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Face of the Surface  作者: 悟飯 粒
狩虎の章
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23/364

山盛りの問題

「なぁ遼鋭。」


いま俺は教室前の廊下にいる。


「なんだい狩虎。」


なぜ廊下にいるのか?なぜ教室に入らないのか?


「俺たちはそろそろこの教室の風紀、もとい秩序を正さなくてはならないと思うんだ。生徒会長として、委員長として。」

「そうだね。そろそろ行動を起こさないとこの教室の、いや。学校全体の雰囲気が確実に悪い方向へとむかうだろうね。」


教室には50人以上の人間がぎゅうぎゅう詰めになるほど入っていて、廊下には教室に入れなかった人たちが溢れかえっている。


「このままじゃあイリナファンクラブが発足してしまう!」




俺たち幼馴染3人は定期的に集まることにしている。場所はどこでも良いのだけれど、よくファミリーレストランを用いる。楽だからね。その時に俺は必ず「宏美ファンクラブはどうだい?」と聞くのである。別に宏美をからかってるわけでもないし羨ましいとも思ってない。逆だ、可哀想だと俺は思っている。付きまとわれて自由をなくしてあんな結果を生み出したのだから。傷口を開いて塩を塗り込むわけじゃなくて、俺は、その出来事を笑い話に変えたいのだ。思い出は時間が経てば美化される。骨が折れたことや痛みで泣き叫んだことや、お漏らしをしたことだって時が経てば笑い話になる。ただ、俺から言わせれば時間が経って悪しきものが美化されるというのは違う気がする。美化じゃなくて風化なのだ。長い年月が己の記憶を削り、その時の感情を削り、痛みを削り。削って崩して剥がして切って…………………マイナス要素だけを消していく。


人の脳はぼかされたものを綺麗だと思ってしまう。


さて、話を戻そう。とにかく俺は嫌なことをさっさと笑い話に変えて嫌なことを忘れさせたいということなのさ。それほどまでに俺の宏美ファンクラブへの印象は最悪なのだ。最悪も最悪、人生の最悪な出来事ベスト3に入るほどだ。

………そんな思い出深い宏美ファンクラブの過去の出来事をまるでなぞるかのように、マネするようにイリナファンクラブが出来ようとしている。俺が思うことはただひとつ。これを止めなくてはならないということだけだ。悲劇を繰り返すつもりはない。全くない。甚だない。ゼロだ。マイナスにしたいぐらいだ。


「幸いなことに俺は生徒会長だし遼鋭はこのクラスの委員長だ。去年とは立場が圧倒的に違うのだからその権力を利用して今回の事件は対処しよう。」

「そうだね。使わざるを得ないだろうね……………はぁ、権力を振りかざすのは嫌いなんだけどなー。」


爽やかな顔で、全く嫌な表情をしないで遼鋭は言うのだがなんというのかな。困ってもイケメンて感じだ。この困ってもイケメンってリズムいいな。バスタブにマメピカ。みたいな感じで。いや、なんだよそれ。


「そうだな。だが仕方がない、これは緊急を要する超デリケートな事件なんだ。事件ってか事案なんだけども。それはともかく、ここで時間を無駄に過ごすのは命取りだ。無駄な争いが起きてしまう。」

「そうだね。それじゃあ生徒会長、よろしくお願いね。」


俺の肩にポンと手を置く


「…………え?俺?…………え?いや、なぜ俺だけに任せるんだよ。ここは俺たち2人で力を合わせて頑張るところだろうが。」


なに俺だけに任せようとしてるんだよ。この俺のシャイっぷりを知らないわけがないだろうに。


「まぁ、別にそれでも良いんだけどさ、狩虎のためにならないでしょうに。」

「なんだよ、俺のためにならないって。」

「だからさ、この機会にそのシャイな性格を直そうよって言ってるんだよ。」


…………まじかいな


「……………いや、うん。わかる、実にわかるよそういうの。背水の陣というか四面楚歌というか毒を食らわば皿までみたいな思考。嫌いじゃないよ?うん。うん。……うん…………でもちょっと待って、まだ心の準備ができてない。」


心の準備というか大勢の前で喋るなんてスピーチ原稿がないと無理だ。アドリブでなんてなにを言えば良いのかわからなくて噛みまくる。噛みっ噛みである。誇張もなにもなく噛みっ噛みだ。


「はぁ…………それじゃあ1分あげるから準備してね。」


1分!?君今1分て言ったのかい!?冗談じゃないぜ、1時間でも少なすぎるぐらいだってのに1分!?ああ、カウントダウン始めやがった!

