兀突骨
iPhoneのためルビが変です
「やばいな、絶対高いやんこんな絵。」
城の中をビクビクしながら歩く。これから王様に会いにいくだって?おいおい冗談じゃないぜ、職員室に入るのすらおっかなびっくりな俺にそんなこと出来るわけないだろ。初めて職員室に入った時なんて酷かったんだぞ。あれは小学2年の時だ。いつもの3人で遊んでいる時にちょっとやらかしてしまい職員室に呼ばれた。そしてジャンケンに負けてしまった俺は、戸を叩いて「失礼しまーす」と言う役を押し付けられてしまったのだ!結果俺は戸を叩く前に緊張でゲロってしまい保健室へと搬送された。それと同じぐらい緊張している。正直吐いてしまったら申し訳ないの一言である。
そもそも普通剣を直すのは鍛冶屋とかじゃないのか?なんで王様なんだよ。気分が落ち着かないため周りをキョロキョロと見る。周りの壁にはよくわからない絵がたくさん飾られている。威厳のありそうなおじさんの似顔絵。いや、かっこつけて言うと肖像画だな。とか、若い男の絵とか鎧をきた騎士がずらーっと並んでいる絵とかだ。ん?なんだこの絵は。
ひときわ大きな絵が壁に掛けられていた。沢山の色を使い何かが書いてある。正直何かはさっぱり分からないけど、すごく暗い。落ち込んでる時に見たらより落ち込んでしまうような絵だ。絵の名は[予言]である。
「汝、罪を認めるは贖罪にやあらむ。かけて飾ることこそ贖罪なれ。それを忘るべからず。さすれば道は開けよう。」
先頭を歩いていたイリナが気だるそうに言葉を発する。
そこまで王様と会うのは嫌なのか。
「本当ねー。王様もいい加減だよね、こんないい加減な予言をするんだからさ。」
「おいおい、王様をいい加減呼ばわりするのはダメじゃないか。」
その王様を俺は見たことがないから判断のしようもないが、王様だぞ?王様がいい加減なわけないじゃないか。
「いい加減だよ。だって王様の能力は予言でもなんでもないんだよ?なんかのきまぐれで思いついた言葉をこーんな大仰な額縁に飾ってさーー。いい加減以外の何物でもないよ。」
つまりなんだ。適当に思いついた言葉を王様の権限で予言にしてしまったっていうことなのか?………すげーな王様。いや、さすがは権力者だな。適当なことでも周りに影響を与えてしまう。俺もいずれそうなりたいもんだ………がんばって石油でも掘ろうかな。
「……………汝って誰に言ってるんだろうな。」
「さぁ、全員にじゃない?誰だって何かしらやらかしてるからね。蟻を潰したりとかさ。」
「それだけで罪になるのか。はぁー……………人間ていうのは罪深い生き物だな。」
しかしこれを見てしまうとやはり知識と経験のある方だと感じてしまうな。とてもじゃないけどいい加減だとは感じない。すごく見てみたいぜ王様とやらを。
「あんまり期待しない方がいいよ。勇者の基本的な性格は黒垓君みたいなものだから。」
「なるほどねー。ひょうきんものって感じなのか。」
チラッとイリナを一瞥する。たしかに黒垓君と同じようなアホさがあるよなーイリナって。どこか抜けているところとか発言がバカなところとか。
「なんでこっちをチラッと見たのさ。」
そんなバカな!お前の目は後頭部にでもあるっていうのか!?
「いや、黒垓君とは大違いだなーと思っただけさ。」
「…………まぁ、許してあげるよ。」
俺の嘘は看過されていたようだがイリナは許してくれたようだ。はぁ、なんなんだよイリナは、心理学者かなんなのか?
「そういえばさ、勇者領でしかもその王様がいるお城だっていうのに勇者少なすぎない?」
少ないっていうかいままで誰1人ともすれ違っていないぞ。普通王様っていうのはがっつりと大人数に守られてるもんじゃないのか?
「そうだねー。私もそうだけど基本勇者はこんなところでぬくぬくしてないでダンジョンとかに行ったり魔族相手に戦闘をふっかけたりしてるからお城にはいないんだよ。」
「え?でもそれじゃあ王様のこと守れなくない?」
「そこは大丈夫だよ。王様は強いからね、私なんかよりもずっと。」
なにーー!?イリナよりも強い人間がいるだと!?……よく考えれば宏美もいたのを忘れてた。いや、どうだろうか。宏美とイリナとではどちらが強いんだ?俺は両方に気絶させられてるからな、どっちも恐怖に値する存在であることには違いない。
「それに優秀なガードマンがひとりいるからね。……噂をすれば。」
長かった廊下は終わり広大な広間が姿を現す。でかいっ!俺の部屋何個分だろうか………うわっ、天井にシャンデリアがあるよ。さすがはお城だ、民家とは規格外だ。そしてその広間の奥にメガネをかけた男が高級そうな椅子に腰掛け、ワークデスクに腕をのっけていた。やり手の若手実業家みたいな感じだ。
「……………あれがガードマン?てっきりもっとムキムキな方かと思っていたぞ。」
スキンヘッドでサングラスをかけている大男のイメージが脳内を駆け巡る。
「彼を甘く見てもらっちゃあ困るぜお兄さん。」
「いつの時代の人間だよ。」
「そいつは言えねー質問ですぜ、へっへっへっ。」
「キャラが崩壊しているぞ。」
やはりこの世界にいるとキャラは崩壊するようだ。西洋感はまったくないけど。
「彼は強いんだよ。階級も私と同じで能力も凄いんだ、ちょっと今から体験してみれば?」
体験するって………………イリナが賞賛するほどの力を俺が堪能したら果たして生きてられるのだろうか?
