イラつきますねこういうの
やはり足し算は奥深いなぁ………
俺はそんなどうでもいいことを考えながら、ステージの端っこへと歩いていた。
俺たちの階級は健くんよりも低かった。けれど、それでも2人で協力することで勝つことができた。と言っても俺がやったのは相手の動きを読むことと、水と氷を使って防御を量増しした程度。上村さんの執念、勝ちたいって気持ちが、この勝利をもたらしたのだ。
「チーム問題児、先鋒戦で勝利したためにこれで優勝にリーチだ!!!この勝利は大きい!!!もう後がないぞチーム特別待遇!!!」
歌恋さんが言う通り、ここで勝てたのは大きい。
やはり相手は俺の考え通り俺たちを最小戦力で倒し、染島さんと黒垓君の中堅で優勝を狙いにきてたんだ。だがこれでその目論見は潰えた。俺たちの勝利はもう決まったようなものだ。
「真面目に戦えー!!」「何もしてないだろ!!」
相変わらず客席からはブーイングばかり。
そりゃそうだ、俺何もしてないもん。上村さんが頑張っただけなのだから。
つってもね、勝ちは勝ちだから。お前らが何と言おうと勝ちだから。ルール通りに戦って、ルール通りに勝った。それの一体何が悪いと言うのだね?
ドン!!!
ステージの端付近まで来た時、反対方向で大きな音がした。振り返るとそこには相手チームの巨体のおじさんがステージ上にあがっていた。
あらーー俺の歩みが亀みたいに遅いから、痺れをきらせてもうステージに出て来てしまったのか。ごめんなさいね、本当。だって俺、騎士ですから。
「おい、王様ぁああ!!本当にこのまま終わらせてもいいのか!!!」
しかし違った。俺の考えとは違った。おじさんは観客席中央の王様がいる個室に向かって叫んだのだ。
「力もよく分かってない、素性もよくわからん騎士なんかにこのまま総指揮権を与えてもいいのか!!!」
………はぁ?
「何を言ってるんですかねぇ。俺達は勝ったんですよ?それなのにその言い草はさすがに………」
「………そうじゃな。」
スピーカーから王様の声が流れて来た。
「騎士であるのはどうでもいいんじゃが、やはり力がわかってないってのは辛いな………だから、今の勝利は無効で、今度は狩虎。そのジジイと一騎打ちをしてくれ。」
はぁぁああああ!?!?
「ちょっと待ってくださいよ!!ルールと違うだろルールと!!俺達はルール通りに戦って勝ったんだ!!それなのにもう一回戦えってのはおかしいでしょ!!」
てかそんなことしたら負けるの確定だろ!!俺は騎士だぞ!!どんだけ弱いか知ってんだろ!!
「………この戦いは総指揮権を得るに相応しい人間を決めるための戦いです。力量も何も知らない者に与えることはできません。」
スピーカー越しに流れてくる慶次さんの声。
「それに観客の者共よ!!見たいだろ!?狩虎とワシの戦いを!!」
おじさんは観客席にいる奴らに向かって叫び、彼らを扇動した。
「そうだ!!」「このまま終わるなんて気にいらねぇ!!」「こんな奴に指揮権を与えるな!!」「やってしまえ!!」
口々に叫ぶ観衆共。気にいらない、つまらない、潰してしまえ。そんな子供じみた戯言を言い続ける。
「ちょっとあんたらうるさいんだけど!!!勝ちは勝ちでしょ!!!」
ステージ横の待機席に座っていたイリナが立ち上がり、観客の方に向かって叫ぶ。
やってしまえ!!やってしまえ!!やってしまえ!!やってしまえ!!!