ええええっとぉぉおお。先ず生徒会長であることを名乗って、生徒の邪魔になっているから自分の教室に帰りなさいって言えば良いのか。お?簡単じゃないか。なんだよ、俺が困るほどのことでもなかったな。正直拍子抜けというかなんというか、俺からすれば小さいことというのかな?もはや俺レベルに到達したらこんな問題意味をなさないっていうか、というかもはや問題じゃないよね。うん。そうとわかればあとはぱっぱとちゃっちゃと言って教室に入ってイリナにお礼を言ってテキトウに過ごせば良いんだ……………ああっと、もう残り10秒か、ははっ、余裕余裕。簡単簡単。


4…………3…………2…………1…………


遼鋭のカウントダウンが0へと近づく。俺への合図のために、ただひたすらと0になろうと近づいて行く。そして、


「0」


「あ、あの…………ちょっ、…………とーーーーっ、生徒会長で、すけど………………」


躓いた。思いっきり躓いた。それに従い声の張りは失われていき最後の方になると声が小さすぎてなにを言っているかさっぱりわからなかった。もごもご言っているようにしか聞こえない。

そんなばかな!!これほど簡単な言葉すらも俺は言えないってのか!?あぁああ!!恥ずかしい!顔が焼ける!溶けて消えたい!


「はぁ……………やっぱりダメだったか。」


俺の不甲斐ない姿を横目に遼鋭は苦笑いを浮かべた。


「えーっと皆さん。このクラスの委員長ですが、このクラスの生徒の邪魔になっているので自分の教室に戻ってください。」


遼鋭は水が流れるがごとく言葉を紡いで行く。この言葉に反応して教室に詰めかけていた者共が全員こちらを向いた。委員長という言葉に効果があったのか、はたまた遼鋭がイケメンだったからなのかはわからないけど、イリナのファンは去って行った。今教室の前にいるのは俺と遼鋭を含めたこのクラスの生徒たち数名だけだ


「………………すまん。遼鋭。」

「いいんだよ、いずれできるようになればいいんだからさ。大切なのはこんな自分を脱却したいと思うかどうかだよ。」


にっこりと俺へと笑顔を向ける。………………イケメンや、本当、イケメンや。


「………自分が情けない…………。」

「いいからいいから。反省はたくさんしてもらうけれどうなだれてる暇はないよ!さぁ、早く教室に入って行こうよ。」


「………………そうですね。」


遼鋭が眩しすぎて敬語を使ってしまった。これか?これが神の威光ってやつか?俺はしょぼくれたまま遼鋭の後について教室へと入る。どっちが生徒会長かわからんな


「…………………おはようございます。イリナさん。」

「おはようごいま……………どうしましたミフィー君。目が死にたいと泣き叫んでいますよ。」

「一体どういう状況!?」

「ほら、よく言うじゃないですか。目は口ほどに物を言うって。」

「うん。言うけど俺が聞いた質問の答えとしては不当ですよ。」


確かに物を言うけど泣き叫ぶことはできないだろ。どんだけ感情豊富よ。


「なんかすごく細いですね、開いてるようには見えませんよ。」

「そんなに細いんですか……………まあ、確かに自分が情けないとは思いましたけど死にたいとまではいきませんよ。あ、でも死ほどの苦痛を味わいたかなとは思いますかね。」


さすがに死ぬのは怖いから苦痛の方がいい。しかもそっちの方が自分への戒めとなるから


「死ぬより質悪いじゃないですか。与える側はよっぽどのサドじゃないとそんな苦痛を与えるのも辛いですからね。」

「いや、それはイリナさんがいるじゃないですか。」


世界の拷問集を読む者がSじゃないと言われたらたまったもんじゃない。それじゃあなんなんだよと言いたくなる。


「何言ってるんですか。私ほどの慈愛に溢れ、人の嫌がることを率先するようなドMはいませんよ。」

「献身的な慈善行為をドMとけなしてる時点でイリナさんは立派なドSですよ。」

「前にも言ったように私はお人好しになる気はないんですよ。フリすらもしたくないです、そんなことをする自分を思い描いただけで身の毛もよだちますね。」

「どんだけ善人を忌み嫌ってるんですか!!お前本当は魔族なんじゃないの!?」


なんだろう、今までこいつと付き合ってきてわかったのだが、こいつ勇者っぽくない。自分勝手で善人を嫌って…………そりゃまあ、俺を助けてくれたことだってあるし。そこは素直に感謝している。現に昨日のことでお礼を言おうと思ってるわけだしね。


