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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第六章_タマモ召喚!

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129_銀級妖狐

 「主……、主……!」


 混濁した意識の中、玲瓏な声がアヤセを導く。鈍痛に抗いながらアヤセは重い瞼を持ち上げ、ぼやけた視界に光を取り戻そうとする。


 「アーヤ、しっかりしてください!」

 「アヤセ兄さん大丈夫ですか!?」


 視界が徐々に鮮明になるにつれ、自身のもとに集まっている者達の顔がはっきりと識別できる。必死な声を上げアヤセに意識が戻るよう呼びかけるマルグリットとその隣で不安げに身を乗り出しているソージの姿はすぐに認識できたが、もう一人見たことが無い顔がそこにあった。


 アヤセの頭を膝枕で支える十四、五歳の少女はアヤセの手を力強く握り、憂いを帯びた潤ませた瞳で見下ろしていたが、アヤセが目を開けると慌てて手を放し目も逸らした。


 「貴女がタマモさんですね?」

 「……」


 アヤセの問いかけに、視線を下に向け決まりが悪そうな顔をしていたタマモは、おずおずとアヤセの顔を見て口を開いた。


 「はい……、タマモにございます」

 

 タマモと名乗った少女の服装は、丈高な黒い立烏帽子(たてえぼし)をかぶり、白い水干(すいかん)と紅色の裾の長い長袴を着用していた。艶のある綺麗な黒髪は腰まであり、それを毛先に近い位置で束ねる様子は、大河ドラマや時代劇で目にしたことがある、平安時代の装束によく似ていた。


 (この格好は、巫女? いや、「白拍子」か)


 白拍子は、平安時代の末から鎌倉時代にかけて活躍した歌舞芸能役者のことで、その芸は、当時の男性の衣装であった水干や長袴を着用(言わば男装)して歌や舞を披露するのが特徴であった。

 少女らしいあどけなさを残しつつ、目元や所作に大人びた艶を備え、小さな仕草を見せるだけでも「傾城の美女」の片鱗を覗かせる妖艶さが滲み出る。タマモのモデルと思われる「玉藻の前」は伝説に登場する九尾の狐で、絶世の美貌を備えた女性に化け、時の権力者に取り入り、人心を大いに惑わせたとあることから、彼女の見た目もそれに沿ってデザインされたのかもしれない。


 (いや、タマモさんの魅力はこの際置いておいて、召喚時には狐の姿をしていたのに、何故今は人と変わらない姿をしているのかを考えるべきだ)


 その様なことを考えていたが、一方のタマモは何かを問いたそうな顔をして自身を見上げるアヤセに気付き、悲しそうに目を伏せてしまった。


 「タマモさん?」

 「アーヤ、色々聞きたいことがあるでしょうが、契約の儀の山を越えたとはいえ、今も召喚に伴うMPは常に減少しています。今はとにかくMPの回復に努めてください。話はその後です」


 マルグリットがアヤセの健康状態を心配して会話に割り込む。ソージもまたMP回復薬を手に取り真剣な顔で頷いていたので、ここはタマモに話を聞くのは後にして、二人の勧めに従うことにした。

 

 ========== 


 「まずは腹ごしらえですね♪」

 「朝から何も食べていなかったので、マルグリット姉さんのお弁当が嬉しいです!」

 「今日はあいにくの梅雨空ですから室内の方がいいかもしれませんね」

 「……」


 トレーニングルームに広げられた敷物の上には、マルグリット特製の弁当が並べられ、色とりどりの料理が並び華やぎを見せている。敷物の周りには三人の召喚獣も加わり、それぞれが好みの料理で舌鼓を打っていたが、タマモだけはそれに手を付けず神妙な面持ちで料理を見つめていた。


 「タマモさんもどうぞ。マルグリットさんが心を込めた弁当はどれも絶品ですよ」

 「……」


 魔力回復薬を飲みながらアヤセが気遣って声をかけるがタマモは何も応えない。


 「アーヤ、タマモちゃんには、もっと気になる料理があるのですよ」

 「マルグリットさんが作る料理以上に気になる物があるのでしょうか?」

 「はい、アーヤの茹で芋です」

 「えっ? あのジャロ芋を茹でただけの料理が? ……本当にこれでいいのでしょうか」


 マルグリットのタマモに対する口調が随分くだけたものになっていることを不思議に思いつつ、アヤセがインベントリから茹で芋が何個か載った皿を取り出し、タマモに手渡す。一方それを受け取ったタマモは、手にした際に目に喜色が浮かんだように見えたものの、憂いを帯びた様子を変えず黙って皿を敷物に置くと、床に後ずさり手をついて深々と頭を下げた。


 「此度の主の御尽力にて、外界へと解放されたこと、誠に感謝申し上げます。ですが妾より主に申し上げたき儀がございます」

 「タマモさん、そんなに畏まらずに、まずはマルグリットさんが言うように腹ごしらえをされてはいかがでしょうか?」

 「アーヤ、ここはタマモちゃんの話を聞いてあげましょう」


 (やけにマルグリットさんはタマモさんを取り成すな。自分が伸びている間に何かあったのだろうか?)


