抹茶アイス
2020年12月29日編集
ん?あれ?ここは生徒会か?
「いって……」
後頭部に鈍い痛みが走る。窓から外を見るとかなり赤くなっていた、もうそろそろ6時だろうか?辺りを見渡すとイリナや宏海、雪さんに翔石くんが自分の机で仕事をしていた。何も記憶がないな。ウノをしてたのは覚えてんだけどなー、疲れて寝ちゃったのかな?それに比べて彼らはもくもくと仕事をしている。あー自分が情けない。
「おーい、君たち〜。仕事頑張ってるねー!」
俺が彼らに激励の言葉をかけるとイリナと翔石くんは目を丸くしてそのまま走ってこちらに来た。
「ご、ごめんなさい!あ、あのその………思いっきり後頭部を殴ってしまって。私、もう一生起きないかと思ってしまいました……。」
イリナが項垂れている。
「僕も本当にすいませんでした。悪気はなかったのですがまさかあれで気絶させてしまうとは思ってもみなくて………」
翔石くんはぽりぽりと頭をかきながら謝る
「ん?ちょっと待てよ?俺って気絶してたのか?疲れて寝てたとかじゃなくてか…………むむ、記憶があやふやだな」
「ええ!?狩虎お前マジかよ!あれを覚えてないのかよ!?」
「あれ?ウノをしてたとこまでは覚えているんだけどな………それから先が思い出せない。」
「ほら、イリナが負けて罰ゲームを受けるってことになってお前が[よし!イリナさんには裸エプロンになってもらう!]って言ったらイリナちゃんと翔石に盛大にボコられただろ。」
ん?そんなこと言ったっけ?たしかにイリナの裸エプロンは見てみたいな。あのものがエプロンにより覆い隠され膨らんでいるところは確かにみたい。是が非でもみたい。だけどそんなことを真っ昼間から要求するほど俺は落ちぶれてはいないはずなんだけどな……………興奮していたんだな、ロングゲームを制することができたから。
「なるほど。そんなことがあったのか………確かにイリナさんのその姿は見てみたかったな。だけどそんなことを昼間から求めていた俺も相当に悪かった。どう考えても君達に、俺以外の人には全く罪はないね。だから俺には謝るな。」
よっこいせっといいながら俺は立ち上がる
ずきっ!
くそっカッコつけた割にはかなりフラッフラだ。頭もまだ痛むし………だけど今回は俺が全体的に悪いんだから仕方がないか。
「あ、あのー。ミフィー君、もしよければ私の肩を貸しましょうか?」
「ん?いや、これは俺がやってしまったことに対する戒めみたいなもんだからね、手助けを借りる訳にはいかないさ。」
「いや、でも…………あ!そうだ!罰ゲームということならどうですか?ミフィー君が私に罰ゲームとして肩をかせって指名して、それを私が嫌々貸すのならいいんじゃないですか?」
「んーっと、でもなー。どうしようかなー。まずそれって罰ゲームになるのか?」
罰ゲームをやる以上もっと嫌がってもらわないと嫌だよなぁ。そうじゃなきゃ面白くない。
「いいんじゃないか?罰ゲームなのなら仕方ないし、何よりもイリナちゃんがやりたいっていうのならさ。」
宏海がああ言っているのならいいのかな?ま、いいか……深く考えるのはやめだやめ。今はカッコつけてないで力を借りておくか。それに、人の善意を無下にするのはどうも落ち着かない。
「わかったよ。それじゃあ罰ゲームとして今日帰る時とかも含めて俺に肩を貸してくれ。」
「はい!わかりました!嫌々引き受けさせてもらいます!」
声を張り上げて、ハキハキと言う。
「よしっ!俺は帰るのに時間がかかりそうだからもう帰るけど君達はどうする?」
「うーん。そうですね………会長が何かをやらかす気がするので僕も一緒に帰りましょう。」
「そうだな。隙あらば裸エプロンにしようとしてそうだからな。」
「…………しようとした時は私も手助けします。」
「ああ、ありがとうな雪さん。俺の理解者は貴方だけだ。あとお前ら2人!俺はそんなことはしないからな!お前らと違って!特に宏海!」
「あ?なにいってるんだ?私が無理矢理するわけないだろ。私が求めるものは妻が夫にやるようなそんな愛情深いものなんだよ!だから、下校中に無理矢理やらせるなど私の美学に反するのさ。」
「なんの美学だよ………それじゃあみんなで帰るってことでいいんだな。イリナさん、自分の机に行きたいから少し肩を貸してください。」
「いいですよー。はいどうぞ。」
俺は彼女の肩を借り、自分の机に向かいリュックを取った。いろんなテキストと参考書が入ってるからめちゃくそ重い。こんなの怪我してるときに持ったら俺の腰が折れちまうよ。
「よっし!帰りますか!」
みんなで帰る。暗くなった空、街路灯の下をゾロゾロと大人数で歩いていく。
「そういえば、俺が気絶してる間に何か依頼が来てたのか?」
みんなが机に向かって何やら作業をしていたように見えたので聞いておく。
「ん?ああ、もうそろそろ9月だからさ、冬服移行期間のポスターを作り始めてたんだ。まだ早いかもしれないけど、あんなめんどくさい奴はぱっぱと何もない時に終わらせる方がいいに決まってるからな。」
宏海が言う通りなら暇潰しがてらにもうそろそろ来るであろう仕事の依頼を片付けていたって感じか。さすが我が生徒会の副生徒会長だ。生徒会長よりも頼りになるね!