「別に善人が嫌いってわけじゃないんですって、人がいい方が嫌いだと言ってるんです。前にもいいましたよね?」

「言ってましたね。人がいいのは優しさじゃないって」


……………言ってたけど、それは優しさじゃないのだろうか?俺は優しさだと思うけどな。お節介は優しい人間じゃないとできない。俺なんかじゃ到底無理だ、ある問題ができなくて困っている友達がいてはたして自ら解き方をその友達に頼まれることなく教えてやれるか?……………俺は無理だな。したとしても「お?なんだ?こんな問題も出来ないのかい?おいおいおい、教えてやろうか?ん?教えてあげちゃおうか?」てな感じで意地悪くなるぞ。もちろんその友達は俺に腹を立てて答えを教えてもらうことなく自力で解くわけだが、優しさとは程遠い。


「お節介は優しさじゃないですよ。ただの自己満足です。自分が暇だから、暇つぶしのためにとか、こんなことやってる俺すごいだろ?みたいなのがほとんどです。」

「……………なんかさ、イリナさん。誰かに恨みでもあるの?」


なんだろう。善人に対する当たり方がすこぶる強い。


「理由なんてないですよ。強いて言うなら、人間がそんな出来た生き物であるはずがないと思っている………ですかね。」

「どういうことですか?」

「どういうこともなにもその通りですよ。人間ほど完璧でいて不完全な動物はいないってことです。」

「完璧なら完全なんじゃないのですか?」


言ってる意味がわからん。完璧と完全は同じじゃないのか?


「完璧であったところで完全だとは限らないじゃないですか。逆に、完全だからと言って完璧だとも限らないです。完全と完璧は似て非なるもの。感情があれば完全とはなれないし、完璧にもなれない。でも、完璧には脳を発達させないと辿り着かない。……………案外、コンピューターのようなただ処理するだけの機械が完璧であり完全なるものなんでしょうね。」


人工知能があるぐらいですしと続ける。


「うん。ごめん、よくわからん。」


長々と説明してくれたのは嬉しいけどよくわからん。俺は別に完璧も完全も求めたことがないからな。その意味など知らなくていい。俺が求めるのはただ一つ、友達と楽しく過ごせる環境だけだ。


「………とにかく、私は不完全な人間がまるで神のように全ての人間に分け隔てなく優しく振る舞うのが嫌いなだけなんですよ。」


今まで俺に向けてた視線を外へとぷいっと向ける。


「あーーーー。それならわかりますよ。確かにそういう奴っていますよね、誰に対しても優しい奴。老若男女問わず誰にでも平等に接するっていう化け物。それは俺も怖いですね。お前は人間なのかっていいたくなりますもん。」


誰に対しても敬語のやつとか、笑顔のやつとかね。うん、あれは確かに怖い。怖いって言うか羨ましいかな?俺だってそうなりたいぜ。知らない人と流暢に、躊躇わずに喋りたいもんだよ本当。


「…………一回死んできてくれませんか?」

「…………俺なんかしました?」


イリナからすごい批判的な視線が飛んでくる。なんとまぁ鋭いこと鋭いこと、触れたもの全てを焼き焦がす雷のようだ。


「質問を質問で返さないでください。ほら、死ぬんですか?死なないんですか?はっきりしてください。私的には3度ほど死んできて欲しいのですが。」

「人の命をなんだと思ってるんだよ………………死ぬ気はないですけど、非礼があったのなら謝ります。それと、昨日のことについても重ね重ねお礼をさせていただきます。まことにどうもありがとうすみませんでした!」




昨日。俺は目を覚ますと目線の先には月があった。正直またかよという気持ちは拭えなかったがそんなことを気にしてはいられない。なんといっても意識がある前に腕の骨をバッキバキにやっててしかも炎を食らっていたのだから。とまぁ警戒して辺りを見渡すとイリナが木に寄りかかるようにして俺の背後で寝ていた、疲れてたのだろうきっと。また、黒垓君の姿が見えないので万事上手くいったってことも想像がつく。