 マルグリットの言動に疑問を持つが、ひとまずアヤセはタマモに頷いて話を促すことにする。タマモもそれを受けアヤセに頷き返した後、口を開いた。


 「主、妾のステータスを御鑑定ください」

 

 ====鑑定結果====

 【召喚獣】★5

 名前  タマモ(銀級妖狐 (ユニーク))【擬人化】

 レベル 1

 HP   215

 MP   142

 親密度  64

 スキル 絶対零度、冷撃波濤斬、幻惑の舞、鉱石採掘+、擬人化

 ============

 

 (タマモさんは「銀級妖狐」という名前のとおり妖狐系の種族でおまけにユニークか。しかし、「タマモの思念」は価値7の召喚獣の思念だったはずだが、価値とリンクする「★」が5になっているのはどうしてだろうか。名前の横にある「擬人化」が影響しているのか?)

 

 色々と気になるところがあるが、やはり特筆すべきは本来ならば召喚獣の思念の価値と召喚獣の「★」の数字は一致するはずなのにタマモは★の数を減らして召喚されたことだ。そしてこの事こそ、おそらくタマモがアヤセに伝えたいことなのだろう。


 「『★』の数に関して何か伝えたいということでしょうか?」

 「御明察恐れ入ります。今こうして主にお目通りをしている姿は、妾の本来の姿ではありませぬ。この人型は『擬人化』を行ったことによる仮初でございます」

 「召喚時に見えた銀色の狐の姿……。あれが『銀級妖狐』タマモさんの真の姿なのですね」

 「『銀級』なれど、妾は高位妖狐の血族に名を連ねる者にございます。主の御期待を決して裏切りませぬ」

 「……」


 タマモの言動に何か引っかかるものを感じるが、これ以上話の腰を折ることは控え本題を進めることにする。


 「『擬人化』の目的は竜の女王、シクリッドさんの例から想像できます。召喚に伴う召喚主のMP消費量を軽減させることですね」

 「それもございますが、主因は妾にあるのです」

 

 タマモは何かに耐えるような苦悶の表情を浮かべつつ、続きを語る。


 「召喚獣は召喚の時に、召喚主が作りし現世の門を通り顕現いたしますれば、召喚獣は門の通行時に気の流れを変化させるのでございます。高位の召喚獣ほど門を通りし影響が強く出て参りまする」

 「……つまり、召喚獣は召喚時に出入口を通らなければならないが、その出入口は召喚主の能力によって姿形が異なり、通る際に都合をつける必要があって、『門』の質が良くないと高位ほどその影響が出やすい、ということなのですね。確かにこの理屈だと同じ召喚獣を召喚しても召喚主によって能力に差が出るという現象に説明がつきます」

 「分かり易い例えですね。今度他の会員様への説明で使わせていただきます。しかし、召喚時にその様な影響があるとは私も知りませんでした」


 マルグリットが初めて知り得た情報に感心したように声を上げる。


 「ただし召喚は、影響の多寡はあれども『★』の数には変わりはありませぬ。妾も本来でしたら★7の銀級妖狐の姿で主のもとに馳せ参じられるはずでした。それなのに妾は不覚を取りました!」

 「あの時聞こえた『不覚!』という言葉がその事なのですね。一体貴女に何があったのでしょうか?」

 「封印の影響により、妖狐の姿では魔力を制御できず、暴走の兆しが出てしまったのです。妾がこのような擬人の姿を取るのは、主の魔力不足を補うためだけでは無く、自らを律することが叶わない妾が、主の傍に侍るための苦肉の策を講じているに過ぎませぬ」

 「何百年にも及ぶ封印によるブランクが足かせになっている可能性が高そうですね」

 「妾は……、召喚獣として不覚を取りました。力を示せぬ召喚獣など、存在意義などありましょうか? ……無様な失態に主が失望をしてしまわれたのではないかと妾は恐れております」

