小麦かポテトかそれとも山か
二度寝、三度寝をするともはや起きれなくなる。身体が絶対起きないぞって覚悟を決めるからなのか、それとも寝起きの気分が最悪なことを身体が理解しているからなのか分からないけれど、とにかく起きれない。だからしない方がいいって分かってはいるのだが…………眠りに入った瞬間の心地良さが異常すぎて寝ちゃうんだよなぁ。人生を通してどれだけ気持ち良く寝ることが出来たか………それが人生における幸福のパラメーターなのかもしれない。
着信のせいで鳴り響く携帯電話を無視して俺は布団に入る。だからもうね、俺は寝るよ。電話とか知らないから。てか俺みたいなクソ野郎に電話をかけてくるなんてどうせイタズラ電話だから。無視無視。電話帳が10人いってないやつに電話なんて来ない!
俺が長時間無視していると携帯電話のバイブレーションが止まった。ふん、撃退したか。さぁてもう一回眠………
ブブッブブッ…………
ファ○キュー
やばいな、懲りずに電話かけてくるってことは相当な用事だぞ。さすがに出ないわけにはいかないな。まっ、どうせ宏美とか遼鋭だろ?分かってるって。俺を誰だと思ってるんだ?友達少ないボッチだぜ?
「ふぁい…………」
「あれ?今起きたの?もう7時だよ」
「この電話は現在使用されておりません。御用の方はぴーっと言うまで受話器を握りしめていてください。ぴーっ。」
ピッ!ヒュッポスッ!
電話を思いっきり布団へと投げつける。ああ焦りすぎた!もはや何をいっているのかよくわからない!
くそ!なぜだ!なぜイリナから電話がきたんだ?いや、考える必要もないか。きっと昨日の事でだろう。あばばばば!!や、やばい!今日が俺の命日か!?
ブブッブブッ………
あばばばばばばば!!!!で、電話が!電話が鳴り響いている!なんて怖いんだ!電話恐怖症になってしまう!
震える手で携帯を掴む。
あ、ああ……なんてこった……このまま出るべきなのだろうか?いや、出ないといけないよな。さっき間違ってでちゃったもんな!あー!!相手確認しとけばよかった!
ピッ
「あ、もしもし?蛍光灯はオレンジ派のメコン川流域に住むコカ・ダイイですが。」
「ツッコミどころがありすぎて突っ込むのがめんどくさいよ。」
「ツッコミどころ?ツッコミどころとは一体?俺は真実を述べただけなんだが」
「はいはい。そうですねそうですね。コカ・ダイイさん。そんなことよりお詫びとして今日何かおごってよ。」
「え?…………今なんて言った?」
「………ん?だから、昨日のお詫びとして今日私に何かおごってよ。」
「ええ!?おごるだけでいいの!?おごるだけで俺の命が救われるの!?やった!いいぞ!おごってやる!それで俺の命が助かるんなら安いもんだ!」
「………………何を言ってるのかよくわからないけど奢ってくれるんだね。それなら9時に私の家の前集合ね。」
「おう!9時だな!」
ピッ
「よっしゃあああああ!!!!!」
うほほほーい!!
なんかわからないけど今日のイリナはすごく寛大だ!なにあれ!?仏!?やっぱりイリナは仏だったのか!?いや、俺の毛布をかけてあげる作戦に効果があったのだろ。うふふっ、やっておいてよかったぜ。あれを運ぶ時どれだけ辛かったか。息を止めながら毛布を持って、音を立てないようにゆっくりと歩くのがどれだけ辛いか!
途中窒息しそうになったからね!運動してない人間の肺活量なんてたかがしれてる!
「いや、本当に拷問されずに済んでよかった………何を奢ろう。」
一難去ってまた一難。
一体どこに行って何をおごればいいのだろうか?彼女いない歴=年齢という華々しい経歴を持っている俺は職業[出来る男]のスキル[エスコート]の熟練度が0なのだ。初心者の更に下をいく男。
正直思い浮かぶことといったらラーメンぐらいだ。美味しい味噌ラーメンを出すお店に行って餃子と味噌ラーメン大盛り頼んで食べて家に帰ることしか思いつかない。
いや、イリナの家の前で集合ってイリナが決めたのだ!きっと彼女にはもう案があるのだろう。俺はお金を出せばいいだけなんだ!きっと!そうだと思いたい!
