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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第三章 水面下の綻び編

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234話 隠された性質、新たな疑惑③

 

「気になる情報ってなんですか?」


私が尋ねると、リュシアさんは持っていた資料の一枚を机へ広げた。


「まず、最初の感染者ですが時期はバラバラですが、男女六人と見ても問題ないと思われます」


「六人は知り合いなんですか?」


「はい。全員友人同士だったようです」


リュシアさんは資料の一部分を指差す。


「六人で集まって鳥型の魔物を解体し、そのまま肉を分けて食べています」


「六人全員が……」


「はい。ただ――問題はその後です」


私はリュシアさんが広げた資料を確認すると、そこには悍ましい内容が書かれていた。


「これは……」


「正直言って、あまりいい話ではありません」


六人だけで全てを食べたわけではない。


余った肉は、それぞれが近所へお裾分けしている。


そして――


「羽は素材として売却済み……」


「はい。どこまで流通したかについては現在調査中です」


「…………」


頭が痛くなってきた。


六人だけなら、まだ追える。


だけど近所へ配られた肉。


さらに商品として流通した羽。


そこから誰が触れ、誰がどこへ持っていったのか。


一か月も経過した今となっては、全てを追跡するのは難しい。


「このレベルになると王国中に広がるのは不思議な話ではありません」


一拍。


「寧ろ、よく北部やセレディア王国まで拡大しなかったなーと思っています」


「……」


私はどう反応すればいいのかわからなくなってしまった。


アルファインフルエンザの元となる感染経路や原因がわかっていない状態で流通しているとなると事態の悪化はどう頑張っても避けようがない。


ましてや羽には少なからず鳥型の魔物の体液が付着している可能性が高く強毒の反応を示している以上並大抵のことでは感染を防ぐことはできない。


「どうしましょう……」


私が静かにそう呟くとリュシアさんは意味深な表情を浮かべる。


「リュシアさん……まさか……」


「はい……商人が立ち寄った村では全ての肉と羽に加え骨など余すことなく流通したとのことです……」


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「エレノア様!?」


私は思わず頭を抱える。


「なんで全部流通させちゃうんですかぁぁぁ!!」


「お、落ち着いてください!」


「落ち着けませんよ!!」


肉だけならまだ分かる。


いや。


感染症のことを考えれば全然よくないけど。


「羽! 骨! 肉! 全部じゃないですか!!」


「……はい」


「捨てた部分は!?」


「ほとんど無かったそうです」


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


最悪だ。


本当に最悪だ。


肉は食用として。


羽は素材として。


骨も加工品や素材として。


一羽の鳥型の魔物が、文字通り余すところなく人の手へ渡っている。


しかも一か所だけじゃない。


港町で最初に解体された個体。


そして輸送途中、村へ置いていかれた個体。


「……これ」


私は恐る恐るリュシアさんを見る。


「全部追跡するんですか?」


「可能な限り」


「…………」


「…………」


「何人必要ですか?」


「考えたくありません」


「ですよねぇ……」


私は机に突っ伏した。


せっかく一つずつ手掛かりを追っていたのに。


調べれば調べるほど、感染経路が増えていく。


「でも――」


リュシアさんが資料を一枚取り出す。


「悪い情報ばかりではありません」


「……まだ何かあるんですか?」


「今度は良い方です」


「本当に?」


「多分」


「多分!?」


リュシアさんは苦笑しながら、資料を私の前へ置いた。


「例の冒険者の足取りが判明しました」


「どこですか!?!?」


「エレノア様……近いです」


どうやら私は無意識に顔を近づけてたらしい


「ごめんなさい……」


私は慌てて身体を引く。


「それで、どこにいたんですか?」


「正確には『いた』ではなく、『立ち寄った記録が見つかった』ですね」


「ということは、今もそこにいるとは限らない?」


「はい。ただ、かなり有力な情報です」


リュシアさんは地図を広げる。


「港湾都市バレンシアまでの護衛任務を受注した記録が見つかりました」


「それはいつの話ですか!?」


「時期を察するにーー」


一拍。


「私たちが入国した時には既に国境にいた可能性が非常に高いです」


「……入れ違い?」


「そうなりますね」


「…………」


なんということだろう。


私たちがアルファインフルエンザの調査のためにユグアッシュ王国へ入った頃。