「なるほどね。いや、本当にありがとうな君達。俺が気絶している間に仕事を進めてくれてさ、感謝してもしきれないとはこのことだ。」
「なに言ってるんですか。あんなものは仕事のうちに入らないんですからそんなどうでもいいことで感謝しないでください。」
翔石くんはストイックだなー。俺ならどうでもいいことをやって「俺がそれやったんだよ!」って言って褒めてもらうっていうのにな………
「……………私もそれをやりました。褒めてください。」
お?どうやら雪さんは俺と同じタイプらしい…………そうだよな。褒めてもらいたいよな。俺なんて自分から言わないと大抵褒められないからな。何故かはわからないけどクラスのやつは俺から話しかけないと話してくれないから…………あーあ、何故だろう。
「流石は雪さんだ!うんうん偉いぞ!」
素直に褒めてみる。表情に変化はないが何かしらの効果はあったのだろうか、俺に向けていた顔を違う方へと向けた。あらら、どうやら雪さんにはいい効果がなかったらしい。うーん、わからんな!女性の考えることがさっぱりわからん!もしかして何かやらかしてしまったのだろうか?何かが禁句ワードだったとか……………「流石」とかか?いや、もしかしたら「偉いぞ」が上から目線すぎたとかか?
このやりとりを俺の右肩付近に頭があり、俺を支えているイリナが不思議そうに仰ぎ見ていた。
「ん?どうしたんだ?イリナさん。やっぱり俺なんかやらかしたか?」
「ん?ああ!いえ!仲がとてもよろしいなーと思いまして!」
仲がよろしいか………どうなんだろうねー。だってそんなに話さないから………いや、雪さんはいつも無口だな。喋ってるところなんてたまにしか見ないし。
「うーん………そうなんですかねー。あまり実感と言うかなんと言うか、かんと言うか。こう言えばいいのかああ言えばいいのか、あえて言うならばいや、言い換えれたのならいやいやいや、強いて言うなら…………」
「何度言い換える気ですか。ちゃっちゃと結論をいってください」
「…………つまり俺にはさっぱり分からんと言うことですよ。ねぇ、雪さんはどう思いますか?」
「……………………恋人のような関係です。」
「ぶほぉぁ!!」
盛大に吹き出してしまった。イリナの頭が俺の口の辺りになくてよかった。
「……何を言ってるんだい雪さん。いや、そりゃそうだと嬉しいんですけどね。すこぶる嬉しいよ、そりゃもう笑顔になっちゃうぐらい嬉しいんですけど、嘘は良くないですね。周りにあらぬ誤解を生んでしまうわけで…」
周りをちらっと見る。皆から訝しむ様な視線が飛んできていた。
「まさか生徒会長が雪さんに手を出していたとは……驚きと言うか最早近づいて欲しくないですね。あと5m程離れて欲しいです。」
「おい、ちょっとまて。5mってどんだけ遠ざけたいんだよ。」
「ああ、そうだな。離れて欲しいってか顔も見たくないな。ちょっと顔が変形するまで殴らせてくれ。」
「貴様!誰がそんな要求を飲むと思ってんだ!?ただですらモテないのにこれ以上顔を悪くされたら俺の希望は微塵も残らなくなるぞ!」
「雪さんと付き合っていると言うのに更に女性と付き合いたいとは…………貴方は本当に人間ですか?あ、いや間違いましたね。人間じゃないのは当たり前でしたね、ゴミですか?貴方はゴミなんですか?」
「イリナさあぁぁんんんんん!!俺の話を聞いてくれぇぇ!いや、信じてくれ!俺の様な下民が雪さんのような高貴な方と付き合えるわけがないだろう!やめて!そんなカメムシを見る様な目はやめて!」
まさか、雪さんの冗談でここまでの修羅場が出来るとは思ってもみなかった!信じろよ俺の言葉を!