「ふぁーーっと、準備するかぁ。」
大きなあくびを一つして早速準備に取り掛かる。といっても9時集合だから8時半ぐらいに家を出れば間に合うし、朝ごはんもそれですませばいいから歯磨きと着替えぐらいしかないんだよな。クローゼットから服を引っ張り出す。
「ふむふむ。どの服にしようか迷うぞ。」
クローゼットの中には、黒を基調に赤いラインが入っているのや、灰色に白のラインが入ってるのや、緑に赤と黄色のラインが入っているのや、黒色に金色で龍が背中に描かれているやつなど実に様々な種類のパーカーが入っている。パーカーしか持ってないからね。ズボンはというとほとんど全部同んなじだ。正直違いがわからない。
「うーん……………昨日は右端のを着たから今日は左端のを着よう!」
緑に赤と黄色のラインが入っているのを選ぶ。
……………………切ってる時に間違って指を切ってしまい血がついたメロンみたいだ。ズボンはほとんど全部同じなので適当に掴み履き、時間を潰すことにした。
「そうだ。小説の設定を考えようかな」
PCに向かい電源を入れる。
「これは前回の続きということだからイリナは確定なんだ。問題は俺や他の人々の名前と状況設定だ。」
今回もイリナを主人公とすることにした。やはり前回の続きだからね。
「うーん……………俺の名前はカッコ良くしたいよなーー、なんかこう男!みたいな強そうな感じ。」
アニマルをつければ強そうだけど芸能人みたいで却下。なんかこう力強い、けれども繊細な、全てを兼ね備えているような名前を…………力道山?だめだ!力強さしか感じれない!………そもそも狩虎の字面が強すぎて他が思いつかないんだよなぁ。今は思いつかないってことで、つぎつぎ!
宏美はそうだな………宏美って聞いた瞬間俺は海を連想したからな………荷美 海斗でいいんじゃないか?うん。もうこれでいいや。テキトウで。
カチャカチャ。
パソコンのワードに書き込む
次は雪さんだな。雪さんはなんだろう。雪しか思いつかないな…………白夢 白尾でいこう。テキトウで。
カチャカチャカチャカチャ
さーてさて翔石君の番だ。ふっふっふっ!!どんな名前をつけてやろうか!彼は勉強ができてしかもメガネだからな!ガリ勉みたいな名前にしてやる!
うーんと、今村川 勉だな。よっし!出来たぞ!はっはっはっ!読者の皆様には覚えにくいように名字を変な風にしてやったぜ!
カチャカチャカチャカチャ
さてと、俺の妹と弟の名前も決めたいが俺の名前が決まってないからな……これもお預けでいいや。
さーてさてさて。名前もあらかた決まったし今度はどこを舞台にしようか。
正直東京はやなんだよな。東京○種とかぶってしまう。俺はあの作品を尊敬してやまないので作品と同じ場所というのは恐れ多い。うーん、都会だけど都会過ぎないところとかないかな………あっ!北海道の札幌とかどうだ?都会だけど都会過ぎなくてよさそう?……うーん、他にもいいところがありそうだよな。名古屋とか。でも都会すぎる気がしなくもないな。じゃあ大阪?無理だね。大阪弁喋れないもんなー。
「うごぉぉぉおああぁあああ!!!思いつかねぇー!!」
体をくねらせて必死に知識を捻り出す。
あーー!!思いつかねぇーーよぉー!!
叫びながら考え続けること35分。
「あっ!もう7時50分か!歯を磨かなくては!」
洗面台へと向かい歯を磨いて部屋に戻ってくる。
「あーもーー!!なんも思いつかない!しゃくだが早めに家を出て歩きながら考えるか。」
今の時間は8時15分。時間的に結構早すぎる気がするけどそんなのお構いなしだ。10分前行動ってやつさ。
ガチャ
「行ってきまーす!」
うーん………………どうすればいいんだ?名前も場所もさっぱり思いつかない。いままでは名前なんてパッと考えたらパッと思いついたのに今回は何も閃かない!
ああ、そうそう!決め台詞も考えなきゃ![お前は俺を怒らせた]みたいなやつをさ!
これもまた難しいな。考えれば考えるほどいままで出てきた作品の言葉と被る気がして容易に決めれない!あーもう!候補に上がる奴が全部被ってるし!うわー、だめだ。何も思いつかねー。
いや、でも待てよ?ここであえて意味のわからないのにするってのはどうだ?倒した時に「キリマンジェロが泣いている。」みたいなのは。………なんだこれ。部族間の争いでも書くのか俺は。
…………まだだ!まだいける!俺ならまだいける!もっと考えろ!
