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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第三章 水面下の綻び編

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236話 珍道中、湖畔を目指して

ーーユグアッシュ王国・南部方面街道


「……」


「……」


結論を言おう。


400人の大移動を受け入れくれる宿や場所を貸してくれる場所などあるわけがなかった。


「こちらはユグアッシュ王国・セレディア王国合同騎士団だ!」


一拍。


「要人及び王族に関する法律第三条に基づき貴殿の宿の一時接収を宣言する!」


「申し訳ないのですが……」


「法律上強制だぞ?」


「お貸しするのは構わないのですが、その人数を受け入れるスペースがありません」


「「「……」」」


「一部でもいい……」


「生憎ですが馬車を止めるスペースも足りませんので……」


「……」


騎士さんが静かに宿を見上げる。


そして後ろを見る。


騎士。


馬車。


衛生局。


医療関係者。


荷馬車。


さらにその後ろにも騎士。


「……本当に無理か?」


「無理です」


「詰めれば……」


「無理です」


「床でも構わない」


「床に寝かせても100人が限界です」


「100人……」


「それも廊下まで使ってです」


「…………」


騎士さんがこちらを振り返る。


やめてください。


そんな目で私を見ないでください。


私だってどうしようもありません!!


「エレノア様……」


「無理なものは無理ですよ!?」


「ですが、このままでは三百人ほどが――」


「だから言ったじゃないですか!!」


私は思わず声を上げる。


「400人は多いって!!」


「王命ですので……」


「王命でも宿は大きくなりません!!」


「仰る通りです……」


何故か騎士さんがものすごく落ち込んだ。


「他の宿はありませんか?」


リュシアさんが宿の主人へ尋ねる。


「ありますが……」


「なら分散して――」


「この町にある宿を全部合わせても、400人は無理だと思います」


「…………」


「…………」


「町単位で無理なんですか?」


「頑張って150人ですね……」


「……そうか」


そう言って先導していたユグアッシュ王国第一騎士団長が回れ右をする。


「失礼した」


そう言って第一騎士団長は宿を出ていく。


「…………」


「…………」


私とリュシアさんもその後を追う。


外へ出ると、騎士団長は街道に並ぶ一行を眺めながら腕を組んだ。


「150人か……」


「どうします?」


「どうするも何もない」


騎士団長は即答する。


「野営する」


「ですよね」


分かっていた。


というか、それしかない。


「町の外に野営可能な場所があるか確認しろ」


「はっ!」


「水場も確認。衛生局にも同行させろ」


「はっ!」


「医療班の天幕は中央。補給物資はその近くへ集約する」


「はっ!」


次々と指示が飛んでいく。


さっきまで宿屋さんに、


『詰めれば……』


とお願いしていた人と同一人物とは思えない。


「流石は第一騎士団長ですね」


「そうですね……」


私も感心しながら頷く。


「ところでエレノア様」


「はい?」


「今夜はどうされます?」


「え?」


リュシアさんが宿を見る。


「エレノア様くらいなら宿へ泊まれると思いますが」


「この馬車でよくないですか……?」


私はそう言いながら馬車に乗り込む。


「デスヨネ……」


リュシアさんの『知ってた』と言わんばかりの呟きが聞こえた気がしたが、聞かなかったことにした。


そもそも、この馬車は普通の馬車ではない。


馬車そのものが一つの魔道具になっていて、外から見た大きさと内部の広さがまるで一致していない。


流石に今の本邸とは比較にならないものの、私が以前暮らしていた実家をそのまま一階建てにしたくらいの広さは余裕である。


寝室。


お風呂。


お手洗い。


簡単な料理ができる場所。


それどころか、普通に寛げる部屋まである。


「……改めて考えると」


「はい?」


「宿に泊まる理由なくないですか?」


「だから『デスヨネ』って言ったんですよ」


「聞こえてましたからね!?」


「聞かなかったことにしたんじゃないんですか?」


「それとこれとは別です!!」


そんなやりとりをしていたのも3時間前ーー


警備上の理由や水源の問題など全ての条件が揃う場所など都合よくあるわけもなく、ようやく全員が休める馬車に到着したのは23時頃だった。


「これで次の日5時起きなんですよね……」


「そうですね……」


「ブラック企業顔負けなんですが!?」


「ブラック企業とは……?」


「エレノアの前世で言われてた言葉ね」


ミストルティン様が紅茶の入ったマグカップを静かに置きながら言う。


「文字通り闇が深すぎて、従業員のことを使い捨ての素材としか思ってないお店の総称よ」


「ちょっと待ってください!?」


私は思わずミストルティン様を見る。


「そこまでの意味じゃありませんよ!?」


「似たようなものでしょ?」


「違います!!」


「そうなの?」


リュシアさんが首を傾げる。


「えっと……ものすごく簡単に言えば、働く人に無茶をさせる会社というか……」


「会社?」


「お店とか商会みたいなものです!」


「なるほど」


リュシアさんは少し考える。


「では、今日の私たちのような状態を強制する商会がブラック企業?」


「大体そんな感じです」


「朝まで調査をして、七時間ほど仮眠した後に出発して、二十三時まで移動して、翌朝5時起き……」


「…………」


「…………」


「ブラックですね」


「認定しないでください!!」


というか。


今の言い方だと、今回の遠征を決めた人たちがブラック企業の経営者みたいになってるんだけど!?


