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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第六章_タマモ召喚!

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127_ソージ

 「慈聖学院のニュース、見たか?」

 「ああ、ログイン前にネットニュースで知った」

 「ノエル嬢の話だと、被害者がエスメラルダで加害者がルクレツィアだそうだ。事件が事件だけに週刊誌も嗅ぎまわっているらしいぜ。ノエル嬢やシアン嬢、ナーカ嬢のところにも取材が来たんだとよ」

 「都内有数のお嬢様学校における刃傷沙汰はそれだけセンセーションだからな。それに被害者も加害者も叩けば叩くほど埃が出てくるような奴等だから、週刊誌もしばらくネタには困らなさそうだ」

 「二人に関する悪評は既にネットに出回っているぜ。宝石の盗難の話や水責めに遭った被害者の告発とかあるが、内容を話半分に見たとしてもとんでもねぇ奴等だな。最も、家庭環境は同情の余地があるかもしれねぇが」

 「自分はそう思わない。あのまま放置していたらノエル達も犠牲になるところだったし、自分の周りの人達を傷付けたことは絶対に許すことができない。それに、エスメラルダにしろ、ルクレツィアにしろ、自分の力で現況を変えるチャンスがあったにも関わらず寧ろそれを悪用して他人を支配して楽しんでいたんだ。あいつらは社会制度の犠牲になった悲劇のヒロインでは断じて無い。悲劇を演じる加害者だ」

 「……その点は全くもって俺も同意だ。お前さんが引導を渡して良かったかもしれんな」

 「こんなことを言っては何だが二人が自滅した結果、ノエル達も現実世界で憂慮する大きな点が無くなったから一安心かもしれない」

 「ま、確かに今は彼女達が落ち着きを取り戻すのが一番だぜ。ゲームに戻ってくるかな?」

 「こればかりは何とも言えない。だが、帰ってきた際は、自分達はできることをして彼女達の力になるようにしよう」


 アヤセとホレイショは、フレンドコールで一連の事件を振り返りつつ、今後のことについて打ち合わせをする。


 「ところで、遂に『タマモの思念』が召喚できるようになったのか? 良かったな!」

 「ここまで来ることができたのは、ホレイショ達のお陰だ。本当にありがとう」

 「それは言いっこ無しだぜ。それに、様々な必要条件をクリアできたのは、お前さんの実力の賜物だ。召喚はラタスでやるつもりか?」

 「そのつもりだ。マルグリットさんが立ち会ってくれるし、現地で行うのが最適だろう」

 「マルグリット嬢、ねぇ。ノエル嬢も言っていた『王都三大美人ギルド受付嬢』か」

 「その言い方は、彼女の前で絶対に言うな」

 「ああ、分かっている。だが、王都ではノエル嬢が大袈裟に騒ぎ立てて、女性陣がざわついている。特にマリー嬢がご機嫌斜めになっているから、戻った際は気を付けろよ」

 「……忠告に感謝する。十分留意しよう。それでは今回はこの辺で」

 「おう、またな!」


 ホレイショに感謝の言葉を伝え、アヤセはフレンドコールを終了した。


 「アーヤ、お話は終わりましたか?」


 マルグリットが会話の終了を見計らい、声をかけてくる。今日の彼女は機嫌が良くいつも爽やかな笑顔が更に輝いているように見える。そう見える理由は、今後の予定が関係しているからだろう。


 「ええ、お待たせしました」

 「そうでしたら、早速サモナーギルドへ参りましょう。今日は念願の『タマモの思念』の召喚です。今日はアーヤにとって記念すべき日になるでしょう。私も立ち会えることがとても嬉しいです!」


