無駄なものなどこの世にはないはず
「なぁ、気分悪いのなら別に今日じゃなくていいんだぞ?」
「うるさいよ君。私が徹夜した程度で音を上げるような人間だと思う?」
とかいったもののイリナの足取りはフラフラだ。たった1日徹夜しただけなのになぁ………俺ならむしろ一周回って元気になっちゃうわ。
今俺たちはジャングルにいる。またかよと言われればまたかよなのだが仕方が無い。作者の引き出しが狭いのだから仕方が無い。中間試験1日目が終わり、明日もあるとはいえテストから解放された生徒達は足早と家へと帰って行った。俺もさっさと家に帰って英語をやろうと思っていたのだがいきなりイリナに呼び止められたのだ。
「ミフィー君………………昨夜はありがとうございます。おかげで一睡も出来ませんでした。」
昨日イリナの家を出る時に善意として全教科のポイントとなる部分全てを書き込んだお手製の冊子を渡しておいたのだが、まさかあれを寝ないでやったってのか?……アホすぎる。あれは要点をさらっと見るためのものであって、参考書とかではないんだぞ?なのにイリナはやったのか。………あとでちゃんとした使い方を教えてやらんとな。
「ああ、そのようですね。すごく恨めしそうな顔になってますよ。」
目の下にはクマが出来ているし、寝不足のために目が細くて疲れ果てているからか若干前傾姿勢となっている。一夜漬けするとこんな感じになるんだな人って。
「まぁ、どんな顔であろうと私には関係ないのですが。教えていただいた知識に私は多いに助けていただきました。その点には感謝します。ありがとうございます。」
ぺこりとお辞儀をするイリナ。あっちとこっちとじゃ違いがありすぎるよ本当に。
「いやいやいいですってお礼なんて。助けて欲しいと言われたら助けてあげるのが人間ですよ。そんな当たり前のことなんかでお辞儀なんてしなくてもいいですから。」
「そうですか………………いや、でも私としてはもう少し何かお返しがしたいのですが。」
手を体の前でモジモジとする。
清楚!すごい、絵に描いたような清楚感!うわ、本当に何これ!まじかよ、おい!くぅーーー!!白色のワンピースと麦わら帽子を被って真夏の向日葵畑を走って欲しい!ああ、そうだ!確か雪さんってそういうファッションを推してたよな!!彼女なら持ってそうだから今からでも借りに行こうかな!?
「ですから、今日の放課後空いてませんか?」
「ああ、もちろんだ!!ちょっと待ってて!今から雪さんに麦わら帽子と白いワンピースを借りに行ってくるから!!!!」
でももう雪さんは帰ってしまったかもしれないよな。くそっ、それならどうしろっていうんだ!せっかくイリナが麦わら帽子に白いワンピースを着てくれるって言っているのに!…………いや、雪さんだぞ?あの雪さんだぞ?それがこんな絶好の機会に家に帰っているわけがないだろ。彼女ならこの絶妙な機会を感じ取ってくれているはずだ!絶対に教室にいる!間違いない!俺は一階の雪さんがいる教室へと走り出す。が……
「どうしましたー?ミフィー君。たわ言をのたまいながら走り出そうとしてましたけど。危ないですよ?そんな状態で廊下になんか出たら。」
襟を掴まれてしまいその拍子に喉が詰まり、ぐえっ………っと情けない声をあげてしまった。
「絞まってる絞まってる!腕をだんだん上げないで!い、息が………………」
死ぬ!死んでまう!こんなにも死を強烈に感じたのはいつぶりだろうか………………ああ、このイリナの魔手から逃げる術が思いつかなくてどうでもいいことを考えてしまう。
「ふぅ…………いいですか。放課後にミフィー君の為に魔剣を直しに行きますから、今日の放課後の予定を空けておいてください。」
簡潔に要点を言うとイリナは俺の襟から手を離し家へと帰って行った。きっと、話しても埒が明かないとでも思ったのだろう。それは当然だ。お礼をしたいと言う善意を俺は白いワンピースと麦わら帽子という妄想によって無下にしたのだから。
「はぁーーー。悪いことしちゃったな………………あ、そうだ。今度あった時に雪さんに白いワンピースと麦わら帽子を持っているかどうか聞いてみよう。」
で、今に至る。
「なぁーーー。確かさ、この方角って勇者領があったんじゃなかったっけ?」
ひたすら森を歩き続ける。
「そうだよ。私達が今から行くのは勇者領なんだよねー。…………はぁ、あの人と会話をするのって苦手なんだよなー。」
ただですら眠気で目が細いっていうのにさらに目が細くなる。閉じてるんじゃないのか?