「富士山の力を俺に!」
ダメ!却下!
「ここ一体をフォッサマグナに変えてやる!」
はいダメですよ!
「この世は全てエベレスト」
はい、意味がわかりませーん!!
てかなんで俺は山から離れないんだよ!もうちょっとないのか!?海とか空とかさ!
いや、待てよ?ここであえて山で押し通したらどうなるんだ?なぜかは分からないが直感がいっているんだ。きっといい決め台詞が出て来るってさ………………イリナの家に着くまで考えようかな。
イリナの家に着くまでずっと考え続けるのであった。
「お、早いんだね。ミフィー君。」
イリナの家に着くともう既にイリナが待っていた。
「ああ、天の岩戸か。今日も風がないてるぜ。」
「………どうしたの?」
「……………はっ!いかんいかん!自分の世界に入り込んでしまっていたようだ!」
「君の世界は一体どうなってるの!?」
「そりゃイリナさん。今度の小説の決め台詞を考えていたんですよ。」
考えているうちに山からどんどん離れて行ってしまいなぜか神々の世界へといってしまった………………まぁ、天の岩戸は山みたいなもんだからセーフと言えばセーフな気がする。
「へ、へぇー。変な小説を書こうとしてるんだね。まぁせいぜい頑張ってね。」
「主人公はもちろんイリナさんだぞ!」
「…………もう一回言ってみ。」
「え?やだなぁー。なんて怖い顔してるんだよ。阿修羅観音像みたいな顔しちゃってさ。」
「そんなことどうでもいいから。さっき言ったこともう一回言ってみて?」
「お、おう。だから。小説の主人公はイリナさんだぞ!」
「………………フッ」
イリナが急に笑顔に………………いや、でもまあ今回はなぜ怒っているか分かっているぞ。こんなの簡単さ!マッチで火を付けるぐらい簡単さ!
「ああ、ごめんよイリナさん。やっぱりバトルファンタジーの主人公っていうのは男臭いイメージがあるよな。分かるよ。だから今回のイリナの立ち位置はメインヒロインってのでどうだい?」
決まった……………今回は絶対に誤解など生まれようがない。
「うーん……………できればさ。私を小説に入れないで欲しいよね。」
「なんで!?どうしてだ!!今回のは前回の奴の続編なんだぞ!?イリナさんがでてこないと話が噛み合わないじゃないか!」
「それはそうだけど私的には気乗りしないんだよね。どうせまた嫌な展開になるに決まってるもん。」
はぁーっと下を向きながらため息を吐く。
「嫌な展開?例えばなんですか?」
「それはその……………君が死んじゃうとかさ。」
「俺が死ぬ?それは確実にないですね。」
ピクッ
「確実にない?あんなのに弱っちい君が?魔法に秀でていない勇者よりも魔力が弱くて、身体能力が優れていない魔族よりも身体能力が劣っている君が本当に死なないと思っているの?」
勇者は身体能力が果てしなく高い。だがそれに比べて魔力はかなり低い。イリナのように森一個を焼き消す程の魔力を持っている勇者はそうはいないのだ。
逆に魔族は身体能力が低く、人間に毛がはえたようなレベルだ。ただし、魔力は勇者よりも遥かに高く魔王クラスになると魔力が底をつくことはなく、常に特大魔法を出し続けられるのだ。
んで、とうの俺はというと魔力は確かにそこらへんの勇者よりも劣っているだろう。現に水を勢いよく放出できないのだから。そして、身体能力もくそだ。魔族といい勝負が出来るのではないだろうか?確かに俺は弱い。だからってそんな剣幕で俺をまくしたてないでくれよ………
「だから前にも言ったじゃないですか。俺が死ぬことは絶対にないですよ。色々とありますからね。」
「……………色々?なんなんですか?」
「たとえば…………こんなボッチのままじゃあ死ねないとか。」
自分に対する着信に意味がないと思える人生が果たして充実していると言えるのか?それとも友達や恋人からの電話を待ち続ける人生の方が満ち足りているのか?………今の俺には分からない。ただ片方しか知らない人生というのは寂しいとは思う。できるのならば両方経験してみたい。
「あとは弟妹がプロになって活躍する姿も見たい。彼らは俺と違って輝かしい未来がある。もしかしたら後世に名を残す偉人になるかもしれない。そんな彼らを見ずに死ぬなんて勿体ないと思うわけですよ。あとは………。」
俺なんてしょうもない人間だが、やり残したことは腐るほどある。それを全部言おうとすれば日が暮れてしまうだろう。俺は口を閉じた。しかし、そのやり残したこと全てを置き去りにするために、俺はまた口を開いた。
