表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第六章_タマモ召喚!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

129/131

128_タマモ召喚!

 「契約の器よ、我が魂に応えよ! ……エメラルドカーバンクル、召喚!!」


 ソージが上げるかけ声と共に、地階のプライベートトレーニングルームがまばゆい光で満たされる。そして発光が落ち着くと三人の目の前には一体の召喚獣がちょこんと座っていた。


 ====鑑定結果====

 【召喚獣】★6

 名前  エルミナ(エメラルドカーバンクル)

 レベル 1

 HP   177

 MP   110

 親密度  5

 スキル エメラルドヒール、ミスティックグレイス、翠閃ブレイク、翠玉の共鳴

 ============


 大きさはミニチュアダックスフンドの成犬くらいで、上向きの尖った小さな耳、細くてくねくね曲がる尻尾、長く突き出た鼻口部、丸くて大きな瞳にふかふかとした毛並み……。目の前に現れた召喚獣は、猫とも犬ともつかない見た目で額にある濃い緑色のエメラルドとそのコントラストを利かせた淡いミントグリーンの体色が特徴的だった。


 「わぁ! やっぱり本物は可愛らしいですね♪」

 「見た目もそうですが、初期の段階で優秀なスキルを四つも持っているのは、さすがは高位召喚獣といったところでしょうか」


 ソージが大事そうに抱きかかえた、エメラルドカーバンクルことエルミナの頭をマルグリットが愛おしくてたまらないといった表情で撫で、アヤセもまたその能力について言及する。


 「エルミナのスキルってどんな効果があるんですか?」

 「えーと、【エメラルドヒール】はパーティー全体のHPを中回復、【ミスティックグレイス】はパーティー全体に沈黙・混乱耐性付与、【翠閃ブレイク】は敵単体に風と光属性の魔法攻撃と一定確率で状態異常「沈黙」を付与、【翠玉の共鳴】は自身の魔力を味方単体に一時的に付与できます。どれも優秀なものですね」

 「【翠玉の共鳴】で魔法攻撃力の高い味方を支援したり、【翠閃ブレイク】で自身も攻撃に加われたりと回復役だけでなく、幅広い活躍が見込めそうです」

 「僕もそう思います。それにしてもマルグリットさんっていろいろ詳しいですね」

 「フフッ、ありがとうございます。ギルド会員様に情報をご提供するのはギルド職員の務めですから」

 「これからも分からないことがあったら教えてくださいね!」

 「これでしたら、確かにデモンストレーションで人気が出るのも頷けますね」


 今度はアヤセがエルミナの頭を撫でる。マルグリットが撫でた際もそうだったがエルミナは特に嫌がる素振りを見せず、寧ろアヤセが撫でたことでよりリラックスしているように見えた。


 「【念話】で聴き取ったのですが、エルミナは雄です。ソージさんに召喚されて嬉しいと言っています」

 「えっ? スキル【念話】って他の人の召喚獣とも話せるんですか!?」

 「おそらくアヤセさんだけかと思います。ちなみに私もスキル【念話】を取得していますがそのようなことはできません」

 「最も他の人との召喚獣とは明確なコミュニケーションを取れる訳ではなく、相手の言っていることを聴き、こちらからは一言二言、言葉を投げかけるようなかたちです」

 「それでもすごいと思いますよ。僕もスキル【念話】が欲しいです。……あっ! アヤセさんに言わないといけないことを後回しにしていました」


 そう言うとソージは、先ほどロビーで行ったのと同じ動作でアヤセに深々と頭を下げる。


 「『契約の器の強化薬++』を売ってくれてありがとうございます! エルミナを召喚できたのもアヤセさんのお陰です」

 「お礼には及びません。自分もエメラルドカーバンクルの魅力に触れることができて良かったと思っています。それに貰う物も貰っていますから」

 「でも、それだって僕の持っているお金に合わせてくれたじゃないですか」

 「それはどうでしょうか。さすがにソージさんが五百ルピアしか持っていなかったら売っていたか分かりません」

 「それでも僕に対して何かしてくれたと思います。今まで僕は他の人と一緒にゲームをすることがちょっと怖くてずっとソロでやってきたのですが、アヤセさんのような人に出会えて本当に良かったです。昔から僕はアヤセさんのようなお兄ちゃんとマルグリットさんのようなお姉ちゃんが欲しかったんです」