「おっす慶次さん。調子はどう?」
「おっ、これはこれはイリナさん。お久しぶりですね、元気になられたようで僕も嬉しいですよ。」
「本当ねー。あれ以来ちょっと外出を控えてたら体重が2キロも増えちゃっててさー、それを絞るの大変だったんだよー。」
「そうらしいですね………………はい。そのダイエットの効果は一過性のものなので怠けたらすぐに戻ってしまいますから続けて運動し続けてくださいね。ちゃんと筋肉をつけるようにしましょう。」
「うん。ありがとう、さすがは慶次さんだ。ためになるね。」
「……………………………」
「ね、どうよ?すごくない?」
黙って聞いていた俺にイリナが聞いてくる。
「いや、どうももなにも。え?なに、ダイエットサポートしてたよね。え?ダイエットサポートを円滑にする能力?」
「んーーーやっぱりそうなっちゃうかー。天才でもわからないかー。」
笑いながら困ったふりをするイリナ。まず俺は天才じゃねー。そこを理解してくれ。
「おや?あなたは……………」
慶次さんと呼ばれている彼は俺をガン見し続ける。
「ど、どうしたの?」
イリナが心配そうに気遣う。
「…………いえ、なんでもありません。それで、えーっと貴方の名前は飯田狩虎さんでよろしいですね?」
「…………え?なんでわかるんですか?」
あれ?俺は彼と初対面じゃなかったっけ、まさか会ったことがあるのか?
「違うよ君ー。彼は見たものの全てを理解する力を持ってるんだよ。」
「厳密には違いますが、そうなんですよ飯田さん。貴方の能力は水を操ることですね?好きな食べ物は………ラーメンですか。おや?好きな飲み物はコーヒー牛乳?」
「す、凄いですね。全問正解ですよ。」
「でしょー凄いでしょー。」
なぜか誇らしげなイリナ。俺はお前を褒めてはいないからな。
「なになに、自分的には金髪よりも黒髪の方がいい?……………わかります。」
「わかりますか!?いいですよね、あの黒髪のツヤとか。もうね、最高ですよね!黒髪の少女が目の前にいたら告白しちゃいますよね!」
黒くて長い髪って良いよな……ツヤがあって清楚感があってさ。
「なぁ、長い髪って手入れ大変なんじゃないの?「ん?そうなんですよー。入浴後とか朝とかのお手入れの時間がすごくかかってしまうんです。でも…………」「…………でも?」「貴方がこの髪型が好きだというのなら……………私は…………貴方のために………………」「ん?どうしたのさ赤くなったりして。」
スカートの裾を指で遊びながら俺の方をチラチラと見てくる。
「私は………貴方のために………貴方のためなら………貴方が喜んでくれるのなら……その時間も無駄じゃないかなって…………………」
長く、煌めくような黒髪の彼女は真っ赤な頬でまるで紅葉のように明るくもどこか恥じらいながら俺に微笑んでくれた………………
うおおおおおおお!!!いい!!すごくいい!!!こういう女性と付き合うというか結婚したい!!
てかなんなんだよ髪を染めるとかさ、なんで毛根の死期を早めるような馬鹿な真似をするんだ?黒髪の素晴らしさに気づくべきだ!人間、自然体が最高なのよ。自然体であるほうが最高のポテンシャルを発揮するのよ。それを分かっていない。野菜だってそうだろ?除草剤とか使わないで有機栽培の方が美味しいんだろ?俺にはそこらの違いがよくわからないけど!
「へぇー。それじゃあ私は君から見たら論外というわけね。」
金髪の少女はまるでからかうように俺に問いかける。
「まぁ、黒髪じゃないのは仕方ないよな、地毛が金色なんだからさ。だから俺からすればイリナは論外じゃないよ。」
地毛が金色なのはどうしようもない。神がいるのかわからないし俺は信じてはいないが、もし神様がいるというのならその神様が決めたことなのだから。てか長髪ってだけでも俺からすれば最高だ。……………よくよく考えたら長髪ブロンドというのも案外いいものだな。最近になってその魅力に気づけた俺はきっと、大人の階段をまた一歩登ることができたのだろう。
「はぁ。ここで愛の告白されてもねぇ〜。」
顎をしゃくらせながら肩を竦める。
「ばっ、だから告白じゃねーって言ってるだろうが!」
イリナに全力で飛びかかる!
俺とイリナが小突きあっているところを(とは言うものの俺の攻撃は一発も当たらずイリナの攻撃は全て当たるというサンドバッグ状態なのだが)慶次さんは面白そうに眺めていた。
「ふふっ…………微笑ましいですね。」
その言葉を聞いた瞬間に俺とイリナの動きが止まる。
バシーーン!!
かと思いきや一瞬動きが止まっただけで俺の顔面を思いっきりビンタしやがったよ!
「むごおぉっ!……………な、なぜだ!なぜ今俺にビンタをしたんだ!今の流れはどう考えても違っただろうが!!」
大抵こういう場合は顔を見合ったりするもんじゃないのか!?