「〜〜〜〜!!皆!俺の言葉を信じてくれ!俺がいままで嘘をつくようなことがあったか!?なかったよな!?」
「マカロンの時に嘘をついてましたよね?」
「ちょっと待てイリナさん!それは禁句だから!そのワードはこの世に魔王を召喚する呪文だから!それを言ってしまったら………」
はっ!宏海の足元にヒビが入っていく。とうとう俺たちは呼んではならないとんでもない化け物を呼び覚ましてしまったのかもしれない。
「違うんだ宏海。誤解だ。現に俺が言ってお前が外を見たらマカロンの試食会が行われてたろ?だから俺は嘘をついていないんだ。誤解なんだ。」
「………………仕方ないな。許してやるよ、」
宏海の周りからオーラが消えていく。いや、なんでオーラを操れてんだよ、人間だよな?
「………雪さん。今のは嘘だって言ってください。このままだと俺の命がなくなってしまう。」
切実にそう思う。このまま続けていたら確実に俺の体に穴が空く。悪かったら俺の体に穴が空くと言うか俺の体が穴となる。つまり体がこの世から消えてしまうだろう。
「……………この言葉を言うのは不本意ですが、私がさっき言ったのは嘘です。」
不本意って、話をこじらせないでくれ。俺の体に穴が空いちまうぞ。
「まぁ、雪ちゃんの為に許してやるよ。」
なんとか許してもらえたようだ。本当こいつらといると常に命の危険を感じるな…………お嬢さまとお坊っちゃまの集まりなんじゃないのか?
「と言うわけでさっさと家に帰ろう。俺はこれから塾に行かないといけないわけだしな。」
塾は毎週火曜日、木曜日、日曜日にある。前回の日曜日に休んでしまったので今日はなるべく行きたいところだ。
「そんなフラフラな格好なのにそれ程までに塾に行きたいんですか?自ら勉強という魔が渦巻くデススポットに行く必要なんてありますかね?」
「うるさーい!俺は運動も何も出来なくてな!これぐらいしか取り柄がないんだよ!」
「はぁーー。情けないぜ狩虎。だから私と違ってお前はモテないんじゃないか?」
くそっ、言ってくれるじゃないか宏海。だが言われっぱなしじゃ男が廃るってもんだ。
「ああ、確かに女性からモテモテだよな。同性として羨ましい限りだ。」
メキッ!
宏海の鉄拳が俺の右の横っ腹に突き刺さる
ああああ!骨が軋む音が聞こえたぁぁぁ!?俺のあばらは大丈夫なのか!?
「はぁ………狩虎。いくらお前がイリナちゃんに支えてもらっていてそれで私がお前を蹴りにくいからって、やろうと思えばお前の首だけを蹴り飛ばすことはできるんだぞ?」
「え………?冗談だろ?宏海。」
「今から実演してやろうか?」
目がガチである。怒りの臨界点に達したのか宏海の後ろの空間がゆがんで見える。いや、だからなんでオーラを操れてるんだよ。てか、ほらな言ったろ!?イリナ!そろそろこいつは俺を殺してしまうってな!
