走り出す過ち
今俺は職員室にいる。登校した時に先生に呼ばれたのだ。こういう時は大抵生徒会への依頼が多い。なぜわかるかって?俺は成績が優秀な為怒られるようなことがまずないからだ。まぁ怒られたことは今までに1度だけあったが、ん?2度だったか?忘れちゃったな。まぁ、それだってそこまでのことではなかったし、その程度の頻度ではやはり恐れるほどのことではないだろう。生徒会の顧問であり我がクラスの担任でもある口調が変な壁山豊先生から話を聞いていた。
「狩虎。今日お前を呼んだのは他でもない。冬服以降期間のポスター作りをして欲しいんだが。」
「ああ、そいつならほとんど終わってますよ。頼れる仲間が俺が気絶している間に原案を作ってくれましたから。あとは印刷するだけです。」
昨日俺が気絶している間に皆が作っていたのだ。ポスターの原案を見たがそりゃもう凝っていて、何より絵が上手い。雪さんが描いたというが、素人レベルではなかった。一体全体どういう人間なのか一切わからないなあの人は。
「ほう………もう終わらせているのか。多分最初にやり出したのは宏海だろうな………そんなことより気絶したってどういうことだ?宏海にやられたのか?」
あ、やべ。余計なことを言っちまった!そして俺の発言に対してそれは当然の疑問で、しかも当然の推測だ。いままで俺を気絶させたやつは宏海しかいないわけだからな。でも今回気絶した理由を言ったらアウトな気がする。
「いや、あのーそのーですねー…………徹夜のしすぎで気絶しちゃって。」
「おいおい、頑張るのは良いが休息も大事にするんだぞ。若いから大丈夫だろうが、年取ってからきついぞ。」
「わかっちゃいるんですけどやってたらいつの間にか朝になってて…………以後気をつけます。」
「それがいい。………そうだ。」
前を向こうとしていた壁山先生は何かを思い出したのか、俺の方に向き直した。
「勉強以外のこともたくさんやってみるんだ。去年のこともある。ストレスだけは絶対に溜めるなよ。」
キーンコーンカーンコーン
ホームルーム5分前の予鈴がなる。
「よし、お前は早く教室に戻れ。」
「…………わかりました。」
俺は職員室から出た。去年、そうか去年なのか。俺にとってはつい昨日のことのようだ。…………更に言えば、昨日が2日前から動き始めた。俺は教室へと向かった。
「どうしたんですか深刻な顔をして。」
声をかけてきたイリナの方を振り向きがてら時計を見る。おっ、もうこんな時間か。まるまる1時間ぐらいボケーっとしてたのか……………周りにはイリナ以外誰もいない。今は放課後、いつもとは違い俺は教室で考え事をしていた。
「たまには俺だって深刻な顔ぐらいしますよ。いつもアホ面みたいに言わないでくださいよ。」
「そこまでは言ってないんですけどね。なぜわかりました?」
「え、本当に思ってたの?思春期の男子に言っていい言葉ではないよそれ。」
「敬語敬語。」
「思春期の男子に言っていい言葉ではないですよイリナさん。…………危うく俺の数少ないアイデンティティを失うところだった。」
昨日翔石君に没個性野郎の烙印を押されてしまっているのでこれ以上個性を消すのは危ない。俺の存在が希薄どころじゃない、消滅してしまう。
「そういうのはイケメンに対して言うべき言葉です。俺みたいなブサイクにブサイクっていうのは傷付けるだけなんですから。」
「……………本当にそう思っています?」
なんだ?何を言っているんだ?
「…………うーんと?そうも何もそれが事実ですよ。ブサイクだから彼女もできなかったし、バレンタインもチョコ0個なんです。」
「自分がブサイクなのは揺るがない事実だと?」
「はい。間違いなく。」
「じゃあカイをどう思いますか?」
「物言わぬイケメンって感じでいいですよね。チャラくない、シュッとした感じが。」
「うーーーん…………そんなはずはないんですけどね………いやでも、もしかしたらもしかするのかもしれないですね…………」
独り言を言いながら考え続けるイリナ。どうでもいいがイリナは独り言が多い。俺も多いので人のことは言えないが、側から見たら怖いだろうなこの光景。
「いいですかミフィー君。今からあなたに衝撃的な質問をさせていただきますので嘘を付かずに正直に答えてください。」
「え、嫌なんだけど。そういうのにロクなのってないからさ。心の準備ができてないよ。」
「腕を逆に曲げられるのと質問に答えるの、どっちがいいですか。」
「きなさい、大いに答えてあげましょう。準備万端ですよ。」
「わかりました、それじゃあいきますよ。」
イリナは深呼吸をし、きっちりと体操をしちょうど一分後になって喋り出した。
「ミフィー君は鏡で自分の顔を見たことはありますか?」
「いや、なんでお前が準備できてないんだよ!散々俺に言っといて全くできてないって一体どう言うことだ!?」
くそ!あまりにも当然であるかのように体操してたからツッコミ辛かった!なんかノリツッコミみたいな感じになってしまったじゃないか!