「う、うるさい!ちょっとあれだよ、あれ、ほら!蚊!そうそう蚊だよ!君の顔に蚊がついてたから潰しておいてあげたんだよ!」
イリナは今にも殴らんばかりに手を振りながら必死に弁解する。この世界に蚊っているの!?今まで見なかったから、てか、虫すらも見なかったが、なるほど。この世界にも虫はいるのか。どうやらまたこの世界で血が飛び散る激しいバトルをしなきゃならねーよだな。
「それにしてはビンタの重みが凄まじかったんだけど。」
口の中でじんわりと鉄の味がする。
いままで口内出血などしたことがなかったんだよなぁ。宏美の攻撃は全てこめかみあたりに炸裂してたから。やはり最近の俺には初めてのことが多すぎる。
「そ、それは…………ほら!………あーだめか…………だからさ、そのーーねっ。」
イリナの口からうまく言葉がでてこない。視線が宙を泳ぎ俺をまったく見ようとしないのだ。
「………………あ、そういえば慶次さんって相手の思考を読むことはできますか?」
「ま、まぁそうですね。細部までは無理ですけど大きなこと……………相手がフルに頭を使っていることとか話題の中心とか、つまり相手が思考していることに関してなら読めますよ。読むというか見るですが。」
「なるほど、それじゃあつまり今イリナが考えてることも読めるってことですね?」
「そういうことですね。」「見んなよ。」
ゾワッ
イリナから冷たい声が発せられる。
それは体の全ての毛。髪や髭だけじゃなく柔毛、腺毛、もう一つおまけに毛細血管すらもが逆立つような重濃厚な殺気であり、いや、気なんてものじゃない。殺気そのものがまるで実態があるかのように俺と慶次さんを包み込み握りつぶしねじ伏せる。圧倒的プレッシャー、包括的殺意、仰々しいほどの凄み。語彙数の少ない俺じゃ言い表せないような[冷たさ]である。
「……………………………」
その超高密度の殺気を浴びた俺と慶次さんは互いに見つめ合うことしかできなかった。今動いたら殺される!いや、殺されるってかイリナの方を向けない!その思いだけが俺の頭を支配し、また一方で慶次さんもその思いであったのだろう。慶次さんの視線から「刺激するな刺激するな刺激するな」という言葉と意思が送られてきた。
そんなの分かってるに決まってるだろうが!なんでわざわざ怒らせるようなことを俺がしなきゃいけないんだ。なんのメリットも俺にはないじゃないか。そもそも俺は昔から草食系お利口狩虎ちゃんと言われてたんだぜ?
「い、イリナよ。落ち着け、いいか?」
振り返るとイリナは無表情だった。いや、無ではない。その瞳には絶対零度の輝きがあった。睨まれただけで凍りそうだ。
「私はすごく冷静だよ。今君達をどれだけ無駄なく殺せるかを考えてるぐらいだからね。」
「俺たちを殺すことが無駄な行為だと気づいてくれよ頼むから!」
「そ、そうですよイリナさん。私ももう貴方の思考は見ないようにしますから。」
「…………まぁ、それなら。」
イリナの顔に熱が戻っていく。あーもう本当怖いぜイリナさんはよ!彼女と行動をともにするのは常に爆弾を抱えてるような気分だよまったく!
「さぁ、無駄話もここまでにして。直してもらいに来たんでしょ?イリナさん。それなら飯田さんが持っている荷物はこちらが預からせて頂きます。」
おっ良い感じに話をそらしてくれたぞ。
「あ、ありがとうございます。」
ほんとうにありがとう。本当にありがとうございます。良い感じに話をそらしてくれて!!!イリナが買った色々な物が入っている紙袋を渡す。
「それではこの扉の先が謁見の間となっております。王様がいらっしゃるので、くれぐれも失礼な態度に注意を払わないでください。」
ん?なんか変だな。
「さぁ、扉を開くよ!」
イリナが扉に手をかける。さすがはお城の戸だ、スムーズに開く!
謁見の間はさっきの部屋よりもさらに広く、ほとんど全てが白で統一されていた。部屋中央部に王座と思しき物があり、そこにはさっき廊下で見たおじさんの絵にそっくりな人が威厳めかして座っている。
「よく来た。まぁ、こっちに来たまえ。」
低い渋みのある声が響く。それに返答もせずにイリナは王様へと近づいていく。え?挨拶しないの?よくわかんねーなー本当。十分近づいたところでイリナは止まる。
「久しぶりだね王様。今日は剣を直してもらいに来たの。」
背中から魔剣を取り出す。いや、口調軽いな!同年代のお友達と会話するのとは勝手が違うんだからもうちょっとお硬く喋ろうよ 。
「魔剣が折れたのか………………よ……くわかったぞ。それはともかく君は誰かね?」
「あ…………はい。飯田狩虎です。」
「ふむ……………階級はなんなのかね。」
「え、えーっとわからないです。」
「わからない?……………ああ、君が彼の言ってた子か。」
彼?まさか俺って有名人?
「じゃ…………ごほん。それでは君の力は水だな?」
なんだ?さっきから言葉がたどたどしいぞ。喋るのが苦手なのか?そうなら親近感がわくのだが。
「あ、はい。と言ってもまだまだ弱くて木すらも倒すことができません。」
「がははははははは!!……………っと失敬。」
えええええ、スッゲー笑われたんだけど。そんな俺が弱いことは威厳あるおじさんを笑わせるほど面白いのか?
