神と紙がかかってます
「もう10時だね。どうしようか、」
俺は今日は塾があるので1時ぐらいにはイリナと別れなければならない。俺の唯一の長所だから勉強は嫌だがやらなくてはならないのだ。でも
「うーん………………日向ぼっこしたいなー。何もしないでゴロゴロしたい。」
今日は快晴だ。雲のかけらすらも見当たらず、見上げればこの世の全てが青い。
「そうだね…………あーーそういえば確か向こうに丘のある公園があったよね。そこでゴロゴロする?」
俺は3時間ぐらいしか居れないが……………まぁ、それだけいれば十分だろう。
「そこにしましょうか。」
2人でその公園まで向かった。あれ?そういえば今日は奢るだけだった気がするが………まぁいっか
「やっほーーい!!」
ずざざざー!!
草の上にダイブする。いやー気持ちいいなー!もう9月だから暑すぎず寒すぎないちょうどいい状態だ。やっぱり秋はいいなー。
「あー気持ちいい。やっぱり日向ぼっこっていいね。私も猫みたいに毎日したいよ。」
「簡単なことだよ。猫になればいいんじゃないか?」
「簡単すぎて反論の余地がないね。」
「だろ?」
………空を見上げてぼーっとする
「…………思ったんだが。イリナさんはカイのことをどう思っていたんだ?」
「カイのこと?うーん……………難しい質問だね。気のいい友達とは思っていたかな。ただねー…………。」
「ただなんだって言うんだ?」
「ただお堅いやつでさ。常に[です]とか[でしょうか]とかを語尾につけてさ……………なんか20何歳のお堅いキャリア組と喋ってるような気分だったよ。」
「ふーん………確かに俺の夢にもそんなシーンがあったな………いや、そうじゃなくてあれだよ。好きだったとかそういう奴だよ」
俺から恋バナをするとは………今までの俺じゃあ考え付きもしなかったな。
「うん?どうしたのさ、まさか嫉妬でもしてるのー?」
意地悪い顔で話している…………気がする。ずっと空を見ているので顔はよく分からない。
「違うよ。そんなんじゃない。ただ、今はどう思ってんのかなってさ」
カイは死んだ。イリナはそのことをどう思いどう受け止めているのかを知りたい。
「………いい友達がいなくなってしまった、かな………現実での面識がなかったからね」
イリナは今どんな表情をしているのだろうか?俺は怖くてイリナの方を向けない。
「それじゃあ炎帝のことはどう思ってるんだ?」
「そうだね。今度会ったらけちょんけちょんにしてやるんだ。私の友達を一人殺した罰としてね。」
「へーー………それはおっかないな。炎帝が可哀想だ。」
「ふふっ、乙女の怒りは凄いよー。なんでも出来ちゃうんだから。」
空をぼーっと見つめている。
「そういうミフィー君はどうさ、好きな人できた?」
「どうだかなーーーーー難しいね本当。人を好きになるって。俺からすれば理解できないよ。」
「重く受け止めすぎなんだよ。人がみんな、まるで純度100%の恋愛をしているなんて思わない方がいいよ。遊びの延長線上さ。」
イリナの言う通りなのだろう。恋愛なんてそんなもんで、触れ合うから友情の先へと向かうことができる。一目惚れなんて幻で、そんなものを探していたら恋人0人で一生を終える。
「まっ、気が向いたらな、気が向いたら。」
「……………ねーねー。ミフィー君。フライドチキンってどんな味なの?」
「これまた唐突だな………そうだね…………スパイスの効いた美味しい皮を持つ鶏の足ってとこかな。」
「その説明だとそこまで美味しそうじゃないね。」
「まぁな、俺から言わせればファストフードなんかよりも家での食事の方が美味しいと思うぞ。」
我が家は毎日焼き鮭が出てくるがそれもまた楽しみとして捉えれば、豪華じゃないが楽しく美味しくご飯を食べれている。まぁ料理の準備や後片付けが面倒なのは確かだが。
「うちの両親は昼夜が逆転してるからね、毎日1人で食べなきゃいけないんだ。」
「ああ、そんなこと言ってたな……………孤食は健康によくないらしいね。」
「………………………」
「どうしたの?」
イリナの方を向く。無言だ、一体どうしたというんだ?