「ちなみにエレノア」


「なんですか?」


「5時起きなら、あと六時間しかないわよ?」


「…………」


私は時計を見る。


23時を少し回ったところ。


「お風呂……」


「入ったら?」


「ご飯……」


「食べれば?」


「明日の準備……」


「すれば?」


「寝る時間ないじゃないですかぁぁぁ!!」


「だからブラックなんじゃない?」


「誰のせいですか!!」


「四百人集めた人たち?」


「否定できない!!」


リュシアさんが深いため息を吐く。


「エレノア様、とりあえず今日はもう寝ませんか?」


「……そうします」


「お風呂は?」


「入りたいです」


「食事は?」


「食べたいです」


「準備は?」


「しないと駄目です」


「…………」


「…………」


「寝られませんね」


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


「エレノア様!?!?」


「総員警戒体制!!!」


私の心からの叫びが野営拠点中に響き渡りプチパニックになるのであった。


ーー翌日・朝5時


「…………」


「エレノア様、朝ですよ」


「…………」


「エレノア様?」


「……無理」


「起きてください」


「あと5時間……」


「増えてますよ?」


「じゃあ4時間……」


「そういう問題ではありません」


リュシアさんに布団を剥がされる。


「うぅぅぅぅ……」


結局。


昨日はお風呂に入り。


食事を済ませ。


今日必要になる資料を確認して。


ようやく眠れたのは日付が変わってからだった。


眠い。


とにかく眠い。


「なんで五時なんですかぁ……」


「昨日説明したじゃないですか。今日の移動距離を考えると――」


「分かってますけどぉ……」


私はふらふらと身体を起こす。


「……?」


その時だった。


妙な感覚に気付く。


「リュシアさん」


「はい?」


「なんか……じめじめしません?」


「そうですか?」


「昨日より湿気が強いような……」


リュシアさんは少し考えてから答える。


「南へ進んでいますからね。この辺りからは湿度も高くなっていくそうですよ」


一拍。


「それに外は雨が降っているのでその分余計に湿度が高いんだと思います」


「へぇ……」


私は欠伸をしながら頷く。


そんなことより。


「眠いです……」


「顔を洗ってきてください」


「はーい……」


私は渋々フカフカのベッドとお別れをし、身支度を整える。


顔を洗い。


髪を整え。


着替えを済ませる。


「……眠い」


「さっきからそれしか言ってませんよ?」


「だって眠いんですもん……」


「あとで馬車の中で寝ればいいじゃないですか」


「そうします……」


馬車で移動するだけなのが唯一の救いだ。


少なくとも出発してしまえば、もう一度寝られる。


そんなことを考えながら外へ出ると――


「「「おはようございます!!」」」


「ひゃい!?」


突然の大声に身体が跳ねる。


何事かと思って見ると、既に多くの騎士さんたちが出発の準備を始めていた。


雨が降っているというのに。


天幕は次々と片付けられ。


荷物が荷馬車へ積み込まれ。


馬の状態を確認する人。


朝食を配る人。


周囲の警戒を続けている人までいる。


「……皆さん元気ですね」


「騎士ですから」


