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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第三章 水面下の綻び編

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233話 隠された性質、新たな疑惑②

ーーユグアッシュ王宮・中庭


なんだろう……


徹夜明けのせいかお説教の内容が頭に入ってこない。


そしてリュシアさんはーー


……左から右へ受け流している!?


頭の中を空っぽにしていますとでも言わんばかりの表情だった。


「……とりあえずお説教はここまでにして」


一拍。


「お互いに何かしらの収穫があったんですね?」


エリシアが私とリュシアさんの手元を見る。


「私は詳細な生態がわかりました」


「こちらも足取りと立ち寄ったとされる村が判明しました」


「……両方とも収穫あり、ですか」


エリシアは小さくため息を吐く。


「徹夜したことを褒めるつもりはありませんからね?」


「「はい……」」


「では、まずエレノア様からお願いします」


「分かりました」


私は抱えていた本をテーブルの上へ置く。


かなり分厚い本だ。


表紙には東の国に生息する魔物について記されている。


「昨日、牧場でもう一度あの鳥型の魔物について調べてきました」


「「また牧場にいたんですか?」


エリシアが驚いたように私を見る。


「はい。図書室に行く前に少しだけ」


「少しだけ……」


「本当に少しだけですよ!?」


「その後、朝まで図書室にいたんですよね?」


「…………」


「エレノア様?」


「今は報告を優先しましょう!」


これ以上この話を続けると、せっかく終わったお説教が再開してしまう。


私は逃げるように本を開いた。


「前回牧場へ行った時は、アルファインフルエンザに感染していないかを中心に調べていました」


「そうでしたね」


「でも、手帳を見つけてから一つ気になることがあったんです」


輸送開始から一週間。


五羽のうち二羽が体調を崩した。


翌日には一羽が死亡。


さらにその翌日にはもう一羽が死亡し、一羽がかなり弱っていた。


「以前、鑑定した際にとても繊細だという結果が出たんです」


「それで生態を?」


「はい」


私は頷く。


「牧場には、とても仲のいい二羽が飼育されていました。離そうとすると暴れるくらい仲がいいそうです」


「そんなに?」


メルが興味深そうに聞き返す。


「はい。なので、その二羽に協力してもらって簡単な実験をしました」


「実験?」


「最初に二羽を離してみました」


その時の鑑定結果は――


若干のストレス。


そして、怒り。


長時間続けば危険だという警告も表示された。


「その後、今度は二羽を一緒にしたまま、飼育スペースだけを狭くしてみたんです」


「…………」


「そうしたら、怒ってはいないのに強いストレスが表示されました」


相手が嫌だからではない。


離されたからでもない。


狭い空間にいること自体が強いストレスになっていた。


「そして、その状態で数分経ったところで――」


私は一度言葉を切る。


「二羽の体内に、非常に強い毒素が突然生成されました」


「……毒素?」


リュシアさんが眉をひそめる。


「はい」


「それって……あの鳥型の魔物が元々毒を持っているということですか?」


「正確には少し違います」


私は目の前の本へ視線を落とす。


「普段から毒を持っているわけではありません」


ページを捲り、昨夜見つけた項目を開く。


「牧場で確認できたのはそこまででした。だから、その毒素が何なのか調べるために図書室へ行ったんです」


「それで、その本を?」


「はい」


ようやく本題だ。


私は目的の箇所を指差す。


「まず、牧場で起きた現象は異常ではありませんでした」


「異常じゃない?」


「この魔物が元々持っている生態の一つです」


文献によれば、この鳥型の魔物は縄張り意識が非常に強い。


特に同性同士や相性の悪い個体を近くで飼育すると、強いストレスを感じる。


そこまでは牧場主さんから聞いた話と同じだった。


「ただし、相性のいい個体同士なら問題なく共同生活できる場合もあります」