「うるさいですねー。言う準備は出来てたんですよ。ただ、家庭科室まで走る準備は出来ていなかったもんで……………」
「え!?……………回答次第では俺の体真っ二つになるってこと?」
「そういうことです。さっさと回答してください。」
でもこんなことなら簡単だな、別に衝撃的でもなんでもない。スラスラと言ってやらぁ。
「ミスったら死ぬのかと思うと全く言いたくないんですけどね…………仕方ない答えてあげましょう。答えは小3から見ていないですね。」
小3のある日。
「いやー本当にお前ってかっこ悪いよなー!もうブサイクって言うのか?もはやそれだわ!」
と宏美に言われて以来俺は自分の顔を見たくなくなり自分の家にある鏡全てを弟と妹の部屋に押し込み、更には学校の鏡全ての位置を把握してその前を通らないように徹底していたのだ。通る時は下を向いて歩き鏡を見ないようにするほどである。とにかくとことん自分の顔を見ないようにしていた。自分がどんな顔なのかもうよく覚えていない。
「あららー真面目に本当ですかー。これは困りましたね。困って困って仕方が無いですよ。洗顔とかどうしてるんですか?髪を切る時とかも床屋に行くでしょ?あ、オシャレに美容室にしときますか?」
あれ?イリナの反応からして本当に衝撃的な質問だったのか?いや、俺からすれば普通だけどイリナからすれば衝撃的な質問っていうことか。
「洗顔は適当に顔を洗って泡とかはまとめてタオルで拭いていますよ。あとオシャンティーに美容室で話を進めてください。」
美容室…………なんていうか素敵だ。この言った時の響きが素晴らしい。余談だが俺は美容と理容の区別がつかない。どっちがどっちなのかさっぱりとわからないのである。オシャレな物は苦手だしオシャレすぎるもの、例えばヘアーアイロン?とかはもはや理解不能だ。髪にアイロンをかけるわけだろ?つまり燃えないか?あ、燃えないんですかそうですか。
「そうですか。美容室に行ってるとしてあなたは鏡をどうやって見ないようにしているんですか?ずっと下を向いているわけにもいかないでしょうに。」
「まぁあれだ。美容室に言い直させて悪いが俺は美容室にはいかないですからね。いつも家で妹に切ってもらってるんですよ。まぁ、鏡を見ないんで髪型とかはすべて妹に任せっきり?放り投げる?みたいなもんですけどね。」
「ほぉー。器用な妹さんですね。でもだからって切られた時ぐらいは鏡で確認しましょうよ。私だったらパイナップルみたいにしちゃいますよ。」
「俺の妹はそんなことはしないさ。そりゃもう俺を尊敬しているからな。昨日なんて自分が入った後にわざわざ俺の為にお湯を並々に継ぎ足してくれたんだぞ。」
足されたのはお湯じゃなくて水だが、しかも俺をぶん殴ったが。しかし俺の髪を変にいじるようなことは今までに一度もなかったのは確かなのだ。………だよね?宏美に笑われたことはないから多分間違いない。俺の髪が常におかしいとかじゃなければまぁ間違いない!
「可愛い妹さんですね。私にもそんな妹が欲しかった………それじゃあミフィー君の顔を見るために水飲み場に行きましょう。」
「どういう流れ?今のは姉妹、兄妹あるあるを言う流れだったでしょ。」
「私には妹がいないんですよ。」
「あーーー兄弟に幻想を抱いている一人っ子タイプね。だから性格悪いのか、納得。」
「…………ミフィー君よりはいいと思いますけどね。」
「妹と弟をしっかり面倒見てやった俺は、それはもう聖人君主レベルで性格いいからね。イリナさんごときじゃあ話にもならないですよ。」
「私性格いいですし。とてもとても、ベリーグッドですし。最近困ってるおばあちゃんを助けましたからね!」
「俺なんておばあちゃんとおじいちゃんとひ孫助けたもんね。」
「じゃ、じゃあ私は老人ホームを強盗から救いました!」
「…………俺は、あれだ。核戦争が起きそうなアメリカとロシアにホットラインを繋げた。」
「遠い銀河の超新星爆発を無かったことにしました!」
「それはいいことなのか?」
「惑星に感謝されたので多分いいことですね。」
「確かにそれは俺の負けだわ。」
俺は立ち上がると鞄を持ち上げた。
「それじゃあ生徒会室にでも行きますか。」
「そうですね。話もひと段落ついたことですし。」
俺は教室を出ようと………
ガシッ
肩を掴まれた。
「顔、見に行きましょう?」
「……………やだぁあんん!!」
俺は鞄を放り投げて暴れた!!
「見たくない!顔見たくない!この15年連れそったけど無下に扱ってきた自分の顔を直視したくない!罪悪感に耐えられない!」
「長年連れ去った夫婦が現実を直視しようとするけど、その膨大な年数のせいでむしろこじれてどうすればいいか分からないような発言しないでくださいよ!」
「嫌なもんは嫌だぁあ!!俺は見ないぞ俺自身の現実を!!やだからね俺!!」
ドズンッ!!!
イリナの重たい一撃が腹に突き刺さった!!
