俺の話を聞け
「ミフィー君大丈夫!?」
ピクリとも動かない俺に向かってイリナが走り寄る。
「いや、もう、全然………」
イリナの光速パンチと同じ反動だ。アルケーが損傷したせいで身体と魔力に影響が起きているんだ。
グイッ
イリナが俺を持ち上げ、肩を貸してくれる。と言っても俺は歩けないから、ほとんど引きずられているようなものなんだけど………
「………正直勝てると思ってなかったよ。」
「………俺もだ。運が良かった。」
時間制限なしの通常ルールの戦いだったら俺は絶対に負けていた。時間制限があったから、相手は勝ちを急いで最後の攻撃は大ぶりになってかわすことができた。………いや、そもそもそこだけじゃない。制限がなければ、ゆっくりと俺を追い詰めることが敵にはできた。俺がどんなに防御力があろうと、瞬間的に階級を上げることができようと、元から俺と相手の力の差は差は大きい。相手が焦ることなく、冷静に、いつもの力を出し切っていたら、俺は絶対に負けていた。
………それに、相手はちゃんと手加減してくれてたもんなぁ。魔力を使わないで、俺を必要以上に痛めつけないように戦っていた。
「………しかしすげぇな。」「騎士が第一類勇者倒すなんてありえねぇよ。」「いや、見事な試合だったな。」「見応えがあった。」
観客達が今の試合の感想を口々に述べているのが聞こえてくる。さっきまで俺を潰せ!!とか気に入らない!!って言ってた奴らだとは、今見る限りでは思えないな…………
「………気に入らないなやっぱ。イリナ、染島さんのところに俺を連れてってくれ。ちょっとやりたいことがある。」
「え?……ああ、うん。」
俺はイリナに引きずってもらい、染島さんの元にたどり着いた。染島さんに用件を言おうとしたら、思考をある程度読んだのだろう、何も言わずに俺に手を貸してくれた。
………腹括るか。
ふぅ………
俺は大きく息を吐き出した。
多分こんなことをしたら、俺は勇者領の中流階級と上流階級のほとんど全てを敵に回すことになる………だけれど、ダメだ。止められない。気に入らない。目の前に大きな欠陥があるのに、それを見過ごすことはできない。
スウッ
俺は勢いよく息を吸い込んだ!そして!
「お前らは腐っている!!!」
思いっきり、言葉として息を吐き出した!!
観客全員が耳を押さえる!!俺の声があまりにもうるさかったからだ。だけれどそんなの無駄だ。染島さんの能力を使って脳と鼓膜に直接振動が伝わるからな!!
「お前らが一体どういう教育を受けてきたかしらねぇが、それでもお前らの観戦態度はゴミだ!!ゴミクズだ!!!これなら赤ちゃんの方がまだマシなレベルだ!!!」
いままで溜め込んできた思い全てをのせて、俺の周り全てに声をぶつける!!
「騎士道精神とやらにのっとって、正々堂々戦えば戦闘は認められるとお前らは言っている!!!……ああ!?ふざけてんじゃねぇよ!!スポーツかなんかと勘違いしてんじゃねぇのか!?体に穴あけて、首がねじ曲がるほどのスポーツなんてこの世には存在しねぇんだよ!!!
今回の戦い、まるでコロッセオの見世物だ。殺し合いをさせて、観客は遥か高みで楽しむ。つまらなければ難癖をつけ、気に入らなかったらそれをなかったことにする。人の努力を全て、何もしてない奴が否定する。どっかのスポーツのご意見番みたいに。
「戦闘に貴賎なんてありゃしねぇ!!どんなにカッコよかろうが、ゲスかろうが、戦闘は戦闘!!最低の行いだ!!お前らから勇者が生まれんだろ!?てか勇者みたいなもんなんだろ!?それなのになんでこんな簡単なことがわかってねぇんだよ!!!魔族でも分かるぞこんなバカげたこと!!!」
勇ましければ、たとえ相手の首をへし折っても許される時代なんて俺が認めない!!戦争中だ!?じゃあその戦争すらも認めねぇ!!そんなもの正当化してんじゃねぇよ!!