 ========== 


 =個人アナウンス=

 「契約の器の強化薬++」を使用し「契約の器+」を「契約の器++」に強化しました。


 「強化が完了しました」


 見た目は強化前と全く変わらない「契約の器++」を見下ろしアヤセはマルグリットに結果を報告する。


 「……ここまで来るのに本当に色々ありました。思念の獲得から四年くらいかかったような気がします」

 「あの、その年月はどこらか算出したのですか? それよりもまだ終わりではありませんよ! 召喚はこれからですからね」

 「済みません、自分でもよく分からない感慨が溢れ出てしまいまして……。メグの言われる通り、タマモを召喚して自分の新たな冒険が始まります」

 「はい! タマモも待ちきれないでしょう。ここのサモナーギルドには地下にトレーニングルームが有ります。そこを借りてすぐにでも試してみましょう!」


 自身よりも逸る気持ちを抑えることができないマルグリットを宥めつつ、二人は地下に移動しようとするが、そんな二人に気付いた一人のプレイヤーが近付いてきた。


 「あの、アヤセさんですよね?」


 声をかけてきたプレイヤーは男性のようだが、小柄で幼さが残る顔立ちをしており、以前の戦争イベントで男装をしたマリーよりも中性的な雰囲気が更に引き立てられている。おそらくマリーと同じハーフリンク種なのだろう。いで立ちも軽装のフード付きローブを纏い、場所が場所だけに職業はサモナーであると想像できる。アヤセはこのプレイヤーとは初対面で、面識が無いにも関わらずこちらの事を知っているような口ぶりに対し、警戒を滲ませて応じる。


 「失礼ですが、自分はどこかでお会いしましたか?」

 「あっ……、急に声をかけて済みません。僕はソージといいます。見てのとおりハーフリンクの職業はマスターサモナーで、サブジョブもサモナーです。アヤセさんと話すのは初めてです。やっと会えて良かったです」


 エスメラルダの件もあり、口調がつい厳しいものになってしまったと感じたアヤセは、相手の自己紹介に対し、態度を軟化させ丁寧に返礼をする。


 「御挨拶恐れ入ります。自分がアヤセです。職業はセカンド・アイテムマスターです。ところで、何故自分のことを御存じなのでしょうか? あと、自分のことを探しているように見受けられましたが?」

 「はい、それについて説明したいのですが、お話しても良いですか?」

 「……」


 アヤセはマルグリットに目を向ける。タマモの召喚にいち早く取り掛かりたい彼女は、ソージの話に時間を取られるのを快く思わないだろう。しかし、アヤセはソージのどこか思い悩んだような表情に気付き話を聞くことに決めた。


 ========== 


 場所をギルドのロビーに移し、アヤセ、ソージ、マルグリットの三人は打ち合わせ用のテーブルセットに腰を落ち着ける。ラタスのサモナーギルドのロビーは飲食スペースも兼ね、ギルド会員以外も利用が可能であるので、まあまあの賑わいであり、ソージとマルグリットの美男美女の組み合わせは多くの者の目を引いた。

 そんな二人に挟まれて自身の居心地の悪さを感じつつ、アヤセはソージに目的を問うため口火を開く。


 「急かすようで申し訳ありませんが、自分達もこの後大事な用事が有りますので、お話は手短に本題のみお願いします」

 「分かりました。では、初めはどうしても僕から伝えたかったことから言います」


 そう言うや否やソージは席から勢いよく立ち上がり、アヤセに向け腰を直角に曲げて最敬礼のお辞儀をする。


 「この度は、本当に済みませんでした! そして本当にありがとうございました!」

 「……!?」


 ギルド中に響き渡るような大声で謝罪と感謝を述べるソージにその場に居合わせた者達が目を向け、アヤセは注目を一手に集めるかたちになった。


 「急に大声でそのようなことを言われても困ります。他の人達にも見られていますから、頭を上げてください」


 アヤセはソージに自身に対して行っている最敬礼を止めるよう促す。一方のソージも自分の振舞いがアヤセに迷惑をかけていることに気付き慌てて頭を上げ、椅子に座り直した。


 「話は本題から入ってもらいたいとお伝えしたはずです。ソージさんが自分に頭を下げる理由を教えください」

 「ご、ごめんなさい。周りに気付かずつい大声を出してしまいました。僕がお詫びとお礼をした理由なのですが、ルクレツィアさん達をアヤセさんが止めてくれたからです」

 「ルクレツィアでしょうか?」


 既にゲームから排除された人物の名前が再び上がったことに、アヤセは内心、いつまでこの亡霊と付き合わなければならないのかとうんざりするが、引き続きソージの話を聞くことに専念する。


