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第1話 仲間を募ろう

自称SSSランク冒険者アロンと、その相棒リンカ。

歪で、傲慢で、どこか決定的に欠落した二人の旅路。


まずはその「第一歩」をご覧ください。




覚醒とは何か?


それは、眠っていた力が目を覚ます瞬間。

それは、限界を超えた者にだけ訪れる魔力の臨界点。

それは、意志でも技術でもない。

ただ、状況が人を変えるのだ。


魔法における覚醒は、術者の魔力が自らの器を破り、未知の領域に踏み込む現象とされる。



それは訓練では得られない。

それは計算では導けない。

それは、極限の中でしか生まれない。



死の気配、魂の叫び、絶望の静寂────

そのすべてが、術者の中に眠る何かを呼び起こす。

それは、理論では説明できない。

それは、本人ですら理解できない。

ただ、力が溢れ出す。


覚醒は、奇跡のように見える。

だが、奇跡ではない。

それは、命を賭けた者だけが触れることのできる、魔法の裏側だ。

それは、代償を伴う。

肉体を削り、精神を焼き、時に人格すら変える。


変わった者はもう元には戻れない。

かつての自分とは違う。

かつての仲間とも、少し違う。

力を得たはずなのに、距離が生まれる。

理解されることも、受け入れられることも、保証されてはいない。


覚醒は、報われるとは限らない。

誰かを救ったとしても、誰かに認められるとは限らない。

称賛も、感謝も、理解も────必ずしも与えられるわけではない。




それは、ただ起こる。

そして、ただ終わる。





 喧騒と殺気と名声欲。

 それらを煮詰めて鍋にぶち込んだような空気が、この街…『エンバリ』には漂っていた。


 その原因は明白だ。

 つい最近、街の近郊に“未踏破”のダンジョンが出現した。まだギルドの正式な調査も始まっておらず、『最初に踏み入れ、制覇した者が報酬を独占できる』───という実に雑で魅力的な条件のせいで街は俄然活気づいている。