「王様………もう見栄を張らなくて良いんだよ?」
このやりとりを見ていたイリナはお腹を抱えてずっと笑っていた。なにが面白いんだ?そもそも見栄を張る?
「だよねーー。わしもそう思ってたんだよ、だってあんなのわしに不向きじゃん?いやーまじイリナちゃんはわしのこと分かってるよ。そうだ、今夜空いてるかい?わしと一緒に熱帯雨林のような水滴滴る身を焦がす程の熱い夜を過ごさないかい?」
イリナの右手を両手で包み込むように握る。イリナから指摘を受けた瞬間威厳ある王様は性欲溢れるクソジジイへと変貌した。
「あははーー。王様、今から焦がしてあげるよーー。」
王様が握っていたイリナの右手から強力な電気が流れる。それは近くにいる俺さえも痺れてしまうよな激しい稲妻。ぎゃあああああああ!!!という悲鳴がこの部屋中にこだまする。……………こんな悲鳴を聞いたら普通はボディーガードは飛んでくるはずなんだけど全くくる気配がない。きっとこんなのが日常茶飯事なのだろう。
「ぐうー…………イリナちゃんのわしに対する愛情がまさかここまで熱いとがっ!」
イリナがぶっ倒れた王様の顔面をおもいっきり蹴る!なんてこった!躊躇なんてなに一つしてない。確実に殺しにかかっている!!
「うふふふふ。実は私、白色が嫌いなんだよね。ねぇ、ちょっとこの部屋は白が多すぎると思わない?」
無表情でイリナは光剣を引き抜………
「まてぇえーぃい!!イリナあぁあ!早まるな、荒ぶるな!正気を戻してくれえぇぇ!!」
白が嫌いだからって人間の体液で色を塗り替えようとするんじゃねえぇぇ!!その模様替えの仕方はまずい、王室から王様を消して真っ赤に染め上げるのはまずい!や、やばい!このままじゃ確実にこいつは王様を殺す!目がマジなんだよ!剣を持っている右手を重点的にイリナに必死にしがみつく。
「くそおぉぉ!!どけぇえええ!私は絶対にこいつをぶっ殺す!もう我慢の限界!!チリになるまで刻む!!」
だが俺の制止などまるでないかのように王様の方へと歩いていく!そして怒らせた原因である王様はというと「こんなイリナちゃん初めて」と言わんばかりに顔が真っ青で恐怖でおののいているだけ!!逃げてくれえぇぇ頼むから!!
「頼むからイリナ止まってくれ、ちょっ、本当に止まって……………慶次さあぁぁぁあん!!!ヘールプ!ヘーーーールプ!!!」
____25分後______
イリナと王様は慶次さんにずっと説教されていた。特に言われてるのは王様だけど。生徒会で俺が翔石君に説教されてる時もこんな感じなのかな。
俺の必死の叫びが聞こえたようで慶次さんがすぐさま駆けつけてくれたのだ。そしてイリナの耳元でボソッと何かを言うとすぐにイリナは大人しくなった。いや、大人しくなったというかすごく慌ててはいたのだが慶次さんの言葉には逆らえなくなっていた。
イリナの反応からしてきっと「君の好きな人を言いふらしちゃうゾ!」ってところだろう。やはりそういうのが人間としては1番ダメージが大きい。そう考えると慶次さんの能力はまさに対人においては無敵だ。しかし、一体誰なのだろうか。すごく気になるところだ。……………はっ!まさか宏美か!?
そして王様はというと特筆すべきことがなにもない。ただすごく怒られていただけなのだから。ずっとヘラヘラしてたけど。
………しかしなぜイリナが王様を避けていたのかが分かった気がする。今度からは武器を大事に使おう。またこんな修羅場を俺は見たくない。
「んじゃ魔剣を見せてくれイリナちゃん。」
そしてやっと剣の修復に取り掛かってくれることになった。
「ちっ……………はいはい。」
嫌な顔をしながら魔剣を渡す。うわー女性から舌打ちなんてされたら俺ならショック死しちゃうかも。
「んーーーしかし綺麗に切れてるねぇ。こりゃ材料を集めて来てくれなきゃどうしようもないわ。」
「材料?」
「ああ、材料だ。ほら、魔剣が封印されてたところにドラゴンがいたじゃろ?そいつの爪がこいつの材料だ。」
ドラゴンって…………物騒な名前がでてきたな。明らかに強そうだ。絶対炎を吐くな。
「えーーっと、あのドラゴン?」
「ああ、あのドラゴンだ。暴龍カオス、その声は聞いたものをすくみ上がらせ、爪に触れたものは恐怖で固まり、目があったものはあまりの恐怖に死んでしまう。恐怖で空間を支配する魔剣を守っていたドラゴンだよ。」
聞いてるだけでお腹が痛いぜ!
「あの巨大なの!?……………いや、私達だけで倒せるような気がしないんだけど。」
「あ、ああ!!俺みたいな足手まといがいるからな!!」
んーーー。自分で言ってて情けない!だがこれは事実なのだからしょうがない!ここで言っておかないと俺とイリナの命が危ないんだ!俺が足を引っ張るせいで!
「がはははは!!安心せい!!頼もしい助っ人をイリナちゃんたちにちゃんと用意してるんだからな!!」
「えっ!?まさか慶次さ」「ぱかパパーーん。」
俺の期待を虚しく裏切り、扉の奥から陽気な声が聞こえてくる。こ、この声はまさかっ!!