「いや、なんでもないよ本当に…………………」
イリナの頬を涙が伝う
「どうしたんだ?こんなに気分のいい天気なのに泣いたりしてさ…………はい、ハンカチ。」
イリナにお気に入りの白と黄色と黒の縞模様がはいったハンカチを手渡す。
「いや………本当にミフィー君は女子力高いね………それに、かなり優しいしいいお嫁さんになれるんじゃない?」
カラカラと笑うイリナ。一体さっきの涙はなんだ?
「誰がお嫁さんだ……………」
聞けない。なぜ泣いたのかを聞けない。
イリナが言わないってことはきっと俺には隠しておきたいことなのだろう……隠しているのか?それよりはなんか気を使ってる感じだが。まぁ、こういうのは聞かないでそっとしておくのがいいのだろう。そんな気がする。
時間だけが過ぎて行く。俺の目の前に広がる空には太陽だけが居座っている、雲は何も無くて過ぎて行くものは無い。ただただ時間と風が無限に吹きすさぶ…………今何時だろう……確認するのめんどくさいな。
「イリナさーん。今何時ですかー?」
「それぐらい自分で確かめてよ。」
「…………………後でいいや。」
時間を確認するのがめんどくさい。いや、見てしまうと気にしてしまうのだ、塾とかテレビアニメとか勉強とか寝る時間とか………時計を、時間を見ることで何かに追われてしまうような脅迫概念。「ああ、あと2時間31分24秒で塾だ!」みたいなことを俺は考えてしまう。
「だねー、なんかもう全部がめんどくさいよーー、」
イリナがダラーっとしたポーズをしている…………気がする。これまた気がするだけなのさ、俺はずっと空を見ているのだから。
「確かに…………このまま寝てしまおうかな。」
「それもいいんじゃない?私が起こしてあげるからさー。」
なんとも魅力的な提案だろう。ただこんなにだらけきったやつが果たして俺を約束通り起こしてくれるだろうか?………起こしてくれなそうだなー!!でもまぁいいや、頼んでしまえ。
「ああ、それじゃあ1時に起こしてくれ。」
「あいよーー。」
本当やる気のなさそうな挨拶だ…………起こしてくれるのか心配だよ。
だが、ハラハラしながらもすぐに寝ることができた。毎週この時間は寝てるから、体が自然に寝てしまったのだ。習性っていうのは怖いねえ。
「………………」
「おーい、ミフィー君。寝た?」
返事がない。
「うーん………もう寝ちゃったのかー、会話をし続けて眠らせないようにしようと思ったのにな………」
てかどんだけ寝たいのさ、まだ10時半だよ?昼寝にしては早いんじゃない?………疲れてるのかな、色々と。
ガサゴソガサゴソ
ポケットからチョコレートを取り出す。
ミフィー君を起こすと約束しちゃったからね………起きてなきゃいけない。でもここから離れることは出来ないし1人じゃ出来ることなんてほとんど何もない。なので考えることにした。長考はチョコを食べながらじゃないと出来ないからチョコもポケットに突っ込んできた。
さーてさてさて、何を考えようか。勉強のことはパス。なんでこんなに晴れ渡っている空のしたでそんなことを考えなくちゃいけないのさ。………何もないなーーー。
マックの照り焼きバーガーとポテトのことぐらいしか考えることが出来ない。いや、でもさっきのは美味しかった!あのソースがね、甘辛で。あとは、そうだね……ソースの他にも何か、うーんと……ソースが美味しかったです!以上!