「牧場にいた二羽ですね」


「はい。でも――」


それでも駄目な条件がある。


「狭い場所です」


「…………」


「相性がどれだけ良くても、十分に動けないほど狭い場所へ閉じ込められると強いストレスを感じるそうです」


そして。


その状態が一定時間以上続くと――


「体内で毒素を生成する」


「昨日の実験と一致したんですね」


「完全に一致しました」


だから、あの時突然鑑定結果が変わった。


偶然でも病気でもない。


あの魔物自身が作り出したものだった。


「それで――」


リュシアさんが本を見る。


「その毒素についても分かったんですか?」


「はい」


私は頷く。


ここから先が――


朝まで図書室に籠って調べていた一番の理由だ。


「かなり詳しく分かりました」


私はページを一枚捲る。


「まず、この毒素の名前は――」


私は記載されている文字を指でなぞる。


「フェルミナ毒」


「フェルミナ毒……?」


「はい。ただ、正確には最初から毒として作られているものではないみたいです」


「どういうことですか?」


リュシアさんが首を傾げる。


「この魔物自身にとっては、強いストレスを緩和するために生成される物質なんです」


私は本に書かれた内容を読み進める。


強いストレスを受けた際、この鳥型の魔物は体内で特殊な物質を生成する。


それによって興奮状態を抑え、精神的な負担を軽減する。


つまり――


「本来は、自分自身を守るためのものなんです」


「それがどうして毒素に?」


「量です」


私は短く答える。


「少量なら問題ありません。むしろこの魔物にとっては必要なものです。でも、強いストレスが長時間続くと生成が止まらなくなるみたいです」


生成される。


蓄積される。


それでもストレスの原因がなくならなければ、さらに生成される。


そして一定量を超えると――


「今度は、この魔物自身の身体に悪影響を及ぼし始めます」


「……どんな?」


メルが尋ねる。


「特に大きいのが免疫力の低下です」


「免疫……」


「病気から身体を守る力ですね」


私は本を指差す。


「過剰に蓄積すると免疫機能が大きく低下して、普段なら問題にならない程度の病原体でも発症しやすくなるそうです」


「…………」


リュシアさんの表情が変わった。


「待ってください。それって――」


「はい」


私も同じことを考えている。


狭い場所での長距離輸送。


それによる強烈なストレス。


体内で生成され続けるフェルミナ毒。


そして――


免疫力の低下。


「もし輸送されていた個体の中に、一羽でもアルファインフルエンザに感染している個体がいたら……」


「他の個体も感染しやすくなる?」


「その可能性があります」


それだけじゃない。


この毒素には、もう一つ厄介な性質があった。


「しかも、この毒素は熱にかなり強いです」


「熱に?」


「はい。普通に加熱調理した程度では簡単に分解されないそうです」


私はページを捲る。


そして――


ここが一番問題だった。


「さらに、濃縮毒としての性質があります」


「濃縮毒?」


「この魔物自身はある程度この物質に耐性があります。でも、体内に大量に蓄積された状態になると、肉や内臓にも高い濃度で残留します」


つまり。


その個体を食べれば――


「蓄積されていた毒素を、一度に大量に摂取することになります」


「……あ」


メルも気付いたらしい。


――死骸を運んでも仕方がないし今日の夕食にでもしよう。


「輸送していた人……食べてますよね?」


「はい」


しかも、ただ食べたわけじゃない。


輸送中に体調を崩し。


その後、死亡した個体を食べている。


「かなりの量が蓄積されていた可能性があります」


「焼いていたとしても?」


「この毒素の性質が文献通りなら、完全には無害化できません」


「…………」


一気に空気が重くなる。


「ただーー」


「この毒素とアルファインフルエンザは直接関係しないと結論づけています」


その言葉にエリシアもメルもリュシアさんも驚きの表情を浮かべる。


「でも毒素を生成しているんですよね!?」


「そうですね」


「じゃあなんで関係ないと結論づけられるんですか!?」


リュシアさんの言葉はもっともな意見だった。


だがーー


