第2話『不可侵』の追及と、すれ違う約束
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「あっ、エルさん!……もう、遅いから心配したんですよ?」
中央広場の大きな噴水前。可憐な私服に身を包んだコレットが、息を弾ませて駆け込んでくるエルを見つけるなり、パッと表情を明るくして安堵の息をついた。
「はぁ……はぁ……! ごめんコレットちゃん、待たせた! 途中で本気で死ぬかと思うような大修羅場に巻き込まれてさ……! 大急ぎで宿に飛び込んで服を着替えて、そのままダッシュで飛んできたんだよ……!」
「ふふ、相変わらず大げさなんですから。……でも、息も上がってますし、本当に大変だったんですね。無事に帰ってきてくれてよかったです。約束通りケーキをご馳走してくれるなら、ちょっとくらいの遅刻は許してあげますね」
安堵の笑みを浮かべるコレット。いつもカフェで見せる控えめな給仕服とは違い、今日の彼女は胸元が少し広めに開いた大人っぽいデザインのブラウスを着ている。彼女が小さく息を吐くたび、柔らかな生地の隙間から白く眩しい豊満な谷間がチラリと覗いていた。
エルの視線が、吸い寄せられるようにそこへ固定される。
(う、うおぉぉっ!? 私服のコレットちゃん、胸元がめちゃくちゃ攻めたデザインじゃないか……!! あの可憐な顔立ちから覗く、圧倒的な美谷間……! 神様、命がけで走って戻ってきた俺へのご褒美ですか!?)
思わず視線を奪われ、素直に見惚れてしまうエル。そのわかりやすすぎる視線に気づいたコレットは、口元に「フフン」と小さく誇らしげな笑みを浮かべた。
「……ふふ、エルさん。さっきから視線がわかりやすすぎますよ?」
「あ、いや! 今日のコレットちゃん、私服が想像以上に可愛くてさ……特にその、胸元とか大人っぽくてめちゃくちゃ魅力的だなと思って、思わず見惚れちゃった」
「〜〜っ、もう! どこ見て話してるんですか、ホントわかりやすいスケベなんですから……っ!」
狙い通りの反応にニンマリしつつも、面と向かって褒められると一気に耐えきれなくなり、コレットは頬を真っ赤にして手で控えめに胸元を隠しながらプイッと横を向いた。
悶絶するスケベ心を必死で抑えつつ、エルは「よし、行こうか!」と爽やかに微笑み、コレットと並んで街一番のケーキ屋へ歩き出した。二人の間には、どこか甘く、心地のいい空気が漂っていた。
——しかし、その平穏は一瞬で打ち砕かれることになる。
「あ、あの……! エ、エル殿ッ!!」
突如、広場をつんざくような叫び声が響き渡った。人混みを割って息を荒らしながら駆け寄ってきたのは、美貌の女剣士——『不可侵』の異名を持つSランク冒険者シオンであった。
いつもなら氷のように冷徹なその表情はなぜか耳まで真っ赤で、必死の形相でエルを見つめている。周囲の通行人や冒険者たちが一斉に足を止め、「あのシオン様が……?」「何事だ!?」と騒がしくなり始めた。
(うわ、目立ちすぎだろ……! さっきの森のSランク様がなんでこんなところで大声出してるんだ!?)
「シオン様、ちょっと場所を変えましょう!」
エルは咄嗟にコレットの手を取り、シオンにも合図を送って、広場から少し離れた人けのない路地裏へと移動した。
静かな路地裏。追いついてきたシオンは、深く息を整えると、真っ赤な顔のままエルの前に進み出た。
「エル殿……まずは、先ほどは私を救っていただき、誠にありがとうございました」
頭を深く下げるシオン。隣に立つコレットは「命の恩人……?」と目を丸くさせている。だが、シオンはすぐに表情を真剣なものに変え、チラリとコレットに視線の針を向けた。
「……エル殿。大変恐縮なのだが……少しだけ、二人きりで話させてはもらえないだろうか」
「えっ……?」
戸惑うコレットを見て、エルは優しく彼女の肩を叩いた。
「大丈夫だよコレットちゃん。すぐ終わるから、少しだけ向こうで待っててくれるかな?」
「あ……はい、分かりました……」
少し心配そうにしながらも、コレットは離れた場所へと足を進めた。
二人きりになった路地裏。シオンはエルの目をまっすぐに見つめ、Sランク冒険者らしい鋭い眼光で切り出した。
「……単刀直入に伺う。エル殿、あの時私に使った『あの能力』……一体何なのだ?」
「……は?」
エルの素の疑問の声が漏れる。
「あの極限状態……瀕死だった私の身体が一瞬で全回復し、爆発的な力が湧き出た。あんな芸当、通常の回復魔法やバフでもあり得ん。エル殿……貴殿は一体、私に何をしたのだ?」
シオンの瞳には、命を救われた事への深い感謝と、底知れない謎に対する『真剣な疑問』が渦巻いていた。しかし、問われたエル本人はといえば——
(能力……? 何のことだ……? 俺、魔法なんか使えないし、ただガムシャラに抱きしめて『負けんな』って応援しただけなんだけど……。シオン様が気合で覚醒したんじゃないのか……?)