さて、気を取り直して他に何か考えようか。かっこつけて地球温暖化のことでも考えてみる?………なーんか気乗りしないなー。もうちょっと楽しいものはないの?オヤジギャグでもなんでもいい、なにかくだらなくも楽しい、ありふれていたり、ありふれていなかったり、少しでも笑い合える何かを………
やっぱり1人はつまらないな。
パクッ
チョコレートを口に放り込む
あーー、ペンとか持ってくるべきだったなー。それならミフィー君の顔に落書きとか出来たのに。いや、さすがに屋外で顔に落書きは可哀想か。あ、でも額に黒子みたいに点を書くぐらいならばれないんじゃないかな、大仏みたいに。それならおもしろいしミフィー君も可哀想ではないよね。でもペンがないからどうしようもない。
「あーもーー!つまらないよーーー!!!」
大の字で寝転がる
空を見上げるとほんの少し雲が出来ていた。さっきまでなかったのに……………………
はぁーーー。暇だなー、本当に暇だなー。
…………………本当に寝るとは思わなかった。なんだかんだ言いながら結局は起きているみたいなそういう感じだと思っていたんだけど予想が外れちゃったなー。
左側にいるミフィー君の方に振り向く。
しかし人に寝顔を見られるのって恥ずかしくないのかなー。私なんて恥ずかしくて絶対に見せれない、見られないようにと修学旅行と宿泊学習を仮病で休んでしまったこともあるし。そういえば今日起きたら布団がかけてあったな………………誰がかけてくれたんだろう。
ミフィー君だったらやだなー、私の寝顔を見られたことになるし、それはいただけない。いや、でもミフィー君ではないだろう。ミフィー君ではないと願いたい、きっと帰ってきたお父さんがかけてくれたのだろう、そうに違いない。
昨日といえばぶん殴っちゃったけど今日あったらピンピンしてたよね、正直結構な魔力でぶん殴ったから黒焦げにでもなってると思ったけどほっぺたになんも異常はなかった………私のあれほどの魔力をくらってピンピンしてるなんて魔族の、それにかなり上位じゃないと無理なんだよね。魔剣も相当扱えるみたいだし。
あーーーー疑わしいなー、魔族っぽさがプンプンするよ!でも光剣を操れてしまったから魔族とは言いきれない。でもあの鬼を倒すのにも苦戦するような身体能力で果たして勇者と言えるの?もしカイならあんなのデコピンだけで十分だしあの地域のボスモンスターだって本気でやれば拳一発で倒せる。
わからないなー。さっきのミフィー君の言葉を借りればわからないことが多すぎる。いや、わかってることはあるのだけどそれが噛み合わない。確実に矛盾と相違が生まれている。あり得ないことが同時に起こっている。勇者であり魔族であり、魔族でありながら魔力が弱くて勇者でありながら身体能力が低い。
もしかして力を隠しているの?………いや、それなら一番最初の鬼の時のあのピンチに本気を出せばよかったんだ。なのに出さなかった。………私が助けてくれることを見越して力を隠した?………………いやいやいや!例えそうだとしても私にその力を隠しておく理由が分からない!………本当は魔族で、その力を隠しておきたかったと考えれば辻褄が合うんだけどなぁ。勇者の力もあるなんておかしいよ。
別に隠さなくてもいいんだけどなーーー。魔族だろうとなんだろうと別に私は傷つかないし、正直人型のモンスターも殺せないのが魔族だとは思えない。カイと行動していた時は魔族から結構ひどい攻撃をされたからね。あんな人を人とも思っていない奴らとミフィー君が同じなわけがない。あんないい人が、カイのように優しい人が魔族であるはずがないんだ。
「あ、チョコが切れた。」
やばいなー、チョコなしで考え事なんてしたらすぐに寝ちゃうよ……………まぁいいか。寝たとしても1時までには起きれるでしょ。
でもなーー、不思議だなーー。基本、勇者と魔族両方の性質を持った人はいないってカイは言ってた気がするんだけどな。むう…………カイの言葉を信じたらミフィー君は勇者と魔族の力を持ちながら勇者か魔族のどちらかであるってわけでしょ?それじゃあおかしくない?片方でありながら両方の力を持つことはどう考えてもおかしい。勇者と魔族のハーフであることよりもおかしい。
あ、ハーフ?両親が勇者と魔族でそれでハーフになったとか?それなら何よりも1番しっくりくるよ!!
