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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第三章 水面下の綻び編

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226話 カイル、罰ゲームに絶望する


「「はぁ……」」


NTEレース大会が無事?に終わり私とカイルは盛大なため息をつく……


「俺……今から激苦のお茶を飲まなきゃ行けないの……?」


「私はミストルティン様のおもちゃになる上にそのお茶を作らないといけないんですよ?」


一拍。


「正直一番の被害者は『私』と言っても過言ではないと思いますよ……」


「「「それは言えてる」」」


リュシアさんとルーカスお兄様とアメリアお姉様が同時に即答する。


「即答しないでくださいよ!!」


「いや、だってなぁ……」


ルーカスお兄様が通話越しに苦笑する。


「カイルはそのお茶を一杯飲めば終わりだろ?」


「そうですね」


「エレノアは?」


「…………」


私はゆっくりと隣にいるミストルティン様を見る。


「色々付き合ってもらうよ♡」


「……だそうです」


「エレノア様」


通話画面の向こうで、カイルが真剣な表情を浮かべる。


「なんですか?」


「やはり私よりエレノア様の方が大変なのでは?」


「だから最初からそう言ってるじゃないですか!!」


「では、私のお茶は無しということで――」


「それとこれとは別よ?」


ミストルティン様が即答した。


「…………」


「…………」


カイルと私は揃ってミストルティン様を見る。


「カイルは激苦のお茶」


そして今度は私を見て――


「エレノアは私♡」


「なんで私だけ分類がおかしいんですか!?」


「エレノア様……頑張ってください」


「カイルにだけは言われたくありません!!」


「それで、私のお茶はどうやって……?」


「決まってるじゃない!」


ミストルティン様が胸を張って言う。


「完成したらそっちに転移魔法で送るのよ!」


「「「あぁー!!!」」」


「『あぁー!』じゃない!!!」


カイルの悲痛な叫び声が通話越しに響く。


「なんで皆さん今まで気付いてなかったんですか!?」


「いやぁ……」


ルーカスお兄様が気まずそうに答える。


「普通にどうやって飲ませるんだろうとは思ってた」


「なら疑問に思ってください!!」


「私もカイルのところまで持っていくのかなーって」


アメリアお姉様も続ける。


「私は転移門を使うのかと」


リュシアさんまで。


「方法だけ三者三様なのやめてもらえません!?」


「でも解決したじゃない♪」


ミストルティン様は満足そうに頷く。


「出来たてをそのまま転移させれば、冷める心配もないわ!」


「そこに配慮しなくていいです!!」


「確かに」


私も思わず頷く。


「せっかく作るなら、一番美味しい状態で飲んでもらいたいですからね」


「激苦のお茶に『一番美味しい状態』なんてあるんですか!?」


「ありますよ?」


「あるんですか!?」


「たぶん」


「今『たぶん』って言いましたよね!?」


……失礼な。


私だって、まだ作ったことがないんだから仕方ない。


「それじゃあエレノア、早速作りましょう!」


「えぇ……」


「エレノア様」


「はい?」


通話画面の向こうで、カイルが真剣な表情を浮かべていた。


「お願いがあります」


「手加減ならしませんよ?」


「まだ何も言ってません!!」


「じゃあなんですか?」


「…………」


カイルは一拍置いて――


「転移魔法、失敗してくれませんか?」


「私が転移魔法を使うもの!」


一拍。


「失敗すると思う?」


「ですよね……」


カイルは通話越しでも分かるくらい、諦めた声色をしている。


「……分かりました」


「お?」


「罰ゲームは罰ゲームです。覚悟を決めます」


「カイル……!」


ルーカスお兄様が感心したような声を上げる。


「男らしいじゃないか!」


「ルーカス様」


「なんだ?」


「代わっていただいても構いませんよ?」


「断る」


「即答ですね」


「じゃあ調合よろしく!」


そう言ってミストルティン様は薬草の束を私に渡す。


「はいはい……」


私は受け取った薬草を一つずつ確認していく。


「…………」


「…………」


「……ミストルティン様?」


「なに?」


「これ、どこから持ってきたんですか?」


「ちゃんと用意しておいたのよ!」


「それは聞いてません!」


私は薬草の一本を摘まみ上げる。


「これも」


次。


「これも」