本気で心当たりがなさすぎて、エルは困惑したように苦笑いを浮かべた。
「いや……シオン様、俺は何のことだかさっぱり分からないですよ。俺はただの一般人ですし、特別な能力なんて何も使ってません。あれはシオン様自身の潜在能力と気合で助かったんだと思いますけど……」
「そんな……誤魔化さなくても良いではないか……! 私の身体に残った感覚が、間違えるはずがない! 貴殿は間違いなく……ッ!」
真面目ゆえに必死で詰め寄ってくるシオン。その迫力と、至近距離から漂う甘い香りと圧倒的な胸元のボリュームに、エルの胸がドキンと跳ね上がる。
(うわ、顔近っ! 迫力ヤバいけどめちゃくちゃ美人だな……。でも今はコレットちゃんを待たせてるしな)
エルはスマートに距離をとりつつ、落ち着いたトーンでシオンの興奮を宥めた。
「シオン様、落ち着いてください。申し訳ないんですが、俺はこれからコレットちゃんと大事な用事(ケーキの約束)があるんです。だからその話は……明日、改めてゆっくり話をしませんか?」
「明日……改めて、私と……!?」
『明日改めて二人で話す』というエルの提案に、シオンの脳内変換フィルターが即座に作動した。
(な、なんと……! 私に秘術を使った理由、そして『ステーキデート』の約束……! 大事な話だからこそ、こんな路地裏ではなく『二人きりでじっくり話そう』ということか……!? しかも、私との約束を後回しにせず、明日の予定としてわざわざ取り付けてくれるとは……っ///)
追及しようとしていた真剣な雰囲気は一瞬で吹き飛び、シオンの顔は一気に茹でダコのように真っ赤に染まった。
「わ、分かりました……! 筋を通す貴殿の提案、受け入れましょう……! 噂のステーキの件も、その時に……ッ///」
「ええ、もちろん」
シオンは震える手でポケットから小さなメモ用紙を取り出すと、エルの手にそっと握らせた。
「これは私の滞在している部屋番号と連絡先です……! 明日、ご都合の良い時にいつでもお呼び出しください! ……ちなみに、エル殿の宿泊先も既に把握しておりますので……ッ///」
(宿まで特定されてんのは普通に怖ぇけど……こんな超絶美人に好かれて嫌な男がいるかよ!)
エルは手に握らされたメモを大切そうに収めると、ふっと余裕のある笑みを浮かべてシオンを見つめ返した。
「……さすがSランク、仕事が早すぎて惚れ直しちゃいますね。頼もしすぎて助かります」
「〜〜〜っ///! は、はいっ! 貴殿のためならどのような手配も惜しみません! では……楽しみにしておりますっ!」
スマートに立てられたシオンは、胸をときめかせながら顔を真っ赤にして颯爽と走り去っていった。
嵐のように去っていったSランクの背中を見送り、ポケットにメモをしまったエル。
(……よし、明日はシオン様と美味しいステーキでも食べながら、仲良くなるとするか。こんな超絶美人と二人きりになれるなんて最高すぎる……あわよくば、もっと凄い展開になっちゃったりして……?)
降って湧いた最高すぎるご褒美に内心でニヤニヤと笑みを浮かべつつ、エルは待たせていたコレットの元へと爽やかに戻っていくのだった。
「お待たせ、コレットちゃん。行こうか」
「……もう、シオン様と何話してたんですか? なんだかシオン様、すごく嬉しそうに走り去っていきましたけど……」
「あはは、まあ明日またちょっと話を聞くことになってね。でも今は、コレットちゃんとのケーキが一番大事だからさ」
「〜〜っ! もう、そういうことサラッと言うんだから……!」
そう言って顔を赤らめるコレットだったが、ふと何かを思い出したように小さく息をついた。
「……エルさんって、本当に女の子が好きですよね」
「そりゃ好きだよ。可愛い子を見て可愛いって思うのに、理由なんていらないだろ? それに女の子って、ぷにぷにして柔らかいし、いい匂いするし……抱きしめると最高なんだよな。まあ、結局は女の子って存在そのものが好きなんだけどさ」
「〜〜〜っ! もう……なんでそんな堂々とスケベなこと即答するんですか……っ!」
コレットは顔を真っ赤にして呆れつつも、エルを見つめる瞳にはどこか柔らかな色が浮かんでいた。
「……まあ、私のことも可愛いと思ってくれてるなら、いいですけど」
「もちろん。コレットちゃんはめちゃくちゃ可愛いよ」
「……そういうところですよ、エルさんは」
呆れたようにため息をつきながらも、コレットの口元には小さな笑みが浮かんでいた。
こうして、Sランク冒険者シオンの鋭い追及と重すぎる情熱を上手く交わしたエルは、コレットと並んで甘いケーキデートへと向かっていくのだった。
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