「いや、マジ勘弁っす宏海先輩。俺が死んだら悲しむ人がいるんだぞ。なあ?君たち。」
「んーー。先輩みたいな没個性野郎なんてこの世に沢山いますからね。代わりは沢山いるので思う存分死んでください。」
「そうですね。雪さんに手を出しておきながら更なる女性を求めようとしたクズは死ぬべきですね。」
「…………………咳をしても一人。」
「翔石ー!没個性とはなんだ没個性とは!俺が没個性ならお前も没個性になるんだからな!イリナさぁあんん!いい加減俺の話を信じてくれぇえ!デマだから!俺が人と付き合ったことなんてないから!あと雪さん。その俳句はやめてください。この先一生彼女が出来ないみたいな暗示になってしまうから」
咳をしても一人………俺の死ぬ間際を看取ってくれるやつは誰もいないってか?本当にあの俳句は悲しいよな……………
「てことはつまり今から狩虎の首を跳ね飛ばしてもいいってことか?」
「違うから!お前の頭の中には暴力のことしかないのか!?この鬼ー!女たらしー!愚地○歩ー!」
「お前ー!!愚地○歩先生をバカにするって言うのか!?」
「え!?怒るとこそっち!?もっと怒るとこがありそうだけど…………」
「全部に怒ってんだよ私は!イリナ!こいつを地面に放り投げてくれ!」
「え?イリナさん…………そんなことしないよね?」
「そうですね…………雪さんとひろみんの為にも、そして私の為にも私は貴方を放り投げないといけませんね」
俺から離れてゆくイリナ
あぁ、放り投げはしないのか………やっぱり優しさは有るんだな
「さて飯田狩虎くん。これから素敵なお仕置きタイムだ。覚悟はいいな?」
目の前にいる宏海がはっきりと見えない。現実を理解したくない……………………死ぬ前に抹茶味のアイスクリーム食っときゃよかったな…………………
宏海の足が視界に入った瞬間俺の顔面に衝撃が走りそのまま意識は夢へと引っ張られて行った。
最近俺は夢を見ない。過労なのかどうか分からないが夢を見ない。夢を見ている時は浅い睡眠をしている時で、深い睡眠をとっている時には夢を見ないらしい。レム睡眠とノンレム睡眠だったか?まぁいいや。つまり俺の睡眠は深いんだ。確かに寝ようと思えば12時間以上は確実に眠れる。でもたまに見るんだよな、カイの夢を。カイとイリナの冒険を。
その夢は色々な場面から始まる。喋っていたり、ご飯を食べていたり、敵を切り刻んでいたり。でも終わりはいつも炎帝にカイが焼かれ、鎧だけが残っているという場面でノイズが走り俺は目を覚める、そして今も、俺の夢ではそのシーンが訪れようとしていた。
「くそっ!どうするイリナ!?僕的には戦わずに逃げる方がいいと思うんだけど………」
「…………ちっ!そうだね、これはどう考えても逃げた方がいいよね」
イリナとカイ。2人の前に立ちはだかるは三王の一角。魔族No.2タイである炎帝。その体は鎧のせいで何も見えないため性別も定かではない。女なのか?男なのか?いつも勇者側ではその議論が行われているらしい。そしてその炎帝の後ろには約1000体はいるであろう魔族たち。さすがのイリナたちでもこれには勝ち目がない。
なんとか逃げようと背を向けた時、炎帝から火の玉が飛んで来た。半径2m程の火球はイリナの方へと高速で飛んで行き、カイはそれから自分の身をていしてイリナを守った。
カッ!
火の玉はカイに当たると膨張し、周りの物を飲み込んで行く。なんとかイリナは逃げ切れたがカイだけは消滅し、焼け跡には鎧しか残っていなかった。
ズキッ!