さらに次。


「これも!」


最後に束ごと持ち上げる。


「全部めちゃくちゃ苦いやつじゃないですか!!」


「だって激苦のお茶なんだから当然でしょ?」


「だからって苦い薬草だけ集めなくてもいいでしょう!?」


「……エレノア様」


通話越しにカイルの不安そうな声が聞こえてくる。


「ちなみに、どのくらい苦い薬草なんですか?」


「えーっと……」


私は改めて薬草を見る。


一種類だけでも、普通なら薬として少量使う程度。


それが何種類も。


しかも――


「これ、全部混ぜるんですか?」


「もちろん!」


「…………」


「…………」


私とカイルの間に沈黙が流れる。


「カイル」


「はい」


「頑張ってください」


「エレノア様が作るんですよね!?」


「私は調合するだけです」


「実行犯じゃないですか!!」


「主犯はミストルティン様です!!」


「人聞き悪いわね!?」


「じゃあ飲んでみます?」


「嫌よ?」


「即答しないでください!!」


「エレノア様!!」


「なんですか!?」


「せめて薄めてください!!」


「駄目よ」


「ミストルティン様には聞いてません!!」


……とはいえ。


私も錬金術師だ。


渡された素材をただ煮出すだけというのも、なんだか面白くない。


「…………」


薬草を見る。


苦味の強い成分だけを抽出して――


それをさらに濃縮すれば。


「……できそう」


「エレノア様?」


「はい?」


「今、ものすごく嫌な予感がしたんですが」


「気のせいですよ」


「絶対気のせいじゃない!!」


私はその声を聞かなかったふりをして、近くの調合台まで行く。


「とりあえず……このまま使ったらどえらいことになりそうなので、下処理はしないと……」


「……下処理?」


カイルが不安そうに聞き返す。


「はい。このまま全部煮出したら、苦い以前にお茶として成立しない可能性がありますから」


「エレノア様……!」


カイルの声が少しだけ明るくなった。


「やっぱりちゃんと考えてくださっているんですね!」


「当たり前じゃないですか」


私は薬草を種類ごとに分けていく。


「罰ゲームとはいえ、飲めないものを作っても意味がありませんからね」


「よかった……」


心底安心したような声が聞こえてくる。


……失礼な。


私をなんだと思っていたんだろう。


「まず毒性や刺激の強い部分を取り除いて――」


「はい」


「胃に負担が掛かりそうな成分もできるだけ除去して――」


「はい!」


「純粋な苦味を最大限楽しめるようにします」


「はい――」


一拍。


「…………はい?」


「どうしました?」


「今なんて言いました?」


「純粋な苦味を最大限楽しめるようにすると」


「なんでそこを最大限にするんですか!?」


「だって超激苦のお茶ですよ?」


「安全にするための下処理じゃなかったんですか!?」


「安全にはしますよ?」


私は当然のように答える。


「安全性と苦さは別問題ですから」


「エレノア様ぁぁぁぁぁぁ!!」


カイルの悲痛な叫び声が通話越しに響く。


「なるほどね」


ミストルティン様が感心したように頷いた。


「身体に悪そうな部分だけ取り除いて、苦い部分は残すのね!」


「そういうことです」


「さすがエレノア!」


「褒めないでください!!」


「カイル、よかったじゃない」


「何がですか!?」


「安心安全よ?」


「安心できる要素が一つもないんですが!!」


私は二人のやり取りを聞き流しながら、薬草の下処理を進めていく。


……さて。


安全性は確保する。


その上で――


どこまで苦くできるか。


「腕の見せどころですね」


「なんか聞きたくなかった言葉が聞こえたのですが!?」


「気のせいです」


「今度こそ絶対気のせいじゃないですよね!?」


カイルの抗議を聞き流しながら、私はさらに撹拌を続ける。


ぐるぐる。


ぐるぐる。


魔力を流し込むたびに薬草は少しずつ形を失い、その成分だけが液体へ溶け込んでいく。


そして――


「……よし」


私は撹拌する手を止めた。


調合台の上には、深い緑色をした液体。


お茶と言われれば、まあ――


お茶に見えなくもない。


「完成ですか?」


「いえ、まだです」


「まだ何かするんですか!?」


「このままだと薬草の繊維や余計な成分まで混ざっていますからね」


「あっ……」


カイルの声が少し明るくなる。


「じゃあ、それを取り除けば多少は――」


「苦味の成分だけ残して濾過します」


「なんで苦味だけ残すんですか!?」


「罰ゲームだからよ!」


ミストルティン様が元気よく答える。


「ミストルティン様には聞いてません!!」


