空飛ぶ少女の恋(6)
滉征は三人の姿を見ると、慌てて駆け寄ってきた。
青子の姿を見て、深く息を吐く。
「良かった、無事で……」
柊から連絡があっても、その姿を見るまで安心できなかったのだ。
滉征の疲れと焦りがにじみ出た表情からも、強張った肩からも一気に力が抜ける。
「滉くん……あの……」
青子はそんな滉征から、また視線をずらしてしまった。
「滉くん」
もう一度呼ぶが、言葉が続かない。
視線も上がらない。
柊も佐南も大丈夫だと言ってくれた。
青子のことを見捨てないと、言ってくれた。
嬉しかった。勇気付けられた。
それなのに――まだ、怖い。
母親のように滉征にまで見捨てられたら。
そう考えると、身体が震える。
まだ手をつないでいた柊はそれに気付くと、ぎゅっとさらに強く青子の手を握った。
青子もまた縋るようにその手を強く握る。
恐る恐る振り返れば、佐南も見守るように後ろにいた。
二人はまっすぐに青子のことを見つめていた。
青子はまた前を見る。
それでも視線は滉征とは合わない。怯えるように伏せた視線は、自分の足元に固定された。
「滉くん……ごめん。ごめんなさい。心配かけて……ごめん」
青子は自分の声が震えていることすら気付かなかった。
「ごめん。……滉くん、お願い。……滉くんに、彼女がいてもいい。好きな人がいてもいい。特別じゃなくていい。だから……見捨てないで」
「……柳さん、こっち向いて」
滉征が言った。
しかし、青子は顔を上げられない。
「柳さん」
もう一度うながされて……青子は顔を上げた。
滉征の顔を久しぶりに見た気がする。
眉間にしわを寄せて、どこか苦しそうに切なく青子を見ていた。
初めて見た表情だった。
「俺、柳さんのこと好きだよ」
言われた意味が一瞬理解できず、青子は目を見開く。
「俺は柳さんが好きだから。他に彼女を作るつもりはないし、好きな人は柳さんだし、柳さんが特別だから」
ふ、と息を吐いて、滉征が笑った。
「俺があのとき関係ないとかどうでもいいって言ったのは、柳さんが俺のこと好きじゃなくても、俺のことどうでもいいと思ってても、それが関係ないってことだったんだよ。柳さんがどう思ってても、それでも俺は柳さんが特別で柳さんが好きだって……。俺の気持ちはなんにも変わらないって。そうやって開き直るくらいには、柳さんは俺にとって特別だから」
どこか吹っ切れたような晴れやかな笑みを浮かべて、滉征は言った。
「俺が青子ちゃんを見捨てるなんてありえない」
その言葉を青子が頭で理解するのと、青子の足の裏が地面を離れるのと、どちらが先だったのか、青子にも分からない。
すべては無意識だ。
ふわり、と突然浮かんだ青子に、滉征はギョッとして手を伸ばした。
柊が掴んでいない方――左手を掴む。
柊も両手で右手を掴み、佐南も青子の制服の背中を掴んだ。
三人ともまた飛んで行ってしまうのかと怖くなったが、青子は地上から十センチ離れたところで浮かんだまま。
「お前、何考えてんだ!」
怒鳴ったのは佐南だ。
「なんで!?」
怯えたように言うのは柊。
「逃げたくなるほど嫌だった?」
絶望したような滉征の声。
青子はキョトンとして、やっと自分が浮いていることに気付く。
そして、言った。
「違う。なんか……浮かれちゃったから?」
自分でもよく分からない現象だったが、思い当たる理由はそれだけで。
「浮かれる?」と聞く柊に、青子は曖昧に言った。
「なんか……浮かれちゃったら浮いちゃった?」
は、と柊が目を見開く。
「浮かれちゃったから浮いちゃうの!?」
柊は呆気にとられたように言う。
「なんだよ、それは」
佐南はこの日、何度目か分からない脱力感を味わった。
そんな中で、「あははっ」と笑い声がこぼれた。滉征だ。
滉征は声を上げて、さっきの絶望感が嘘のように楽しそうに笑う。
「なにそれ。やっぱりすごいよ、青子ちゃんは」
滉征の笑い声を聞いて、青子もなんだか嬉しくなった。
滉征の手を握り返す。
滉征がハッとしたように青子を見た。
青子と滉征の目が合う。
目が合えばいつだって嬉しくて、なんだか幸せで。
「滉くん、大好き」
こぼれた言葉に、滉征は「え」と固まるし、柊は困ったように笑うし、佐南はため息のようなものを吐く。
浮かぶ青子は、三人に捕まえられたまま、いつものようにへらり、と笑った。