「あの社交的スキルが半端じゃないイリナでも嫌な人間てのはいるのか。」
全ての人間に対して分け隔てなく平等に接することを信条に教育されてきたっぽいからな。いやーー本当、お嬢様ってめんどくさそうだな。男に生まれてきてよかった。
「私は誰も彼も好きってわけじゃないんだよ。大抵の人は嫌いだしね、嫌いでもそんな素振りを見せないだけだし。」
「ほーーーそれは意外だな。俺はてっきり誰にでも分け隔てなく接するお嬢様だと思っていたよ。」
「からかってるでしょ。」
「いいや?率直な感想だよ。」
「ふーん……………本当にそう思ってるの?」
怖い怖い怖い!寝不足なせいで目つきが凶悪だ!
「あ、ああ。もちろんだ。俺が嘘を言うわけないだろ?」
「…………………それもそうだね。」
なんとか信じてくれたようだ。よかったーー。安堵のあまりため息が漏れる。そのため息に気づいてかどうかはわからないけどイリナが足を止めた。
「おっ、着いたね。ここが勇者領。またの名を剣戟の城ホワイトドリームだよ。」
俺の目の前には巨大な城壁がある。いや、俺の前にと言うか俺の視界に入る全てに城壁がある。真っ白だ。
「でっかいな………………あれ?そういえばこの壁の中に確かお城あったよな。」
「あったよ。ってか勇者領ってのは城下町なんだよ。」
「ふーん……………すごいな。」
「まぁね、とにかく入ろうよ。」
歩き出すイリナ。それに遅れながらもしっかりと付いて行く。
「入るって言っても門が見えないぞ。」
どんなに歩いても見えるのは壁だけだ。
「だよねー。何も見えないよねー。でもここに仕掛けがあるんだよなー。」
イリナが壁に手を付ける。具合が悪くて寄りかかったわけじゃなくて、指し示す為に手を付ける。
ん?確かにここだけちょっと色が薄いな……………ってあれ?見間違いか?壁に手をつけたかと思ってたけど手が壁にめり込んでるぞ。と思っているとイリナが壁の中に姿を消した。
「実はこの色が薄い部分って霧で出来てるんだよね。人を惑わす霧、まぁ幻術みたいなものかな。だからここには壁がなくて、この白い霧がこの城の門なんだよ。」
壁の中からイリナの声が聞こえてくる……………気持ち悪いなぁ。てか白い城ってだけでもつまらないのにさらに白い霧を乗せるか!どんだけしろが好きなんだよ。
「んじゃ俺も入りますか。」
イリナが消えた部分の壁に手を突っ込むと手が壁の中に消えた。うおお。わかっていることとはいえ気持ち悪いな………………腕が切れてるようにも見える。昨日腕をバキバキにしたから今俺は腕に関してはデリケートなのだ。だったらなぜ腕から入れたという話なのだが。
「たっく遅いよ君!」
グン!
壁の中から腕を思いっきり引っ張られる!
「うおっ!まっ、まだ心の準備がぁぁあ!!」
あああああ!!壁がどんどん顔に近づいてくるうぅうぅ!!
