バチッバチチ!
イリナの体が雷となり、その磁力によって空を駆け上がりチャラい男の真上に舞い上がる!そしてイリナの右手に雷が集まり、拳の部分がまぶしすぎて見えないほどだ!
「必殺 乙女の一撃ファースト!!!」
カッ!ズバババババーーンンンン!!!!
雷を溜めた右手がチャラ男に突き刺さり、巨大な雷の柱が地面をえぐり、地面を無数の雷が敵を探して這い回る!地面の雑草が雷により燃え上がり、草の焦げた匂いがツーンと鼻を刺激する!
「安心せい。みぞおちだ。」
「あんなのみぞおちに食らったら生きてる確率0%っすよ。しかしイリナさんは敵をこうもあっさりと殺すんですね。驚きですよ。」
黒垓君もある程度の切り傷を負ってしまったようだが、あの風を使うやつを倒せたようだ。引きつった顔で笑らいながらこちらへと歩いてくる。
「あーーうん。いつもはそうなんだけどね。」
「師匠っすか?」
「うん。いやーさすがの私でも同級生に、人を殴り殺しているところを見られるのはメンタル的に無理だからさ。」
あっはっはっはっ!と笑うイリナ。
「そうっすね。それじゃあ続けましょうか。」
敵の方を振り向くと1人を残して後の3人は走って逃げていた。走って追いかけることは簡単だけど、まぁ、いいか。次また敵が来てくれたら練習になるし。
「さて、ちょっとそこの君。少しお話をしたいんだけど。」
「ひっ……………」
敵に笑顔で話しかけるイリナ。それを見て恐怖を覚えるのはどうしようもないなーと黒垓君は切実に思うのだった。
「さて、君たちのグループはなんて名前なのかな?」
「ひっ、え、あの、いや。…………カースクルセイドです。」
「ふーん…………それじゃあ次の質問。構成員はどれくらい?」
「………し、知ってる限りでは100人ほどで、そのうち第二類勇者が5人で最高幹部が6人です」
「ちっ、まじか。結構な人数がそっちの方に行っちゃってるみたいだね。」
露骨に嫌な顔をするイリナ。
「それじゃあ最後の質問。ボスは一体誰?」
「ボスは確か炎帝だと名乗っていたはずです…………あっ。」
「ばっ…………何言ってっ!」
ドクン!その言葉を聞いた瞬間、イリナの心臓は張り裂けそうになるほど脈を打った。汗が止まらない。頭の中が真っ白だ。この目で見ている景色がまるで現実でないかのように頭が認識を避けようとしている。視覚だけじゃない、すべての感覚が認識を避けようともがき苦しむ。
パン!!
頭蓋骨共々握りつぶし、血が弾け飛ぶ。
「ぐっ…………うおえっ!」
あまりの気持ち悪さに嗚咽が漏れる。別にこの光景が、血が無理だとかじゃない。こんなのはよく見てる。ただ、炎帝という言葉を聞いただけで動悸は激しくなり嘔吐感を覚えてしまうのだ。今でもあいつが夢に出てくる。気持ち悪い、死んでしまえばいいのに………なんで私があんな奴のためにこんなに気持ち悪い思いをしなくちゃいけないのさ、本当に死ねばいいのに。
「………イリナさん。そろそろ行きましょう、あっちで何が起きてるかわからないっすよ。」
はたから心配そうに眺めていた黒垓君から声をかけられる。
「んっ…………そうだね。そろそろ行かなきゃね。」
よろよろと立ち上がり、深呼吸をする。
少しだけ気分が落ち着いたような気がする、まだ汗は引かないけど。
「それじゃあ早速扉を出してもらおうかな。」
早くミフィー君に会いたい。この気分を少しでも和らげたい。彼といるとなぜか分からないけど気分が落ち着く。落ち着くというか気が合うというか………言葉では言い表せないけど何か同じことを共有しているようなそんな感じ。
「そうっすね。それじゃあ出しますよ。」
黒垓君が出してくれた扉にさっさと入る。
待っててねミフィー君。
「んなっ…………」
だが扉をくぐった先ではミフィー君は大きな(どこがとは言わないけど)女と戯れていた。
「おっ、遅かったじゃないか君たちー。」
大きなお姉さんに膝枕をしてもらいながら何かフルーツを食べさせてもらう……………なんてこった!まさかこの俺の最もかなわないだろうと思っていた願いが叶うなんて!!
「…………ちょっと顔貸せや。」
この光景を見た瞬間イリナは固まったが、すぐに状況を理解したのか一瞬で冷酷な顔へと変貌して、俺の襟首を掴んで岩場の陰まで連れて行った。
「ぎゃああああぁぁあ!!もげる!腕がもげるから!そんな変な固め技で俺の腕をもごうとしないでくれ!!」
ミチミチミチッと腕が変な音を立てながら変な方向へと曲がっていく。岩陰へと連れて行かれた俺はイリナに殺人的な関節技を極められていた!
「ちょっ!黒垓君助けて!このままじゃ俺の腕が左腕だけになる!!!」
「すいませんーーー。オラもちょっと膝枕で忙しくて〜〜。」
「お前もかよ!!イリナちょっと手加減してくれああぁぁぁああ!!!」
たっぷりと2分ほど絞られたぜ!