 「あら、お姉ちゃんですって。アヤセさんがお兄ちゃんなら、お姉ちゃんの私とも『家族』ですね♪」

 「マルグリットさん、冗談でもそのようなことを言わない方がいいと思います。まぁ、ソージさんがそのように思うのは自由だと思いますが」

 「じゃあ、今度から僕のことはソージって呼んでください。僕も二人のことを『アヤセ兄さん』と『マルグリット姉さん』って呼びますから」

 「さすがに呼び捨てはいかがなものかと思いますから、自分は『ソージ君』とお呼びします。ですがマルグリットさんに対してはサモナーギルドの職員ですので、仕事中は馴れ馴れしくせず節度を持って接することに注意してください」

 「分かりました、気を付けます、って、前から気になっていたのですが、どうしてマルグリット姉さんはギルドにいなくてアヤセ兄さんと一緒にいるのですか? ……あっ、まさか!」

 「実は、そうです!」

 「違います」


 即座に否定するアヤセと残念そうにするマルグリット。その様子を見たソージも二人の関係性をなんとなく察して苦笑いした。


 「僕は、二人はお似合いだと思いますけど」

 「彼女は有給を使って自分に同行しています。目的は彼女達のレベリングと素材集め、それとこれが主目的ですが『タマモの思念』の召喚のためです」


 そう言いながらインベントリからアヤセが取り出した思念を目にして、マルグリットの顔は真剣なものに変わる。ソージの召喚に付き合っていたが、いよいよ本題にとりかかることを改めて認識するのだった。


 ========== 


 「それでは準備はよろしいでしょうか?」

 「はい結構です」


 トレーニングルームの真ん中に立つアヤセは、入り口付近に控えるマルグリットとソージに声をかけ、召喚のタイミングを図っている。


 「あの、どうして僕達はこんなに離れているのでしょうか?」


 ソージは自身らがアヤセを遠巻きに見る位置にいることに疑問を感じ、マルグリットに尋ねる。


 「これはタマモ召喚に関しての予防措置です」


 マルグリットが答えるが、さすがにこれだけでは、ソージでなくても理由は分からないだろう。緊張によって回答が簡潔になり過ぎたことに気付いた彼女は補足を入れる。


 「アヤセさんが召喚を試みる『タマモの思念』は、詳細は不明ですがおそらく妖狐系の召喚獣の思念と思われます。この系統の召喚獣は能力や知能が高めですが、扱いが難しい部類としても知られているのです」

 「妖狐系……。前に★2のクダキツネという召喚獣が全く言う事を聞かないってサモナーのプレイヤーが言っていたのを聞いたことがあります」

 「★2ですらそうなのですから、価値7のタマモが召喚主の命令を素直に受け入れるか疑問を持って当たらなければなりません。独断専行による暴走も視野に入れる必要があるでしょう」

 「それで、ギルドのトレーニングルームを借りたのですか?」

 「はい。トレーニングルームは閉鎖空間ですから暴走による周辺の被害を防げますし、もしも、召喚時にトラブルがあった際は、私達は退避して残ったアヤセさんが対処する手はずになっています」

 「アヤセ兄さんはどんなことをするのですか?」

 「簡単に言えば『召還』、召喚を止めることです。最悪の場合は召喚主が到達点回帰(注:NPCが発言時に用いる死に戻りに対する表現)した際に召喚した召喚獣も消失しますのでそれで対処できます」

 「召喚に死に戻りまで考えないといけないのですね。アヤセ兄さんはどうしてそこまでして召喚したいと思っているんですか?」

 「アヤセさんが言うには『タマモの思念』には多くの因縁がまつわり、タマモ自身も騙されて思念に封印され、自由を奪われたそうです。アヤセさんはそんなタマモを自由にしたいという想いがあるみたいですね」