「簡単な話です」


一拍。


「もしアルファインフルエンザを持っていたとしてこの毒素だけで新しい型のアルファインフルエンザが生まれると思いますか?」


「……え?」


リュシアさんが一瞬言葉を失う。


「それは……」


「出ないんです」


私はきっぱりと言う。


「この毒素はあくまで、あの鳥型の魔物が強いストレスを受けた時に生成するものです」


確かに、過剰に蓄積すれば免疫力は大きく低下する。


その状態なら、普段より病気に感染しやすくなる可能性は高い。


既に感染していたなら、症状が悪化する可能性だってある。


だけど――


「それと、病原体そのものが別の性質へ変化することは全く別の話です」


「……あ」


エリシアが何かに気付いたような声を漏らす。


「今回探しているのは、どうしてアルファインフルエンザが発生したのか……」


「正確には――」


私は首を横に振る。


「どうして今まで確認されていなかったアルファインフルエンザが突然現れたのか、です」


「…………」


そこがまだ分かっていない。


「仮に関係があれば東の国でも流行しているはずです」


「……東の国でも?」


「はい」


私は本のページを捲る。


「あの鳥型の魔物は、最近になって発見された種類ではありません。東の国では昔から飼育され、食用にもされています」


当然。


飼育の歴史が長ければ、事故が一度も起きなかったとは考えにくい。


相性の悪い個体を一緒にしてしまったこと。


狭い場所に長時間閉じ込めてしまったこと。


輸送中に強いストレスを与えてしまったこと。


そういった失敗を繰り返したからこそ、今の飼育方法が確立されたはずだ。


「つまり過去には、毒素を大量に生成した個体もいたはずです」


「……確かに」


リュシアさんが頷く。


「それなのに――」


私は別の資料を取り出す。


「調べられる限り、東の国で今回と同じアルファインフルエンザが流行したという記録はありませんでした」


「一度も?」


「少なくとも、王宮に保管されている文献にはありません」


もちろん。


記録されていないだけという可能性はある。


だけど――


「毒素がアルファインフルエンザを変化させる直接的な原因なら、今回だけ起きたと考える方が不自然です」


何十年。


あるいは何百年。


同じ魔物を飼育してきた地域で起こらず。


初めて大量輸送したユグアッシュで突然発生した。


「だから私は、この毒素そのものが新しい型を生み出した可能性は低いと考えています」


「でも……」


メルが少し考えてから口を開く。


「毒のせいで身体が弱って、アルファインフルエンザに感染しやすくなった可能性はあるんですよね?」


「あります」


そこは否定できない。


むしろ――


「かなり高いと思っています」


「え?」


「長期間の輸送によるストレスで毒素が過剰に蓄積する。その影響で免疫力が低下する。そして、その状態でアルファインフルエンザに感染した」


これなら。


輸送中に次々と体調を崩したことにも説明がつく。


「なので、直接的な原因ではないけれど――」


私は紙に書いた二つの項目を線で結ぶ。


「感染拡大や重症化を助長した要因の一つだった可能性はあります」


「なるほど……」


リュシアさんが資料を見ながら呟く。


「毒素が病気を作ったわけではなく、病気に対して弱い状態を作った……」


「そういうことです」


これで。


毒素についてはかなり分かった。


だけど――


「結局、一番大きな謎は残ったままなんです」


私は椅子の背もたれに身体を預ける。


「アルファインフルエンザは、どこから来たのか」


一拍。


「そして――どうして新しい型になったのか」


「…………」


ここまで話して。


私はようやくリュシアさんが持っている資料へ目を向ける。


「それで、リュシアさん」


「はい」


「立ち寄った村と足取りが分かったんですよね?」


「分かりました」


リュシアさんは資料の束から数枚を抜き取る。


「それどころか――」


一拍。


「エレノア様が今言った『どこから来たのか』について、少し気になる情報があります」


「……!」


私は思わず身を乗り出した。


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