くそっ!いつもここで終わるんだ!分からないんだ!イリナがどういう表情をしているのかが。これから彼らに何があったのかも………いや、片方は知っているか……………
そして俺の意識は現実へと向かう。
「はっ!抹茶味のアイスを食べたい!」
勢いよく起き上がり周りを見るとそこは居間だった。居間?居間だよな……………どこにでもあるような普通の居間だ。てか我が家の居間だ。
「どうしたのお兄ちゃん。そんなに抹茶のアイスを食べたいの?だけどあいにく今はかき氷しかないよ。」
俺の右隣でアイスを食べながら妹が言う。
…………俺の3歳下の妹の飯田花華。いつも思うがうちの親のネーミングセンスは良いのか悪いのかさっぱりわからない。はなにはなって………まぁ俺は親しみを込めて[はなか]と呼ばせてもらっているが。そして言い忘れていたが俺と妹と弟は全員髪の色は黒だ。れっきとした日本人である。宏海は赤色で雪さんは銀色。没個性野郎翔石君は没個性野郎の俺と同じく黒だ。
宏海は高校に入ったときに髪を染めたと言ってた気がする。いや、染めなかったんだっけ?ん?でも小学生の頃は黒かった…………。まぁ、その時に「髪を染色するとは…………そんなことするなんてお前は毛根の死期を早めてるだけだぞ?」と言ったらフルボッコにされた。重点的に腹を殴られたせいか家に帰ってから腹筋が震えたものだ。
「うん?はなかがこんな時間に家にいるとは珍しいな」
前にも言ったが花華は俺と違ってアスリートであるため夜9時ぐらいまでは外で練習をしているのだ。
「こんな時間ってもう10時だよお兄ちゃん。それに私は今日は7、8時には帰って来てたよ。あとさっき塾から電話があってサボりすぎだって言ってたよ。」
「な、なにー!?10時だと!?バカな!俺は今日塾に行くはずだったのに!いや、なぜ俺はここで寝ている!?ああ!最近こんなことばっかりだな!意識がないまま時間が進んでいる!」
生徒会で気絶して下校中に気絶してと、最近の俺は気絶しすぎだな。なんとかして身体を作っていかないとあいつらに対抗できそうにないな……………なんで俺の周りには人を簡単に失神させられるやつがこんなにいるんだ。
「7時ぐらいに宏海と翔石さんと雪ちゃんと金髪の女性が気絶したお兄ちゃんを運んできたらしいよ。私は帰ってく後ろ姿しか見てないけどさ、書き置きがあったんだよ。」
はなかが指を差す方を見るとピンク色の可愛らしいメモ書きがあった
いやーごめんごめん。私の蹴りがクリーンヒットしちゃったらしくてお前のことを気絶させちまったよ。お詫びとしてお前を家に送り届けてやるから、これでもう妬み嫉みは無しな。
「妬み嫉みって…………俺と宏海は恋敵か何かなのか?」
「さぁ?知らないけども。てか気絶させられる程の攻撃食らうってどんだけ怒らせたのさ。」
「怒らせたってか、女性にモテモテなんて同性としては羨ましい限りだって言っただけなんだけどな。」
「あっははっ!それは怒るよ。宏海も一応は女性だからね。」
一応って…………フォローになってないよ
「いやでも昔はこんなことでは怒らなかったんだけどな…………昔ってか最近か?2年生ぐらいからか?怒るようになったのは。」
「うーん………まぁ、お年頃だからねーーーそんなことより!あの金髪の女の子は一体誰!?」
そんなことよりって…………宏海の話はそんなに大事じゃないのか?
「なぁ………思ったんだけどさ。金髪だとちょっとチャラいイメージがついちゃうよな。」
「と言うと?」
全く言っている意味が分からないとばかりに話を聞いてくる。
「だからさ………金髪だとチャラいイメージが出てくるけどブロンドだと高貴なイメージが出てこないか?例えば、金髪の女子高生とブロンドの女子高生。ほら、全くもって意味合いが違ってくるじゃないか!」
「まぁ………そうだけどもさ、ブロンドは地毛じゃないとダメでしょ?だから日本にいる髪が金色の人は全部金髪で良いんじゃないの?」
「ここで本題に入るがまずイリナのあの毛は地毛だ。だから金髪と呼ぶな、そして今言ったが彼女の名前はイリナ=ヘリエルだ」
「へぇー………イリナ………………イリナ?それって確か…………」
「ああ、俺の小説の登場人物だ。」
「ふむふむ………なるほどねー。そういうことか。」
「まぁそういうことだ。これ以上この話はやめようか。風呂入りたいんだけど風呂ある?」
今日は色々と冷や汗をかく時が多かったせいか身体中が汗でベトベトだ。
「あるよー。並々に入れといたから思う存分入ってね。」
「おお、さすが我が妹だ!俺と同じで周りへの配慮が行き届いているな!」
「配慮が行き届く人は人を怒らせて気を失うことなんてないんだよ。」
全くもって最もだ。反論することができない。そもそも反論する気は無いんだが。
「とまぁ入ってくるわ」
「うん。いってらっしゃーい」
いやー嬉しいなー………てっきり花華とかが入った後でお湯の量が少ないと思ってたんだが並々に入れ直してくれるなんてなぁ!うふふふー!嬉しさのあまり今日は長風呂ができそうだ!そしてさっさと寝よう!気絶しすぎて寝る必要もない気がするけどなんか体がだるいからな。
脱衣所で上機嫌に鼻歌を奏でながら服を脱いでいく。
ガラララ
お?風呂場に水っ気がないな!はなかが入ってから時間が経っているのか?でも2.3時間で水が乾燥するかな………まぁいいか。これなら追い炊きをする必要がありそうだな…………
しかし、並々って言うのは嬉しいなー
風呂桶を取り風呂からお湯を掬う。
俺は地球のことを考えてるからね!こんなに並々に入ってるのにシャワーを使うなんて俺にはできないのさ!