「ぱかパパーーん。」
俺とイリナは顔を見合わせて頷く。
「ぱかパパーーんぱかパパーーん。」
俺は扉付近まで水をたらした。
「ぱかパパーーんぱかパパーーんっ。」
ガチャッ
「パーーーーんっぎゃあああああああ!!!」
扉を開け男の子が水を踏んだ瞬間イリナが電気を流した。今日2度目の悲鳴。はぁー……………一体なんなんだよこの世界は。
「いったいなーー。一体なにするんすかぁ……」
ちょっと服を焦がした男の子は尻を床につけながらこちらを見てくる。
「悪い腹立ったから。ってかなんで結婚式の時に流れるメロディーを歌いながら入ってきたんだ?」
「いや、オラが来るなんておめでたいことっすからね。」
「それなら[ぱんぱかぱーん。ぱっぱっぱっぱんぱかぱーん]だろ。」
「あーーー!確かに!さすがは飯田さんっすね!!」
身長160後半で一人称がオラ、語尾に体育会系を彷彿とさせる[っす]をつける陽気でバカで一癖も二癖もある何処か憎めない男の子。黒垓白始くんは笑いながら俺の顔を見ていた。
「まぁ、終わらせないっすよ。」
「くそっ良い感じにまとめれたのに……………頼むから終わらせてくれよ。君との会話マジでめんどくさいんだよ。」
話がどんどん膨れてしまうのだ。
「ふっふっふっ、オラがでてきたからにはあと1万文字ぐらいの分量が増えると覚悟して欲しいもんすね。」
「たまったもんじゃねーな。」
「仕方ないじゃないすか、こちとら貴方たちがこの部屋に入った時からずっと待ってたんすよ?話したいこともやまやまっす。」
「ええぇえ!?あの無駄な時間を長々と待っていたのか!?なぜ出てこなかったんだよ!!」
「うっふっふっ。前回の登場はイマイチ迫力に欠けてましたからね、今回こそはと王様の悲鳴とイリナさんの残虐な行動を見まい聞くまいと待っていたんす。」
「見まい聞くまいと待ってたのか…………」
「はい。命を投げ出してまで助けに行こうか王様の命を犠牲にしてオラが甚だしく登場するか本当になやんだっす。」
「俺なら迷わず前者を選ぶな。」
本当は後者なのだが…………王様が目の前にいるので前者と言っておこう。建前というやつだ。
「まぁ実際のところは悩んでないんすけどね。」
だと思ったわ。
「まぁ、そんなことよりオラとしては聞きたいことがあるんすよ。」
「ほう?一体なにを聞きたいというんだ?」
「いや、前回オラの能力を見破ったじゃないすか。いったいどうやって見破ったんです?」
「え?君見破ってたの?」
ああ、最後俺がカッコつけたやつね。振り返るとあれ恥ずかしいなー。もうちよっと語呂がいいセリフを考えておくべきだった。
「あーーそんなことか。なに、黒垓君が俺に止めを刺す時に剣を取り出したじゃん。つまり君のなんでも消す剣は俺を殺すことができないということになるだろ?」
「んーーー。まぁそうっすね。」
「んでだ、七大聖剣を含めた全てをあっさりと消すことができるのに俺のような弱々しい男は消せない………それってつまり無生物が切れて生物が切れないというわけだろ?そこまで行けばあとは2択だ。[動物以外ならなんでも消せる武器を生成する能力]か、話を飛躍させ一部だけをどこかに飛ばしてるんじゃないかという考えで[動物以外ならなんでも飛ばせる武器を生成する能力]と落ち着くことができる。まぁ、前者には色々と派生があるんだけど大まかにまとめてるってことでね。そして後者はいきなり黒垓君が現れたことの理由付けもできるから選ぶとしては後者というわけだ。まぁ、最後にイリナが何処かに飛ばされたから確信を得たわけだけど。」
実は大きな手が見えた時に無生物だけ消す能力であってくれと願ったのは言えない。断じてイリナの裸が見たかったとかそういうやましい気分はないったぁ!?俺の気持ちを見透かしてかイリナが弁慶の泣き所をつま先で蹴った。
「かぁーー!さすがは飯田さんっす!!いや、師匠!!今から師匠と呼ばせて欲しいっす!!!」
「………いや、黒垓君の方が強いでしょ。」
正直この子に付きまとわれたらめんどくさそうだ。今になってやっと女性の後輩に付きまとわれている宏美の気持ちが分かった気がする。よくあいつ「気持ちは嬉しいんだけど毎日ついて来られるこっちの気分も考えて欲しい。」と自慢げに愚痴ってたが………………なるほど。確かに嬉しい反面めんどくさい。
「師匠。違うんすよ、この世界では階級で決まる[力]よりも[心]を重視されてるんす。力ばかりはどうがんばっても変わりませんが心ならいくらでも変えれます。そして、オラは師匠。貴方がその心を誰よりも持っていると感じたっす!誰よりも弱いけど誰よりも素晴らしい心を持ってるんすよ!」
うわっなんだろう。すごく嬉しい!すごく嬉しいんだけどすごく恥ずかしい!こんな人が大勢いる中でべた褒めされるってなんとも言えない気分になるんだな、変な汗がでてきたよ!
「それに、暴君とも言われているイリナさんにめげずについて行くなんて常人じゃできないんすよ!?その凄さを分かってるんすか!?」
ぼ、ぼぼ暴君!?まさかイリナは強さじゃなくてその凶暴性で有名なのか!?
