徹夜後の悲劇
ゴツい、体の全てを多い尽くす鎧をつけた者は走り続けた。走って走って走り続けた。後ろからは制止を促す声が聞こえるがそんなものには構わない。泣きたい………いや、吐きそうだ。胸の奥から来る悲しさ、憤り、辛さ、混乱。全てを吐き出したかった。吐き出したらどれほど楽だろうか…………でも吐いてはいけない。吐くことは逃げることだ。背負うべき全てを放り投げ、逃げ出すことだ………
その者は立ち止まった。
だが巨大な鎧を付けたまま走り続けることは無理だ。いずれ限界を迎える。でも立ち止まってはいられないから走り続ける為に、限界を引き延ばす為に…………そして、胸からくるこの嘔吐感を抑制する為に、その者は鎧を脱いだ。吐いたらどれほど楽だろうか………この思いを、この全てを………………
パチ。
目を開くと天井が見える。当たり前だ、寝てたのだから。
「あー………すっげぇ嫌な夢を見た……………」
そして、すごく悲しい夢だった。身体中は汗でベトベトだ。もう夏も終わろうとしているというのに……………
「しっかし嫌な夢だったな………まさか炎帝が出てくるなんて……………」
今まで一度もこんな夢を見たことはなかった。いや、夢すらも見ることは少なかった。
「嫌な夢を見た日って必ず嫌なことが起こるんだよな…………本当、恨むぜ。」
俺は立ち上がり居間へと向かった。
「さてさて皆さん。準備はととのってますか?」
今日は土曜日!なんと、あのミステリアスガール雪さんの家で超絶美少女ことイリナの歓迎パーティーをするのだ!男なら誰だってウハウハしちゃうよこんなの!
いい気分だ。雨でなければ尚最高なのだけどこればっかりは仕方ない。天候を操るなど一般人が出来るわけがないのだから。
「そうですね。ある程度のお菓子とクラッカーを少々持ってきました。」
「なんか色々持ってきた!」
「…………マシュマロとケーキが沢山です。」
「俺はケーキと焼き鳥とクラッカーと最近俺の好物となったマカロンとウノとトランプとゴミ袋と掃除機とジェンガを持ってきたぞ!」
キャンプ用のバック2個にパンパンになるまで入れてきた!もちろん痛まないように保冷剤も入れてきたし何かあったら困るからお金も多めに持ってきたぞ!
「用意周到と言うか持って来すぎですよ!どんだけ楽しみにしてたんですか!」
楽しみに?俺が楽しみにしてただって?ふっ、別に楽しみにしていたって言うかこれぐらいするのは当然でしょ?沢山の食べ物と飽きない為の沢山のオモチャ。備えあれば憂なしとはまさにこのことさ!
「いやいや、君たちが少なすぎるだけじゃないのかね?俺は会長としてある程度落ち着きのある、必要最低限の、厳選した物を持ってきたんだけどね……………君たち、配慮が行き届いてないんじゃないかな?」
「うざったいなその顔。と言っても?私はちゃんとサプライズとしてある物も準備してるからな!配慮には行き届いているのさ。」
「サプライズ?そんなの聞いてないぞ………いや、聞いてたらサプライズにならないか。」
「そういうこった。まぁ、サプライズのことはイリナちゃんには内緒だぞ。」
サプライズか………あれ?もしかしたらそれを用意する為に昨日は雪さんの家に行けなかったとか?……期待できそうだ!
「…………食べ物はリビングのテーブルに置いてます。」
「ん?ケーキとマシュマロ以外にですか?」
雪さんの手にはケーキとマシュマロが沢山ある。多すぎて顔が見えないぐらいだ
「…………満漢全席あります。」
「ま、満漢全席!?え?今満漢全席って言いました!?」
え?……え!?………満漢全席?いや、きっと聞き間違いだ。満タン一杯って言ったんだ。そうに違いない。きっとラーメンが器が満タン一杯になるまで入っているのだろう…………そうであると信じたい
「……………ニコッ。」
満面の笑みである。………な、なんなんだ………全く読めないぞ。読まれることには慣れてるけど読むことには慣れてないんだ俺は!