「へい。イリナ。へいへい!へーい!へーいイリナー!!へいへいへい!!」


結構強めに肩をさするのだが全く起きない。眠りが深いな。俺はイリナの快い睡眠を邪魔しないように音を立てずに離れる。


「さて……………今何時だ?」


左手を天高く持ち上げその時にかかる重力で袖を下までおろし、左手を下げる。腕時計を見るためだ。


「あ、そう言えばこっちと現実の体はリンクしてないんだったな……………忘れてた。」


現実で身につけていたものをこっちの世界には持ち込むことができないのだ。時計がないから仕方なく夜空を見て曖昧な時間を探るに、大体23時ぐらいだろう。この時期の星座の位置でなんとなくわかる。


「あれ?俺の体治ってない?」


右腕や服が炎で焼け、皮膚が露出している部分を見ると火傷も骨折も治っていた。


「まさか本当に超高速再生能力が俺にはあるんじゃ無いのか?………いや、まさかね。」


ブツブツと独り言を続けるが、イリナから離れているためその声はイリナには聞こえない。


「心地良さそうに寝てるから起こしちゃいけないと思ったけど、もしかしたらあいつ朝まで寝てるかもしれないな、こうも睡眠が深いと。仕方ない、起こそうか。」


と言ってもここには神槍ティシュトリアがないからな、どう起こそうか。

辺りには木が生い茂っている。お?木から紙でも作ってみるか?……………いや、個人では無理だろ。出来たとしても作ってる間に起きるわ。水でもぶっかけてあげようかな。それなら起きた時に眠気など全て何処かに吹き飛ぶ。イリナの寝起きは最悪だからな、これぐらいしてやった方がかえって彼女のためかもしれない。


「だがしかし、ここで水を思いっきり顔面にぶつけるような粗野なことはしない。もっとエレガントに、もっとビューティフルに!かけてやらなくては。」


とかカッコつけているが起こした時にイリナが怒って俺を黒焦げにするのを怖がっているだけであるのは内緒である。一体誰にかは分からないけど。


「そうだな……………良いこと思いついたぜ!」


俺はイリナの元まで歩いて行き、襟首を引っ張り、背中と鎧に少し空間を作る。ここに水を入れてあげたらさすがに起きるだろ。


人差し指からまるで点滴のように水を垂らしていく。


ポタ ポタ ポタ


2滴、3滴とどんどん垂らしていくが全く起きる気配がない。そ、そんなばかな!ここに水を垂らされて起きないだと!?狂ってる!イリナの皮膚の皮厚すぎだろ!!

まぁ、鈍感だから気づかなかったとかじゃなくてなんだっけ、第2類勇者だっけか?そんな役職だからこんな水ごときなんか感じすらしないとかなのか?人間がアリを潰しても気づかないように。

さてどうしたものか。イリナが全く起きそうにもない。なんか強い気みたいなのに反応するのかな?


「しゃーねーなー。ちょっとここから離れるか。」


狩虎は森へと姿を消した。


3分後


ゴウッ!!!!


森の奥から得体の知れない力が溢れ出してくる。

黒いと言えばいいのか、赤いと言えばいいのか。見えはしないのだがそれを肌で感じ取った瞬間に色のイメージが直接脳に与えられるほどのはっきりとした力。力そのものの気配が辺り一面を駆け巡る。

実際、それはただの気配であったし、ただイメージを与えるだけの存在だったのだが寝ていたイリナに対しては最悪の物をプレゼントした。昔の恐怖そのものが、イリナの肌を伝って脳にイメージとして襲いかかったのだ。


「っつつうっっっっっわぁあぁぁあ!!!!!」


目を覚ましたと同時に全速力で前方へと自分の体を突き動かす!!そしてすぐさま立ち止まり警戒しながら辺りを見渡すが何もない。何者もいない。


「はぁーーっ、はぁーーーっ、はぁーーーー…………」


何今の。夢?いや、夢にしてはリアルすぎる。あの肌に直接襲いかかるような赤黒い気。今でも膝が笑っている………くそっ………炎帝………………まさか私としたことが過去のトラウマが夢に出て来て、それに怯えてしまうとはね。見つけ出したら絶対に細切れにして跡形もなく焼き尽くしてやる。炎帝を燃やし尽くしてやる。気づくと背中がぐっしょりと濡れていた。うわーー背中だけすごい汗だ。わきがじゃなく背中が?………絶対に炎帝はぶっ殺す。気付きたくもない変な体の特徴に気づかされるなんて!あーんもう!知りたくなかったぁぁ!!


