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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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59話 王国の要請、毒の町⑥

朝日と潮風が、心地よい目覚めを演出していた。

バレンシアに到着して二日目。

今日から、鉄砲魚に関する調査と治療を本格的に始める。


「潮風が気持ちいいわね!」


私は開け放たれた窓から海を眺めていた。


「エレノア様、おはようございます……」


まだ眠そうな目をこすり、猫耳を折りたたんだままメルが起きてきた。


そして――あれだけ寝ていたのに、スヤスヤと気持ちよさそうに眠るクロノア様の姿。


「おい! 朝だぞ! 起きろー!!!!!」


アル様のその声に、クロノア様は寝返りを打ちながらぼそりと返す。


「うるさいなー……僕は眠いんだよ」


「やかましいわ! はよ起きろ!!!」


その光景に思わず笑ってしまった。


私はふと、隣で海を眺めているメルに目をやった。


「……あれ?」


いつもならぴんと背筋を伸ばしているミストルティン様のベッドを見ても、姿はない。

どこに行ったのかしら、と首をかしげる。


すると――メルのベッドの上で、ミストルティン様がぐっすり眠っているのが目に入った。


「……えっ、ミストルティン様?」


メルはまだ少し眠そうに目をこすり、頭をぽりぽりと掻く。

どうやら昨夜、散々ミストルティン様に抱きしめられたまま一緒に寝てしまったらしく、寝不足気味で少しぼんやりしているようだった。


私は思わず笑いをこらえながら、開け放たれた窓から差し込む朝の光と海を眺める。


「……朝からなんとも賑やかね」


眠そうなメルは小さく伸びをし、まだ半分夢の中のように微笑む。

その無防備な様子が、柔らかな朝の光に溶け込んでいるようで、なんとも愛らしい。


「今日の夜から、私と寝る……?」


「お願いします……」


その瞬間、私は悟った。

ミストルティン様を、誰かと一緒に寝かせてはいけないのだと――。


身支度を終え、私たちは食堂へと案内された。

相変わらず周りには多数の護衛が配置されており、どこか圧を感じる。


「エレノア様、おはようございます!」


先に食堂で待っていたと思われるオスバルト伯爵の姿が目に入った。


「オスバルト伯爵様、おはようございます」


「いや、オスバルトでいいよ」


にこやかに手を振るオスバルトだったが、すぐに少し真面目な表情に変わる。


「でも、身分の違いもありますので……」


私は少し躊躇い、言葉を濁す。


「それは気にしなくていい。王家から絶大な信頼を得ており、神族との繋がりもある時点で、下手をすれば王族より身分が高いとも言えるくらいだから」


キョトンとする私を見て、オスバルトはさらに続ける。


「それに、ゆくゆくこの国の命運を左右するお方に伯爵様と呼ばれるのは、恐れ多い……」


「わかりました」


私は少し身を正して、にっこりと応じた。


オスバルトは満足そうに頷き、朝食の用意が整ったテーブルへと誘ってくれた。

並べられた料理は魚や野菜を中心にした軽やかな品々で、潮風を感じながらの朝食にはぴったりだった。


「さて……」


口をつける前に、私は昨日の患者の人数を確認する。


「今日、診察する患者さんは何人くらいですか?」


オスバルトはメモを取り出し、ぱらりとめくる。


「昨日の時点で150人ほどですね。鉄砲魚に関する相談もありますので、少し混み合うかもしれません」


「なるほど……」


小さく頷きながら、頭の中で今日の段取りを整理する。


「わかりました。それと、調合するための場所をお借りしたいのですが、よろしいでしょうか……?」


そう聞くと、オスバルトは少し考え込み、微笑む。


「残念ながらここは別荘なので必要最低限の設備しかなくてな……。

だが幸い、この街には錬金術士のアトリエがある。

よければそちらを紹介しましょう」