スッ
俺は壁の中に姿を消した。
「あぁぁあああああ………………あれ?」
壁が顔に当たってない?いや、イリナもちゃんと入れたのだ。ぶつからないのは当たり前なのだ。なんだけどすごく気持ち悪かったな。………ダメだ、本当に気持ち悪い。壁を突き抜けたなんて。
「怖がりすぎだよ君。本当に生徒会長?」
前方のイリナから呆れた声で聞かれる。
「生徒会長=超人てわけじゃないんだぞ。生徒会長=情けないっていうのもこの世にはあるんだから………」
つむっていた目を開けるとそこには大小様々な建物が林立していた。赤かったり青かったりと色とりどりで彩り豊かな建物に様々な人々が吸い込まれて行く。ある人は鎧をきて、ある者はローブに身を包み、ある方は普通の服をきている。店からは騒がしいほどの声に溢れ、まだ昼だというのにお酒を飲んで楽しんでいる。いや、そんなことは本当に小さなことだ。特筆すべきことはもっと他にある。町の中心部に真っ白な城が建てられていた。大きくて高くて、塔と間違えてしまうほどに上へと伸びている。ちょうどサクラダファミリアみたいなのだ。
なんて綺麗なんだ。一瞬で目に飛び込んできた景色に対して俺はただその一言しか思い浮かばなかった。あまりにも美しく、あまりにも完成されたその街を評価するにはそれだけで十分だと感じずにはいられなかったからだ。……………確かに、夢のような街だ。こんなのが現実にあったらきっと地価は一坪300万は下らないだろう。自然と俺の口角が持ち上がる。
「ふふっ、楽しそうな顔しちゃって。改めてようこそ。笑顔と美しさの象徴。活気と人間味に溢れた街。剣戟の城ホワイトドリームへ。」
そこから先はまぁ、イリナに言われるがままにあちこちの店を回って買い物をした。
「ぐおぉぉお!!重い!お前どれだけ買えば気が済むんだよ!!もう軽く2時間は買い物してるぞ!」
なぜかはわからんがイリナが買ったものを俺が持たされている。え?なんで?自分で買ったものぐらい自分で持てよ!俺より力持ちなんだから!
「いいじゃんいいじゃん。別に減るもんじゃないし。」
「時間も体力もなくなってるんですけど!?頼むからもうそろそろ本題に移ってくれ!」
何呑気に指輪を選んでるんだよ!どうせつけもしないのに買う必要なんてないだろうが!!なんで?なんで女性ってのは無駄なものばっかり買うんだよ!
「女の子だけじゃなくて男だって無駄なもの買うでしょうよ。」
指輪を選びながら反論してくる。いや、だからつけないんだから買わなくていいんだって!
「ほう?男の子代表であるわたくし。飯田狩虎は無駄なものなど買ったことはございませんが?」
「カードゲームとか?」
「…………それはちょっと否定できないかもしれない。」
「未熟だね、精神年齢が。」
バカにするような顔のまま指輪をカウンターへと持って行く。すごいな、光の入射角によって指輪が様々な色へと姿を変えている。いや、でも買うのかよ。確かにすごい宝石だ。そこは認める。でもお前それつけないだろうが………………ん?そういえばこの世界でのお金ってあっちと同じなのか?イリナが店員さんにお金を支払う時に何で支払うのかを注視する………………こういうのは礼儀が悪いがいたしかたない。どうやらお札で支払っているようなのだが野口さんでも樋口さんでも福沢さんでもなかった。もちろん聖徳太子でもないし小野妹子でもないし松尾芭蕉でもない。いったいあのお金はなんなんだ?
「気になる?このお金。」
お会計を済ませ指輪をポケットに入れながらこちらへと戻ってくるイリナ。買ったのならはめようぜ。
「ああ、すごく気になるんだがなんなんだ?日本銀行券ではないよな?」
「もちろん。ドルでもベリーでもないしポンドでもないんだよね。これはこの世界の共通通貨で角というんだよ。」
日本の円じゃなくて角か………………なんだろう。つまらんな。
「ふーん…………もうちょっとひねれないのか?線とか果とか号とかさ。」
「仕方ないよ。こればっかりはさ、力量の問題だよ。」
あの野郎。もう少し知識をつけてから小説をかけよ。
「ん?でもなんでそんなにお金を持ってるんだ?まさかアルバイトしてたわけでもないだろうし。」
こいつは絶対にアルバイトなどしなさそうだ。お金に困ることなどなさそうだし、なにより何かに束縛されるというこを最も嫌うだろうからな。