「ん?誰1人もいない?………………ミフィー君は?」


憤慨と羞恥の思いに駆られている時にふとミフィー君のことが思い出された。なぜかと言われるとなんとなく。なんとなく以外の何物でもない。本当に「ふっ……」と思い出されたのだ。


「ちょっと待ってよ…………………まさか私が寝ている間に炎帝に拉致されたとか?あーーっとこれは一大事だね。」


黒垓君のアイテムがあるから大丈夫だと思っていたけれど…………まさか三王クラスの攻撃は耐えれないとかそういうのがあったのかな?そうだったのなら呑気に寝てるべきじゃなかった。


「なんでこうも私の人生には炎帝が絡んでくるのさ。何様よあいつ。」


もーー!!!腹立つなぁぁあ!!たっくどうやって探せばいいんだよ!

ミフィー君を探す手段を模索していると森の奥から「おーーーい!!無事かーーー!?」という絶え絶えのがじゃり声で叫びながらミフィー君が走ってきた。


「あれ?どうしたのさ。炎帝に捕まったんじゃないの?」


ようやくイリナの元に着く。


「はぁ…………はーーーっふーーー。そんなわけないだろ。イリナが全く起きる気配がないからそこらへん散歩してたら、なんか変な感じしてさ。だから心配で走って来たんだよ。」


息の乱れ様から察するに全速力で走って来たのだろう。……………悪いことしちゃったな。


「いや、本当にごめん。俺が不甲斐ないせいで色々と危険な目に合わせてしまって。そしてありがとう。こんな俺を助けてくれてさ。」


笑顔がいいのか真剣な顔にすべきなのかを図りあぐねているようで実に曖昧な顔をしている。その顔が面白すぎて笑わずにはいられなかった。


「ははっ…………いいんだよ。私にお礼はしなくていいんだから。助けてくれたのは黒垓君なんだからね。」

「ええっ!?黒垓君が!?……………まじか、いつかお礼しないとな。」


その後イリナは狩虎が気絶してからのその後を説明した





そして今現在。頭の上で両手を合わせてお金を借りようとする人のようにお礼をしているに至る。


「おきになさらずに。昨日も言いましたよね?私はなにもやってないと。回復などをしたのは黒垓君なのですから私にはお礼などいりません。」


俺の渾身のどうもありがとうすみませんでした。が、おきになさらずにという一言で返されてしまった。俺的にはもう二言目欲しかったが仕方ない。


「いや、そうは言ってもですね。黒垓くんとの戦いではイリナさんには任せっきりだったわけですからね。」


昨日の戦いでは俺は足手まといにしかなっていなかった。傍観者という言葉がピッタリ当てはまるほどに俺は見ているだけだった。本当に、常々自分が情けない。


「そうですかね…………私的にはミフィー君は十分役立ってたと思いますよ?ただそうですね、不満があるとすればあそこですね。」

「あそこ?こそあど言葉を使うのはやめてくださいよ。謎は多ければいいってわけじゃないんですから。」

「今その一つを消化するのですから黙っててください。」


うむ。俺のおふざけがピシャンと遮られた。実に迅速だ。


「腕がぶっ壊れたのはなぜですか?」


あーーーーそこくるかーーー。やめてほしい。俺にだって言いたくないことの一つ二つ三つ四つぐらいはあるんだぜ?


「うーんそうですね。いままで隠してたってわけじゃないんですけど、速く動くことや強い攻撃はできるような気がしてたんですよ。ただ、俺の体は結構脆そうだったので耐えれないような気がしてたんですよね。だからいままで使ってなかったんです。」

「ふーん……………体と力が釣り合っていないって感じですか。ふむふむ、魔族と勇者の短所だけを抽出したみたいですね。なんともまぁ不憫な体でしょうかねぇー。うん、そうですね。剣を直すついでにミフィー君の体のことについても調べましょう。」