「まあまあ」


私は濾過用の器具を用意しながらカイルを宥める。


「少なくとも身体に負担になるようなものは取り除きますから」


「……本当ですか?」


「はい」


「絶対ですか?」


「そこはちゃんとします」


「よかった……」


カイルが心底安心したように息を吐く。


ただ――


「味は保証しませんけど」


「そこが一番重要なんですよ!!」


「今回はむしろ保証できますよ?」


「え?」


私は出来上がりつつある液体を見る。


「間違いなく、とんでもなく苦いです」


「そんな保証いらないです!!」


「あははははっ!」


ミストルティン様の笑い声が馬車の中に響く。


「エレノア、もっと苦くできないの?」


「…………」


私は調合台を見る。


「できると思いますよ?」


「やらなくていいです!!」


「例えば、ここから水分だけを少し飛ばして濃縮すれば――」


「エレノア様!?」


「さらに苦味が凝縮されるかと」


「しなくていいですってぇぇぇぇぇ!!」


……さて。


私は完成間近の液体を見つめる。


「このままでもいいんですが、それだと色々な意味でよくないので……」


そう言って私は遅効性の甘味が出る素材を入れ、飲み口に違和感が出ないようにすっきりとした香りをつける。


「……エレノア様?」


「なんですか?」


「今、何を入れたんですか?」


「甘味が出る素材ですよ」


「甘味!?」


カイルの声が一気に明るくなる。


「ということは、少しは飲みやすく――」


「なると思いますよ?」


「よかった……!」


「ただし、甘味が出てくるのは少し後ですけど」


「…………」


「…………」


「はい?」


「飲んですぐは、ほぼ苦味だけですね」


「なんでそんな素材を選んだんですか!?」


「最初から甘いと、せっかくの苦味が分かりにくくなるじゃないですか」


「分からなくていいんですよ!!」


「でも後味までずっと苦いのは可哀想なので」


「優しいのか酷いのかどっちなんですか!?」


「優しいですよ?」


「自分で言います!?」


私はさらに、爽やかな香りを持つ素材を少量加える。


すると――


「おお……」


ミストルティン様が興味深そうに調合台を覗き込む。


「香りだけなら普通に美味しそうね」


「でしょう?」


見た目こそ異様に濃い緑色をしているものの、香りだけなら爽やかな薬草茶。


少なくとも、先ほどまで漂っていた強烈な薬草臭はほとんど消えている。


「……エレノア様」


「はい?」


「なんで罰ゲームのお茶なのに、飲みやすくなるよう工夫してるんですか?」


「飲めなかったら罰ゲームにならないでしょう?」


「…………」


「…………」


「なるほど」


「納得しないでください!!」


ルーカスお兄様が吹き出す。


「つまりあれか?」


「はい?」


「飲みやすくしたんじゃなくて、飲ませやすくしたのか?」


「そうとも言いますね」


「最悪だぁぁぁぁぁぁ!!」


カイルの悲痛な叫び声が響く。


……失礼な。


ちゃんと後から甘味も出るようにしているんだから、かなり良心的だと思う。


……たぶん。


私は出来上がったお茶を密閉性のある容器に入れミストルティン様へ手渡す。


「完成したのでそっちに送ります」


「送らなくていいです!!」


だがーー


ミストルティン様は既に転送魔法陣を起動し送った直後だった。


そしてーー


「カイル」


「なんでしょう」


「男なんだから覚悟を決めなさい!!」


「その考え古いですって!!!!!」


カイルの叫び声が通話越しに響く。


「細かいことは気にしないの!」


「細かくありません!!」


その時――


「……あ」


カイルの声が止まった。


「どうしました?」


「…………届きました」


カイルの声色が一気に沈む。


通話画面の向こうでは、カイルが転移してきた容器をなんとも言えない表情で見つめていた。


「ほら! ちゃんと届いたでしょ?」


ミストルティン様が満足そうに胸を張る。


「届いてほしくなかったんですけど……」


「諦めなさい」


「そんな……」


カイルは最後の希望を失ったように肩を落とす。


「カイル、頑張れー!」


隣にいるメルが楽しそうに声を掛ける。


「メルは飲まなくていいからそんなこと言えるんですよ!」


「うん!」


「そこは否定してください!!」


「まあまあ、カイル」


リュシアさんまで画面を覗き込む。


「罰ゲームとはいえ、エレノア様が作ったものです。身体に悪いものではありませんよ」


「それは分かっていますけど……」


カイルは容器を手に取る。


「作っている過程を全部見せられたせいで、飲むのがものすごく怖いんですよ……」