それでも止まらないコール。むしろ火に油を注いだかのように熱意が増していく。
…………クソが
「ベッドまで連れて行ってくれ。」
俺は待機席まで行き、黒垓君に上村さんを手渡す。
血が出過ぎて顔面蒼白だ。早く治療しないと手遅れになる。
「………分かったっす。」
黒垓君は俺の目をしっかり見ると、扉へと消えて行った。
「………ああ良いよ!!分かったよ!!やってやるよ!!やれば良いんだろやれば!!!」
俺は両手を高く上げ、観客共に見せつけるように自分の意見をぶつけた。
「ちょっとミフィー君!?やめなよ、勝てるわけないじゃん!!」
イリナがステージに登って来た。
「やるしかないんだよ。こいつらはどうやら正当性なんかよりも主観的な正義を優先させるらしい。楽しければそれで良いんだよ。」
王様や慶次さんは役職的に人選に責任が生じる。だからこの判断は仕方ない。そして相手はここで絶対に勝たなきゃいけないから、ルールを破ってでも俺を戦わせようとしている。これは勝負事、その執念は仕方ないし、むしろ好意が持てる。だが、この観客共は、気にいらない俺を潰すためだけに俺を戦わせようとしている。自分が楽しいから、自分の欲求を満たすためだけに俺に野次を飛ばしている。
「狩虎ちゃん………どうするの。」
パリパリ………
スカラさんが空間から姿を現した。
「私とグレンちゃんは実行委員だから、圧力をかけることができるわよ?狩虎ちゃんが無理してまで戦う必要は………」
「………気にいらないんですよ。あいつらの全てが。」
俺は染島さんにテレパシーを送る。
「あいつらは自分の感情を優先させて、上村さんがやり遂げたことをなくそうとしている。……あいつらが気にいらないってだけで俺を潰そうって言うのなら、俺だってそれにならって、気にいらないって理由であいつらを黙らせなくちゃいけない。」
俺のそばに現れた白色の球体に手を突っ込み、10個の瓶を取り出す。
それにそもそも、上からの圧力でもみ消して、俺達が総指揮権を得ても、この民衆共は納得しない。そうなるとスカラさん達の目標も潰える。それは認められない。こんな奴らのためだけに潰されるなんて、そんなの、絶対に認められない。
「だから俺は無理しますよ。止めないでくださいね。」
「………わかったわ。」
「ちょっとスカラさん!?なんでそんな……」
「良いのよ、仕方ないわ。イリナちゃんは彼を危険な目に合わせたくないんだろうけれど、この子はもう止まらないわ。目がそう言ってるもの。」
スカラさんは止めようとするイリナを無理矢理ステージから降ろす。
………さて、やってやるか。
「それじゃあ王様!!やってやるかわりに俺はあんたに条件を二つ出す!!惨めな俺のためじゃない、体張って勝った上村さんの顔を立てるとでも思ってさ、構わないだろ!?」
「………まぁ、聞ける範囲ならな。」
「よし!!まず一つ目!!制限時間は2分!!その間俺が負けを認めていなかったら、俺の勝ちだ!!」
相手を倒すなんて今の俺じゃできない。逃げることに方向チェンジだ。
「二つ目!!もし俺が勝ったら新聞一面を俺の勝利で飾れ!!」
「………良いぞ、いくらでも叶えてやる。」
っし!これで条件が全て揃ったぞ。
「つまり!!チーム問題児先鋒戦の勝利は無効となり、これから特別ルールの真の先鋒戦が行われると言うことだ!!異例だ!!いままでの決定戦でこんなことは起こったことがない!!」
いままで黙っていた歌恋さんが大声をあげる。
「さぁ、それじゃあ改めて選手紹介だ!!チーム問題児からは、今回、色々と話題を集め、批難が集まっているこの男!!飯田狩虎ぉおお!!!!」
ブーー!!ブーー!!ブーー!!
「やられてしまえ!!」「このクズが!!」
観客共からの心無い声援。いままで色々と罵倒を食らったことはあるけれど、さすがにこんなものは受けたことないな。
「そしてチーム特別待遇からはタレス!!3メートルを超える巨体から振り下ろされる攻撃を一撃でもくらえばダウン必須の超パワー級だ!!!」
「いいぞぉ!!」「やってしまえ!!」「あいつをボコボコにしろ!!」
観客共からタレスさんに向けて送られる熱い声援。この差は辛いねぇ。
「果たして飯田選手は2分間生き残ることはできるのか!!スペシャルマッチ!!開始!!!」
どぉおおおん!!!
ドラが大きく鳴らされた。
重要関連作品
カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/
カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/




