無駄の光明これにつきる
ザッザッザッ
相手はやはり3人がステージに上ってきた。まぁ、そうでしょうね。何となくそんな気はしていました。
「まっけっろ!!!」「まっけっろ!!!」「まっけっろ!!!」「まっけっろ!!!」
ウォォオオオオオ!!!!
負けろコールは今まで以上に大きく膨れ上がり、本当にそれ以外何も聞こえない状態だ。しかもこれから歌恋さんの実況が入るわけですから…………これはたまりませんね。ちょっと消しますか。
パチン!
「………え?消えた?」
相手チームの1人が呟いた。
私達の周りの音が全て消えたから驚いたのでしょう。まぁ、驚かないわけがない。だってみんなが知っている私の魔力じゃないのだから。
「すいませんね、周りの音があまりにもうるさかったので消しました。……邪魔なんですよね、私達は貴方達と交渉がしたいのですから。」
「………交渉?何を言ってるんですかね。この森脇姫子は、一度決めた決心は揺るがない女ですよ。そうやすやすと貴方達の口上にハマるようなことは…………」
「じゃあまず私の魔力についてみなさんにお伝えします。みなさん、少なからず私の魔力について疑問があるでしょう、戦闘の前にそれを解明しておきたいと思いませんか?」
「………交渉材料にしては美味しいですね。良いですよ、勝つために貴方達の話を聞いてあげます。」
森脇さんが柔軟な人でよかった。
「とある一族って知ってますか?……いや、知らないわけないですよね。苗字も呼称も何もかもが謎に包まれている、不可思議な集団。………実は私、その一族の者なんですよ。」
その言葉を聞いた瞬間、敵の表情が曇った。
「一族の者は生来の魔力の他に1つだけ、魔力を自分に付加することができる。………そうです、私のテレパシーは後付けによって身につけた魔力なんです。」
後付けの魔力は上位聖騎士レベルでしかない、言ってしまえば生活をより快適にする便利なものぐらいの位置付けでしかない。
「私本来の魔力は音の支配。私が生み出す全ての音に意味を与え、私の周り全ての音を掌握し、支配するものです。ほら、今だって私の周りの音を消していますよね?嘘じゃないんですよ。」
添付のテレパシーは仲間と認め合った者同士で会話ができる程度の能力で、音の魔力もまた音を支配するだけ。だけれど互いに作用することで、音にテレパシーという意味を与えることで、心中の思考をもまた音として拾うことができるようになり、微かな息遣いや心音を拾うことで心情を把握することができるようになった。
「で、それを応用した私の一番人を殺せる技が、音に刃の意味を与えて私を中心にした音が聞こえる球形状の範囲の全てを細切れにすることです。秒速360メートルで飛ぶ全方位型の見えない刃ですので、必死です。そうそう、使うときは振動を強めにするので音響透過率も低くなりますから、体がバラバラの挽肉状態になれますよ。」
これだけ見ると私の魔力も強そうに見えるのに、加減が効かないというのが使い勝手が悪いですよねぇ。皆殺しか誰も殺せないかの両極端。はぁ、バランスが取れている勇者が羨ましい。
「さて、私の魔力の説明をしたところで、交渉に入りましょう。殺されたくなければリタイアしてください。」
「………脅迫っすねまるで。」
黒垓君が苦笑いした。
「私は避けられる殺戮は全力で避けたい主義なんです。まぁ、必要ならば躊躇なく殺しますがね。どうです、さっさとリタイアしてくれませんか?」
「…………」
「森脇さんは苦い顔をした。勝ち目がないことを、いや、[もしかしたらこいつが今言ったことはハッタリで、一か八か勝負に出ても良いんじゃないか………いや、でも、もし本当だったらここの仲間全員が生き残れない……どうしようか。]と、思い巡らせて苦悩しています。わかりますよ、非常によくわかります貴方の気持ち。」
私は彼女の決断を急かすように、彼女の心境と周辺状況を読み取り、言葉に出す。
「大切なことなので何度も言いますよ。私は、出来ることならば殺戮は避けたい。けれど、貴方達が邪魔をすると言うのなら、遠慮なく殺します。私達の仕事に差し障りがあるようなら尚更。」
「………あなたの仲間はどうするんだ。あなたの攻撃で死んでしまうかもしれませんよ。」
森脇さんは重たい口を開いた。
「あーーそれは安心してください。彼の魔力なら私の攻撃を9割5分ぐらい防げますので。まぁ、ちょこっと切れるかもしれませんが、軽傷で済むんですよ。だから、彼は私と一緒に行動できる数少ない人間なんです。」