「なぁ、イリナ……………それってほ」「聞かないで。それ以上聞いたら潰すから。」
俺の顔を見ずに答えてくれるイリナ。素晴らしい回答をいただいた。いやーー、本当こいつは行動が迅速で助かるよ。
「………………理解できたよ黒垓君。」
「というわけでオラは師匠について行きその心意気を学ばせていただきます!!」
うへーーーまじかよーー。嬉しさとめんどくささの中間の気分だ。簡単に言うと気恥ずかしい。
「いや、まぁ俺のような人間でも君が認めてくれるのならいいぞ。」
「いやーー!!いいっすねぇーー!!その謙虚な心持ち!!最高っす!」
なにが良いんだかさっぱり分からないけど黒垓君が喜んでくれるのならまぁ、良しとしよう。
「それじゃあ暴龍カオスの爪を5個とってきてくれ。そしたらわしがささっと直してやるからな!」
ガハハハハハ!!
大口を開けて笑うエロじ…………王様。うーん、本当にこいつ王様か?影武者とかなんじゃないのか?
だが、そんな思いは一瞬で消し飛んだ。やはり王様は王様であり、イリナが認めている程の実力者なんだ。どんなに変態だろうとどんなに気楽だろうとどんなに楽観的でも腐っても王様だということを俺は思い知らされた。
「王様!!後ろに敵が!!!」
突然慶次さんが大声を上げる
ドドドドドドド!!!!!!
ぶぁっごおぉぉおんん!!!
そして慶次さんが大声を出した瞬間に王様の背後から大量の剣が出現し高速で壁をぶち壊して空へと放たれていく。王様の能力か!?一体何本の剣が出てたんだ!?
「人なんて誰も居なかったけど……………」
「いや、透明化の能力ですね。私じゃなければ見破れなかったでしょう。」
その言葉通り王様の背後から穴だらけの人間が出現し倒れる。まさか慶次さんは透明人間すらも見れるのかよ!!
「………ん?この方は………勇者ですね。階級はそこまで高くないようですが。」
「勇者!?ちょっと待ってよ、なんで勇者が王様を襲うのさ!」
「……………そんなことよりいるんだろ?その扉の向こうに。」
王様のその言葉に反応して一人の男が戸を開ける
「さすがは王様だな。どんなに気配を殺してもばれちまう。」
出てきたのは身長180センチは確実にある黄金の鎧を着た男だった。
「君は確か第二類勇者の風見優馬君だったっけかな?」
「ああ、そうさ。俺は第二類ゆうまだっぐぅ!!!」
ボゴオォオオンンン!!!
巨大な剣が優馬に直撃し吹き飛んでいく!
「ふぅーーー。これで一件落着だな。」
不意打ち…………きたねぇー。しかし剣を無限に作り出し操る能力か……………やべーな。超強いじゃないか。俺の水の能力なんか霞むほどだ。
「くっくっくっ……………きかんなぁそんな攻撃。」
だが相手は剣が直撃したはずなのに全くの無傷だ。立ち上がり体についた埃を手で払いながら薄気味悪く笑っている。
「俺の力は硬化だ!貴様の攻撃なんて全く効かんなあぁあ!!」
…………なんでこいつ自ら能力を言ったんだ?言わない方が圧倒的に有利なのに…………あっ、こいつバカなんだな?ふっ……………それなら俺の敵じゃないな。他のやつらに譲ってやるか。
「王様。ミフィー君が俺じゃ勝てそうにもないからイリナ頑張ってくれって言われたので私が倒す?どんなに固かろうが私の電気の前でなら無力だし。」
あれーおかしいな俺の意思が変な感じで伝わっている。それじゃあ俺が弱虫みたいに聞こえちゃうだろうが。
「いやいい。これぐらいならわしに任せてくれ。たまには体を動かさなきゃならんからな。」
王様は椅子から立ち上がると一本の剣を出現させそれを握る。見た感じはそこらへんにあるような平凡な剣だ。
「なぁ、慶次さん。あの剣はなんかすごいのですか?」
「いいえ。あれはそこらへんで売ってる鉄の剣ですよ。最下級の魔物が持ってるような粗末なものです。」
「え?なんでそんなものを使うんですか?」
「確かに私達が使えばあんな武器はただのガラクタですが王様の場合は違います。彼の力は剣の性能を最大まで引き上げ絶対に折れず切れ味抜群な業物へと変えさせてしまうのです。」
………………すっげーーー!やばい。王様って強いんだな!あんなにイリナに恐れおののいてたのに!
「おいおい王様。そんな剣で俺を倒せると思ってるのか?さっきも見たろ俺の体は剣を通さないってな。」
「ガハハハハハ!!よっしゃ、これからちょっとがんばってこんな剣でもお前を追い詰めれるって証明しちゃる!」
キィーーンンン!!
一瞬で相手のもとまで行き、王様の剣と優馬の腕が交錯した!
「だから効かないって言って……」「ギアアップ♪」
キインキインキインキインキイン!!!!
さっきの動きよりも王様の動きは更に速くなり、体のいたるところを切り続ける!だが相手は第二類勇者だ。ただ打たれているだけじゃない。高速で移動しながら腕を剣の側面に当てガードをし続け時折攻撃をおりこむ!
「んん〜〜。いいねぇーー、それじゃもういっちょギアアップ♪♪」
カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカンンンンン!!!!!!