「簡単だよー。倒した魔族から金品奪ってそれを売ってるんだよー。」
悪者退治も出来て一石二鳥だね!あははっ!とイリナは笑うけど全然笑えないぞ!え?俺が見る夢ではそんなシーンなかったぞ?勇者が追い剥ぎってさぁー、なんかもうね。うん、魔族が可哀想になってきた。ああ、ぶん殴られて剣とか鎧とかを取られていく魔族の姿が目に浮かぶ。「そ、その宝石だけはどうか取らないでください!」「へーーつまりこれってそんなに高価なんだねぇー。よしっ!わかった!これはもらっていくよ!!」絶対こういう会話があったんだろうな………………そして最後に雷で相手を消し炭にする……………本当、その情景がありありと浮かぶ。
「何さ、その非難するような目は。」
「おっと、そんな表情をしてたかい?こいつは失礼。俺から物品を奪わないでくれよ?」
「奪うも何も君は金目のものなんて持ってないでしょ。せいぜいその制服ぐらいじゃない?」
品定めをする様に俺の制服を見つめる。
「せ、制服を脱がされてたまるか!俺をいったいどうするつもりだ!?」
両手を前でクロス、さらに足もクロスして自分の身を守る。
「やめてよそのポーズ。気持ち悪い。私がなぜ君を襲わなきゃいけないのさ、そこは逆でしょうよ。」
イリナも俺と同じようなポーズをとる。うーん。こう人がやってるところを見ると滑稽だなー。俺もこんな感じでイリナに見られてたのか。
「俺がイリナさんを襲う?おいおい、飛びかかった瞬間に殴られて終わりだろうが。そんなことを俺がすると思うのか?」
そもそも俺にそんな度胸はない。清々しいほどに俺には度胸がないのだ。誇ってもいいぐらいだ。
「さぁ、何やらかすかわからないからねー。んじゃ本題に入るよ。」
「やっとか……………どんだけ無駄話するのかと恐れおののいてたよ全く。そもそも本題に入らずに買い物をするって時点でアウトだよな。こっちは高校生でしかもテスト期間中なわけなんだから無駄な時間を過ごすわけにはいかないわけよ。そこらへんのとこちゃんと理解しとかないと。」
こんなにのんびりしているけど俺たちはテスト期間中なのだ。いくら放課後に多大な時間があるからとはいえそれを無駄に過ごして良いわけがない。
今が良いチャンスだと思い、今日はイリナに厳し目に言う。いままでこいつは勉強について散々逃げてきたのだろう。ここできっちり言っておかないとこいつの為にならない!
厳しくガミガミ言い続けているとイリナの目がだんだんと潤んできた。
ぐうぅ…………女性を泣かせるのは不本意だがいたしかたない。これもこいつの為だ!腹をくくってガミガミと言い続ける。
「………私と一緒に過ごすの……………嫌だった?」
潤んだ目で上目遣いで指を唇に付ける……………ふっ。あからさますぎるぜ。俺がこんなのにいちいち反応するわけがないだろうに。
「いいかイリナ。どんなにあざとくしようとも俺には………ぐっ!?」
ガッ!
思わず膝を付く!な、なんだ!?心臓が早鐘の様に打ち付けているぞ!?ぐっ……………すごく、ドキドキする!?!?ま、まさかイリナのあざといポーズにここまでの効果があったとは!!
「ふふっ…………どうしたの?いきなり膝なんかついて………………」
ピンク色の唇を持ち上げ、白桃色の笑みを浮かべる。
それはさっきのようなただ可愛いを追求しただけのかわいいじゃなくて。美しいを追求した可愛いだった。なんだそれは、どういう意味だよ。
「………………ふん!ちょっとあれだ、地面に殺人ダンゴムシがいたからとっておきのニーを食らわしてやっただけだ。」
「可愛かったから」なんて言うのはしゃくだからすぐにバレるような嘘をつく。別に恥ずかしいとかそう言うのじゃなくてね、気に入らないだけだからね本当に。
「ふーん………… 私は結構好きだよ?君のこと。」
「……………え?」
空いた口が塞がらない。口がパクパクしっぱなしだ。言葉にしようとしても声にならないというかそもそも頭が働かない。え?今なんて言ったんだろうかていうかそもそも俺たちは出会ってまだ2週間も経ってないわけでその点を考えてもまだそう言うのは早いというかまずおれじゃあイリナに見合ってないしなによりまず今はテスト期間中だしなによりまだラーメンも一緒に食べれてないしなによりこんなゲスとはやっぱり釣り合っていないしなによりなによりなによりなによりなによりなによ………………
