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決意する少年と見守る少女(1)


飛行ひこう矯正きょうせい施設しせつって調べたことある?』


 ピロン、と軽快な音と一緒にアプリを使って送られたメッセージには、そう書かれていた。

 柊からだ。

 あれから勉強会は続き――続いてしまい、もうスマートフォンを持っていた柊が、滉征と連絡先を交換することになった。

 柊と青子はほぼ毎日会っているらしく、青子と連絡を取るためには柊と連絡先を交換すればいいということになったのだ。そのときの柊はなんだか微妙な顔をしていたが。

 初めて勉強会をした夜、飛んでいる青子と歩いている滉征はあのコンビニの近くで偶然会ったのだが、そのときに柊はやはり滉征の金髪に戸惑っていたと聞いた。

 まあ、最後には「滉くんはやっぱり滉くんだったけど」とも言っていたらしいが。

 ちなみにそのとき青子に滉征の金髪についてどう思ったのか聞いてみたら……


「滉くんって金髪でもイケメンだと思った」


 ………………。


 金髪でもイケメンっていう言葉には、黒髪でもイケメンだっていう意味が含まれると思いますがどうでしょうか! 青子ちゃんにとって俺ってイケメンなの!? それはつまり青子ちゃん的に俺はアリなの、どうなの!?

 いろんな意味で何も言えなくなって撃沈した思い出ができた。

 ――今はそういうことではなく。

 勉強会が継続されてしまった滉征は、夜に勉強をするようになった。次の勉強会で青子が分からなそうなところを、事前に勉強しているのだ。今のところ、その苦労は報われており、青子はなにも知らない。柊は分からないが。

 だが、それもそろそろ限界だと感じている。

 いつボロが出てもおかしくない。

 そう思って、今日の勉強会の別れ際、青子に一緒に塾に行かないかと誘ってみた。一緒に塾で勉強するなら、まだ色々と誤魔化せる気がしたのだ。

「それは却下! わたしが一緒に行けないじゃないですか!」と柊は猛反対したが、青子は小首をかしげて、少しだけ困ったように言った。

「親に聞いてみる」

 そのときに柊がギュッと眉根を寄せて、不安げな顔を見せた。青子と勉強会がなくなると思って嫌なのだろう。

 そして、その夜に入ったメッセージ。


 飛行矯正施設を調べたことがあるか。


 スマホに入ったメッセージに、スマホを持ったまま背中を反らした。

 ギギッと椅子の背が鳴る。

 今日の昼も青子と柊と一緒に勉強をして、明日、青子が勉強しそうなことをそれとなく聞き出して、今はちょうどそのところを勉強していた。

 青子に教える分だけと思っているから、今は勉強がそこまで苦ではなかった。

『ないよ。どうした?』

 まったく意味が分からないメッセージに、それだけを返す。

 柊と連絡先を交換はしていたが、実際にメッセージが送られて来たのは初めてだった。勉強の日時を決めるためと交換したが、次の勉強会はその日のうちに決めてしまうことが多い。

 それなのに、どうしてこんなメッセージを送ってきたのか。

 戸惑う滉征のスマホに、時間も置かずに返信がきた。

『調べて』

 それだけ。

 ……なんだよ。

 イラッとしたが、滉征は素直に検索をかけることにする。

 飛行矯正施設とは、名前通りの施設だ。

 自分たちも子供の頃は飛んでいたのに、子供が空を飛ぶことを危険視する大人も多い。

 そんな中で、子供が空を飛ばないように教育していく施設がある。

 それが飛行矯正施設だ。

 空飛ぶ子供が関わってくる施設となれば、連想されるのはどうしても青子だ。

 青子についてなにか言いたいことがあるのだろうと思えば、従わないわけにはいかなかった。


   ※   ※   ※


『飛行矯正施設の実態! 児童虐待の温床か!?』


 ○○市にある飛行矯正施設××××が児童虐待で摘発された。これを受けて全国の施設で調査された結果、ほとんどの施設で児童虐待の疑いがあると判明した。

 飛行矯正施設は子供の飛行を止めさせることを目的としているが、その方法として、

 児童の身体を縛り付ける。

 密室に閉じ込める。

 足首に縄をつけて、行動を制限する。

 などがあったことが報告されたのだ。


 そもそも子供の飛行を矯正する必要はあるのか。

 いまだ解明されていないとはいえ、人類誕生から今まで子供の飛行に関しては、人種性別関係なく当たり前のことである。

 しかし、近年の日本ではなにかあったときに大人が助けられないため、危険な行為として広まっている。これはつまり、なにかあったときの責任問題が出てくることも関係しているだろう。

 また、大人になったら飛ばなくなるということもあり、いつまでも飛ぶ子供は成長が遅いのではないかと不安に感じる親も増加している。そのため子供の飛行に関して消極的な意見が非常に多い。

 だからこそ飛行矯正施設なんてものが出来たと考えられる。

 だが、子供が飛行できる年齢(=飛行年齢)は、あくまで個人差である。

 世界的に見れば、二十歳を過ぎても飛行している例も少なくない。

 しかし、日本では年々、飛行年齢が低下している。およそ二十年前までは飛行年齢の最高が平均15.4歳だったのに対し、現在では13.2歳となっている。


 一方で施設に入った児童は飛行年齢が高くなる傾向がある。

 実際に施設にいたことがある子供に聞くと、飛行矯正施設に入っても『飛べなくなる』わけではない。虐待の恐怖で『飛ばなくなる』だけだという。そのため施設を出た後も、大人に隠れて飛ぶ子供は多いらしい。

 そんな中で、かつて飛行矯正施設に入っていた児童の内、六十パーセント以上が平均飛行年齢を超える年齢まで飛んでいることが分かった。

 またそうして虐待を受けた子供の中には、飛行する際に助走を必要としなくなった子供もいるらしい。

 子供の飛行には、速度の差はあっても助走が必要だと考えられてきた。

 しかし、彼らは助走を必要とせず、『浮かぶ』ように空を飛ぶのだ。


 施設にいた子供は飛行年齢が高くなる。

 また助走を必要としなくなる子供もいる。

 それらの理由は判明していない。

 しかし、こうしたことを踏まえると、子供が空を飛べる理由として一つの仮説が浮かび上がるのではないだろうか。


 彼らは、自分たちを傷つける大人のいない空に逃げている。


 一概に言えることではないが、こうした状況の子供たちは虐待を受けていた可能性があるということを私たちは知っていなければいけない。


(週刊書秋 20××年×月×日の記事より抜粋)


   ※   ※   ※


 誰にも縛られず、なにものにも縛られず

 助走もなしで

 ふわりと浮かぶように自由に飛ぶ少女。


 彼女のへらりとした気の抜けた笑みが、痛みと恐怖と一緒に滉征の頭に浮かんだ。


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