「お前らみたいなのが戦いを肯定し、正当化するから戦争は終わんねぇんだよ!!!!」
はぁ………はぁ……………
一通りぶちまけたせいで息が荒くなる。あぁ、だめだ。肺が潰れそう。魔族にこの声量は辛いわ。
「はぁ………つーわけで、もし俺が出世して権力持ったら、まず観客席のお前ら全員を再教育してやる。んで、世界を最高に平和にしてやる。さて、改めて、チーム問題児の飯田狩虎のことを以後お見知り置きを。」
俺はイリナに引きずってもらい、ステージを後にした。
ワァァアアアア!!!!
その後、なんかステージの方から怒声みたいな、猛々しい批判中傷の嵐みたいな、なんかもう聞いてるだけで不快になるような声が聞こえてきたけれど、知るかそんなの。
「……しかし無理したわね、色々と。」
勇者領のベッドルームに横たわりながら回復に勤しんでいると、スカラさんが現れた。
「あと2時間は体は動かないし、魔力に関しては1日使えないわ。アルケーに2段階膨張なんていうあり得ない負荷をかけたせいね。」
2時間かぁ………リスニングの勉強でもしようかな。
「アルケーにヒビが入っていて、もうボロボロね。また同じことをしたらあなたの勇者の魔力は粉々に砕け散るわ。」
粉々……粉々か…………
「粉々になったらどうなるんですか?」
「さぁ?なった人を見たことがないから確かなことはわからないけれど、そうね、死人にアルケーはないってことは確かよ。」
………ああ、なるほど。これから自重だな。
「………狩虎ちゃん。よくやってくれたわ。」
スカラさんの手が俺の頰を撫でた。
「と、言いたいところだけれど、最後余計だったわ。罰を与えるわね。」
ムギューっとそのまま頰をつねられた。
いてててっ……肉がちぎれる!!
「私達の目的はなんだっけ?狩虎ちゃん、言ってごらんなさい?」
「ひ、ひゃい!ヒリナをよくおほっひぇないちゅうきゃんしょうをとりひへふほとでひゅ。(イリナをよく思っていない中間層を取り入れることです。)」
「そうね、結果は?」
「ぜんぶゅてひにまわひまひちゃ。(全部敵に回しました。)」
「つまり私達の目的は?」
「と、とほのひまひた。(遠のきました。)」
「よく言えたわねー。偉いわよ。先生褒めてあげる。」
スカラさんはようやく俺の頰から手を離してくれた。
うわっ、めっちゃヒリヒリする。なんだろう、頰が伸び切ってるような感覚がする。
「今のこの腐り切った体制を変えるにはどうしても勇者領民の、しかも中級者層以上の支持が必要なの。中級者層は農民からの成り上がり、孤児からの成り上がりが多いからね。彼らを取り込むには今回の決定戦は絶好の機会だったのよ。」
………うひゃ、すいません。本当、すいません。
「………すいません。色々とカッとなっちゃって……」
「まぁ、私もあいつらに対しては色々と溜め込んでいたところがあるから、大目に見るわ。そうね、低階層からの支持を固めることができたと喜んでおきましょうか。」
………そう言えば
「上村さんはどうしました?体治りました?」
同じ部屋にいるはずなのに、彼女の姿が見えない。何かあったのだろうか。
「治療中よ。体の穴は埋まったけれど、臓器の負傷と神経の繋ぎ直しは終わってないの。だから絶対安静よ。」
あら……まだ治ってないのか。腕が吹き飛んだ時とかすぐに治ったんだけれど……おかしいな。
「私が作ったベッドは使用者の魔力を利用して体を回復するように魔法を編み込んでいるの。だからあなた達みたいに腕が切れたりしても、ものの数秒で治るなんてことは普通ありえないのよ。」
………はぁ、ベッドの仕組みはそんななのか。通りで大量に生み出せるわけだ。回復はスカラさんではなく使用者頼みなんだもんなぁ。
まぁ、スカラさんも大概ですけどね。雷くらって何回も体切られても、肺潰されてもすぐに回復するんだから。
「それじゃあ私はお暇するわ。貴方達のお陰で色々と仕事が増えてしまったのよ。」
スカラさんはそう言うと席を立った。
「大人は大変ですね………それじゃあまた会いましょう。」
「ええ、表彰式で会いましょう。」
表彰式なんてあるのか………初めて知った。
「そうですね。」