「一緒にいるのがね。男の中ではまぁ良い方の部類には入っているよ。」
え?……ああ、一緒にいるのがね。……ああ!さっきの会話の続きかよ!なーんだてっきり愛の告白かと思っちゃったよ!はははっ!こういうのに耐性を持ってない俺の様なモテないのって慌てちゃうよね!というか勘違いしちゃうよね!うんうん!そうさ、そうにきまってるさ!いや、だってファンクラブが出来るような方から告白されるわけないもんね!当たり前だよ本当に!いやー恥ずかしいなーー!自分のこの勘違いが恥ずかしいよ本当に!こんな男がモテるわけないっつうのに儚い夢を見るのはよせよ本当にもう俺ったらぁ!切腹しちゃうぞ☆
頭の中で自分のことを否定し続けなんとかスッキリすることが出来た。危なかった……………もし今のがなかったら確実に俺はぶっ壊れていたな。
「あーーなるほどですね。確かに俺ほどイリナの行動を寛大に受け流している人はいないでしょうね。」
「いや、いつも受け流してはいないよね。わざと逆流して流れを広げてるぐらいだし。本当そのせいでどれだけ進行遅れてるかわかってるの?当初の目論見では40部ぐらいで終わるつもりだったんだからね。」
「メタ話しをするな。それをしていいのは俺だけだ。それと早く本題に入り始めようぜ。」
もう5時ごろだろうか?外の景色は薄っすらと赤みを帯び始めた。
「そうだね。そろそろ剣を直しに向かおうかな。」
くるっと踵を返し街の中心部へと向かう。
「なぁ、どこに向かうんだ?そろそろ教えてくれてもいいだろ?もったいぶらないでさー。」
「まぁ、そうだねそろそろ話そうか。君の不安そうな顔を十分に見ることが出来て私としてはもう満足だよ。」
ぐうぅ。このサディストめ。困った姿を見ることについて喜びを感じやがって!!
「不安というかねぇ、いや。だいたいの予想はついてるんだぞ?」
だがしかし!ここで俺はイリナに反論をしなくちゃならないのだ!やられてばっかじゃいられないんだ!
「へぇーー。それはすごいねー。君はまさか超能力者か何か?」
「この世界に生きてる人間は皆超能力者だと思うぞ。」
イリナの電撃とかカイの水とか黒垓君のワープとか。とにかく全員なんらかの能力を使えちゃうのだ。そう思うとこの世界も意外と平等だ。たしかに強さが階級制なのは不平等だけど、昨日のイリナ対黒垓君のように階級差を能力である程度までうめて戦うことが出来るのだから。まぁ、圧倒的な階級差があれば無理だろうけど。俺が昨日の戦いを目で追えれなかったように力に差があり過ぎれば対応不能なのだから。
「まあねー。全員異能者ってつまらないよねーー。」
「はぁ?そっちの方が面白いだろうが」
「なんでさ、全員異能者じゃ戦闘の時めんどくさいじゃん。」
「めんどくさい?………………はっ。これだから甘ちゃんは。」
わかってない。わかっていないんだよ。と言葉をつなげる。
「全員に平等に能力があるからこそ戦闘っていうのは、王道マンガっていうのは面白いんだよ。相手との身体能力の差を能力と知識で、戦略をたてて崩していくんだ。努力と知識と経験を結びつけ張り巡らせて行き相手の足元をすくう快感!思い上がっている強者を打ちのめす達成感!そしてぇええ!!弱いながらも目標の為、愛しいもののために必死に、死に物狂いで挑み続ける主人公への愛情!!快感、やりがい、愛情。この捉えるべき人間の三つの感情全てを織り上げていき形作っていったのが王道マンガだ!!いいか、確かに邪道マンガも面白い!ああ、もちろん面白いさ!!こんな下手な小説なんかよりも頭を使うものもあるし、頭身の毛も太るような衝撃を与えてくれるものもある!!だけど、それだけじゃ何か足りないんだ!凝ることも大切さ、凝りすぎて困ることはないんだ。だけど、でも、だから、だからこそ!いや、やっぱり、だけど!!それを王道は一蹴する!俺たちがワクワクするものはなんだ?硬派な大人の推理か?いいや違う!血が沸き立つようなバトルシーンだろ!?可愛いヒロインとの甘酸っぱい恋愛だろ!?!?現実なんかじゃ考えつきもしない壮大な世界観だろぉぉお!?!?!?ありえないことを現実に持ち込むための手段がマンガなのだ!!!なのに貴様はめんどくさいだと!?マンガがめんどくさいと愚弄したのか貴様はぁぁ!!??」