ばしゃ!
頭からお湯を被る
「つっめてぇええ!」
水!?まさか風呂に入ってるのって水か!?くそっ!こんなに並々に入ってるのにシャワーを使って身体を温めないといけないなんて!
ぶしゃぁああ!
「うおっ!?つめてぇえ!!!」
長時間シャワーを出した後に頭から被るとめっちゃ冷てぇ!
温度設定を見てみる……………20度?銭湯の水風呂でさえ25度ぐらいはあるはずだぞ?
いや、違う。そんなことはどうでもいい!こんなあくどい悪戯をした犯人を探さなくては………いや、探す必要もないか。この風呂を入れてくれたのは誰だ?妹だ。あいつはいつ帰ってきた?7時ごろ……遅く見積もって7時半。お風呂に入ったとしたら8時だろう。2時間前にいれた風呂の温度が水にはならないだろう。いってぬるま湯だ。考えられるのは最初っから水を入れといて自分はまだ入っていないか、入り終わった後に風呂の水を抜き、再度水を入れ直し、風呂場の壁についた水滴を雑巾で拭いたといったところか…………まぁ、後者なんだろうな。つまりあいつは故意に風呂に水を入れたことになる。よな?なるよな?はい決定!!あいつをフルボッコにしてやる!
俺は風呂場から勢いよく飛び出し居間へと向かう。やばいやばい、服をきないといけないな!裸で妹の前に行くのは恥ずかしい!俺はマンガやアニメみたく妹の前に何の恥ずかしげもなく裸で行くのは無理だ!急いで服をきて居間へと向かう!
「…………なんで服をきて来るのさ、普通は裸で来るもんじゃないの?」
妹はソファーの後ろに両手をだらしなく掛けてすわっていた。
「うるせー!俺はそんなアニメやマンガの主人公じゃねーんだよ!つうか、なんだあれは!どんだけ俺を冷やしてーんだよ!」
いつ目が覚めるかもわからない人間を騙す為には常に水が出る状況を作り出さなきゃいけない。もしはなかが風呂に入った後に俺をはめる為に設定温度を下げたとしても、俺がすぐに目覚めてシャワーを使えば出始めはお湯が出てきてしまう。だからシャワーを水にするには予め数秒水を出してお湯を排出しなければいけない。なんて手間のかかるドッキリだ。しかも一から風呂を入れ直して壁を拭くんだもんな………俺を騙したいが為に色々と無駄なことをし過ぎな気がする。
「いやー、眠気覚ましの為に入れてあげたんだから感謝して欲しいぐらいだよ。」
「なーるほどぉー!これが朝とかならいいけど夜でしかも寝る前とかまじでやめてくれ!感謝はしないからな!もう10時なんだから俺は眠りたいんだよ!今からその腐った根性を叩き直してやる!覚悟ぉぉお!」
昨日の展開のように俺は花華へと突撃する。もちろんくすぐる為だ!
スパーン!