 そして、その街の入り口にひときわ自信に満ちた顔を下げて立つ男がひとり。



「なるほどな……良いダンジョンの匂いだ」



 黒髪を風になびかせながら、男───アロンは鼻をすんと鳴らした。

 不安げな冒険者たちの気配を、まるで“自分の登場を引き立てるエキストラ”のように見なしているらしい。



「ダンジョンが匂うわけないだろう…花粉症でも発症したのか?」



 隣にいた女───リンカが、冷ややかに吐き捨てた。



「いや、分かるんだ。俺はSSSランク冒険者だからな」


「いつもの戯言ランクか…SSまでしかギルドには存在しないんだが」


「人類の格付けがSSまでしか設定されていないだけ…俺のレベルに到達してないだけの話だぞ」



 アロンの目は本気だった。狂っているほどに、真っ直ぐだった。



「いつもの発作が始まった」



 リンカはため息ひとつ。だが、彼女がその隣を歩くのをやめる様子はない。


 彼ら2人の目的はひとつ。未踏破のダンジョンを踏破し、報酬と名声を得ること。

 そのためにアロンは、今日も当然のように言い放った。



「さて、今日も俺とお前のツーマンパーティーで────」


「待て」



 リンカが手を上げて遮った。



「新しいダンジョンを流石に2人で潜るのは無謀だ。せめて一人くらい私の護衛を雇っておくべきだ」


「……ふむ、確かに……」



 アロンが、しばし沈黙する。妙に神妙な表情のあとで、何かに納得したようにうなずいた。



「いくら俺が優秀と言っても、限度がある。俺は自分の限界を知っている……限界を理解してこそ、SSSランクだ」


「くだらない妄言を垂れ流す暇があるなら、この街のギルドへ行け」


「副リーダーがそこまで言うなら、従おう」



 こうして、どこか歪で不自然な会話を経て───アロンとリンカは、新たな仲間を探すため、ギルドへ向かうこととなった。




────

───

──




 住民から場所を教わり、たどりギルドへと着いた2人…早速足を踏み入れた瞬間、鼓膜を刺すような喧騒が全身を包んだ。


 怒号。笑い声。木机の軋む音と、紙が乱暴に貼られる音。そして剣や鎧がぶつかる金属音。

 冒険者ギルドとは本来、依頼と契約を取り交わす場であるはずだが───この街では、どう見ても喧嘩前提の社交場だった。



「こういう雰囲気、俺は嫌いじゃない」


「私もだ」



 リンカの言葉にアロンは満足そうにうなずき、ひとつ息を吐いた。



「さて、問題は仲間選びだ。リンカ、この中で一番活躍しなさそうな奴は誰だと思う?」


「私だが、なにか?」


「ここで自虐ネタを一つまみされても困るのだが……」



 ざっと見渡す限り、ギルド内は強者らしい者たちであふれていた。

 筋肉の密度で空気が変わるような巨漢もいれば、武器の数だけ自信過剰を背負っているような連中もいる。


 だがアロンの視線は、そのいずれにも向かなかった。

 代わりに、ギルド奥にあるクエスト掲示板の前で、ひとりだけ周囲と温度の違う人物が目に入った。


 落とした依頼書を拾っては落とし、腕に引っかけた鞄の紐が外れ、後ろから他の冒険者に押されてよろめき、そのたびに「す、すみませんっ」と小さく頭を下げている。



「あれだ」


「即決か」


「根暗そうで何より弱そうだ」



 アロンはすたすたと歩み寄り、掲示板の前であたふたするその男に声をかけた。



「そこの君、君を我がパーティーに迎えたい。名誉なことだぞ?」




「へ…えっ!?……ぼ、ぼくですかっ!?」




 男は文字通り跳ね上がった。やや癖のある栗色の髪に、丸眼鏡。薄く開いた唇からはしきりに困惑の音だけが漏れている。



「いいんですか!? ぼ、僕……なにもできませんよ!? 本当に、なにも……!」 



 そのやり取りに、周囲の冒険者が騒ぎ始めた。



「あぁ?…おいおい、新参者か?そいつ“ダメヘリック”だぞ?」


「冗談抜きで何もできねぇんだって。魔法も剣も戦術もゼロ」


「唯一できるのが、謝ることと笑ってごまかすこと!それすら怪しいけどな!」


「せいぜい荷物持ちくらいだな。いや、それも腰が痛いとか言って投げ出すレベルだぞ」



 その言葉にヘリックと呼ばれた男は、顔をこわばらせて曖昧に笑った。



「ほう…君は戦えないのか?」


「……はい……いえ、その……努力はしてるんですけど、なかなか結果が出なくて……あ、でも、荷物持ちとか、雑用なら、それなりに慣れてるつもりで……いや、それでも期待しないでください……!」



 ヘリックは、自分でも途中で何を言ってるのか分からなくなったのか、視線を彷徨わせてしきりに頭を下げた。



「へえ……戦えない。魔法もダメ。努力しても結果が出ない。荷物持ちレベル。しかも謙虚……」



 アロンは顎に手を当て、しばし唸る。



「……完璧じゃないか」


「え?」


「良い、実に良いぞ!心配はいらん!君はそのままでいてくれればいい!」



 アロンはぱっと表情を明るくし、手を差し出した。



「……!」



 何かに衝かれたように、ヘリックの目に涙が浮かび始める。



「ぼ、僕……誰にも、そんなふうに言われたこと、なくて……ずっと、邪魔だって言われてて……」



 言葉を結びきれずに、静かに肩を震わせながら、彼は小さく、何度も頭を下げた。

 その姿を見届けたリンカはそっとアロンの横に並び、ぼそりと呟いた































「本当に悪い奴め」




---




 ギルドでの出会いを経て、簡単な装備と補給を整えた三人は、街の外れにあるダンジョン入口付近までやってきていた。


 まだ正午前。気温は高くないが、空気に混じる湿気と鉱石臭がじっとりと肌にまとわりついてくる。



「……で、そういえば」



 ダンジョンに入る直前、アロンが突然くるりと振り返った。



「お互い正式な自己紹介とかしてなかったな…パーティーに加入したのだから、最低限の挨拶はしておかねば」


「あ、ぼ、僕ですか? あの、す、すみませんっ!」



 ぺこぺこと頭を下げながら、彼は少し声を張って名乗る。



「ぼ、僕の名前はヘ、ヘリックっていいます……魔法使いを目指してるんですけど、いまだに攻撃魔法が一つも使えなくて……戦闘経験も、ゼロで……でも、が、頑張りますっ!」


「うむ、よろしい……じゃあ次、副リーダー…よろしく頼むぞ」


「……私か」



 無表情のまま、リンカがほんの少しだけ顎を引いた。



「私の名はリンカだ。肩書きは“副リーダー”…だが、おそらくお前以上に何もできないから何も期待するな」


「石は投げられるぞ」


「なんのフォローにもなってない」


「命中精度はそこそこだ」


「やるなら、最後までフォローしろ」


「あ、あはは…………えっと……じゃあ、最後は……」



 ヘリックが戸惑いながら視線を戻すと、アロンは胸を張ってひとこと。



「俺はアロン。SSSランク冒険者だ」


「……え?」


「無視で構わないぞ…こいつの話を全部聞いてたら、身がもたないからな」



 リンカの話を聞いて、ヘリックは察した……つまり“そういう人”なのだ、と。



「では出発だ、我らが第一歩のために!」




これから彼が、どんな「無能」を拾い、どんな「有能」を切り捨てていくのか?


読んでくれている方、モチベーションに繋がってます、本当に嬉しさと感謝でいっぱいです!

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