「騎士って寝なくても大丈夫なんですか?」


「そんなわけないでしょう」


「ですよね……」


じゃあ何でそんなに元気なんですか。


私なんて今すぐ馬車へ戻って二度寝したいのに。


「セレスティア伯爵!」


「はい?」


昨日、宿屋さんと壮絶な交渉を繰り広げていた第一騎士団長がこちらへ歩いてくる。


「昨夜はお休みになられましたか?」


「一応は……」


「それは何よりです」


「騎士団長さんは?」


「問題ありません」


「何時間寝ました?」


「2時間ほどです」


「問題しかないじゃないですか!!」


何を堂々と言ってるんですか!?


「遠征中なら珍しいことではありません」


「珍しくあってください!!」


「それよりセレスティア伯爵」


「それよりで流さないでください!」


騎士団長さんは私の抗議を華麗に無視すると、手元の資料を差し出してくる。


「先遣隊から連絡が届いております」


「もうですか?」


「はい。昨夜、一つ目の中継地点へ到着したとのことです」


私は眠気を忘れて資料を受け取る。


「問題は?」


「数人感染した住民がいましたが、幸い軽症だったので少数でも対応できたとのことです」


「……感染者はいたんですね」


「はい。ただ、全員自宅で療養できる程度とのことです」


「重症者は?」


「確認されていません」


「それならよかった……」


私は小さく息を吐く。


感染者がいたこと自体は喜べる話ではない。


だけど、既に王国各地でアルファインフルエンザの感染者が確認されている以上、街道沿いの集落で数人見つかったとしても不思議ではない。


むしろ――


「先遣隊を送って正解でしたね」


「そうですね。本人たちも感染しているとは思っていなかったようです」


「症状が軽かったんですか?」


「ええ。少し熱がある程度だった者と、咳が続いていた者がいたそうです」


「それなら気付かなくても仕方ないかも……」


私は資料へ目を落とす。


数人。


全員軽症。


今のところ、特に変わったところはない。


「接触した人の確認は?」


「衛生局の職員が始めています。念のため周辺住民の体調も確認しているそうです」


「お願いします」


「既に伝えてあります」


「仕事が早いですね」


「昨日エレノア様に『念のため』で怒られましたから、今回は必要最低限にしたそうですよ」


「そこは気にしなくていいんです!!」


なんで変なところだけ学習するんですか!?


「感染症対策の『念のため』はしてください!」


「護衛の『念のため』は?」


「四百人にならなければしてください!!」


「難しい注文ですね」


「難しくないですよ!?」


騎士団長さんが小さく咳払いをする。


「ともかく、現時点では行程を変更する必要はないと判断しています」


「私もそれでいいと思います」


少なくとも。


今回見つかった感染者については、これまで確認してきたものと大きな違いはない。


なら、予定通りロンバス湖を目指せばいい。


「では、朝食後に出発ということで」


「はい」


「ところでセレスティア伯爵」


「なんですか?」


「昨夜の警戒態勢についてなのですが――」


「朝ご飯食べてきます!!!!」


「セレスティア伯爵!?」


私は逃げた。


全力で逃げた。


あれだけは説明したくない。


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