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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第三章 水面下の綻び編

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228話 違和感を辿り、見えてきた感染源

ーーユグアッシュ王宮・中庭


色々なことがありすぎたNTEレース大会から一夜明けて、いい息抜きになったのかいつもより集中力が上がった気がした。


「エレノア様ー! お昼ですよー!」


呼びにきたメルの声すら届かない状況ーー


それくらい集中していたのだろう。


「このグループの検体からは今のとこ出ていないと……」


「エレノア様ー!!」


「ひゃ!?」


メルが私の背中をチョンチョンとし、驚いたせいで変な声が出た。


「び、びっくりしたぁ……」


「こっちの台詞ですよー!」


「え?」


振り返ると、メルが頬を膨らませていた。


「さっきから何回も呼んでるのに、全然反応してくれないんだもん!」


「何回も?」


「はい!」


「…………」


全く聞こえていなかった。


「ごめんなさい……」


「もう!」


メルは呆れたように私の手元を覗き込む。


「そんなに集中して、何してたんですか?」


「昨日までに採取した検体を、もう一度グループごとに確認してたんです」


私は机の上に並べた容器へ視線を戻す。


採取した場所。


時間。


周囲の環境。


症状が確認された場所との距離。


それぞれ条件ごとに分けて調べているけれど――


「このグループからは、今のところ原因になりそうなものは出ていません」


「じゃあ、ハズレ?」


「……だと思います」


そう答えながらも、私は資料へ目を落とす。


「でも――」


「でも?」


「それはそれで、一つ候補を消せたということですから」


原因を探す時。


何かを見つけることだけが前進じゃない。


違うと分かったものを一つずつ除外していくことだって、立派な前進だ。


「だから、もう少し――」


「駄目です」


「まだ何も言ってませんよ!?」


「どうせ『もう少しだけ調べてからお昼にします』って言うつもりだったでしょう?」


「…………」


「図星ですね?」


「……あと一つだけ」


「駄目です!」


即答された。


「エレノア様、昨日もいっぱい頭使ったんですから、ちゃんと休んでください!」


「昨日は遊んでただけなんですけど……」


「遊ぶのだって疲れます!」


「それはそうですけど……」


私は名残惜しく検体を見る。


あと少し。


本当にあと少し確認すれば、このグループを完全に候補から外せそうなのに。


「…………」


「エレノア様?」


「…………あと五分」


「お昼です!」


「三分!」


「駄目です!」


「一分!」


「値切るものじゃありません!!」


……交渉失敗。


私は渋々手を止めた。


食堂へ行くと待ちくたびれたリュシアさんとミストルティン様がいた。


「やっと来たわね!」


「エレノア様お腹空きましたよ……」


リュシアさんは苦笑を浮かべながら言う。


「それくらい集中していたんでしょ?」


パルシア様はそう言いながらチーズがたっぷりのったミートラザニアをテーブル中央に置く。


「私が背中を突っついてようやく気付いたんですもん!!」


「背中弱いからやめてよ……」


私が頬を膨らませるとーー


「エレノアは背中が弱いっとーー」


「そこ! メモしない!!」


「なんでよ?」


ミストルティン様は何食わぬ顔でメモを続ける。


「なんでって……絶対ろくなことに使わないでしょう!?」


「そんなことないわよ?」


「じゃあ何に使うつもりなんですか?」


「…………」


「なんで黙るんですか!!」


「エレノア様」


リュシアさんが苦笑しながら私の隣の椅子を引く。


「聞かない方がよろしいかと」


「ですよね!?」


「色々付き合ってもらう約束もあるしね♡」


「忘れてなかったぁぁぁぁ!!」


「忘れるわけないじゃない♪」


昨日のレース大会。


あれだけ必死になって勝とうとした最大の理由が、それだった。


そして私は――


見事に負けた。


「……今から優勝者変更とかできません?」


「できないわよ」


「即答……」


「ほら、エレノア」


パルシア様が苦笑しながら席を指す。


「冷める前に食べましょう?」


「はーい……」


私は諦めて席へ座る。


目の前には、焼きたてのミートラザニア。


表面を覆うたっぷりのチーズには綺麗な焼き色がつき、その隙間から赤いミートソースが覗いている。


「いただきます!」


一口分を取り分け、口へ運ぶ。


「んー!」


濃厚なチーズ。


肉の旨味が溶け込んだミートソース。


そして何層にも重なった生地。


「美味しい!」


「ふふっ、よかった」


「これなら研究で疲れた頭も回復します!」


「食べ終わったらすぐ研究に戻るつもりですね?」


「…………」


メルがジト目でこちらを見る。


「エレノア様?」


「ちゃんと休憩しますよ」


「本当に?」


「……食べ終わるまでは」


「それ休憩って言いません!!」


「だって気になるんですもん!」


私はフォークを置き、先ほどまで調べていた検体を思い浮かべる。


「今調べているグループから原因らしいものが見つからなかったことで、逆にかなり絞れてきたんです」


「そうなの?」


ミストルティン様がメモをしまいながら尋ねる。


「はい」


私は頷く。


「少なくとも――」


一拍。


「輸入された数と、実際に飼育されている数が一致していないこと。そして、感染が輸送経路に沿うように広がっていることから――」


私は頭の中で、これまで集めた情報を整理する。


「輸送中に何らかの感染症が発生し、そのまま各地へ運ばれた可能性があります」


「輸送中に?」


パルシア様の表情が僅かに険しくなる。


「はい。もし最初から輸入元で感染していたのなら、もっと早い段階で異常が確認されてもおかしくありません」