「…………あとは、俺には夢がある。誰にも言ったことのない、独りよがりの下らない夢が。」
「夢?…………警察官になる的な?」
「警察官になんて誰でもなれるよ、努力さえすれば誰でも。そうじゃあない。…………俺にとっての夢っていうのは、実現不可能な夢物語のことを言うんです。」
何々になりたいなんていうのは目標だ。それを夢と表現してしまえば、成し遂げられなかった時にそこから逃げる口実になる。夢じゃあダメなのだ。掴み取るべき未来は目標でなくてはならない。
「ふーーん…………君の夢ってなに?」
「…………そりゃあ決まってるでしょ、大統領ですよ大統領。」
「あーーたしかに無理かもね、それは。」
「でしょう?でも絶対に不可能ってわけじゃない。俺の努力だけじゃどうしようもないけど、もしかしたらその時の情勢によってなれるかもしれない。そう思うと死んでられないのさ。…………そうそう。今日俺は何を奢ればいいんです?もう行き先は決まってるんですよね?」
本当は大統領なんて興味はないんだけど………話を逸らせたのならそれでいいや。
「いやー、それがねー。昨夜考えたんだけど決まんなくてね!必死に考えたんだけどいいのが思いつかなかったよ!!」
腕を前に組み誇らしげ言うイリナ。
「なんで誇らしげなんだよ……………しかし困ったな。」
イリナはきっと何時間も考えたのだろう。それなのに何も考えついていないとは。果たして俺がいま適当にぱっと考えついたものがイリナを納得させられるのだろうか?………ああ!やっぱダメだ!ラーメンしか思いつかない!くそーっ!こいつはピンチだ!なんかこう場慣れしてそうな人に助言を請いたい!女性の心も男性の心もどちらも知っているパーフェクトモテモテ野郎がいればなー。さて、茶番はここまでにして宏美に電話でもするか。
「イリナさん。ちょっと待ってて、プレイボーイに電話してくるから」
「プレイボーイ?君じゃなくて?」
「いや、俺のどこがプレイボーイだよ。チェリーボーイでしょ。」
「え!?昨日のあれは無自覚!?うわー、天然のプレイボーイだったとは恐ろしいよ。」
「ん?昨日の?ああ、昨日はなんで怒ってたんだ?正直ぶたれた意味が分からないんだけど。」
「…………………もう一回ぶってもいい?」
「ああ、いいぞ!いや、じょうだっ。」
パーン!!
速い!なんて速さだ!目で追えなかったぞ!
「ちょっと待て!俺の言葉を最後まで聞け!冗談だと言おうとしてたじゃないか!」
「いや、私に冗談とか通じないから。」
「くっ、おかしいな。なぜいつも俺はぶたれるんだ。そんなに俺は殴りやすいか?」
「殴りやすいよね。殴ってもやり返さないからさ。」
「やり返したところで数倍になって返されるんだ。ならやり返さない方がお得だろ?」
「ミフィー君は殴られることに喜びを感じるんでしょ?ならやり返した方がお得じゃない?」
「いや、なんで俺はどM設定なんだよ!俺はいたって健全な17歳の男の子だわ!」
「ああ、はいはい。どMは言葉を無視して冷たい目線を向ければ喜ぶんでしょ?」
イリナから寒すぎて痛い凄まじい冷気を含んだ目線が注がれる。うわっめっちゃいてーよ。タンスの角に小指をぶつけた並に痛い。
「どMは喜ぶだろうな。俺は喜ばないが。さて、話を戻すけどさ。いまから宏美に電話してどんなお店がいいか聞いてくるよ。」
「あ、プレイボーイってひろみんのことか。ならひろみんも誘ってよ。大勢の方が楽しいでしょ?」
「ああ、それもいいな。それじゃあちょっと電話してくるよ。」
タッタッタッ
物陰へと向かう。俺は人前で電話をするのが苦手なのだ。それをイリナは楽しそうな、でも哀しそうな視線で見送った。
「どうした狩虎。こんな朝早くに電話なんて珍しいな。」
「ああ、それがだな。もう朝ごはんは済ましたか?」
「いやーー。これから食べようと思ってたんだがな。なにさ、奢ってくれるの?」
期待と確信に満ちた声。やはり付き合いが長いからすぐに言い当てられてしまう。
「そうだ。俺が奢る。んで宏美が行きたいとこを決めてくれ。」
「え?いいのか?私はそう言うのよく分からないぞ。」
「はぁ?何言ってんだよ、プレイボーイであるお前が分からないわけないだろうが。」
「いや、まず言わせてもらうがボーイじゃないからな。それに私は男とは一度も付き合ったことがないんだ。」
「女性とは?」
「私は男じゃないって言ってるだろうが!とにかくそういうのは私はよく分からん。お前が考えてくれ。」