後は飯田君とイリナさんですかね。飯田君の魔力は、アルケーとクレイスを燃やすことが出来ますし、イリナさんの身体能力なら私の攻撃を避けきることができる。彼女普通に音速を超えて来るからなぁ………
「………観客はどうするんです?いくら障壁が張っているとはいえ、音のような目に見えない振動を全て防ぎ切れるとは思えないのですが………」
「それも安心してください。試合が始まる前に慶次さんに言っておいたので、今の障壁の強度と密度はマックスです。最高幹部の魔力でも防ぎきれるレベルにまで上がっているんですよ。だから、本当は全員黙らせたいのですが、彼らが怪我を負うことはありません。染汚です。」
「………困ったな、勝ち目がないな。」
森脇さんは頭をかいて、ため息をついた。
「さすがの私も死にに行くためだけに攻撃するほど馬鹿じゃないし、そもそも仲間にそんなマネをするクソじゃない。………困ったなぁ、どうしようかな。」
………諦めつかないですよね、それは仕方がない。こんな中途半端な形で試合が終わってしまったら私だって嫌な気持ちになるし、なによりも彼女はこの決定戦に確固たる意志を持って、絶対の目的を掲げ挑んでいる。それを変えるのは確かに難しいことだ。
でも、だからこそ、彼女に変わってもらわなくては困る。
「……あなたが夢描き、あなたが求めようとしている世界は、前の旅では成し遂げられなかった。イリナさんという鋭くハッキリとした輝きでも成し遂げることはできなかった。」
1人の男の行いで、彼女の理想を追い求める旅は終わりを告げた。彼女が、彼女達が求めたものを手に入れることはあり得なかった。彼女ですら、できなかった。
「でも今、彼が、ただ死ぬためだけに用意した、意味のないと吐き捨てた上っ面の物語に意味が与えられようとしている。元からくすぶっていた小さな炎がイリナさんに触発されて、より大きな光を生み出そうとしている。」
………長かった。ここまで来るのに相当の時間を要してしまった。やはり彼の意思を逸らすのは一筋縄ではいかない。だけれど、彼の意思は確実に今、一つのことに向かった。死ぬことすらも厭わない彼の意思が、大きな物事へと向けられたのだ。
「カイ……その名を口にしても今の貴方達には分からないでしょう。けれどそのカイとイリナの物語は、一度バラバラになり、ねじれを繰り返しながら、姿形を変えることなく、けれどまた別の物語へと変わりつつある。より強大で、より明確で、より広い範囲を照らしうる絶対の輝き。それが今生まれようとしているんです。邪魔なもの、必要なもの全てを力へと変える炎が燃え上がっているんです。貴方の夢を、カイの夢を………私達の夢を載せて。」
「………つまりは彼らに全てを託せということですか?私達はさっさと諦めて。」
森脇さんの目は変わらない。……いや、変わってはいる。変わってはいるのだけれど、それ以上に迷いが、意思が彼女の顔を支配していた。ただ心はコロコロ変わる山のように吹雪、快晴、土砂降りだ。
「託すのではないです。彼らをサポートするんですよ。今、一番世界を変えられる人間がより輝けるようにするってだけなんです。だから、今、リタイアして下さい。」
私達の仕事と同じだ。彼らをサポートし、良き方向へと誘導し続ける。それが私達の使命であり、また、私の意思だ。彼のあの目がどれほどまで輝くのか、彼のあの思考がどれほどまでに研鑽されるのか、私はそれを見たくて仕方がない。
「…………はぁ、わかりました。私は柔軟な女ですからね、貴女の強い想いを無視するようなことはしません。女心と秋の空、男心と秋の空。人は移ろいやすいものですね。……その、貴女がべた褒めする彼とやらのこれからを私も見てみたくなりましたよ。」
森脇さんは空を見つめた。目を細め、少しだけ下がった目尻が、彼女の心を示していた。
ほんの少しだけ曇る空も、彼女の心を映していた。
「………カイか、聞いたことないはずなのに、どこか懐かしいですね。それに飯田さんの顔も………胸がざらつく。」
そう呟いたあと、彼女は王様達がいる観客席へと振り向いた。
そして、手を大きくクロスし、ギブアップを告げた。
なんでこんなに涙もろいんですかね……よく分からんとです
重要関連作品
カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/
カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/