「お、おお…………じゃあ翔石君だけ少なすぎないか?」
「少ないですって?この僕が?ははっ![隠し球の翔石]と野球の時に毎日呼ばれていたこの僕を舐めないでいただきたいですね!」
「…………なぁ、翔石君。君さ[お前は隠し球だから無闇矢鱈に試合には出せないんだ!だから機会になるまでベンチで試合を見ていてくれ!]みたいなこと言われなかった?」
「おお、すごいですね会長。確かにそんなことを言われましたよ。よく分かりましたね。」
切ないなぁ………俺ですらそんなことは一度も言われたことがないぞ………
「……………もし今度野球をやったら君のことは普通の選手とみなしてビシバシ試合に出すからな!覚悟しろよ!」
「くっ………まさかこの僕をそこらへんの普通の選手とみなすんですね…………いいでしょう!この僕をそう扱うのを認めましょう!」
胸をそらして得意げに話す翔石君。なんだろうな………やっぱり天才っていうのはどこか抜けてるのだろうか………よくわからないな…………
「それじゃあ君たちは準備をしといてくれ。俺はイリナさんを向かいに行ってきますから。」
流石にイリナ含めた全員で雪さんの家に来てその場でクラッカーを鳴らすっていうのは味気ない。やっぱり来た瞬間にイリナの前から皆でクラッカーを鳴らす方が嬉しいはずだ。少なくとも俺はその方が嬉しい。…………まぁ、今までそんなことをされたのは一度しかないのだけども………おかしいな、俺は憎まれるようなことはないはずなんだけどな…………なんでこうも人間関係において良い思い出が少ないんだ?俺は生徒会長だぞ?いいことをしてきたんだぞ?もうちょっと慕われていて祝われるもんじゃないのか?………まぁ、彼らがいるからいいんだけどさ。
1人でイリナの家へと歩き続ける。
ピーンポーン
インターフォンから軽快な音が流れる。目の前にはアンティークな木製の扉。もちろん引き戸だ。ここはイリナの家。出会ってまだ1週間も経っていないのに俺はもう4回来ている。いつもここから表面世界に行くのだから。
ガチャ
扉が開き私服姿のイリナが出てくる。
青色のワンピースを着ていた。ぱっと見、ははぁあぁ!お嬢様ぁぁ!!みたいなそんなオーラが溢れている……それに比べて俺はジーパンにパーカー………今すぐ家に帰って着替えたい。まぁ、そんなこと言っても俺はジーパンとパーカーしか持ってないんだけどね!
「それではお嬢様。行きましょうか、」
「誰がお嬢様ですか……そう言われるの嫌なんですよ。なるべく呼ばないようにしてくれませんか?」
うーん……その口調だけでも十分お嬢様な気がするんだがな………
「分かりましたよ。人の嫌がることはなるべくしないようにしてますからね。それでは行きましょうか。」
ここから雪さんの家までは30分かかる。お口が達者でない俺からすればどう会話をつなげたらいいのか分からない。その服綺麗ですね。みたいなことを言うのは恥ずかしいし………昨日の用事って一体なんだったんだい?って言うのもなんだか………いや、これでいいのか?これが一番最適なんじゃないか?
「えーっと、昨日の用事って一体なんだったんですか?」
「興味ありますか?………言ってもいいんですけど実にくだらないことなので言う必要もないんですよね……………そこまで聞きたいですか?」
なんだ?聞かない方がいいのか?聞いた方がいいのか?ようわからんな………こういう時に弟か妹がいれば助言を請うことが出来るんだけども悲しいことにいないからなぁー。…………めんどくせー!聞くか!もうめんどくさい!俺もう聞いちゃう!