「失礼ですね」


「極限まで抽出した本人が言わないでください!」


「でも安全ですよ?」


「味の話をしてるんです!!」


……確かに。


そこについては何も言えない。


「と、とりあえず……」


カイルが恐る恐る容器の蓋を開ける。


「…………」


「どうです?」


「……あれ?」


カイルが少し意外そうな顔をした。


「思っていたより普通の香りですね」


「でしょう?」


「むしろ、爽やかというか……」


ふふん。


そこはちゃんと調整したからね。


「これなら……もしかして」


カイルの表情から僅かに警戒心が消える。


「意外と普通に飲めるのでは?」


「…………」


私は何も答えない。


「エレノア様?」


「なんでしょう?」


「なんで目を逸らしたんですか?」


「気のせいです」


「今日それ何回目なんですか!?」


「カイル」


ミストルティン様がニコニコしながら声を掛ける。


「男なら覚悟を決めなさい!」


「だからその考えが古いんですって!!」


「ほら、一気! 一気!」


「お酒じゃないんですよ!?」


「カイル頑張れー!」


「メルまで煽らないでください!!」


馬車の中が一気に騒がしくなる。


その間もカイルは容器を手にしたまま、濃い緑色のお茶をじっと見つめている。


そして――


「……分かりましたよ」


ついに観念したらしい。


「飲めばいいんでしょう……飲めば!」


「おおー!」


「頑張ってください」


「無事を祈ってるわ!」


「パルシア様、その言い方やめてください!!」


カイルは大きく息を吸う。


そして容器を口元へ運び――


「……いただきます」


ゴクッ。


「…………」


一口。


飲み込んだ。


「…………」


「カイル?」


「…………」


動かない。


画面の向こうで完全に固まっている。


「カイル、大丈夫ー?」


メルが心配そうに首を傾げる。


数秒後。


「オェぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


「「「「カイル!?」」」」


突然のえずき声に、馬車の中が騒然となる。


通話画面の向こうでは、カイルが口元を押さえながら盛大に顔を歪めていた。


「にっっっっが!!!!!」


「そんなに!?」


「そんなにです!!」


カイルは涙目になりながら叫ぶ。


「なんですかこれ!? 舌に触れた瞬間から苦いんですけど!?」


「そりゃ苦味成分を極限まで抽出しましたから……」


「なんでそんな冷静なんですか!?」


「いや、作ったの私ですし……」


「作った本人だから言ってるんですよ!!」


「カイル、水! 水飲んだ方がいいよ!」


メルが慌てて声を掛ける。


「もう飲んでます!!」


カイルは手元にあった水を一気に口へ流し込む。


ゴクゴクゴクゴク――


「ぷはっ!!」


「どうです?」


「苦いです!!」


「水飲んでも!?」


「口の中にずっと残ってるんですよ!!」


「なるほど……」


私は顎に手を当てる。


「抽出しすぎましたかね?」


「今さら分析しないでください!!」


「でも、そろそろ――」


「え?」


カイルの動きが止まる。


「…………あれ?」


「どうしました?」


「なんか……」


カイルが不思議そうに口元へ手を当てた。


「甘くなってきた……?」


「おっ」


私は思わず身を乗り出す。


「ちゃんと効きましたね!」


「これが言っていた遅効性の甘味ですか?」


リュシアさんが興味深そうに尋ねる。


「はい! 強烈な苦味がずっと残るのも可哀想なので、少し時間が経つと甘味が――」


「遅いですよ!!!!!」


カイルの絶叫が説明を遮った。


「もう散々苦しんだ後なんですよ!?」


「でも甘くなったでしょう?」


「なりましたけど!!」


「じゃあ成功ですね」


「何一つ納得できません!!」


ミストルティン様はそんなカイルを見ながら、満足そうに頷く。


「よし!」


「何が『よし!』なんですか!?」


「罰ゲーム、大成功ね!」


「…………」


カイルは黙って手元を見る。


そこには――


まだたっぷりと残っているお茶。


「…………」


「…………」


「……ミストルティン様」


「なに?」


「これ、一口飲めば罰ゲーム終了ですよね?」


「え?」


「…………え?」


一拍。


「全部よ?」


「そんなの聞いてない!!!!!!」


カイルの悲痛な叫びがヘッドフォンから聞こえてきたのだった。


エリシア: 錬金術師ギルドで指導しててよかった……

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