私たちが探していた人たちは、ちょうどユグアッシュ王国を出ようとしていたらしい。


「もう少し早く分かっていれば……」


「それは仕方ありませんよ。あの時点では、さすらい旅団という名前すら分かっていませんでしたから」


「そうなんですけど……」


なんとも言えない気持ちになる。


もしかしたら。


国境ですれ違っていた可能性すらある。


「それで――」


私は地図に記された目的地を見る。


「バレンシアまでの護衛任務なんですよね?」


「はい」


港湾都市バレンシア。


私にとっては、聞き覚えがあるどころの話ではない。


以前、長期間滞在していた街だ。


「依頼は達成されていますか?」


「そこまでは確認できています」


「ということは……」


「少なくとも、バレンシアまでは到着しています」


「……!」


ようやく。


一か月近く追い続けていた足取りが、一本の線になった。


ユグアッシュ王国で鳥型の魔物の輸送護衛を終える。


数日後、冒険者ギルドを利用。


その後、新しい護衛任務を受注。


国境を越え――


セレディア王国の港湾都市バレンシアへ。


「現在地は?」


「そこまではまだ分かりません」


「うぅ……」


またですか。


だけど、昨日までとは全然違う。


どこの国にいるのかすら分からなかった人たちが、少なくともバレンシアまで移動していたことは分かった。


「バレンシアの冒険者ギルドには?」


「照会をかけることもできますがーー」


一拍。


「エレノア様の場合コルヴァン伯爵に直接聞いた方が早いかと……」


「ならすぐにーー」


そこまで言いかけたその時ーー


「その必要はないわ」


「ミストルティン様が何かを食べながらやってくる」


「……行儀悪くないですか?」


「いいじゃないエレノア達以外誰もいないし」


「そういう問題なんですかね……?」


リュシアさんは苦笑を浮かべながら静かに呟く。


だがミストルティン様は何事もなかったかのように続ける。


「その冒険者だけど陛下にもコルヴァン伯爵にも全て照会をかけて身柄も一時的に抑えているわ」


「…………」


「…………」


私とリュシアさんは同時に固まる。


「……もう?」


「もう」


「いつの間にですか!?」


「昨日」


「昨日!?」


思わず声が裏返る。


昨日って――


「もしかして……昨日、ミストルティン様が言っていた報告って……」


「これよ?」


「…………」


リュシアさんの動きが止まった。


「……つまり」


「?」


「私が朝まで調べていたことって……」


「ほとんど昨日の時点で分かってたわね」


「…………」


「リュシアさん?」


「…………」


「大丈夫ですか?」


「エレノア様」


「はい?」


「私の徹夜って意味ーー」


「それ以上はいけません!!」


「で……ですが」


「いけません!!!!!」


「はい……」


リュシアさんは目に見えて項垂れる。


だ、駄目です。


これ以上考えさせてはいけない。


「でも! リュシアさんが調べてくれたおかげで、私たちも詳しい経路が分かったじゃないですか!」


「……」


「ほら! 無駄じゃありません!」


「……そうでしょうか」


「そうです!!」


「でも私、朝まで――」


「考えちゃ駄目です!!」


「エレノア様が一番傷口を広げてない?」


ミストルティン様が何かを食べながら静かに呟く。


「ミストルティン様は黙っててください!!」


「えー」


「というか何食べてるんですか!?」


「クッキー」


「それ昨日メルが持ってきたやつじゃないですか!」


「余ってたから」


「…………」


なんでこの人はこんなに自由なんだろう。


「それより」


ミストルティン様は残っていたクッキーを口に放り込む。


「冒険者の話、聞かなくていいの?」


「あっ!!」


そうだった。


リュシアさんの徹夜が無意味だったという衝撃で忘れかけていた。


「身柄を押さえているって言いましたよね!?」


「ええ」


「事情を説明したら『それはいかん!!』って言って素直に応じてくれたわ」


一拍。


「今はソフィアが王立中央病院で二十四時間体制で確認しているわ」


「ソフィアさんが?」


「ええ。四人とも今のところ目立った症状はないそうよ」


「……症状がない?」


私は思わず聞き返す。


「本当に四人ともですか?」


「少なくとも今のところはね。念のため隔離した上で、定期的に状態を確認してもらってるわ」


「…………」


おかしい。


あの四人は、鳥型の魔物の輸送を直接護衛していた。


同じ馬車と共に移動し。


途中で体調を崩した個体も見ている。


それなのに――


「感染していない……?」


「そこまではまだ断定してないわよ」


ミストルティン様がすぐに訂正する。


「エレノアだって散々言ってたでしょ? 症状が出ていないからって感染していないとは限らないって」


「いえ……状況的にその人達は白です」


「白?」


「はい。少なくとも、アルファインフルエンザに感染している可能性はかなり低いです」


私は頭の中で時系列を整理する。