「んで、その大きな女性はどこのどなた?」
イリナの前の石に座ってニコニコと笑っている。
「ああ、彼女?彼女はここに飛ばされたときに知り合ったんだ。名前は確かえーっと…………なんでしたっけ?少し忘れっぽいもので。」
「はい。私の名前は染島 梅雨美と言います。不束者ですがよろしくお願いします。」
お辞儀をする染島さん。
「長い黒髪でお嬢様のような清楚な感じ、しかも胸が大きい…………はっ!まさかこの方が師匠の好みのお方なのでは!?」
まるで恐ろしいことに気づいてしまったかのように驚く黒垓君。
「なぜ胸の大きさを入れたよ………別に俺は大きかろうが小さかろうがどっちでもいいんだよ。」
胸?はっ、脂肪の塊なんぞ興味はない。俺は牛肉でも脂身が嫌いなんだ。そもそも胸は大きさじゃない。張りだ。これが俺の持論だ。誰とも付き合ったことないから実はよくわかってないけど。
「……………なるほど。さーってどう殺したものか。」
「誰を!?イリナ、一体誰を殺そうって言うんだ!」
「いや、両方とも。」
「おかしいだろ!なんで[胸の大きさ?俺には関係ないね]って言って[あっはっはっ。よっしゃあ!全員ぶっ殺す!]みたいな感じになるんだよ!どこのヤンキー高校だよ!」
「私をヤンキーと同じにすると?ほうほう、それじゃあもうひとつおまけに君には目をくりぬくという素晴らしいプレゼントを。」
「ごめん!俺が悪かったからもう許してくれ!!目をくりぬかれて殺されるとかたまったもんじゃない!!」
まずなんでイリナは怒ってるんだよ。そりゃ俺が女性とイチャイチャするような奇妙な場面は少ないさ。あっもしかしたらそんな気持ち悪い光景を見せられてしまって怒ってるとか?絶妙な事にありえるな。
「…………黒垓君。なんかやっちゃったかな?」
「ヤってはいないっすよね?」
「おい、なんでカタカナ表記なんだよ。俺はヤッてもいないしやってもいないはずだ」
そういう誤解を生むような質問はやめてくれ頼むから。ああ、ほらイリナ怒っちゃってるじゃん。何度目だよこのやりとり、もうちゃんと学習してくれよ!
「なんかさ、イリナから睨まれるとお腹空いちゃうね。」
「お腹が空く?よっしゃ、今からお腹に穴を空けてあげるよ。」
「そういう意味で言ったんじゃねーよ。なに外側から物理的に空けようとしてるんだよ。」
「空腹は最高のスパイスさ。」
「スパイスが効きすぎてて汗が止まらないな。」
「あのーー私はどうすれば?」
座って俺たちのやりとりを眺めていた……………えーっと染島さんだよ。染島なんて初めて聞いたよ。とにかくその染島さんは俺たちの会話をぽかーんと聞いていた。
「ああ、染島胸美さんはそこらへんでお茶でもしていてください。」
「貴様!染島さんを胸美と呼ぶだと!?何様のつもりだ!!」
「何様ってイリナだよイリナ。忘れちゃったのかな?私の名前。」
「覚えてるわ!俺の初めての外国人の友達だわ!」
「…………センキュー。」
「何がだよ。」
俺の言葉を聞いた後何秒かフリーズしたあと目線をそらした。
「まぁまぁ、こっちでは梅雨美がオラ達と一緒に同行するって決まりましたからー。その事を小耳に挟んでおいてくださいー。」
黒垓君が膝枕をされながらこっちに手を振る。
「俺たちがくだらない会話をしている間になんか色々と起きたな!!」
どっから突っ込んでいいのかさっぱりわからん!
まずお前なぜ染島さんを下の名前で呼び捨てにしてんだよ羨ましい!次に膝枕とか俺と代われよ羨ましい!!
最後にえ?一緒に同行してくれるの?うらや………嬉しいぜ!!!
「じゃなくて、本当にいいんですか?ぼ………俺たち結構危険なダンジョンに行くんですが。」
「いいんですよー。さっきも助けて頂きましたし、それのお礼のようなものです。」
うふふふーと黒垓君を膝に乗っけて笑いながら答える!おい黒垓!邪魔だ!そこはお前が占有していい場所じゃない!
「助けた?…………また君は何をやったのさ。」
「何ってなんか敵みたいな人たちに囲まれてたから助けただけですぅ。力ないなりに頑張ったんですぅ。」
「悪くはないけどそういうのはもう少し強くなってからでしょ。」
ごもっとも。何も言えません。
「まぁまぁ、いいじゃないの。染島さんを助けることはできたし俺は無傷。結果オーライってやつだよ。」
そろそろこの話はやめたい。このままこの話が続けばなんかイリナから説教をバシバシくらいそうだ。
「うーん………まぁ、OKとしとこうか。」
うん。なんとか話をそらすことに成功だ。
「それで?染島………む」「梅雨美さんだ。」
「…………染島梅雨美さん。貴方はどっち側なのかな?魔族?勇者?」
おいおいおい。そんな質問する必要ないだろ、彼女の華麗な剣さばきを見ればわかるだろ?………あっ俺しか見てない?なるほど。ちょっと俺黙ろうか。
「あ、私は魔族ですぅ。」
その言葉を聞いた瞬間、俺と染島さん以外、つまりイリナと黒垓君が凍りついた。