なーるほどね!ハーフかーー!!!………………それじゃあカイの言葉と矛盾しちゃうけどもういいや、疲れたよ。このまま仰向けになって空を見上げてよう。
空を見上げると雲が空の6割ほどを覆っていた。
あーー、曇ってるなー。でも雲量的には晴れなんだよね。
ずーっと空を見上げる。
あ、日焼け止めクリーム塗ってくるべきだったな。
そのままイリナは眠ってしまった。
平地がありそれを囲むように山があり、そしてその平地には1000をこえるであろう人間が集まっている。しかし人々はある線を境に離れているのだ。まるで運動会の赤組と白組を分けるかのように。片方はニヤニヤと、もう片方は顔を引き締めている。おいおいこれじゃあまるで勇者対魔族の戦争じゃないか。そして片方の平地の山には全身を覆い尽くすごつい鎧をつけた者が3人。もう片方にはイリナとカイが立っている。もう一人誰かが立っているがカイの影になっていて見えない
鎧をつけた者が一歩前に出た。そして………
「楽しもうか」
世界は真っ赤に染まった。
「うおっ!?」
ガバァッ!!
思いっきり跳ね起きる。周りを見渡すとブランコやら鉄棒やらの遊具が点在している……そして俺のいる場所は丘のようだ。
てかなんだよ今の夢は……………不吉にもほどがあるだろう。最後に言葉を発した人は炎帝なのか?それはまぁ置いといてだ、うーんどういうことだ?まず俺はあんな光景をいままで見たことがない。だからもしかしたら過去の出来事ではないかもしれない。だけど、もし、いままで夢に出てこなかったってだけで実際にはあった事だとするとだな、確実におかしい。いやだってカイが死んだ時が炎帝との初対面だったはずだからな。なんかもう時間軸がおかしい。
いや、待てよ?これが俺の願望だとすればどうだ?真面目にただの俺の夢だと考えれば納得がいく。だってよく考えると俺の顔ってカイと同じなんだろ?忘れてたけど、それなら確かに納得がいく。
………ん?何でこんな丘のある公園で寝てたんだっけ?
「おーーっとおーー?どういうことだこれは。」
あ、思い出した。あまりにも気持ちよかったから寝たんだった。そして1時に起こしてくれとイリナに頼んだんだった。
「………………」
起こしてもらうはずなのに自分で起きてしまうと結構不安になる。イリナが間違って寝ちゃって1時を過ぎても俺を起こしてくれなかったとかそういう不安が俺の心を圧迫していく,
ははっ。まぁ約束すっぽかして寝てるとかそんなことはないだろう。きっとまだ1時になっていないんだ。でもそれなら俺が変な声をあげて起きた時に驚くんじゃないの普通。それに、俺の右後ろから寝息みたいなのが聞こえるんだが、これもきっと気のせいだろう。寝る前は晴れ渡るほどの快晴だったのに、雲が完全に空を覆い尽くすほどの時間が経っていたとしてもきっとまだ1時ではないのだろう。
そうだよ。時計を見ればいいんだ!なーに簡単なことさ、左手を天高く持ち上げてその時に袖を払いのけて俺の目元まで近づけて見ればいいんだ。
シュババ!サッ!
