良い歌ですよね、本当
この世で最も難しいことは、他人を理解することである。と、俺は思えてならない。だってそうじゃないか、どんなに難解な数式も、どんなに複雑めいた法則にも[答え]がある。恒等式、方程式、何か一つがわかればそこから自ずと答えがわかる。でも、他人を理解することにおいて[答え]はない。
だから俺は数学者や科学者は利口な生き物であると把握している。だって、彼らが追い求めるものには確実な正解があるからだ。終着点がある。マラソンやカーレースのようにゴールがある。深淵を探求するというよりかは、暗闇に松明を置いて行く行為に等しい。そう彼らには明確な光源と終わりがあるのだ。だから終わりに光を照らすことができる。
だが、哲学者はどうであろうか。彼らが求めるものに答えはあるのだろうか。俺から言わせれば彼らが探求しているのは科学者達とは違い宇宙のように思える。なんの明かりを持つこともなく、ただ1人で無心なる宇宙を彷徨い続ける………大きな惑星を迂回し、遥か彼方にある恒星の光を頼りに、バタ足で進んでいるようなものだ。自分が今どこにいるのかもわからずに、終わりを見ることもなせずに………無謀すぎる。百害あって一利なしという、努力を全否定する言葉が彼らの行動にピッタリだ。
他人の心はまさしく宇宙。「宇宙はダークマターで出来ていて……」「この世は膨張し続けている………」「アンドロメダ銀河があって……」そんな、道路横にある標識のように、対象物の全てを捉えきれない表紙の切れ端のような意味のないものじゃなく、必要十分条件を満たしうる明瞭な答えそのものがないのが他人の心。
………つまり何が言いたいかって?おいおい、そんなの簡単なことだろ?俺も他人も、誰も彼も、理解し合えるのは自分のみであるということだ。そして今日これからのお話は、結局のところそんな、人の心を覗くなんていう理解不能で、人を知ろうとする茶番じみた俺の醜いあがきだ。
「竜頭蛇尾……いや、違う蛇頭蛇尾とはまさにこのこと!!始まりも終わりも微妙だった決定戦が、いやーーねぇ、こんな形で終わっちゃいますよ!!!どうすんだこれ!!!」
1時間後、俺達は表彰台らしきものの上に立ち、表彰式とやらを受けていた。
俺はイリナの肩を借りてなんとかして立っていた。本当は寝てたかったんだけど、表彰式とやらは全員受けなくちゃいけないらしく無理矢理叩き起こされた。怪我人にすることじゃないな。
上村さんは松葉杖をついて1人で立っていた。スカラさんが言った通り体に開いた穴は塞がっていたけれど辛そうだ。
てか蛇頭蛇尾って蛇100%だな。常に細そう。
「ワンズクルセイド総指揮者決定戦の優勝チームは、チーム問題児!!!そんな彼らにジジイから、羨望たゆまぬ任命書と少しばかりの金一封をチームの代表者に贈呈だ!!興味ないだろうがはいみんな拍手!!!」
ブーーブーー!!
拍手の代わりに手厚く送ってくれるブーイング。うぇっへっへっ、どんなに批判したところで俺達が勝ったっていう事実は変わらないんだぜ!悔しいねぇ、本当悔しいねぇ!
てか歌恋さん、カースクルセイドね。ワンズクルセイドって………世界が終わるまではー。はーはーなーれーるう、ことぉーもなぁーく何回も解散しそうだなおい。
俺はイリナに引きずられ、イリナに腕を動かしてもらい、賞状とお金を受け取った。まるで要介護者みたいな扱いだ。
というか本当はイリナに全て任せたかったんだけど、生きている限り代表者がこれを受け取らなきゃいけないんだとさ。生きてる限りって………参加者に厳しすぎ!人権無視にもほどがあるだろ!労働団体に訴えて民事……いや、殺人未遂で刑事訴訟してやる!!ブラック企業を許すな!!ブラックコーヒーも許すな!!頼むからコーヒー牛乳愛飲者に対してもっと優遇して!!
「なんで私がこんな、在宅介護みたいなことしなきゃいけないんだろ……」
賞状をもらいながら、イリナが呟いた。
「これが厳しい現実だ。多いらしいぜ?老老介護。」
ベキッッ
思いっきり腰に膝蹴りを食らう!!
あっば!!骨盤砕けた!!絶対砕けた!!
「私はあれさ、永遠の17歳さ。老けるとか本当ありえないから。」
ウ○コとかしないのかこいつ………
メシッ!!