「興味ありますね。何があったんですか?」
「本を返しに行ってたんですよ。ズッコケ3人組を返しに行ってたんです。」
「わぁー………翔石君とは対照的にお子ちゃまでちゅねー。もうちょっと大人な物を読まないんでちゅかー?」
「そうですねーあとは世界の拷問集も借りてきました。」
「いや、もう。流石はイリナさんだ!なんともまぁ大人な、ビターな物を借りて来ましたね!俺なんかじゃそんな大人すぎる本、借りれませんよ!」
やばい!褒めておかないとやばい!殺される!いや、殺されはしないのか………死んだ方がマシな苦痛を味わうんだもんな………あぁぁ!前言撤回したい!
「そうでしょう?これはあることの参考にしようと借りてきたんですよ……ふふっ……。」
「へ、へぇー!!参考にですか!!一体なんの参考なんでしょうかねー!!ちっとも想像つかないなー!!!!」
なんだよ最後の笑いは!くそっ………なんの参考か想像できるが想像したくない………出来るのならばそんなことが起こらないで欲しい…………
「そんなことよりミフィー君。昨日視線を感じませんでしたか?」
「………昨日?雪さんの家に行く時は何も感じませんでしたけど。」
「なんでそっちにいくんでしょうか……………表面世界でですよ。」
「ああ!あっちね!そっちじゃなくてあっちね!ふっふっふっふっ………………感じましたよ。感じましたとも………これで俺も王道バトルマンガみたいに[むっ殺気!?]って言えるようになったんですね!!」
「どちらかと言うと殺気と言うよりは見てるだけのような感じがしましたね。注意深く観察してるような、そのような感じでした。」
「ふーん…………そうだったんですか、」
まだまだ俺は未熟だな。視線の気色が分からないとは…………やはりバトルマンガのような派手な戦闘はまだまだ先のようだ。
「とにかく。まだ相手は戦いを挑むような気配もないのでほっておきましょう。時折視線を感じても無視してください。」
「わかりました…………あれ?その視線の者はモンスターなんですか?それとも………」
俺たちのようにこの世界から来ている者なのだろうか?
「多分あれは私たちと同じでしょうね。そして、私たちと同じと言うことは少なくとも聖騎士クラス。もしくは魔族なら公爵以上ですね………………強さは鬼やあなたが逃がした蝶なんかとは比べようがありません。比べたとしても500倍の力はあると思ってください」
「5、500倍!?………勝ち目ないじゃん」
「まぁ、私がいるから大丈夫ですし。それに、力といっても筋肉がすごいとか鬼以上に力持ちなんてことじゃないんです。賢さと能力が異常なんです。」
「賢さと能力が異常…………力がすごいんじゃないなら俺にも勝ち目はあるんだな」
「………あり得なくはないですけど確率的にはあり得ないですね。素手で牛に挑んでるようなものですよ。勝てることは勝てるかもしれないですけどそんなもの絶望的です。」
「武器があればいいんだろ?魔剣が俺にはあるじゃないですか。」
「そうですけど………………」
心配そうにこちらを見てくるイリナ…………どうやら俺の身を心配してくれているらしい。まさかこいつが心配するとはな……………驚きだ。
「わかりました。なるべく自分から戦うようなことはしません。でももし相手がいきなり来たらその時は応戦しますよ。」
「いや、来ても逃げてください。絶対に逃げてください。そんなことで命を失うようなことはしないでください…………」
…………そりゃそうだ。俺には一つの夢がある。それまでには絶対に死ねない。
それにやはり、イリナも辛いのだろう。目の前で人が死んだのだから。守れなかったのだから……これ以上身近な人を失いたくないのだろう………くそっ、俺は……俺は…………
「………………俺は絶対に死なないですよ。死ねない理由がありますから…………それに……………全てをあなたに任せるわけにはいかない。そんなことをしたらあなたが死んでしまうかもしれない。いや、あなたほど強い人が死ぬようなことはないと思いますが……………でも、俺はイリナさんが死ぬのは悲しい。悲しいというか多分俺は泣き崩れるだろうし、生きて行けないと思う。」
「…………なんですかそれ……」
呆れているというかよく分からないというか。とにかくボヤーっと俺を見つめるイリナ。
「まぁ、色々とあるんですよ。とにかく俺は死なないし死ねない。ましてや貴方を、身近な人たち全てを殺させもしない。俺はハッピーエンドしか望まないんですよ。」
まずこれはハッピーエンドになれるのだろうか?俺のような弱っちい奴が全てを守れるのだろうか?…………全てを許してもらえるのだろうか………………まぁ、許してもらおうなんてことは虫のいい、酷く理不尽で身勝手で全てから逃げるせこい手だ。夢に出てきた炎帝のように全てを吐いてはいけないのだろう。堪えないといけないのだろう。
「…………やっぱり、あなたはいい人ですね。」
小さな、かすれるような、喜びのような、悲しみのような………….聞き取れない言葉。
「うん?なんですか?」
「ふふっ……今日のパーティーはどんなものか楽しみだと言ったんです。」
「ああ!期待しといてくれ!俺達マジで色んなもの持ってきたから!」
2人で話しながら雪さんの家へと向かう。
パン!パン!パパン!