ほーらなやっぱりだ、まだ12時58分だ。
どうせこんなことだろうと思っていたぜ、そんな「やばい!もう15時だ!イリナなんで俺を起こしてくれなかったんだ!これじゃあまた怒られちゃうじゃないか!!」みたいなベタベタなパターンになるわけがないんだ。そして今俺がイリナを起こしてあげればきっと「あれ?ミフィー君起こしてくれたの?ありがとうねーお礼として何かあげるよ」みたいな展開になるんだ。そして
「ああ、だけどこれから塾だから、お礼とかそういうのはいらないぜ」とカッコつけ、「きゃー、ミフィー君超カッコイイー!」みたいな感じで俺をこれからイリナは尊敬の眼差しで見るようになり俺は殴られずに済むようになるのだろう。ふっ、仕方ない。起こしてやろう。
「イリナさーん。もう1時ですよーー。」
肩を揺する。
「んん〜ー〜……………んーー?」
右目だけを半開きにしながら起き上がる
「んーーーー………………」
口からぴちゃぴちゃ音を立てながら辺りをキョロキョロと見渡す。
うわー、これってがっつり寝て朝起きたときにしか起こらない究極の寝ぼけ状態じゃないか。外でよくもまあそこまで熟睡できるな。
「朝かーーー、なんか部屋が緑だけと寝ぼけてるのかな………あ、そうだ。ミフィー君に電話しなきゃ。」
立ち上がろうとするイリナ。
おい、ちょっと待て。俺は真横にいるぞ、寝ぼけ過ぎやしないか。
「ストーップ、イリナさん。俺は横にいるぞ。そしてここは外だからな。」
「………………何言ってんのさ。ミフィー君がこんな寝ぼけたブルドックみたいな顔をしているわけないじゃん。」
「へい!俺の顔はどんだけシワだらけなんだい!?それよりも早く起きるんだ!目を覚ますんだ!早く目を覚まさないと俺の手が火を吹くことになるぜ?」
しかしまさかイリナがここまで寝起きが悪いとは思わなかった。どこぞにいるおじさんみたいじゃないか
「あははーー……………優しいミフィー君に出来るわけないじゃん。」
「優しい?俺が優しいって言ったのか?ははっ、俺は怒らないってだけで優しいってわけじゃないんだぞ?」
常に怒鳴り散らしているからって、周りに気を配って人が嫌がることを率先してやる人もいるんだ。そして俺は人が嫌がることは率先してしないし、ましてや昨日今日だってイリナにぶん殴られっぱなしだ。配慮に行き届いていないのだ。
「いやいや。自ら嫌なことをする人は優しい人じゃないよ。そういうのは人がいいって言うんだ。そして優しい人っていうのは助けて欲しい時に助けてあげて、くだらないことを笑って許してくれる人のことを言うんだよ。過保護は優しさじゃない、見た目が良いただのいじめだよ。」
寝ぼけながらやけに重たいことを話すな…………
「ふーん……………よく分からないな。まぁ。イリナさんには悪いけど俺はそこまで人間出来てないよ。」
助けて欲しい時に助けてあげる?俺はいままでに1度だって宏美に宿題を見させたことはないぞ。「狩虎!一生のお願いだ!私に宿題を見せてくれ!」って言われても
「どうしようかな、どうしようかなーー?見せても良いんだけど、でもなーー、肩が凝ってるんだよなー。」と言って肩を揉ませて見せなかったことがある男だからな。
「へーそうなんだ。私は結構ミフィー君は優しい人だと思ってるけどなーー。周りの人も優しい優しいって言ってたよ?私達には無愛想だけど。とも言ってたけど。」
あーー、あの朝にイリナにカフェ行こうって言ってた人達かな?……………わからない。なぜ好んで自ら苦いものを飲むんだ。絶対コーヒー牛乳を出した方が売れるのに。
「いやいや、優しいんじゃないよ。俺はただ周りの人に嫌われたくないだけですから。簡単に言えば弱虫なんですよ。……………まぁ、あと無愛想だと言われてるらしいですけど俺的には頑張って対応してるつもりなんですが、やっぱり女性との会話って難しいんですよ。同性との会話の方がずっと楽ですし。」
「会話って………………私はいままでそんな状況を見たことないよ。唯一それっぽいのだって転入初日ぐらいだし。」