「ありがとうございます。それなら安心して調合に取り組めます」


私は朝食を一口運び、潮風に揺れるカーテンを眺めながら、今日一日の準備に思いを馳せた。


「……どんな錬金術士さんなんだろ」


ワクワクする気持ちを抑えつつ、目の前の朝食を一口運ぶ。


――と思ったら、目の前のパンが思いのほか固く、思わず噛み砕くのに苦戦する。


「……んぐっ」


思わず小さくむせながらも、潮風に揺れるカーテンを眺めて今日一日の準備を頭の中で整理する。

朝からちょっとした筋トレになってしまったけれど、これもまた今日の活力になるのだろうか、と苦笑するのであった。


朝食を終え、私たちは紹介された錬金術士のアトリエへ向かうことにした。

すでに錬金術士には私たちが行くことを知らせてあるらしく、そのまま向かっていいとのことだった。


相変わらず街の人たちの視線が私たちに集中しており、中には噂話をする者もいた。


「そりゃあ、こんなに騎士さんたちを連れてゾロゾロ歩いてたらこうなるよね……」


「すみません……エレノア様の身の安全のため、やむを得ず……」


「エレノア様は、もう少し自分の立場を理解した方がいいと思いますよ?」


カイルの言葉に、私は思わず反論する。


「普通、子爵家の次女でこんな護衛を引き連れるものなの?

私、自分で言うのもなんだけど普通の女の子だと思うんだけど……」


カイルは少し微笑みながら、淡々と返す。


「いや……その『普通』じゃないんだよ、エレノア様。

神族と繋がりがあって、王族が懇意にする錬金術士って時点で、十分に普通じゃないから」


その言葉に、周りの騎士たちやミストルティン様、アル様まで小刻みに身を震わせた。


「ほんとそうねー! エレノアは普通の女の子じゃないわよねー」


「エレノア嬢が、普通の女の子だと思っているなんて、なんかいいな」


「ねぇ!? 私のことからかってるの!?」


そんな話をしているうちに、錬金術士のアトリエの前に到着した。


「ここがアトリエね……」


外装は、お世辞にも綺麗とは言えない古い木材でできた小さな家だった。


扉を開けると、白髪まじりの女性が振り向き、私たちに声をかけた。


「なんだい? 解毒ポーションなら売り切れたからもうないわよ!」


散々聞かれているのだろうか、苛立ちをあらわにしている。


「オスバルト伯爵様からの紹介で来ました。錬金術師です」


「……あぁ? 錬金術師? そんな子供が錬金術を扱えるわけなかろう」


その言葉に騎士団の人たちが前に出て、怒りをあらわにした。


「貴様! エレノア様になんという無礼を!

このお方は陛下のご依頼により、鉄砲魚に関する調査と治療を任されたお方だぞ!」


しかし、女性はその言葉を鼻で笑った。


「ふん! 嘘をつくならもう少しまともな嘘をつくことだね!」


「エレノア様! 許可をいただければ、この者を拘束しますが!」


「ちょっと待って!? どうしてそうなるの!?」


そんなやり取りをしていると――


「エレノア……? どこかで聞いたような……。

お前さん、名前はエレノアだけかい?」


「いえ、エレノア・フォン・レーヴェンです」


そう言うと、白髪まじりの女性は私の顔をまじまじと見始める。


「王都に凄腕の錬金術師がいると聞いていたが、ほんとにこの子なのかい?

私の目だと、まだ十歳にもなっていないように見えるけど……」


「もうすぐ七歳です……」


そう言うと、女性は回れ右をして元の場所へ戻ろうとした。


「なら余計違うわね。

私が聞いた話だと、十歳くらいの少女って聞いた。

エレノアって名前自体、そう珍しいものでもないしね」


「これ以上は取り合ってもらえなさそうですし、帰りましょう」


そう言い、ドアノブへ手をかけた――その次の瞬間。


勢いよくドアが開かれ、危うくぶつかりそうになった。


「婆さん! ハイポーションを売ってくれ!!」


慌てて駆け込んできた青年が叫ぶ。


「婆さんって呼ぶなと言ってるだろ、このタコ助!」


そう言うなり、女性は青年の頭に鉄拳制裁を落とした。


ゴンッ、と鈍い音が響く。


「なにすんだよ!