スカラさんは空間の溝に消えていった。
「………イリナも染島さん達のところに行ってくれ。そろそろ中堅戦が始まるんだってよ。」
スカラさんからのテレパシーをキャッチした。
「えぇ……でも…………」
「………行ってくれ頼むから。俺達が勝ったとは言え、まだ優勝が決まったわけではないんだ。イリナには戦況を読んで、必要ならば中堅戦に出るってことも判断してもらわなくちゃいけなくなる。敵を甘く見て負けるってことだけは避けたいんだ。」
もしかしたら黒垓君と染島さんが1人の相手に負けてしまい、イリナが相手3人と戦うことになってしまうかもしれない。そんな馬鹿げたことが起こりうるとは思わないけれど、起こらねーよそんなの。って、切り捨てて負けることがもしあったら、それは最低だ。イリナを大将のポジションにしたのは、その可能性を極限まで削るため。
「………つまり?」
「俺たちのためにベストを尽くしてくれ。」
「………わかったよ。」
イリナは俺の目を見た後、走ってステージへと向かった。
観戦できないのは辛いが、自分の弱さが招いた障害だ。真摯に受け止めるしかないな。
俺はとりとめもなく、無心に窓の外を眺めていた。
「ごめん、遅れた!」
イリナがステージまで走ってきた。
「…………」
胸美が私に向かって喋りかけているようだけれど、何も聞こえない。そりゃそうだ、だって…………
「まっけっろ!!」「まっけっろ!!」
観客席から聞こえてくる負けろコール。それがあまりにも大きく重なりすぎて、胸美の声をかき消しているのだ。
「いやーー嫌われたものですね、私達。私達というよりかは私と飯田君だけでしょうけどね。」
声が聞こえていないと判断して、胸美はテレパシーでの会話へと変えた。
「………相手の状況はどんな感じ?3人ぐらい出てきそう?」
「そうですねぇ………多分3人でてくるのではないでしょうか。相手から多少の焦りは感じますが、変わらない想いみたいなものをキャッチしていますからね。」
うーーん。それならやっぱり私も中堅戦に出た方がいいのかなぁ。
「あ、イリナさんは出なくていいですよ。私達が全片付けますので。」
胸美は私に微笑みかけてきた。
えーー………
「いや、人数差がキツイでしょ………しかも相手全員第一類勇者だし。剣で相手を捉えきれないんじゃないの?」
相手の心を読めるからといって、胸美の能力上どうしても接近戦になってしまい、第一類勇者との戦闘は辛いはずだ。私が加勢したほうが絶対いいはずなんだけど…………
「大丈夫ですよ。頼れる黒垓君がいますから。……ね?」
「そうっすね!オラがいれば鬼に金棒、そばに麺つゆっす!」
う、うーん………微妙にパクってる。じゃなくて!!
「さすがに黒垓君がいたとしても辛いでしょ!!あんたの能力もやっぱり多人数には不利なわけで………」
「イリナさん。」
ブワッ
胸美の声が肝を撫でた。優しさだけじゃない、確実に人を殺す殺人鬼みたいな、冷酷さをも併せ持った含みのある言葉。優しくかけられた言葉なのに、敵意なんてないのはわかるのに、もう2度と聞きたくないって思えてしまうような音だった。
「私達を信じてください。私達なら確実に彼らに勝つことができますから。」
「……う、うん。」
否定できない重さが、彼女の言葉に宿っていた。だから私はたどたどしくではあるけれど頷いた。
「あ、あと、全力でこの場から離れてください。………そうですね、1キロメートルぐらいお願いします。」
い、1キロメートルぐらい!?遠すぎるでしょ!さすがにそれは………
「………う、うん。分かった。」
私はそれにすらも頷いた。彼女の目が、静かに私を見つめていたからだ。
「さてと、それじゃあ………」
「それじゃあ始めていこうか中堅戦!!両チームの出場選手は前に出てくれ!!!」
「行くしかないっすね!」
私達はステージに上った
重要関連作品
カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/
カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/