「え?調べる?俺の体を?嫌だなそれは、運動してない俺のだるんだるんBODYを見知らぬ人にtuchされるなどIt makes me dieですよ。」

「うるさい。勉強出来るからって高校一年生レベルの英語の文法を使って文を作りひらけかさないでください。」


露骨に嫌な顔をして批判をしてくる。やはり彼女は勉強が嫌いなようだ。苦手なのかは分からないけど勉強という存在が嫌いらしい。


「そういってしまったらなんか俺がしょぼくなりますね……………まぁ、しょぼいのですが。あ、そうそう。勉強と言えば明日から中間テストですけど準備は大丈夫ですか?イリナさん。」


明日はなんと中間テスト!!なんと、なんと、なんとなんとなんと!!中間テストなんだよーーー!!授業は4時間になるしもう最高!え?テストだってのに嬉しそうだなだって?いや、だって全国で3桁に入る男であるこの俺が学校のテストごときでしくじるわけがないでしょ。俺からすれば学校のテストなど休憩時間と言うか脳を休める時間だからね。うん、毎日テストでもいいぐらいだ。

そしてなぜテスト1週間前なのに生徒会が活動停止になっていなかったのかって?ははっ、なんといったって我が生徒会は頭がいい奴らばっかりだからな!「え?テスト勉強?何言ってるんですか、毎日勉強していたらテスト勉強なんて必要ないでしょうに。」って方々の集まりだからな!そして意外なことに宏美も頭はいいのだ。それもあって宏美は男女分け隔てなくモテている。

さて、長々と脳内で説明したけど。はて?イリナさんからなんの返事も聞こえてこない。てっきり「余裕に決まってるでしょー。テストなんて目をつぶってても出来るんだから。」みたいな返事が来ると思ってたんだがな。

イリナの方を見るとフリーズしていた。そう、凍り固まっていたのだ。なんかもう、あれだ。イリナから色が全て抜け落ちていて真っ白である。心なしか黒色の斜線がひいてあって薄っすらと顔に影が出来ているような気もする。まぁ、気がするだけだ。見えるだけだ。そう見えるほどにイリナはポカーンと、ぽけーんと、しーんとしていた。


「ふふっ……………ねぇミフィー君。さっき私は貴方に気にするなと言いましたけどやっぱり気にしてください。多いに気にしてください!ええ、なんですか?貴方私に最初っから最後まで面倒を見られていたのに何も恩を返さないつもりですか?…………………はぁ、生徒会長がそんなんでいいんですか?いいわけないですよね?ですよね?ですよね!?」


ガッ!と右腕を掴まれる。イデデデデ!すごい力だ!!こいつ握力なんぼなんだ!?てかどんだけ必死なんだよ、勉強教えてくださいと言えば俺はいくらでも教えるのに。答えは教えないし宿題を移させる気もないけど、分からないところを聞いてくるのならそれはお前、俺だって助けるんだぜ?


「というわけで私の願いを聞いてくださりますね?」



放課後俺はイリナの家にいます。なぜか?勿論勉強を教えにさ!大切な塾を休んでまで来てやったのさ!!うーーーん。なんて人が良いのだろう俺は!!!仕方ないので今日塾で扱うはずだった部分をガッツリと2、3回やっている。


「ねーねー。ミフィー君。ここの問題はどう解くの?」


隣に座っているイリナから数学の問題を指し示される。

……………面積求めるやつか。


「あーー、これは二つのグラフをはたきだして交点見つけて積分使ってビューンとやれば解けますよ。」


「……………ねぇ、もうちょっと詳しくというか簡単な方法教えてよ。私はテストで良い点取らなきゃいけないんだから。」


入学早々どえらいイメージを学校中に浸透させてしまったもんな。きっと全校生徒みんなが「やっぱりイリナさんは全教科満点なんだろうなーー。すごいよなーー。」と考えてるに違いない。


「まぁ、簡単な方法は教えてやってもいいけど個人的には他の人に解法を知られたくないからな…………」

「他の人って誰さ。」

「こっちの話だよ。」


俺も一応高校2年なのだ、同レベルのやつらはそりゃそんなこと当たり前に知ってるけどね、他の知らない奴らに裏知識を知られるということはそいつらが俺の首元まで迫る可能性がでてくるというわけだ。そんなことにはなりたくない。