それよりハイポーションを売ってくれ! 仲間が魔物にやられたんだ!」


「ハイポーションをそんなポンポン作れるわけないでしょうが!」


二人のやり取りは、どうやらいつものことらしい。


そんな光景を見ていると――ミストルティン様がそっと耳打ちしてきた。


「ここでエレノアがポーションを作れば、実力を証明できるんじゃない?」


ミストルティン様の言葉に、私は少しだけ考える。


……確かに、それが一番早いかもしれない。


私は慌てている青年の方へ一歩近づいた。


「怪我をした方は、どこにいますか?」


青年は一瞬きょとんとしたが、すぐに必死な表情で答える。


「仲間は外だ! 歩けないから荷車に乗せてる!」


私は小さく頷いた。


「案内してください」


青年は慌てて外へ走り出す。

白髪の女性も「まったく……」と呟きながら後をついてきた。


アトリエの外には簡素な荷車が止められており、その上に一人の男性が横たわっていた。

腕から肩にかけて大きく裂けた傷があり、服は血で赤く染まっている。


周囲にいた人たちも心配そうに様子を見守っていた。


私はそっと傷口を確認する。


「……この程度なら、ポーションでもどうにかなりますね」


私がそう言うと、白髪の女性は呆れたように声を上げた。


「はぁ? 何言ってんだい!

そんな傷、ポーションで治るわけないだろ!

ハイポーションじゃないと治らない傷だよ!」


その瞬間――


一人の騎士がゆっくりと前に出た。


鋭い視線が、白髪の女性へ向けられる。


「……そのあたりで控えていただこう」


低い声だったが、空気がぴんと張り詰めた。


「エレノア様は陛下の正式な依頼を受けて行動されているお方だ。

これ以上、失礼な言動を続けるのであれば――我々としても看過できない」


周囲の騎士たちも静かに視線を向ける。


それだけで十分な威圧感だった。


白髪の女性は不機嫌そうに舌打ちしたが、腕を組んで黙り込んだ。


私は静かに口を開く。


「アトリエの設備を少しお借りしてもいいですか?」


女性は眉をひそめる。


「好きにしな。

どうせ無理だろうけどね」


その瞬間、別の騎士がはっきりと告げた。


「この場において、エレノア様の調合のためアトリエの設備を使用する。

これは王国騎士団の権限により正式に許可する

異議を申し立てることは許されない!」


白髪の女性は一瞬だけ顔をしかめたが、それ以上は何も言わなかった。


私はアトリエの中へ入り、調合台の前に立つ。


棚には薬草や鉱石が整然と並べられていた。

さらに奥には、しっかりとした造りの錬成用の窯まで設置されている。


(……すごい)


思わず小さく感心する。


私の家の実験室は、まだ簡易的な設備しかない。

けれどここには、本格的な錬成設備が揃っていた。


(でも、ポーションなら窯を使うほどでもないかな)