 「……」


 (どうやらタマモさんは、召喚獣の存在価値は力、特に戦闘力だけで決まると思い込んでいるようだ。自分にとっては、召喚獣に戦闘力を求めるのは優先順位が低いのだが)


 ★7の高位召喚獣としてのプライドなのかは不明だが、自分自身を呪縛する思考を持つタマモに、それがいかに無意味なものであるかをどのように伝えるべきか考えつつ、アヤセは語りかける。


 「タマモさんは、召喚主の自分の職業が『あの』アイテムマスターであることに失望しましたか?」

 「えっ!?」


 出し抜けなアヤセの台詞にタマモは面食らうものの、少し時間を置いて主の問いに答える。


 「……いいえ、そのようなことは決して。主に失望することなど決してございませぬ」

 「それと同じです。職業や★の数でその人物の価値は測れません。仲間として行動を共にしたいとお互い思うことこそ、真の召喚主と召喚獣の関係と言えるでしょう。確かに貴女は擬人化によって、本来の力を発揮できないかもしれません。しかしそうであっても、自分の召喚獣であることには変わり無いのです。貴女の召喚を自分がどれほど望んでいたかは分かっていただけますよね?」

 「勿論、主の召喚までの苦難の道のりは身に染みて存じております。妾も主の手によって召喚されることを心待ちにしておりました!」

 「でしたら、それだけで十分です。タマモさんはタマモさんなのですから」

 「……主は、妾のことをそこまで思うてくださっていたのですね」


 (誇り高い彼女を前にして言えないが、「★5」の召喚獣であっても現状では高い部類に入るしスキルも多め、擬人化による省エネで自分のMPにも優しいし、★6のエルミナには劣るが、レベルが上がればマルグリットさんの★4召喚獣アンタレスとチャコよりも能力的に有望そうだ。それに異常な親密度の高さも大きな利点だ。実を言うと自分にとっては損益より寧ろメリットの方が勝っているのだよな)


 ついつい実利を考えてしまうアヤセは自身を戒めつつ、再び瞳を潤ませるタマモを見つめる。どうやら彼女もアヤセの言葉の真意を理解してくれたようだ。


 「このタマモ、もう迷いはございませぬ。どのような姿であっても、妾は全身全霊、粉骨砕身、この身が滅するまで主に生涯忠誠を誓い、お仕えいたしまする!」

 「まぁ、あまり肩肘張らず畏まらず自分に接してください。それで最後にこれだけは言っておきたいのですが」

 「はいっ! どのような事でありましょうか?」


 居住まいを正したアヤセが立ち上がり、主の言葉を待つタマモの正面に片膝をついてそっと彼女の肩に手を置く。アヤセの出し抜けな行動にタマモは当初、驚いたような顔を見せるが恥ずかし気にそれを受け入れた。


 「ようやく会えましたね。本当に長い間お待たせして申し訳ありません。貴女の新しい生活がこれから始まります。これからは頼りない主をどうか支えてくださいね。自分も貴女の大きな信頼を裏切らないように努めます」

 「!!」


 雷に打たれたように感激に打ち震えるタマモを見て、マルグリットやソージがそれぞれ感想を漏らす。


 「僕は……、僕は感動しています。今までのことははっきり分かりませんが、二人共本当に良かったです。あんな素敵なセリフをサラッと言えちゃうなんて、アヤセ兄さんはきっと色々な召喚獣達に好かれます。僕もアヤセ兄さんみたいなサモナーになりたいです」

 「本当に、同じサモナーとして感心すると同時に、アーヤの協力者として二人の親密度が高すぎることにちょっと妬けちゃいますね。まぁ、でもタマモちゃん良かったわね。アーヤでしたら絶対大丈夫だって言ったとおりだったでしょう?」

 「タマモさん良かったですね!」

 「はい、メグ殿の御賢察見事なのじゃ。それにソージ殿の心遣いにも感謝いたす」

 「何やら自分が知らないところで皆仲良くなっていませんか?」

 「フフッ、アーヤには秘密です!」

 「はぁ、秘密ですか……。そういえばタマモさん、思い出したのですが以前、茹で芋に興味を示されていましたね。気に入るか分かりませんが、できたてが器に有りますので、冷めないうちにどうぞ。皮をむいて塩を軽く振りかけて食べてください」

 「是非とも、妾にくださりませ! これを賞味するのを心待ちにしておりました!」


 喜色を体で表したタマモは、早速器に盛られた茹で芋に手を付ける。その笑顔を見てこれだけでも何百年も思念の中に閉じ込められていたタマモの解放に力を尽くした甲斐があったのだろうとアヤセは感じたのだった。

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