今度は足を思いっきり踏まれた。
「その賞状は勝者の証!!総指揮者であるという証明!!だからなくさないでくれよな!!もし失くしたら再発行のために34万角の罰金を払ってもらうから!!それ作るの大変なんだよぉ………」
うへぇ………こんなのに34万円もかかるのか。希少価値とは恐ろしいものだな。俺もこれぐらいのレアさが欲しいぜ。
「今度は個人毎にメダルの贈呈だ!!大量受注もしてないのに製造コストは一個108角!!安い!!安すぎる!!でもまぁね、メダルの価値ってそのものの価値というよりかは思い出でしょ?みんなで頑張ったっていう事実でしょ?そこはもうね、値段に関しては笑い飛ばして無視しちゃってくれ!!」
………思い出もクソなんだよなぁ。ブーイングを受けた記憶しかないぞ。
だが主催者に、俺達出場者の意思など関係ない。チャッチャとメダルの授与が始まった。
俺とイリナは肩を持ちつ持てずの仲なので、メダルを同時に貰い、そのままさっさと帰ってきた。
次は黒垓君の番だ。黒垓君は王様の元へと行き、王様はスカラさんから受け取ったメダルを彼に渡した。………そういえば、
「最後の試合ってどんな感じだったんですか?全然盛り上がらなかったって土崎さんから聞いたのですが。」
俺はテレパシーを利用して染島さんと交信をした。
そう、俺達がステージに戻ってきた時、会場は罵詈雑言、罵詈讒謗の雨霰みたいな、絶対に外に出たくないような状況だった。土崎さんに聞いても「いや、両者ともずっと無言で、外から見ている私達は何があったのか全然わからなかった。」そうだ。
「ああ……それは仕方ないですよ、だって私達戦ってないですもん。お話しして、相手に負けてもらったんです。」
なん……だと?イリナ握手券でもなすことができなかった、無血の戦闘投了を促すことができただと!?いったいどれほどの脅迫を!!
「いやいや、違いますよ。私達は脅迫なんて一度もしてないですよ。」
「えぇ……じゃあいったい何をしたんですか。興味ありまくりですよ俺。」
戦闘を終わらせるということはそれ相応の魅力的な何かが必要だ。それを森脇さんに提示するとなると………だめだ、見当がつかない。
「互いの目標のために頑張りましょうって言っただけです。」
「目標?………目標っていったい」
「おっと、黒垓君が帰ってきましたね。今度は私の番です。」
そういうと染島さんは通信を切って王様の元へと向かってしまった。
………謎だらけだなぁ、あの人。
「師匠、オラのエアギターのパフォーマンス見てくれました?」
帰ってきた黒垓君の一言。それがもう、本当、あれだ、[黒垓君も謎だよなぁ。]という感情を抱かせてくれた。
帰ってきた後も、黒垓君はエアギターの練習をしていた。本当に不思議な人だ。
染島さんは王様の近くまで行った後、王様に、コソッと耳打ちをした。すると王様は焦り、慌てながら、身につけていた純金製の腕時計を外して染島さんに渡した。
………あんた今いったい何を言ったんだ。
染島さんは笑いながら戻ってきた。俺と目が合うと、「ニコッ」と、それはもう上品に笑いかけてくれた。
俺はもう、肝が冷えたような気分になって、笑顔のまま固まった、
次は亜花君の番だ。王様からメダルを貰うと、亜花君は
「ていっ!」
とメダルを叩き割り、磨き、その場で数本のナイフを作り出した。多分暇を持て余した神々の遊びの道具集めのためだろう。だからってこんな観衆のど真ん中で優勝景品を壊すか?やはりこの子も不思議な子だ。
「………いや、この流れで私行かなきゃいけないんですか?」
上村さんが苦笑いした。
その時、お腹に力が入ったせいか「いたた………」と言いながらお腹をおさえた。
「………まぁ、変人ならしなきゃいけないでしょうねぇ。」
一般人の俺ぐらいだ、真面目にメダルを貰ったのは。それ以外の変人は、なんかもうね、パフォーマンスが過ぎている。やりすぎ。
「まっ、健君を倒して掴んだ優勝なんですから、どかーっと派手なことをやってもバチは当たらないでしょう。自分の思うようにすればいいんですよ。」
「………そうですね!やってやりますよ私も!」
………結局やるのか。貴女も変人の部類なのか上村さん。
ナイフを作り終え、ホクホク顔の亜花君が帰ってきた。ナイフ全ての形がバラバラだ。用途ごとに作り分けたのだろう。
これは良い職人になりそうだな。
それを見届けると上村さんは王様の所へと歩いて行った。
「えーっと、上村春香。そなた?に、このメダルをあげちゃうわ。頑張ったで賞みたいな奴。えー、他のタコとかイリナちゃんとか白痴とかおっぱいとかアカとかにもね、合わせて労いの言葉をかけるぞ。頑張ったな。」
贈答の終わりだからか長々と話す王様。
おい、タコってなんだよ。白痴ってなんだよ。おっぱいってなんだよ。アカってなんだよ。そもそもイリナちゃんってなんだよ!そこはイビリ=辟易って言わなきゃいったぁああ!!!
今度は背中に肘を叩き込まれた!!折れた!!もう絶対に背骨が折れた!!刑事訴訟してやる!!もうね、示談とかないから!!1800万円ぐらいもぎ取るからな!!
そんな俺の怒りはつゆ知れず、王様はスカラさんからメダルを受け取り、上村さんの首にかけようとする。
すると上村さんは右手を王様に向けた。
ん?メダルを手で受け取ろうとしたのか?
「危ない!!」
スカラさんが王様に体をぶつけ、王様を倒す。
でも違った。そんな微笑ましいことではなかった。彼女がやろうとしたことは……
ブン!!
突如、スカラさんの周りをバリアが覆った!スカラさんを完璧に囲い込んだのだ!
スカラさんを閉じ込めたその球状のバリアーは空中へと浮かび上がった。
タタン!!
上村さんは観客席の最上部まで飛び上がった。それに続いてバリアーも飛んで行った。
「………目標確保。」
ボソッと呟いた上村さん。彼女の目には、さっきまでの絢爛な明かりはなく、ただの物体のような無味な色味のみを映していた。
本当に彼女は、宣言通り、やらかしやがったのだ。
重要関連作品
カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/
カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/