俺の顔にグローブをつけた花華の拳が炸裂する。
言い忘れていたが花華はボクシングをしている。毎日学校が終わってからボクシングジムに行き、8時半まで練習し9時に家に帰って来ている。最近なんたらかんたらのチャンピオンを倒したとかなんとか…………正直ボクシングも運動もしてない俺からすればさっぱり分からんがすごいことはよくわかる。いや、なんでグローブはめてるんだよ。まさか風呂に水を入れて俺をぶん殴るまでが計画だとでも言うのか?しかも腕をソファーの後ろに隠して殴ることを悟らせないという…………悪ふざけを超えて凶悪だな。
「は、鼻が!あれ?鼻血でてるのか?なんか鼻から液体が…………」
恐る恐る手で鼻付近を触って見てみるとただの鼻水だった。………なんだろうなー、なんでこういう時に限って鼻水なんだよ。
「鼻血だと思って恐る恐る確認して鼻水だった時ってかなりかっこ悪いよね。私も今日それを体験したからさ腹いせにお兄ちゃんにもしたんだよ。」
「おい!水を浴びせるのが本題じゃなくてお前が体験した恥を俺に浴びせる為に、たったそれだけのために俺に水を浴びせたというのか!?つまり俺をぶん殴るのが本題だったのかよ!?」
殴る為にわざわざあんなめんどくさいことをしたのか?…………頭が良いのか悪いのか分からんな!
「そうなんだよ。わざわざ風呂の水を抜いて壁を拭いて水を入れ直してシャワーからすぐに水が出るようにしたんだからね。その労力の分だけお兄ちゃんを殴らせてもらうよ!」
喜々としてそんなことを言われると殴られたくもなっちゃうな…………まぁ冗談なんだが。俺の周りの女子はなぜこうも凶暴なんだ?男である俺が太刀打ちできないじゃないか。
「んとさ、疑問だったんだけどなんで壁を拭いたんだ?拭かなかった方が騙しやすいと思うんだが。」
ここで当然の疑問。壁が乾いていたから俺もほんの少しの疑問を抱くことができた。まぁ回避することはできなかったが………それでも拭かないで水滴を残しておけば俺は何の躊躇いもなく水を頭からかぶっていただろう。俺なら絶対に壁の水滴は取らない。
「それは、お風呂が並々入ってるんだから一番風呂だと思うでしょ?だから風呂場に水滴があったらダメでしょ。」
…………何をいっているんだこの妹は。
「おいおいおい!俺が気絶してる間にお前が風呂に入ってはいないよなー、一番風呂は俺に譲ってくれるよなーなんて考えるわけないだろ!?どんだけ俺はお前のことを兄思いの立派な妹だと思ってんだ!?こんなことをするやつをそんな風に思うわけないだろ!」
しかも俺が目を覚ました時に目の前でアイスを食ってたろうが!どう頑張って考えても風呂に入ってないなんて事は考えつかない!
「あ、そうかー!頭いいねー!さすが私のお兄ちゃんだ!」
「こんなバカな間違いを起こしたやつの兄だと褒められても何も嬉しくねーよ。」
よっこいせ
俺は立ち上がり風呂場へと向かう。
「ん?お風呂に入りに行くの?」
花華は驚いたように質問してくる
あ、なるほどね。風呂は風呂でも水風呂か。こりゃ一本取られた…………なわけないだろ。
「シャワー浴びてくるんだよ!温かいのをな!それと、弟はどこだ?」
「あー、あいつ?あいつは寝てるよー。それじゃあ私は寝るから。おやすみー」
「そうか。わかった。」
おやすみと言い俺は風呂場へと向かう。勿論設定温度をあげてからシャワーを浴び、上がった後にはかき氷を食べて床に就いた。
体はだるくて眠たくて仕方がなかったがいざ寝ようとすると寝れない。絶対さっきのドッキリのせいで体と頭が覚醒しちゃったんだ。マジで恨むぞはなか………くそ、なんか考えるか。
そういえば最近の宏美は少し暴力的だな。そりゃ前から俺を気絶させたりすることはあったけど、でも2日続けて気絶させてくるようなことはなかった。なんというかイリナが来てからそうなったというか。イリナという新しい歯車が来たことによって何かが回り始めたかのような錯覚を覚える。だけど、回り始めたと言ったけど何も回り始めていないような………スタートボタンは何もおささっていないような感覚もある。
くそっよくわからない…………イリナがきてからストーリーが始まったと言うよりはイリナが来たことによってスタートラインに立たされた気分だ。まだ何も始まっていないのかもしれない……………まだ何かが足りない。まだ何かが物足りない。多分このままじゃ何も起こらない。
まだ………まだ……………ま………だ………………
そのまま俺は眠りについた。