「ああ、あれか。あれはまぁ彼らのスキンシップというやつですよ。いつもはあそこまで酷くはなかったんですけど…………………いっても上履きの踵に書かれてる名前を油性のマッキーで塗りつぶされて[田中]と書かれたぐらいですからね。」
「それはなんともしょっぱいスキンシップだね。そば殻のまくらを羽毛に変えられたぐらいしょっぱいね。」
「地味だな!いや……………いつものまくらじゃないと寝れないって人もいるらしいからな…………もしかするとそれはそれで結構効果的なスキンシップなのではないか……?」
「確かにそうかもねーーーーー……………………。」
ん?なんだ?どうしたどうした、
「どうしました?いきなり黙りこくって。」
イリナの方を見ると、まぁ、そのなんだ。予想は出来るよね。寝てた。単純に寝てた。顔を下に向けて。まるで授業中に眠いのを我慢しているんだけどいつの間にか寝てしまった生徒みたいだ。
「………………起こすのめんどくさいな。」
よくよく考えればもう1時を確実にすぎているだろうからそろそろ家に帰らなければならない。はぁーーー、起こすのめんどくさいな。でも起こさなきゃいけない。
「イリナさーん。起きてくださいよーー。起きないと俺帰れないんですよーー。」
またもゆさゆさと肩を揺らす。
「うーん……………………ああ、もう朝か。それじゃあ電話しないと。」
「おい!!起きろぉぉお!!さっきもそれ言ってたからね!?」
くっ…………ここで顔をはたく勇気が俺にあれば今にでもそうするのだがあいにくそんな野蛮な勇気。いや、目的達成のためなら手段を選ばないという崇高な勇気を持っていない。
ちっくしょーー。なんてこった!このままじゃあ永遠とこのやりとりをループすることになってしまうかもしれない!……………仕方ない。秘密兵器を使うか。
うとうとしているイリナを尻目に俺はポケットからティッシュを取り出す。ハンカチとティッシュは黄金のペアーだ。ハンカチを持っているのなら当然ティッシュも持っている。逆もまた然りである。片方が片方に依存しているのではなく、両方が独立した能力を備えていてそれを最大限に引き出すためにこのハンカチとティッシュは常に一緒にいるのだ。これほどまでに完璧に世間に定着した、依存せずに両者共々を高め合うペアーはそうはあるまい。俺が思いつく限りではナイフとフォークぐらいだ。
さて、そんな完璧なる黄金コンビの片割れを俺はなぜ出したのか?理由は簡単だ、丸めて紐上にして耳をくすぐるためだ。基本俺は暴力を使わないと決めているため、こういう状況になるとくすぐりに頼るしかなくなるのだ。
「ふっはっはっはっはっ!この丸めたティッシュを耳に入れた瞬間どれほどの衝撃が来るかわかるまい!」
ティッシュをくるめながらボケーっとしているイリナに話しかける。もちろん返事はない。ティッシュをくるめ終えるとイリナの背後に回り、イリナの右耳へとティッシュ近づけていく。
しかしこれは仕方なくやっているのだ。相手をこちょばして悶絶している姿に興奮を覚えるような性癖が俺にあるわけではない。塾に行くために仕方なく、起こして上げるために強力な刺激を与えなければならないのだ!
ピタッ
ティッシュの進行が止まる。いや、これは違う。呼吸を整え、心を落ち着かせ、相手のより効くであろうポイントを見定めるための戦略的休息だ。
くそっ!こやつ寝ぼけてるせいかうっつらうっつら舟をこいでやがる!これじゃあ狙いを定めるのが難しいぞ!
……………いや、落ち着け俺。いままでどれだけの相手にこれをやってきたと思ってるんだ?宏美に遼鋭。光輝に花華……………走馬灯のように彼らの顔が出てきては消えていく。百戦錬磨の俺にかかればこんなのは朝飯前なのだ。
その時だった。本当に、本当に一瞬。真っ正面から強風が来たのだ。体が少しのけぞるほどの強風が来たのだ。
しかも幸運にもイリナは頭を下げようとした瞬間であった。頭の下がろうとする力と風の押す力が戦い、そして風の力が上回りイリナの頭は少し上がる。だがイリナの頭の下に向かう力は未だ働いており上がる力と下がる力が平等になったとき動きが一瞬止まったのだ。
ここだ!我が神槍ティシュトリア!!あやつの弱点を攻めたてろ!