「ふーーん。それじゃあカットされてる時に教えてね。」

「ああ、いくらでも教えてやるよ。」

「…………ねぇ。」


問題を解きながら俺へとイリナは問う。


「飽きない?」


飽きるか飽きないかの質問を受けたら………そりゃあまぁ飽きるわな。俺はずっと同じ問題を解き続けているからな。だが俺はやらなくてはならないのだ。これは義務だ。今のイリナの質問は大人にずっと同じ仕事してて飽きない?っていってるようなものだ。飽きない、というかうんざりしないわけがないだろう。ただ、大人の義務なのだから仕方が無い。勉強は子供の義務だから仕方がない。


「まぁ、飽きたがそれがどうしたよ。」


問題をときながら返事をする。


「自分の好きなことをそっちのけで嫌いなことに自ら率先してやるってさ、かなりのマゾだよね。」

「んーーまぁ、そうだな。でもまぁ、社会で生きてくためには忍耐力も必要なんだろうな。無能な上司からの圧力とか有能な上司からの圧力とか普通の上司からの圧力とか……………」

「上司からの圧力ばっかりだね。」


ふっと鼻で笑うイリナ


「縦社会だからね……………こればっかりはどうしようもない。もし横社会の世界に行きたいのなら専門職で生きて行かなきゃならないからそれもまた学生時代にたくさん勉強しないといけなくて……………………」

「あーーーもう!誰だよ本当にこんな生きづらい世界を作ったのは!」


空白がなくなるまで埋め尽くした計算用紙を乱暴に丸めてゴミ箱へと投げる。


カンッ


淵に弾かれて乱暴に丸められた紙くずはゴミ箱に入らなかった。入らなかったことがよりイリナの気を苛立たせる。


「まぁまぁ落ち着こうよイリナ。逆に裏を返せば今がんばって勉強すれば将来は明るいってことだろ?」


要は今頑張るか後で頑張るかのどちらかなのだ。


「今頑張るって言ってもねーー。私たち花の高校生だよ?こんな貴重な時期を勉強なんかでつぶせっていうの?」

「たしかにイリナには花は似合いそうだが……………なぁ、もしだよ?もしイリナさんに好きな人が今いるとするだろ?」

「んーーーーいないけどいることにしてあげよ。それで?」

「その人と嬉しいことに付き合うことになりました!やったね!!私は将来この人と結婚したいなーー………って思える?」


「んーーーーーー私は思えちゃうかなー。」


…………………それじゃあ話が続かなくなっちゃうよ。


「そ、それじゃあ周りの人を見てみよう。カップルがいて、将来そいつらは結婚すると思」「思わないかな。」


即答!早い!


「だろ?花っていっても高校生の恋愛はボタンじゃなくてラフレシアだ。爛れてるんだよ」


いや、全部が全部ではないのはもちろん知っている。でも大抵ほとんどはそうだろ。こう目的がねゲホンゲホンな訳ですよ。まぁ、俺はそこらへんのことは疎いから詳しいことは言えんが。


「果たしてそんな時期のどこが素晴らしいと言えますか?そんなことに精を出すぐらいなら……………………深い意味はないからね?」

「知ってるよ。いちいち反応しなくていいからさ」

「っす…………とにかく。そんなのを頑張ることが美しいというのなら勉強することだって美しいと言えるんじゃないのか?」


いっちゃなんだが大人になってから高校生とかの勉強をするのはお世辞にも美しいとは言えない。本当に言っちゃなんだか。


「……………………まぁ、私の恋愛はもっと美しいよ。ただれることはないからね。だから私は例外さ。」

「ちっ………うまく逃れやがったな。まぁ、どんなこと言ったって勉強しないといけないことには変わりないんだからさ、頑張ろうぜ?」


シャーペンを机に置きイリナに挑発的な視線を向ける。

イリナはきっと勝ちたがりの性格なのだろう。こう、相手が余裕そうな顔をしているとその出鼻を挫きおりたくなるタイプって感じだ。負けず嫌いともいうが。だから今ここで俺が挑発的な態度を取ればイリナはムキになって勉強するようになるに違いない。


「ふんっ私を誰だと思ってるのさ、才色兼備に最も近いと言われてる女性だよ?」


聞いたことがないがきっと近々興るであろうイリナファンクラブの方々が言っているのだろ………………それも対処しないとな。


「勉強ぐらいささっと片付けちゃうよ。」

「実に頼もしいな。よし、じゃあここの漸化式の問題を………………」


翌朝。学校に来たイリナの顔が貧血の様に真っ青だったのは予想に難くない。

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