ふぅーーーっはぁぁぁああ…………………。すごく疲れた。いやーまさかあそこまで熱くなるとは自分でも思わなかったな!はっはっはっ!!俺が深呼吸している間ずっとシーンとした空気だったけど……………まぁ、仕方ないな。
「……………へ、へぇーー。それで君はこれを小説にする時はどうする予定なの?」
引きつった顔でイリナが尋ねてくる。うむ、俺の熱弁はイリナの心に嫌な感じに響いたようだ。どんだけひいてるんだよ。軽く10mは離れているぞ。
「そうだなー。もちろん王道バトルマンガでいきたいけどさ、この俺の弱さでしかも力の優劣が階級によって決められちゃうってのはどうしようもないよね。俺が活躍して皆から英雄視されるようなことにはならないよね。」
努力でなんとかならないって言うのは辛いな。どんなに努力したところで力はある程度までしか上がらないのだから。どうやら俺の英雄譚は語られず、綴られることもないようだ。ったくなんだよこの世界。やっぱり不平等だわ。
「んーー。でも君は結構例外そうだからね、体ぶっ壊すけど私たちと同じ力を使えるし鍛錬次第ではどんどん成長していけるんじゃない?光剣と魔剣操れるとかこの世の理を超越してるからね。」
「そうなんだよな。俺使えちゃうんだもんな。ごめんね?本当、才能に溢れてちゃってさ。今度からは黒の二刀流の剣士とよんでくれたまえ。」
「ああ、制服黒いもんね………………まぁ、私が光剣使わせないから二刀流になることはないと思うよ。」
「くっ………それじゃあ黒の剣士で………………」
「それも却下だね。え、なに?まさか君盗作でもしようとしてるの?」
「ち、違う!ちょっと憧れてただけだ!別にパクろうなんか思ってもいないぞ!!」
「なるほどね。私達だとパリコレモデルに憧れるのと同じ感じか。」
「え?パリコレモデルに憧れるの?この年代の女性は,」
あんな眉毛がピーんとしてる人を憧れるのか……………意外だ。てっきりアイドルとかに憧れるのだと決めつけてしまっていたな。はぁ、二次元のキャラに憧れている間に同年代の女性はパリコレモデルに憧れているのか。身長差もさることながらファッションセンスの差が凄いな。
「憧れるっていうかねー、私にもなれそうでしょパリコレモデル。」
「ほう?……………………」
「な、なにさ。」
イリナをじーっと凝視する。前から見たり横から見たり、しまいには後ろから見ちゃうぜ。
「そうだな………………俺の感想を率直に言ってもいいが、どうよ、言われたい?」
「言われたいって、聞きたい?って言ってよ。」
「いいじゃないかそんなところはさ。聞きたいかい?聞きたくないかい?」
「直すんかい………………そうだねー、でも言うことなんてわかっちゃってるからねー。言われなくてもいいんだよ私は。」
「ふーん。分かったよそれじゃあこれは言わないでおくよ。……………もし聞いてきてたら俺はイリナのことをべた褒めしてたんだがな。」
「はぁーーがっかりだぜ」といいながら膝に手をおき顔を伏せ、あからさまな落胆のポーズをする。イリナの買い物という手荷物がいかんせん邪魔だが。そこは根性で落胆のポーズをとる。一体全体言えなくて何が残念なのかは自分でもよくわからないけど甚だしいほどに落胆する。こうすればきっとイリナは慌てるだろう。いや、慌てないか?いつも「あーそうだね。それじゃあ話を進めようか」みたいな感じになるもんな。どちらにしろこの俺からのささやかな逆襲だ。
「…………それは気になるねー。」
だがイリナは俺の言葉を無視して話を進めずに興味を示した。ニヤぁと笑いながらこちらを向く。
「なに?君は私をどうやってべた褒めする気だったの?教えてほしいなぁ〜。」
俺に体を密着させ制服に指をはわせてくる。指は8の字を描き、俺の肩甲骨あたりを優しくなであげる。
「え、えーっとそうだなぁ………………」
イリナに密着させられ、恥ずかしさのあまりモジモジしてしまう。や、やばい!なにも考えてなかった!ほんの少しイリナを茶化せればいいとか、慌てたイリナの姿ってどんなのだろうかとかしか考えていなかった!