ええぇ、まじかよ。こういうパターンかよ。こいつは困ったな。まさかここで俺のセンスを発揮しなくてはいけないとは。四六時中パーカーにジーパンの男のセンスなんてたかが知れてるぞ。
「困ったなー。イリナさんになんて言えばいいんだ。」
「お?イリナちゃんが来るのか?なるほどなるほど、それなら私は行かないことにするよ。」
「えー。なんでさ、大勢で食べた方が楽しいだろ?」
「確かにそうだけど、いやいいんだ。やっぱ今日はダメだ。気分が乗らない。」
あははっ、ごめんな。という何処か寂しそうな声が聞こえた。
「そうか残念だな、久しぶりに宏美と朝食をとりたかったのに。」
「ごめんごめん。今度の機会があったら誘ってくれ。」
「ああ、分かった。今度誘ったら絶対に来てくれよ」
「分かった分かった。それじゃあな。」
「ああ。また明日。」
ピッ
はぁ………宏美は来れないのか。残念だ。何度も言おう。残念だ。
物陰から出てイリナの元へ向かう。
「どうしたの?ミフィー君、浮かない顔して。」
「宏美は来れないってさ。気分が乗らないんだって。」
「…………そ、そうですか。」
私のせいだとイリナが呟いた気がした。
「と、とにかく!どこか食べに行きましょう!腹が減っては戦はできぬですよ!」
「お、おう!宏美の分も食べなきゃいけないもんな!」
あれ?この言い方じゃまるで宏美が死んだみたいじゃないか!言い換えた方がいいかな?
「そうですよ!とにかくミフィー君。どこに行くか決めてください!」
「分かった!う、うおおぉおおぉぉお!!俺の中にインスピレーションが湧いてきたぞ!見えた!俺たちが行くべき道が見えた!」
25分後
「なんでラーメン屋さんになるんですかね。それにやってるんですか?ここ。」
まぁ、安定のラーメン屋さんですよね。正直ここしか思いつきません。誠に申し訳ありません。非リアなんてこんなもんよ。
「し、仕方ないだろ!俺はここぐらいしか思いつかないんだから!!」
「本当、引き出し少なすぎやしませんか?もうちょっとましなのなかったんですか?」
「う、うるさい!文句を言うでない!!そんなに嫌ならイリナさんが決めればいいじゃないか!」
「いや、それは無理ですよ。私が決めたら一杯1万円のラーメン屋になってしまいますから」
「お前もラーメンかよ!!人のこと言えないだろうが!」
一杯1万円のラーメンって確かカニとか金粉とかなんか色々入ってるんだよな………………1度でいいから食べてみたい気がする。まぁ、大人になってからだな。
「どうどうどう。女性にお前はよくないですよ。とにかく!今からこのラーメン屋さんに突撃するんですね!?」
目の前には天味鶴という看板をつけたラーメン屋さんがある。最近できたお店で外装も内装も綺麗だ。
「いいですかイリナさん。ここは醤油ラーメンが売りのお店でして、ワカメと煮干し、それに鶏の足で出汁をとっています。麺は細めの縮れ麺。鶏ガラのスープとよく絡むんですよ。あ、あとここのチャーシューはかなり時間をかけて熟成させたものを使うためすごく柔らかいんです。噛んだ瞬間に消えるような感じなんです。あっそうそう!!ここの餃子!これも絶品でしてね!噛んだ瞬間に肉汁が溢れて来るんですよ!!いやー一体どうやればあんなに美味しい餃子を作ることが出来るんですかね。俺としてはきっと強火で手早く焼いているからだと思うんですよねー。いや、本当こればっかりは俺もわかりませんからね!そういえばまだ麺の詳しい説明をしてませんでしたよね!ここの麺は細めの縮れ麺だとは言いましたよね?実は麺はここが自ら作ってるんですよ!!各地に赴いて美味しい水を見つけ、粘りと弾力がちょうどいい小麦を見つけて取り寄せて毎朝お店で作ってるんです!だから毎日作れたてのモチモチ麺を食べれるんですよ!いやー、本当いいお店ですよね!それじゃ行きましょうか!!」
「…………………………」
ん?なんだこの間は。
「………………ど、どうしました?」
「いや、なんかもういいや。お腹いっぱいだよ。」
スタスタとお店とは逆方向に歩いていくイリナ。
「えぇ!?行かないの!?ちょっと待ってくださいよー!!食べましょうよ!ほら、あっさり目のラーメンですから朝食にも最適なんですよ!!ちょっと待ってーー!!」
結局お店を変えることにした。
「はぁ…………何が悲しくてマックに来てるんだ。」
ラーメンを食べたかった…………………くそっイリナ。どうしてだ、俺の熱弁を聞いてなぜ食べる気にならないんだ!