さらに加速し、いたるところで金属の音が響き渡る。まるで金属と金属がぶつかっているかのように火花は弾けあたり一面を眩しく照らす。王様の速さはさっきまでの比ではなく、優馬が腕を一回振ってる間に甲高い音が3回響く程だ。それでも硬化の力は強力なようであまりダメージが見えない。逆に優馬は王様の動きに合わせられるようになってきていて少しずつタイミングが合い始めていく。
「ぐっおおおおおおお!!!!!」
ブァブァブァブァブァ!!!!
硬化された大きな拳打は一発一発確実に、しかしながら圧倒的速さで何十発もが連続で空を押し切り鈍い音を発しながら繰り出される!!
カカカカカカカカカカカカカン!!!
「やべっ。」王様の剣が空中を舞い、
「俺のっ」腰の部分から存分に捻られていく右腕。
「勝ちだ!!!!!」
相当量の運動エネルギーを溜めたパンチが王に向かって伸びていく!!剣すらをも通さないその硬い拳がもし人間の体に当たってしまったら………………そう思うだけでも身体中が痛む。そんな最悪の想像を俺はしていた。だってそうだろ?剣もない、腕は上に弾かれてる、しかもパンチはもうすでに目の前。これ程の絶望的状況下において最悪の結果を想起しない人間の方がおかしい。ただ、やっぱりおかしい人間はいるようで王様とイリナと慶次さんは笑っていた。
グワッキイィーーーン!!!
ひときわ大きな金属音が部屋中に響き渡る!
「っ!?」
優馬の腕が弾かれる。どうやら何もない空間から剣を出現させて腕にぶつけたようだ………………なんだそりゃ。それができるんなら最初っから無数の剣を操って攻撃すればよかったじゃないか。なんでわざわざ剣を持って攻撃してたんだよ。
「炎炎なる支配者。」
上に弾かれていた手から炎で燃え上がる刀を出現させ、そのまま右回転をしてまるで裏拳のように刀を振るう!
シュッ!
優馬の右腕に当たっとき、今までと全く違う音が響く。金属がぶつかった音ではなくてハサミが紙をシュッと切った時のような音だ。
「おお、なるほどね。皮膚が硬くなってるんじゃなくて硬い層が体を覆っているんだねぇー。だから今切れたのに血が出ないのか。」
どうやら優馬の右手の一部が少しだけ切れたようだ。確かに切れても全く血が出ていない、しかもすぐにその傷は塞がってしまった。
「なぁ、あの剣って凄いのか?」
「んーー。そこまですごくはないかなー、最初の剣よりは強いけどあれもやっぱりそこらへんで5万ほどで買えるものだよ。」
「ふーん……………ところでさっき買った指輪の値段は?」
「30万。」
6本も買えちゃうよ!……………イリナってお金の使い方が荒いんだな。まぁ稼ぎ方も荒いが。
「なるほどなるほど。この武器でなら切れるのか………OKだ。」
ズアッ!
王様の背後に6種類の剣が出現する。氷、闇、光、風、土のエレメントが剣の周りを漂っている。そしてもう一本は属性もなにもない。ただ少しだけ光っているだけ。きっと無属性とかそこらへんだろう。
「それじゃあ行くぞー。」
シャシャシャシャシャ!!
王様の太刀が無数の火炎の跡を残しながら優馬を切りつけていく!
ギュオン!!
優馬の腕が尖り伸びていく!?
ガキィンンン!!
だが、不意打ちで食らったにも関わらず左手に持っていた、まるで氷を武器にしたかの様な輝きを放つ刀を使って王様はガードしていた。
「冷徹なる眼差し」
パキパキパキパキッ
氷の様な刀と触れている部分が次第に凍り始める!優馬はすぐさま後ろへと距離をとり、凍らされてしまった部分を切り捨てまた硬い層が再生される!
「硬い膜を好きな形にもできるのか………………いやー奥深いねー。それじゃあこれはどうかな?」
左手の氷の刀を手放し光の剣に持ち替えた!そして右手と左手の刀と剣を互いにぶつけ合うとあたりが眩しく輝き一本の剣へと姿を変え、その切先を優馬に向けた。剣から放たれた熱光線が優馬の右肩をえぐり、そこから血が噴出する!
「迸る熱戦。」
「ぐうっ………だが!!」
だがすぐさまそのえぐられた部分は硬い膜に覆われ、優馬は王様の元へと動き出す!だが王様はというとのんきに剣を手放しそして後ろから剣を二本取り出し合体させる!
「土と氷の複合技術。永久凍土」
ボコボコボコガンガンガンガンガン!!
剣を地面に突き刺すとその部分から放射状に氷に覆われた岩が棘のように突出していく!さらに氷が先行して地面を這い、触れたものを全て凍らせていく!
バッ!
それを回避するため優馬は空中へとジャンプして逃げる!が、王様の剣は既に空中に向けられていた。黒色の巨大な竜巻が優馬を包み込み、巻き上げそこから逃げられないようにする。さらに先ほどの氷の地面を巻き上げ竜巻の中では氷と岩が互いにぶつかり合い破裂音が連続して響く。
優馬はその場で風に回され続け、俺はイリナの手にしがみついて必死に飛ばされないようにしていた。
「闇と風の複合技術、常闇の棺………さて、とどめといくか。」
全ての刀を合体させ、今までよりもひときわ明るい光が部屋中を照らす!