イリナがリビングの扉を開けた瞬間クラッカーが鳴り響く。
「いや、ありがとうありがとう。実にありがとう。まさか俺を祝ってくれるなんて……」
「イリナさんの歓迎パーティーだと何回も言ってるのでそのボケは通じないですよ。」
「だよねぇー…………と言うわけで時間が経ってしまいましたがイリナさん。転入お疲れ様でした!そして、この学校へ来てくれてありがとう!」
パチパチパチパチパチパチ!!!
皆で拍手をする。俺はというと小学生とかがよくやるように力任せに、思いっきり音がなるように拍手をする。
「何言ってるんですか!こんなに歓迎してもらって…………感謝を言うのはこちらですよ。本当に………ありがとうございます。」
ぺこりとお辞儀をするイリナ。律儀だ。実に律儀だ
「よっしゃああ!挨拶も終わったことだしパーティーをしようぜパーティーを!」
皆で笑い合いパーティーは始まった。
リビングはあの折り紙を輪っかにして繋げたやつが所狭しとぶら下がっている。表現がおかしい?いや、所狭しとぶら下がっているんだ。天井全てが輪っかリボン(今命名しました)で埋め尽くされているのだ。
どうやら昨日雪さんが俺が帰った後に作ったらしい。……これを一日でやっただと?いや、輪っかにしてつなげるだけだからなんとかなるか………でもやはり凄いな。これは凄い。正直クラッカーなんかよりもこっちに目がいった。
そして部屋にはテーブルが2個あるのだが、片方のテーブルの上にはラーメンとケーキとマシュマロが置いてある……雪さんにとっては満漢全席だな。そしてもう片方には俺が持って来たお菓子とオモチャと翔石君の隠し球、彼がこの日の為に自作した[イリナさん歓迎ゲーム]が入っているパソコンが置かれていた。もちろん後でイリナさんのパソコンにデータを送るらしい。
「…………一言いい?」
そして宏美が持ってきたのは仮面だった。
「なんで親睦を深めるパーティーで仮面なんかつけてんだよバカかお前ら!顔見せろや!」
「えーーでも結構面白いですよこれ。ウサギとかクモだったり、色んな仮面があって。」
「面白いのはわかるけど、それは仲良くなってからだろ!日常のアクセントとしての仮装だろ!顔を見せあいっこしなきゃあかんやろ!」
「えーーいいよ、私、もうこの顔飽きたし。」
「知らないけど!?イリナは飽きてないからね宏美の顔には!」
「スパイダ〜〜。」
「屈辱!やめろそのウザいポーズ!」
両手を突き出し中指と薬指だけを折り曲げたウザったいポーズをしてくる!ふざけるなよ!