私は小さく頷き、空間収納から材料を取り出す。

屋敷の薬草畑で採取した薬草に魔力草、そして蒸留水。


空間収納は、その時入れたままの状態で保存することができる。

そのため出発前に、ありったけの素材を空間収納に入れてきていた。


「お前さん、空間収納を使えるのかい……?」


白髪の女性が、私の作業を隣から覗き込んでくる。


私はいつも通りの手順で調合を始めた。

まず薬草と魔力草を、沸騰したお湯に入れて下茹でする。


「なにしてんだい! そんな工程、ポーション作りにないでしょうが!」


隣で白髪の女性が小言を言う。


すると騎士団の一人が、静かに声を上げた。


「エレノア様が作業中です。声を掛けたり、野次を入れるのはお控えください。

次に同じことをされた場合、一時的にこの家から退出していただきます」


はっきりとした口調の警告だった。


その間に薬草類の下茹では完了する。


ここからは通常と同じ調合手順で進めていく。


下茹でした薬草と魔力草を細かく刻み、蒸留水の入ったビーカーへ入れる。

そのまま加熱しながら、ゆっくりと撹拌する。


十分に成分が抽出されたタイミングで、私は魔力を注ぎ込んだ。


いつもと同じ手順。

いつもと同じ品質。


私の作るポーションは、これまで何度も試行錯誤を重ね、限界まで成分を抽出できるよう改良してきたものだ。


その結果――

ポーションでありながら、回復量はハイポーションと同程度にまで高められていた。


ビーカーの中で、澄んだ緑色の液体が静かに揺れている。


「……できました」


完成したポーションを鋭い眼差しで見つめる白髪の女性


「色は問題なさそうね、あの傷を治すのは無理だろうけど」


その言葉を無視し私は怪我をした人のとこへ急いだ

扉を開けると騎士団の人達が扉の左右に並び威圧していた。


「エレノア様! 完成したのですね!」


「はい!」


私は小さく頷くと、青年にポーションを差し出した。


「これを飲ませてください」


青年は一瞬だけ戸惑ったものの、すぐに決意したように頷く。


「……頼む」


荷車の上で横たわっている仲間の体を支え、ゆっくりとポーションを口元へ運ぶ。

男性は意識が朦朧としているようだったが、なんとか液体を飲み込んだ。


次の瞬間――


傷口が、淡く光を放った。


「……っ!?」


周囲から小さなどよめきが起こる。


裂けていた腕から肩にかけての傷が、まるで時間を巻き戻すかのようにゆっくりと閉じていく。

流れていた血が止まり、肉が繋がり、皮膚が元通りになっていく。


そして――


数秒後には、そこに傷は一切残っていなかった。


荷車の上の男性が、ゆっくりと目を開ける。


「……あれ?」


腕を動かし、肩を回す。


「痛く……ない……?」


さっきまで動けなかったはずの体を起こし、驚いたように自分の腕を見つめていた。


「う、嘘だろ……」


青年が呆然と呟く。


「治ってる……完全に治ってるじゃねぇか!」


周囲で様子を見ていた街の人たちから、一斉に声が上がった。


「おい見たか!? あの傷が一瞬で……!」


「王都から来たっていうあの少女、すげーじゃねぇか!!」


「ポーションであんな治り方するのかよ……!」


ざわざわと驚きの声が広がっていく。


その中で――


白髪の女性だけが、言葉を失ったようにその光景を見つめていた。


ゆっくりと男性の腕を確認し、傷跡が一切残っていないことを確かめる。


「……嘘だろ」


白髪の女性は、震える手で男の腕を掴んだ。


「ポーションで……この傷が……?」


小さく呟いたあと、女性は私の方へ歩いてきた。


そして――


深く息を吐き、頭を少し下げた。


「……さっきはすまなかったね」


その声には、先ほどまでの棘はもうなかった。


「子供だって決めつけて、ずいぶん失礼なことを言っちまった」


女性は腕を組みながら、まっすぐ私を見る。


「王都で噂になってる錬金術師ってのは……本当にあんたなんだね」


その目には、先ほどとは違う色が宿っていた。


疑いではなく――

実力を認めた職人の目だった。

皆さんにお願いがあります。

執筆時点で実施されているかはわかりませんが、例年であればYahoo様にて「3.11」と検索すると、一人につき10円が募金されるチャリティ企画があります。

10円という金額は少ないですが、皆さんの力を合わせれば、少しずつ大きな金額になります。

どうかお願いです。

電車での移動時や休憩時間などに、ぜひYahooで「3.11」と検索してください。


3.11で亡くなられた方、被害に遭われた方、まだ行方不明の方々のご冥福を心よりお祈りいたします。


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