「これだけはやりたくなかったんですが………しょうがない。力尽くで連れてきますよ。」
横隔膜が一瞬停止して呼吸困難だ!筋肉も痙攣してるし………やばい死ぬ!動けん!
イリナは動かない俺を片手で引きずり水飲み場へと向かった。
「ほら自分の顔を見て下さい。」
「いやだ、絶対やだ。」
俺は頑として両目を閉じてそっぽを向く。とにかくこんな実力行使で目的を果たせられたら、俺は暴力に屈する男になってしまう。そういうのは今後の身の振り方的にもよくない。………今までしてたって?気のせいだろきっと。
「もう…………しょうがないな。」
耳に息が吹きかけられた。えっ、なに!?なになに!?俺の顔の近くにイリナの顔があるの!?
「もし鏡を見たら、私を好きにしていいよ。」
もうね、一瞬だったよ。俺は目をかっぴろげた。そして驚いた。夢に出てくるカイの顔にそっくりなんだ。双子じゃないかって言うぐらい、鏡に写った俺の顔はカイにそっくりだった。
自分のクラスに戻ってきて今俺は落ち込んでいる。最高に落ち込んでいる。
「ミフィー君とカイの顔がそっくりだと気づいてしまったんですから、落ち込むの当然ですよ。」
イリナが落ち込む俺を見下ろす。
「でも普通に考えればある程度予測はたちますよね。私がミフィー君に疑いなく近づいたってことは、カイと私しか知らない情報だけじゃあなく、同じ顔を持っていたってことぐらいは。…………もし同じ顔じゃなかったら、私は敵かどうかを疑ってたでしょうし。
イリナの言うことはもっともだ。もし俺が魔族だったらを考えると1番わかりやすい。
炎帝は、魔族を倒しているイリナ達勇者が目障りだったから魔族に彼女達を監視させ、頃合いを見計らってイリナ達の前に現れて倒す、いや、殺そうとした。これならなぜ炎帝とイリナが戦うことになったのかも、俺がイリナ達の小説を書けるのかもスムーズに説明できる。
ただしこれだと俺は炎帝か炎帝の子分になっちまうよな……………小説を見た時、イリナもそう考えていたのだろう。ただ、俺の顔を見てそんな考えも吹っ飛んだんだろうな。だってカイにそっくりなんだもの。
「まぁ、炎帝かその子分たちの誰かがカイの生き別れた双子でそれがミフィー君。貴方だったってこともあり得るっちゃああり得るんですけど、貴方の運動神経を見る限りそれはないですね。貴方のような運動ダメダメ野郎に私たちがやられたとはとてもじゃないですが思えませんもの。ただ少し気がかりがあるとしたら魔剣を操れたことですかね………勇者は絶対に持てないというのが基本ですからね。」
「いやいや、あんなの気合と根性でなんとかなりますよ。俺なんて持つ時に[俺は邪俺は邪俺は邪俺は邪]って言いながら握っていましたからね。そんなんでなんとかなるんですよ。」
「絶対に思っていないでしょうにあんな一瞬に。でも私もそう思いながら試しに魔剣を握ったことがあるんですよ?昔に。でもその時は両腕が取れかけましたからね…………いや、間違えました。両腕が取れちゃいましたからね。」
「何嘘をいってるんだ!腕がもげたって………お前………あるだろ腕!もうピンピンとしてるじゃないか!」
「いやいや、握った瞬間にドジュゥウって言いながら焼け爛れて落ちましたから。ただあそこは魔法の世界ですからね、腕をくっつけるぐらいわけはないです。」
結構へこむ…………机に突っ伏したまま色々と考える。これは朝の日課と同じだ。まず、さっきイリナが言った腕が取れたのは嘘だろうが焼け爛れたのはそこまで嘘ではない気がする……………そりゃ信じたくないがやはりイリナの話を一通り信じると勇者は絶対に魔剣を持てない。多分これは確実なのだろう…………ま、俺が持ててる時点でその定義にも漏れがあるのだろうがな。何にだって例外がある。英語の発音だったり化学の結合にさえも………しかし問題はそこじゃない。[俺がカイにそっくりなこと]が大問題だ。…………ちゃんと昔から自分のことを見てたらなぁ。手痛いしっぺ返しだ。
「まぁ自分がイケメンだって気がつけて良かったじゃないですか。」
「イケメンじゃない、俺は。たとえカイの顔をしてても心が腐ってるからイケメンじゃない。認めたくない!嫌だぁ!こんなイケメン嫌だぁ!」
「え?そこ拒否する必要あります?」
「俺にとってイケメンっていうのは完璧じゃなければいけないんだぁ!いやだぁ!こんな何もかもが醜いイケメンなんて嫌だぁ!」
俺は頭を抱えてジタバタと暴れる!
「うう…………カイの顔じゃ無かったら………ブサイクだったら、イリナに勘違いされることもなかったのに…………殺してくれぇ!いっそのこと俺をっ!?」
イリナの重たい腹パンが俺の動きを停止させた。
「さっ、生徒会室にいきましょうねー。」
そしてまた引きずられる俺…………