「そう怒るなって狩虎。何事も楽しまなきゃ損だぞ。」
「いや別に怒ってないけどね?俺はもうあれだ、器が広いことで有名だから。器の大きさが世界で56位ぐらいあるから。」
「ありそうでなさそうな数値〜言うんじゃない。ネタに思えないだろ。でも確かに狩虎って怒らないよな、怒ったのなんて今まで1度しかないぞ。しょぼくれるのといじけるのは何百回とあるがな。」
「おいおーい。確かに最近俺はいじけてしょぼくれてたが何百回はなかったぞ。」
「ん?そうだったか?…………やっぱりいじけてるじゃないかこのページのお前なんてさ。
……………何を指差してるんだこいつっ!?
「おい!なんで持ってきてるんだ貴様!俺の恥部を見せるんじゃないぞ!それは俺の暗黒期なんだから絶対に見せるんじゃないぞ!」
卒業アルバムじゃねーか!ふざけんなよマジで!
「それは振りですか?」
「振りなわけないだろうがあぁぁああ!!!!こんなに必死に説得しようとしてるのに振りだと思うのか!?おい開くな!開けるんじゃねぇえぇええ!!!」
ダッ!
チーター顔負けのスタートダッシュをかまし一気に宏美までの距離を詰める!
卒業アルバムを奪って焼き捨てなくては!俺の暗い過去が見られてしまう!そして、奪う為には仕方ないが暴力を使わなくてはならないだろう…………はっ!表面世界で鬼と蝶を倒した俺だぞ?その俺が宏美に負けるはずがないんだ!
スパパパパパパーーーンンン!!!
いま俺は床に突っ伏している。
………分かってたさ。俺が負けるなんてことは分かっていたさ……………それでさ、勝つってこと分かってるんならさ、顔を往復ビンタをするのはやめようか……………痛すぎる。これなら一発大きいのを食らう方がまだいい。
「ぐっ……顔が腫れ上がっている気がする…………それともしやと思うがお前がサプライズとして用意したのってそれ?」
「これだぞ!いやー良いサプライズになったよな!」
「確かに俺はすごく驚いたけどイリナさんは全く驚いてないじゃないか!ずっと笑ってるし!」
めっちゃ笑ってる………ドッキリの仕掛け人みたいに笑っている…………ま、まさかイリナは宏美が持ってくるものを知ってたとかそういうのはないよね?
「もちろんこれは誰も知らなかったんだ。皆驚くかと思ったんだけどな……狩虎しか驚かなかったよ。」
「なんでみんなが驚くと思ったんだ?そしてよく考えるとアルバムを見られたからって俺の暗黒期の事件を知られるってわけじゃないよな………いいよ、好きなだけ見てくれ。」
俺に害がないのならどうってことはない。いくらでも、好きなだけ、おおいに見てくれ!俺以外の全員がアルバムをパラパラとめくる。
「ほとんど顔は変わってないんですねー!しかしまぁー小さいですよ!うわ!小さい!…………小さいですねー!!」
こっちをチラチラ見ながら言ってくる。
「こっちを見ながら言うな!仕方ないでしょ!身長が伸びたのは中学生の頃からなんですから。」
小学校の頃はかなり小さかった。常に前から4から5番目で、6番目で結構いい方だったし………でも中学の時に一気に伸びたのだ!もう、ズギャーン!っと伸びた。
「お、これは宏美先輩ですね?いまと違って髪は黒色ですね……………」
翔石君は無言となった。いや、きっとあれを言っていいのかどうか分からないのだろう。
「翔石君。どう思う?イケメンだと思わないかい?」
今この世の中には禁句が沢山ある。なぜか?それはその言葉を言うと確実に誰かに害が及ぶし、そして何より言った本人に対して凄まじいほどのブーメランが飛んでくることが多いからだ。不利益と言う名のブーメランが………………そして今彼はその禁句を言っていいのか悪いのかを図りあぐねている。自分にも他人にも正直であることを要求するような努力型のまっすぐタイプ。そんな人が果たして嘘を言えるのだろうか?…………………言えるのだろう。言うことは出来るのだ。もし言わないと命が危ないってなれば言うのだろう。ただ、前述で話したのは普通の人にしか当てはまらない。彼は個性の強い変人なのだ。そして彼のその強い個性は正直さというものをより強固に、より強度に作り上げてしまった。誰よりも正しくありたい。そう考える彼がそんな嘘をつけるのだろうか?翔石君の顔に汗がうかぶ……………
時折俺と宏美を交互に見てるしな。………………ふふふ、彼はイケメンというのか?言わないのか?俺としては自分の信念を貫いてボコボコにされるのを見たい………………ぐへへへ!!