「………………………」
沈黙!俺はなにも語らない。なにも語れない。
「あれ?どうしたのさ黙ったりしちゃってさぁ〜。」
ふぅー。俺の耳元で甘く吐息を吹きかける。俺はその刺激にドキッと反応した。それが原因だったのか俺の羞恥心とプライドがもろく崩れ去ったかのように、何も考えていなかったことを喋ってしまった。
「へぇーー。私の慌てる顔が見たかったねぇ〜。酷いなぁ君は。こんなに尽くしてあげている超美人の女の子を、まるで海のもずくの様に乱れ果てた姿を見て楽しむ性癖があったとはねぇ〜。驚きだなぁ。」
首筋に指を這わせる。くうぅぅ!!くすぐったい!!くそ!今日のイリナはなぜかエロい!乱れ果てたとかちょっとそういう妄想をしちゃうよな!まさか人をいびるのにこんなやり方があったとはな、新発見だぜ!それと藻屑な、海のもずくって。もずくは海藻から取れるんだから当たり前のことだぞ。
イリナは絶えず耳元で囁きながら指を俺の体の筋に合わせて這わせていく。それはなんとも言えない刺激を俺に与え続ける。
「な、なぁイリナ。その指で俺の体をなぞるのはやめてくれ。こんな人々が行き交う通りでさ、それに…………ほら!こんなお城の目の前でするなんて罰当たりでしょ!」
いつの間にかお城の前に立っていた。いつからだろう?全く検討もつかないぞ。どんだけ俺はイリナとの会話に熱中してたんだ。
「ふふふっ…………素直に恥ずかしいって言えばやめてあげないこともないんだけどなぁ〜。」
だぁーー!ダメだ!!こいつに羞恥心という言葉はないのか!?なんでこんな人々の前でこんなことして恥ずかしいと思わないんだよ!!
「恥ずかしいのでやめてください…………」
「へぇーー。一体どんなところが恥ずかしいの?教えてほしいなぁ〜。私には皆目検討もつかないからねぇ〜」
「え……そ、それは………ぐうぅうぅぅぅ…………」
くそおぉぉ!!言いたくねぇええ!!![同世代のとても可愛らしい女子に公衆の面前で体を触られて恥ずかしいです]なんて絶対に言いたくねぇええええ!!どんな乙女だよ俺は!!
だが!ここで言わないと俺がイリナに絡まれるという痴態をより多くの人に観られてしまう!それはいただけない!腹を括るしか無い様だな。
「ううぅぅ……………イリナさんのような女の子に皆の前で体をいじくりまわされるのが恥ずかしいです……」
あれ?なんだろう。この発言ってすごくエロくないか?気のせい?
「イリナさんのような女の子?[イリナさんのような]と[女の子]の間に入れるべき形容詞を何か忘れてないかな?」
「うううう…………………イリナさんのような素敵な女の子に皆の前で体をいじくりまわされるのが恥ずかしいですぅ……………うぐぅぅ。」
恥ずかしさと悔しさのあまり涙がもれる。でもなぜだろう。こんな言葉を2度続けて言ったせいなのかわからないけど、なぜか恥ずかしさが吹き飛んだ。俺の恥じらいはどこかへと消え去ってしまった。
「よーしよし。偉いねぇ〜ミフィー君は。この調子ならいいメイドさんになれるよぉ〜。」
「はい…………がんばってやらせていただきますぅ。いやなんねぇよ!」
いや、どんなに恥じらいがなくなったとしてもさすがにこれは頷けない!なんで男である俺がメイドさんにならなきゃならんのだ!メイドさんは俺のようなやつがやってはいけない神聖な職業なんだぞ!
「それとお前どこのエロ親父よ!」
「ん?私?私はお父さんの真似をしただけだよ」
「Oh……………それはごめん。お前の親を愚弄する気はなかったんだ。」
「嘘だよ嘘。こんなことしてたら見限ってるよ。さっ、目的地に着いたから入ろうよ。」
イリナが城の入り口に向かって歩き出す。
「………………なぁ、気のせいだと思うんだけど城の入り口に向かってない?まぁ、きっと俺の勘違いだろう。だってねぇ、王様がいるところで剣なんか直すはずがないもんな。」
「うん。それが直しちゃうんだよねー。お城で。というかお城の主である王様が直してくれちゃうんだよ。」
……まじかよ。
「それじゃあ王様に会いに行こう!」
…………………制服で来なきゃよかったな。どんなに悔やんでも後悔先に立たず。後の祭りだ。