ブワッ!ギュオオォオオアアア!!
穢れを知らない白色の神槍ティシュトリアは目にも留まらぬ回転をしながら対象物へと放たれた!
うおおおおお!!ここだぁぁあ!!!
ファサッ
「んんっ。」
耳の敏感な部分を撫でられたイリナはあまりにも急に訪れた刺激に身悶えするかのように背筋をピンと伸ばした。
「んんーーっ!かゆい!かゆいよ!何これ!?なんかいきなり耳を触られたんだけど!?」
頭を傾けてトントントントンするイリナ。プール上がりの人みたい。
「よう。おきましたかねイリナさん。」
イリナの動きがピタリと止まる。やべっいまの怒られちゃうのか?
「………………ねぇ、ミフィ君。あのさ、私いつから寝てた?」
あれー?怒られないのか?ははっ!なんだよ怒られないのかよ!たっくおどかさないでくれよー。はっはっはっはっ!!
「んーーー俺が起きたのが1時前ですからねーー。少なくともそれ以降じゃないですか?」
内心笑顔でそう答える。まぁ、少なくともも何も確実にそうなのだが。少し気になったので時計を見るとなんと1時半だった。まじか…………起きてから30分も時間が経っていたのか。てか塾遅れそうだぞ。
「へーーー。それはつまり少なくともミフィー君は私が寝てるときに起きてたってわけだよね。」
「ん?そりゃそうだろ。さっきだって起こしたわけだし。」
あーーなんか嫌な予感がするなー。
「へぇえーー…………なに乙女の寝顔を見てるんだよぉおお!!」
一本の槍と化したイリナの脚が俺の顔面へと伸びる!
ふっふっふっ!生憎だがこっちには神槍ティシュトリアがあるんだ!貴様の攻撃など紙くず以下のようなもんだぜ!!だがダメだ。ここで俺の最終最強最劇奥義を使う訳にはいかない!イリナが死んでしまう!腕でガードだ!
メキメキメキメキ!!
ズザザザザザザザザザ!!!
蹴られた衝撃で後ろへと吹き飛ばされてしまったが大丈夫。足はちゃんと地面についている。
「ぐっーー!……………ふはははは!!どうしたイリナさん!あなたの実力はこんなも……うおっ!あぶねぇ!」
当たったら脚の骨が折れるんじゃないかというぐらいの足払いがきたがなんとかジャンプをすることでかわせた。だがそこはさすがのイリナ。相手がジャンプでかわすことを見越していた。足払いの速度を利用してその場で回転すると同時にイリナは徐々に立ちの姿勢へと移行していった。そして、その速度プラス遠心力を持った上段蹴りが狩虎の脇腹に直撃する。
イリナの蹴りの一連の動作は素晴らしいほどに美しかった。蹴りを食らった狩虎でさえこれほどまでに美しい蹴りならば食らうのも乙かもしれないと思うほどだった。
ただ、美しいということは無駄がないということで無駄がないということはイリナの力が全て、蹴りへと集中しているということである。凄まじい一撃を、しかし、どうやら狩虎はなんとか脇腹とイリナの足の間に腕を滑り込ませることが出来たようだ。だがさっきも述べたように全ての力が集約されたイリナの攻撃を食らって無事であるはずがない。
「ぐぅうぅううう!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い!!なんて痛さだ!骨折してるんじゃ……………してないな。
蹴られた部分をさするが内出血を起こしていること以外異常はなかった。
くそっ、宏美に毎日殴られてるから骨とか頑丈になったのか?カルシウムじゃなくて宏美を重宝すればどうやら骨を頑丈にすることが出来るらしい。
「い、イリナさん…………何もそこまで怒らなくても。」
蹴られた部分をさすり続ける。
「いいや、ダメだね。私の寝顔を見ていいのは親と彼氏だけだって決めてるんだよ。もしそれ以外の人が私の寝顔を見たら社会的にか肉体的に抹殺するってことになってるから。」