「いいでしょ。無難が一番いいんだよ。」
「無難ねー。というか以外ですね。てっきりこういうお店は来たことがないと思っていましたよ。」
なんかお嬢様らしいからな。お嬢様っぽくないけどお嬢様らしいから。
「いやー。実は来たことないんだよね。さっきのは知ったかってやつさ。友達がよく耳にするからこういうところに来たかったんだよ、いやー夢が叶ったね!」
「ふーん……………よかったですね、夢が叶って。」
俺の夢は未だに叶いそうにないがな。
「あれ?そういえばイリナさんに友達っていたんですね。驚きですよ。」
「いないわけないじゃないですかー!私ほどの人間になれば友達などぽぽいのぽいと作れますよ。」
捨ててね、その音だと。
「ふーん………羨ましい限りですね。」
「そうそう!そういえばクラスの人から聞いたんですけど、ミフィー君って昔、問題起こしたんですって!?やんちゃ坊主じゃないですか!」
「ああ、あれね……あれは若気の至りってやつだよ。」
当時高校一年生の時。家に帰っている途中不良に絡まれてしまった。その時不幸にも宏美がいなかったため路地裏へと連れて行かれたのだが、まぁそのあれですよ。正当防衛ってやつですよ。そこらへんにあった鉄パイプでフルボッコにしてしまったってだけのお話ですよ。本当にただのそれだけです。その後病院に連絡して先生に話して一週間の停学をくらい今に至る。
「しかし怖いねー。こんなに温和な生徒会長が一回停学受けてるんだもんね。」
「本当な。あの時はどうかしてたんだよ……………色々と嫌なことが立て続けに起こってたからな。」
「まぁ、そういう時もあるさ。おっ、この照り焼きバーガーってやつ美味しいね。」
「ふっ……………照り焼きバーガーを美味しいと思うとはイリナさんもお子様だな。」
「とか言ってるミフィー君も食べてるじゃん。」
「いいんだよ俺は。お子様であることを自覚してるんだから。」
「そういうのは自覚しない方がいいよ。」
「かもね。」
モシャモシャとハンバーガーを食べ続ける。
「話は変わるんだがイリナさんはどう思う?あの世界のことをさ。」
「あー表面世界のこと?どうだろうねー、なんとも思ってないよ。」
「いや、思おうよ。一応あそこで頑張って戦ったりとかしてるんだからさ。」
「と言われてもーーー、なんとも思えないよね。おっ、このフライドポテトってやつ美味しいな。」
「あっ、おいちょっと!何俺の食ってるんだよ!!」
「いいじゃんいいじゃん。減るもんじゃあるまいし。」
「減ってますけど!?」
かなり速いスピードでポテトを食べてゆくイリナ。
「いいのいいの。ミフィー君の真心は減ってないでしょ?」
「いや、結構な速さで減退していってる。」
うわー、なんて速さだ。あれ?もしかしたらイリナに最後の一個を食われてしまう?
「ちょ、ちょっと待て。最後の一個は俺のために残して置いてくれよ?」
「あっ、ごめーん。これラストだよ。」
ひょいっと最後の一個を掴み、
「いや、ちょっと何してんだよ!」
「いいじゃんいいじゃん。」
口の中にヒョイっと入れてしまった。
「えへへ、本当に美味いねこれ。」
満面の笑みでそんなことを言われるとあれだな。怒る気も失せるな。ったく、本当に俺は人がいいんだから。
「いいよいよ許してやるよ。俺にはこの照り焼きバーガーがあるからな。」
モシャ
うん。このソースがいいんだよね。
ラーメンを食べれなかったのは残念だがこれはこれでありだろう。イリナも喜んでくれたみたいだし。いや、本当照り焼きバーガー美味いな。