 「連中はブラックリストに載り、再び我々の前に現れることはありません。しかし、ソージさんも迷惑を被っていたのですね」

 「はい。僕は主にソロでプレイしているのですが、あの人達にしつこくパーティーに加入するように誘われて困っていたのです」

 「勧誘される理由は何だったのでしょうか?」

 「理由は、僕の持っている召喚獣の思念だと思います。……これを見てください」


 ソージがテーブルに置いたのは召喚獣の思念だった。ソフトボール大の球体は明るい緑色をしており、鑑定をしてみたところ、「エメラルドカーバンクル」という価値6の高位召喚獣の思念のようだ。


 「価値6のエメラルドカーバンクルは、価値3のカーバンクルの変異種で、最近サモナーギルド主催のデモンストレーションにおいて披露された召喚獣です。回復魔法に優れ、状態異常を一定時間無効化するスキルが評価され、また、見た目の可愛らしさも相まって、デモンストレーションで紹介された召喚獣の中では一番人気でした」


 マルグリットがアヤセに召喚獣の説明を行う。


 「僕もエメラルドカーバンクルの見た目と性能を見て絶対召喚したいと思って、頑張って思念を手に入れたんです。それがルクレツィアさん達に知られてしまって……。それからしつこくパーティーに入るように言われました」

 「……」

 「価値6の召喚獣の召喚には、『契約の器+』を強化した『契約の器++』が必要です。でも、強化に必要な素材が思っていたよりも手に入れるのが大変で僕も苦労していました。そうしたら、ルクレツィアさん達がそれなら自分達が素材を手に入れてやる、エメラルドカーバンクルの召喚ができたら自分達のパーティーに入れっていう流れになったのです」

 「話の内容を自分達が有利になるようにすり替えるのは、連中の常套手段ですね」

 「いつの間にかそんな話になってしまったのですが、僕もこれで諦めてくれるのであればと思ったのです。こう言っては何ですが、あの人達に必要素材を揃えることはできないだろうと直ぐに感じましたから」

 「ところが、連中は思いのほか粘っていたと」

 「はい、『ダンガイイワツバメの巣』と『飛竜の鱗』を入手したと聞かされ、焦っちゃいました。ちなみにこの時に自分達の邪魔をしてくるプレイヤーがいるって言うのを話していて、その中で出てきたアヤセさんのことを知ったのです」

 「……」

 「あの人達が、アンボワーズ公国で『神秘の霊石』の入手に失敗して、最終手段としてラタスにいるアヤセさん達を襲って奪い取るという話を聞いて、僕のせいでアヤセさんをトラブルに巻き込んでしまったのではないかと思って申し訳なく感じていました。あの人達、アンボワーズの霊域に放火して大事な場所をメチャクチャにしようとするくらい危ないパーティーだから、アヤセさんが無事か本当に心配していました」

 「まぁ、実を言うと連中に対しては、別件で遺恨を抱えていましたからソージさんの話が絡まなくても対決は避けられませんでした。それにしてもアンボワーズの霊域を焼き尽くそうとするとは、狂気の沙汰ですね」

 「結局は失敗してアンボワーズ公国を追放されたようです。でも本当に怖くなっちゃって、クラン『蒼き騎士団』の青星さんとツルガさんにもこのことを相談しました。そうしたら、『相手よりも先に召喚をしてしまえばいい。手助けしても良いが召喚ができたら自分達のクランに入れ』と言われました。お助けプレイをしているクランだから相談したのに何か変な方向に話が進んでしまったのです」

 「ああ、青星さん達ですか……。相談する相手を間違えましたね。今度からプレイヤー同士のトラブルは運営に相談すると良いでしょう。運営AIもそちらの方面はかなり発展していますから」

 「相談できる人もいないし、『契約の器+』は買えましたが、素材が手に入らなくて星見の台地の妖精の屋台で、何とか五十万ルピアで売ってもらえないかと頼んでもダメでしたし、絶望しかけていたところでアヤセさんのお陰で助かったんです。本当にありがとうございました!」