「ちょっ、ちょっと待った!おかしいだろ!なんで寝顔を見られただけでそこまで怒るんだよ!理由がわからない!」
「理由?……………そんなの簡単でしょ。私の顔において寝顔が最も美しくないからだよ。」
「……………まじっすか。」
ま、まさかこいつここまでナルシスト野郎だったのか!しかも結構重症じゃないか?どんだけ自分を愛してるんだよ。
「さーてと。理由も話したことだしそろそろ旅立ちの準備をした方がいいんじゃない?行き先確認しておかないと後々不便だよ?」
「行き先も何も俺はまだチケット予約してないから!旅行の予定はないですから!」
行き先確認とかどうすれば出来るんだよ。出来るのなら俺に教えてくれ。
「……じゃなくて!カイもあっちの世界でイリナさんの寝顔見てたんだぞ!?なんでカイには怒らなくて俺には怒るんだよ!」
「へぇーー。カイも見てたんだ。初めて知ったよ。君は二重の苦しみを味わって死にたいようだね」
あっ……………こいつの中で俺は一応カイってことになってるんだった。忘れてたぜ!あばばばばば!!ど、どうする!?最近自分で自分の首を絞めすぎている気がする!くそっ!こうなったらイリナを褒め称えるしかないな!
「………………さっきイリナさんはこう言ったじゃないですか。寝顔が1番美しくないと。でもイリナさん。貴方は自分の寝顔を見たことあるんですか?」
「いや、それはないけど。友達の寝顔を見てブサイクになってたからそう思ったの。」
「そうですか。……………ただ、お友達には悪いですが完璧なる容姿の方の寝顔は美しいんですよ。」
正直人の寝顔なんて全く見たことがないが仕方ない。ここは言葉を繋いで嘘八百でもいいからなんとかいい印象を与えるんだ!
「そしてイリナさん。貴方の寝顔は正直に言うと美しかったですよ。」
そう。ここでこう言えばイリナがパーフェクト美少女であり、そして寝顔も美しかったと褒め称えることが出来るのだ。いや、自分が美少女であることをイリナは自覚しているがやはり人から言われるのは気分がいいものだろう。ただ、まぁ俺が言ったのは正直な感想だ。かなり可愛らしかったのは否めない。
イリナは頬を赤らめた。
「………………そ、そう?」
よっしゃあ!!食いついた!!!
「当たり前じゃないですか!正直なんでイリナさんが自分の寝顔の大きな魅力に気づかなかったのかが甚だ疑問ですよ!」
「い、いや。私も気づいてたからね?………そう!私のこの溢れんばかりの魅力が分かる人を見つけ出すためにわざとそういう演技をしていたというわけさ!!」
目が泳いでいるがまぁ、信じてやろう、
「いやーー!さすがはイリナさんですね!!凡人の俺には計り知れない知能も持っているとは!」
「うんうん。そうなんだよねー。隠してるつもりが溢れ出てきちゃってさーーー。本当に困ってるんだよねー。そういえば塾に行くんじゃないの?」
よっしゃあ!話が逸れたぜ!
「んん?ああ、そうですよ。そろそろ行かないと怒られそうですね。」
「なら私が家まで送ってあげるよ。私の魅力を誰よりも先に見出した報酬としてね。」
嬉しいでしょ?と聞いてくるイリナ
ここで嬉しくないなんて言ったらそれこそこの公園が全て赤色に染まることになってしまう。
「嬉しいですねーー。それじゃあそろそろ行きましょうよ。」
「うん。そうだね。今日は楽しく過すことが出来たよ。」
2人ならんで歩く。ここに来たときと同じように。
「やーでも、私の寝顔の魅力にいち早く気づくとは……………仕方ない。今度から私の寝顔は見放題ってことにしてあげるよ。」
「いや、そんな機会早々ないと思うんだけどな。」
2人で愛想笑いのような苦笑いのような。微かな余韻が残る程度の笑みを浮かべながら公園を後にする。