 「……」

 「それに、これは驚くべきことなのですが、『タマモの思念』はあの人が初めて手に入れた思念なのだそうです」

 「えっ!? 価値7の思念を一番初めにですか?」

 「ええ。私もサモナーギルドの受付で初めて目にした際にとても驚きました。そのような思い入れの強い思念ですから、何とかしたいという気持ちもあるようです」

 「アヤセ兄さんらしいですね。僕にしてくれたみたいに召喚獣も自由にしてあげたいだなんて」

 「実を言うと私はそれほど心配していません。実際にあの思念を手に取らせてくれた際に、タマモのあの人に対する意志を明確に感じ取ることができましたから」

 「……そうなのですね」

 「でも、不測の事態が起こらないとも限りませんので最小限の対策は取っているのですけどね」

 「お二人の話が済みましたら、召喚を始めたいと思いますがいかがでしょうか?」


 アヤセが二人に声をかける。その声は心なしか強張っているように聞こえた。


 「ええ。済みません、話し込んでしまいまして。こちらは万端です」

 「了解です。……それでは始めます」


 しんとしたトレーニングルームの空気が張り詰める。


 アヤセは「契約の器++」を両手で包み込むように持ち、静かに目を閉じる。マルグリットとソージは彼の集中を妨げないよう気配を殺してその様子を見守った。


 (遂にここまで来たか……)


 アヤセの脳裏に、過去の記憶が甦る。「カナエの墓標」において「タダミチの生霊」に勝利し、初撃破の報酬として思念を入手して以来、本当に長い期間行動を共にしてきた。多くの人々との出会い、強敵との死闘、思念と共に見聞を広めた数多の冒険……。アヤセの足跡全てがこの瞬間に繋がっていた。


 「タマモ召喚!」


 召喚時の掛け声は特に決まりは無く、召喚者の自由に任せられている。アヤセは思念を持った腕を伸ばし、簡潔に主目的だけを短く言い放つ。


 手に持った器が濃く輝き始める。先ほどのエルミナの召喚時よりも強い光量の輝きがトレーニングルームに放たれ、視界が奪われる。空間が震え魔力が渦を巻き、魔法陣のような大きな円形紋章が床に浮かび上がる。その真ん中に魔力が集まり、何かが実体を形成させていく。それと、同時にアヤセは片手で頭を押さえふらつくように体勢を崩した。


 頭の中を何かが激しくのたうち回り、自身の脳内を食い破ろうと頭頂部の内側から圧力がかかるような感覚は「魔力切れ」の症状だ。

 魔力切れはMPがゼロになると起こる一種の状態異常で、なった者に激しい頭痛をもたらし、一定時間を過ぎると気を失う症状である。予想していたとおりタマモの召喚には膨大な魔力が必要で、対策はしていたものの、ステータス値に問題があるアイテムマスターのアヤセのMPは早くも枯渇してしまったようだ。まるで自身の頭部を身体から引っこ抜こうとする濁流のような勢いは、油断をしたらすぐさま意識を持っていかれてしまうだろう。今が我慢のしどころだ。


 MP回復薬を何本もあけて魔力切れがもたらす障害に耐えるアヤセ。その甲斐あり目の前の魔力の塊が実体を見せつつある。タマモの姿はマルグリットが語っていたように複数の尾を持つ狐だった。気高さを象徴するような立派は尾と銀糸のような美しい毛並みは、高位召喚獣としての品格を存分に備えており、徐々にその輪郭を濃くしていく。


 「主……、只今参ります!」

 「……!」


 どこか儚げでありながら、澄み切った鈴の音のような若い女性の声が不意に聞こえる。

 この声は聞き覚えがある。この声は、夢の中で自身に呼びかけてきた声だ! タマモが現世への解放を望んでいる、そう確信したアヤセは自らを鼓舞して呼びかけに応える。


 「さぁ、タマモ、もう少しだ! 自分の下に…、自分の下に来いっ!」


 二つの魔力が繋がる感覚……。タマモの意識をしっかり掴み取ったアヤセは、何が何でもそれを引き上げてみせるという決意を固め、最後の死力をふり絞る。


 召喚までもう一息……。そう思った矢先にそれは起こった。


 「あっ…………! 不覚っ!」


 若い女性のくぐもった声がトレーニングルームに反響する。

 それと同時に、アヤセの身体の内外に影響を与えていたあらゆる重圧が一瞬のうちに倍加してのしかかる! 今まで濁流のような魔力をすんでのところで均衡を保つことに注力していたアヤセにとってそれは予期しない事態だった。


 「ぐっ……! これほどの魔力とは!」


 不意を衝かれたかたちになったアヤセは、最早力に抗しきれずとうとう意識を手放してしまったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