「でも、そうではなかった?」


「少なくとも今ある記録を見る限りでは」


私は頷く。


「それに、輸入された数と飼育数が合わない理由も気になります」


「途中で死んだってこと?」


メルの問いに、私は少し考えてから答える。


「その可能性があります」


「…………」


「もし輸送中に感染が始まっていて、症状の重かった個体が目的地へ到着する前に死んでいたとしたら――」


リュシアさんがハッとした表情を浮かべる。


「死亡した個体を途中で処分していた?」


「はい。そして残った個体だけが各地へ運ばれた」


私は指を一本立てる。


「でも、その個体たちも既に感染していたとしたら?」


「……輸送先で発症する」


「そういうことです」


パルシア様が腕を組む。


「それなら、輸送経路に沿って感染地域が広がっていることにも説明がつくわね」


「まだ仮説ですけどね」


私はそう付け加える。


「だから次に調べたいのは――」


一拍。


「最初に輸入された場所から、各飼育地へ到着するまでの記録です」


いつ。


どこを通り。


どこで休憩し。


何頭が死に。


そして――


その死体をどう処理したのか。


「そこまで分かれば、最初に感染が起きた場所をかなり絞り込めるかもしれません」


「輸送記録……」


ミストルティン様が少し考えるように呟く。


「そんなもの残ってるの?」


「そこなんですよね」


私は苦笑しながら頷く。


この世界にも荷の出入りを記録する仕組みはある。


特に国外から大量の家畜を輸入するとなれば、税や検疫の関係もあって、ある程度の記録は残される。


ただ――


「どこまで細かく記録されているかは分かりません」


「少なくとも輸入された数は分かっているのよね?」


「はい。港へ到着した時点での頭数は記録されています」


私は指を折りながら説明する。


「問題はそこからです。どの商会が運んだのか。途中でどこへ立ち寄ったのか。何頭ずつ、どこへ運ばれたのか。そして途中で死亡した個体がいた場合、その記録が残っているのか」


「なるほどね……」


パルシア様が考え込む。


「国の記録だけでは足りない可能性がある、と」


「そういうことです」


むしろ重要なのは、輸入された後。


実際に家畜を運んだ者たちが持っている記録かもしれない。


「なら、運んだ商会を調べればいいんじゃない?」


メルがラザニアを頬張りながら言う。


「私もそう思います」


「でしたら――」


リュシアさんが口を開く。


「昼食後、私が調べてまいりましょうか?」


「お願いします!」


即答する。


こういう時、リュシアさんは本当に頼りになる。


「輸送を担当した商会と、可能なら実際に輸送へ参加した人も知りたいです」


「御者や護衛も、ということですか?」


「はい」


記録が残っていなくても。


実際にその場にいた人なら、覚えている可能性がある。


「例えば――」


私はフォークを置く。


「途中で急に具合の悪くなった個体がいたとか」


一つ。


「普段とは違う場所で休憩したとか」


二つ。


「水や餌を現地で補給したとか」


三つ。


「あるいは、途中で別の家畜と接触したとか」


「……水と餌?」


パルシア様が反応する。


「そこも関係するの?」


「可能性の話ですけどね」


私は頷く。


「もし輸入された時点では感染していなかったのなら、輸送中のどこかで感染したことになります」


ならば。


その『どこか』には、原因があるはずだ。


「感染している別の動物と接触したのかもしれない。汚染された水を飲んだのかもしれない。餌に何か問題があったのかもしれない」


「なるほど……」


「逆に、同じ場所を通ったのに感染していない集団があるなら――」


「違いを調べればいい?」


メルの言葉に私は笑顔で頷く。


「そういうこと!」


感染した集団。


感染しなかった集団。


その二つを比較する。


何が同じで。


何が違うのか。


それを一つずつ調べていけば――


「原因に辿り着けるかもしれません」


「エレノア」


ミストルティン様が私を見つめる。


「なに?」


「さっきまでご飯を食べてたわよね?」


「食べてますよ?」


「完全に研究の顔に戻ってるわよ」


「…………」


言われて、自分の手元を見る。


フォークを握ってはいる。


しかし――


「全然減ってないじゃない」


「…………」


目の前のラザニアは、話し始める前からほとんど減っていなかった。


「エレノア様!」


「ひゃい!?」


メルが頬を膨らませる。


「研究のお話は禁止です!」


「でも今すごく大事なところで――」


「お昼ご飯も大事です!!」


「はい……」


反論できない。


私は渋々ラザニアを口へ運ぶ。


「まったくもう……」


メルは呆れたようにため息を吐く。


「昨日はあんなに遊んでたのに、今日はずーっと研究してるんだから」


「昨日遊んだからこそですよ」


「どういうこと?」


「いい息抜きになったみたいで、今日は頭がすごく回るんです」


「じゃあまたやりましょう!」


ミストルティン様が即座に食いついた。


「それはしばらくいいです!!」


「なんでよ!?」


「色々ありすぎたからですよ!!」


特に優勝者。


というか、その優勝者が要求してきた権利。


まだ何をさせられるのかすら分かっていない。


「ふふっ」


「なんですか、その笑顔……」


「別にー?」


「怖いんですけど!?」


「エレノア様」


リュシアさんが苦笑しながら割って入る。


「その話を始めると、また昼食が進まなくなりますよ」


「そうでした!」


危ない危ない。


今は食事。


調査のことは、その後だ。


私は改めてラザニアを口へ運ぶ。


そして――


昼食を終えたら。


輸送記録を洗い直す。


感染がどこから始まったのか。


その答えはきっと――


輸送経路のどこかに残されている。


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