 そう言いながらソージは再び頭を下げる。一方、アヤセはその様子を窺いつつ思考を巡らせていた。


 (今の話でエスメラルダが「契約の器++」を欲しがっていた理由は分かったけど、肝心のことがまだ分からないな)


 「連中は、何故エメラルドカーバンクルの召喚に拘っていたのでしょうか? ソージさんは心当たりが有りますか?」

 「さぁ? でもちらっと聞いた時は、ルクレツィアさんの親友のエスメラルダさんがエメラルドカーバンクルを召喚したいって言ったからだそうです」

 「やはりエスメラルダの意向ですか。自身の名前もそうですが、エメラルドに固執するところがあったのかもしれません(注:エスメラルダはエメラルドのスペイン語読み)。ボスの意向でしたらルクレツィアも従わざるを得ませんね」

 「えっ? あのパーティーのリーダーはルクレツィアさんじゃないのですか?」

 

 どうやらソージは、連中の主導権は誰が握っていたかを理解していなかったらしい。


 (まぁ基礎レベルも52とノエルと同じくらいあるし、ソロでクラン「蒼き騎士団」に勧誘されるほどだから、ゲーム面の知識やプレイヤースキルもそれなりなのだろう。だが、悪い意味で世間慣れしていないことで、他者に付け込まれそうな危うさがあるな。エスメラルダは召喚獣の思念に執着があったのは間違いないが、それだけでなく、おそらく中性的で女性心をくすぐる美形な彼を騙して、自身の諧謔性を満足させる玩具にするつもりだったのだろう。洞察がやや浅いことからソージさんの実年齢は、見た目どおり若年者かもしれない)


 「まぁ、兎に角、エスメラルダに関する面倒事は気にする必要が無くなりましたから一安心だと思います。ですが、今度は青星さんやツルガさんから同じことを言われないか心配です」

 「実は……」

 「早速勧誘が強まっているのですね?」

 「……はい」


 まさか青星とツルガもソージの見た目を気に入って勧誘をしている訳では無いだろうが、困った人間につけ入るやり方は、最早お助けクランとして掲げている看板が詐欺広告として扱ってもいいくらいだと個人的に思うし、このようなクランに関わるとソージが不幸な結末を迎えることは火を見るよりも明らかである。アヤセは目前の人物が食い物にされることを黙って見過ごすつもりは無かった。


 「エメラルドカーバンクルの召喚ができれば、あの二人が言う勧誘の理由が無くなりますから、ソージさんの手でそれを行ってしまえば何も言えなくなります」

 「それはそうですが、でも……」

 「五十万ルピアは今もお持ちですか?」

 「え? あ、はい、持っています」

 「それでしたら、その金額でこれをお譲りしましょう」


 そう言いながらアヤセはインベントリから一つのアイテムを取り出す。それは、「契約の器の強化薬++」だった。


 「……!」


 突然現れた喉から手が出るほど欲しかったアイテムを目の当たりにして、ソージは呆気にとられ、絶句している。


 「素材は複数個交換できるくらいありましたので、多めに交換を行って幸いでした。これをソージさんにお譲りします」


 アヤセの申し出に驚きつつも、ソージは感激の面持ちでアイテムを見つめる。彼にとって「契約の器の強化薬++」は、長らく手が届かなかった希望の象徴だった。


 「本当に、いいんですか? こんな貴重な物を?」

 「ええ。自分も今のところ余っていますし、ソージさんがこれで自由になれるなら、それが一番です」

 「ありがとうございます……! これで、僕も自分の力で前に進めます!」


 今まで二人の話を傾聴していたマルグリットも頷きながら笑みを浮かべる。


 「良かったですね、ソージさん! これでエメラルドカーバンクルの召喚が可能になります。早速、地下のトレーニングルームで、私達と一緒に試してみませんか? アヤセさんもそれでよろしいでしょうか?」

 「はいっ! ぜひお願いします!」

 「自分も構いません」


 こうして、アヤセの気配りのもと、ソージは新たな一歩を踏み出す準備を整えることができた。彼の物語もまた、ここから始まろうとしていた。

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