なんて思っていると決心がついたのか翔石君は顔を引き締めた。いい顔だ。まるで決戦にいく前の男の顔だぜ………………それが苦痛でゆがむのかと思うと残念極まりない……………まぁ、そんなこと思うわけないんだけどな!!
「い、イケメンですね宏美先輩!」
うおおおおおぉぉおぉおおおお!!!言ったぞぉぉぉぉおおおぉおおおお!!!今!翔石君!宏美に!言った!!よっしゃあぁあ!!!宏美よ!早くそいつをぶっ飛ばしてしまえ!いつもの俺のようにな!
「そうか…………イケメンか………………よく正直に言ったな。殴るのはなしだ。」
「ヘイ!メーン!?何いってるんだ!?なんで何もしないんだよ!ほら、何もされなかったから翔石君ポカーンとしちゃってるだろうが!なんでいつものようにボコボコォォゲェ!!」
殺人キックが俺の腹に容赦なく決まる。
「誰が男だ。……………いいんだよ、翔石は殴りにくいけどお前は殴りやすいんだよ。だからいいんだよ。」
「よ、よくない……………そ、そういうのをさべ、つと言うんだぜ?………………」
しかもそうなると俺の身が持たない………………どんだけ痛い思いをすればいいんだよ。
「な、なぁ…………イリナさん。平等に翔石君もボコられた方がいいよな?」
「うーん……どうでしょうね………悪平等ってわけではないんですからいいんじゃないですか?ミフィー君だけがボコられるっていうのも。」
「はあぁぁあ!?悪平等でしょどう考えても!てか見ろよ翔石君を!予想外すぎていまだに放心してるぞ!?」
ずっとポカーンと壁を見続けている………あんなに悩んで悩んで覚悟を決めて言ったのに殴られないで許されるなんて………………誰も考えつくわけないよな!!あの翔石君ですら考えついてないのだから!
「仕方ない。目覚めさせる為に軽く叩いてやるか。」
宏美は翔石君のもとへ行き一発軽めにビンタをした。
「はっ…………!?い、一体何が起きたんですか!?」
「え?気絶してた?」
まじかよ…………どんだけショッキングなことだったんだよ
「…………ああ、思い出してきました。殴られなかったんですよね…………ちょっと昨日、一昨日とゲームを作るのに徹夜してしまってそれが原因で気絶してしまったのかもしれませんね。」
「徹夜したの?でも全く眠たくなさそうだったけどな。」
2日も徹夜したら普通は目にクマはできるしなにより異常なほど眠たくなるのだ
「授業はほぼ全て寝て過ごしましたからね。だから生徒会では眠たそうには見られなかったはずです。」
「授業をほぼ寝て過ごした!?…………まぁ、寝ててもいい点とれるから別にいいのか…………」
何度も出てきているけど翔石君は天才だ。それに加えてすこぶる努力をしている。1年生ではトップクラス!トップオブザトップ!常に1位を守り続けている男なのだ!
「はい。図形の性質とか正直やり終わってるので授業を受ける必要ないんですよね。」
「へ、へぇー………………ま、まぁとにかく!パーティーを楽しもうよ!!」
色々と問題はあったがパーティーは4時ごろまで続いた。雪さんの両親が5時には帰ってくるそうなので4時に切り上げて後片付けをする為だ。どうやら雪さんの両親は共働きで土日も働いているらしい。俺とイリナの家とそうかわりはない。
そして俺たちは4時半ごろに家を出て翔石君は俺たち方面ではないので玄関で別れ、3人で帰った。