あの人たちが鳥型の魔物の輸送護衛を担当したのは、およそ一か月前。


もしその時に感染していたのなら――


「潜伏期間を考えても、とっくに症状が出ているはずです」


「……なるほど」


「しかも、その後も護衛任務を受けてバレンシアまで移動しているんですよね?」


「ええ。少なくとも依頼を達成できる程度には活動していたみたいよ」


「なら尚更です」


感染していたのなら。


一か月もの間、何の異常もなく冒険者として活動し続けているのは不自然だ。


もちろん、絶対とは言い切れない。


だけど――


「今回の感染経路を追う上では、優先度をかなり下げてもいいと思います」


「じゃあ検査する必要はない?」


「いえ。それとこれとは別です」


私は即答する。


「ここまで追ったんですから、最後まで確認します」


「ですよね……」


リュシアさんが苦笑する。


「それに――」


私は少し考える。


「感染していなかったこと自体が、手掛かりになるかもしれません」


「感染していないことが?」


「はい」


同じ輸送に同行していた。


同じ鳥型の魔物のすぐ近くにいた。


それなのに感染していない。


一方で――


鳥型の魔物を直接扱った人。


死亡した個体を食べた人。


その肉を受け取った人。


そういった人たちの周辺では感染者が確認されている。


「何が違ったのかを調べれば、感染条件をさらに絞り込めるかもしれません」


「それで、リュシアさん」


私は改めて資料へ視線を戻す。


「もう一つの方はどうでした?」


「もう一つ?」


「馬車を運転していた方が、鳥型の魔物を置いていった村です」


「ああ、そちらですね」


リュシアさんは資料の束から一枚を取り出す。


「場所まで特定できています」


「本当ですか!?」


「はい。手帳に書かれていた時期と周辺の聞き込み、それから当時村へ入った行商人の記録を照合しました」


そう言って、今度は地図を広げる。


「ここです」


リュシアさんが指差したのは、ユグアッシュ王国の中でも少し離れた場所。


そして――


「ロンバス湖……?」


「はい。そのほとりにある小さな村です」


「湖の近くなんですね」


「人口もそれほど多くありません。ですが、例の鳥型の魔物が持ち込まれた時期と一致する証言も得られています」


「じゃあ――」


ほぼ間違いない。


あの手帳に書かれていた村だ。


私は勢いよく立ち上がる。


「すぐに行きましょう!」


「えっ、今からですか!?」


「もちろんです!」


「エレノア様」


「なんですか?」


「寝てませんよね?」


「…………」


「…………」


「馬車の中で寝ます!」


「そういう問題では――」


「私も行くわよ」


いつの間にか話を聞いていたミストルティン様が、食べ物を片手に立ち上がる。


「ロンバス湖なら私も知ってるし、案内できるわ」


「本当ですか?」


「ええ。ここからなら――」


「ミストルティン」


「ん?」


その瞬間。


聞き覚えのある声が背後から聞こえた。


「…………」


ミストルティン様の動きが止まる。


振り返ると。


そこには――


笑顔のパルシア様が立っていた。


「パルシア?」


「さっきから気になってたんだけど」


パルシア様の視線がゆっくりと下へ向く。


その先にあるのは。


ミストルティン様の手。


正確には――


そこに握られた、食べかけのクッキー。


「何?」


「何じゃないわよ」


一拍。


「食べながら歩かない!!」


ゴンッ!!


「いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


鈍い音と共に。


ミストルティン様の頭へ、パルシア様の拳が落ちた。


「ちょっ!? 何するのよ!!」


「行儀が悪い!!」


「別にいいじゃない! エレノアたちしかいないんだから!」


「誰も見てなかったら行儀悪くしていいなんて誰が教えたのよ!!」


「神族にそんな決まりないわよ!」


「今作ったわ!!」


「横暴!!」


「お行儀の悪い神族よりマシよ!!」


「どこがよ!!」


「全部よ!!」


「…………」


「…………」


私とリュシアさんは顔を見合わせる。


「……エレノア様」


「はい?」


「ロンバス湖の村へ向かう準備をしましょうか」


「……そうですね」


触れない方がいい。


絶対に。


「ちょっとエレノア! 助けなさいよ!」


「さあリュシアさん! 準備しましょう!」


「はい!」


「無視しないで!?」


その後ろでは――


「まずそれを食べ終わってから喋る!」


「はい……」


神族であるはずのミストルティン様が、パルシア様に普通に怒られていた。


こうして。


次の目的地――ロンバス湖のほとりにある村が決まったのだった。


……なお。


出発するまでの間、ミストルティン様はパルシア様からお行儀についてのお説教を受けることになった。


神族でも、行儀が悪ければ怒られるらしい。

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