「グランドソードフルエレメント。」
そして出来上がった剣は七色の光を帯び、辺りを七色へと染め上げる。
「それじゃあ…………さらば!!」
剣を振るうと七色の巨大な爆発が優馬の方へと近づいていく。爆発の規模は大きく、結構離れている俺のところまで衝撃波がびんびんくるほどだ。正直これ食らって生きてるやつがいるのなら反則だろ。
その時、壁の空いた穴からボロボロの茶色のマントを羽織った者が入り込み爆発の目の前に飛び出す。そして手の平をそれにかかげると瞬く間に爆発は手の平へと吸い込まれていった。
「こちらこそごきげんよう。」
マントの男は拳を床に叩きつけるとその部分で巨大な七色の爆発が起き、城の上部が粉々に吹き飛んでいく!さながら水素爆弾。それほどの高威力の爆発は俺の意識を奪うのに十分だった。
「ししょおー。起きてくださいー。」
ペチペチと頬を叩かれる
「うーん……………あと20分。」
「私の拳が飛ぶまであと3秒〜。」「起きた!起きたから!」
がばっと起き上がる。イリナのパンチをもろに食らうのは確実に避けたいのだ。食らったら絶対に顔が凹むだろう。顔も心も凹むだろう。
「あいたた………………はぁ。なんでこうも俺が起きた時はよく目の前に空が広がってるんだろうな。俺はサバイバル生活に慣れていないっていうのに。」
起き上がったら上部がなくなり中腹部と下部だけが残った城の上にいた。
「どうやら敵さんの仲間に魔法の吸収と放出ができる方がいたみたいだねー。」
王様が立って夕日を眺めている……………うわっ、切ない絵面だな。
「しかもそいつは魔族ですしね。」
「楽しみだねぇー。そう思わないかい?慶次君。」
そうですね。と慶次さんはスタイリッシュに座って夕日を眺めながら答える。
「魔族……………勇者となぜ組んでるんだろうな。」
「……………前さ、強くなることはできないって言ったじゃん?」
「ああ、言ってたな。」
「でも実は一つだけあるんだ。強くなる方法。」
まるで下らない話をするようにイリナは眉をひそめて言う。
「下克上って言葉あるでしょ?身分の低いものが身分の高いものを倒すこと。」
「おい。ちょっと待てよ。そこから先は言わないでくれ、頼むから。」
嫌な予感がする……………いや、予感じゃない。確信だ。そもそも下克上なんて言葉が引き合いに出された時点で最悪だ。
「そう。下克上なんて物騒な言葉が出てきた時点でもうアウトだよね………………言葉通り、この世界では身分の高い同族を殺せば強くなれるんだ。」
だがイリナはお構いなしだ。無情にも俺が最も言って欲しくなかった言葉をどストレートに言ってくる。
「でもそれってリスクが高いというかそもそも無理なんだよね。階級と力は比例の関係だからさ、現実のようにそう簡単に倒せるわけがないんだよ。」
「………………そこで魔族の力を借りようってわけか。勇者の足りない部分である魔法の力を補い、魔族も下克上を行うために勇者の力を借りに。」
「そう言うことだね。」
…………………狂ってやがるぜ。そこまでしてなぜ強さを求めるのだろうか?正直力などなくたって生きていけるじゃないか、こんな俺だって生きていけてるじゃないか。
「この世界はね、勝者こそが正義なんて下らない思想で満たされてるの。確かにその通りだと私も思うよ。負けたらいい思いはしないし勝ったらたくさんいい思いもするからね。」
「勝者こそが正義…………ねぇーーー。俺から言わせれば勝者が正義なんじゃなくて、信じられたものが正義なんだ。負けたものは大抵信じられないし勝ったものはほとんど信じられる。でもたまに、本当ーにたまに。負けても正義になるものはいる。イエスは死んでもその後信じ続けられたし、平将門なんて怒りのあまり生首だけで空を飛んだって言われてるんだぜ?」
あの話を見たのは小学生の時だったのでその時は確かに怖かったなー。今はもうなんも怖くはないが。
「…………話が逸れたけど、あっ、そう言えばジャンヌダルクも確か死んでも英雄とされてたよね。とにかく、信じるものは救われるってわけじゃないけど信じられたらそれは正しいんだよ。」
信じてもらえることほど嬉しいものはないと俺は常々思う。支えてもらえていると思うだけでどれほど安心できるのかを知るべきなんだ。いや、もしかしたら知らなくてもいいのかもしれない。気付かないほどに満たされているのだから、それに気づいてしまった時、一体何が起こっているのだろうか?俺には想像できない。
「ふーーん………………弱者の言い訳だね。」
「まぁね。俺のようなやつはこんなことにでもすがらないと生きていけないんだ。」
悲しくて悲しくて、俺は顔を上げる。いつか覚めるのは分かっている。こんなに楽しいことが永遠に続くわけがない。条件付きの楽しさ、制限ありの冒険。俺がそれを壊して台無しにするのは目に見えているんだから………
鳥が飛んでいる。カラスだろうかなんだろうか?俺は鳥には興味がないからよく分からん。飛ぶことにそこまで興味が湧かないからな。
ただ、夕日に照らされる鳥という図は、やるせなさと虚しさがごちゃ混ぜになった奇妙な感覚で、まるで俺の心を表しているような気がして、そう思うとこの綺麗な空を見たくなくなって俺は顔を下げた。




