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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第三章 水面下の綻び編

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224話 絶対に負けられないNTEレース大会、決勝戦①

カイルの悲痛な叫び声が響いた順位決定戦から、しばらくして。


いよいよ――


「それじゃあ、決勝戦を始めるわよ!!」


ミストルティン様の一声に、私はコントローラーを握り直した。


決勝戦へ進んだのは四人。


第一回戦一位、ミストルティン様。


第一回戦二位、パルシア様。


第二回戦一位、リュシアさん。


そして、第二回戦二位の私。


ここまで勝ち残っただけあって、誰が勝ってもおかしくない。


「最後のコースは私が引くねー!」


順位決定戦を終えたメルが、くじの入った箱へ手を伸ばす。


「お願いします」


「何が出るかなー♪」


ガサゴソと箱の中を探り、一枚のくじを取り出す。


そして――


「あっ」


紙を開いたメルの動きが止まった。


「……メル?」


「どうしたの?」


「えっと……」


メルはなんとも言えない表情で、こちらへ紙を向ける。


そこに書かれていたのは――


『白尾樹山路公道の順走』


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


決勝進出者四人が揃って黙り込んだ。


「よりによって最後にそこぉぉぉぉ!?」


思わず叫んでしまう。


「決勝戦には相応しいじゃない!」


ミストルティン様はむしろ嬉しそうだ。


「カーブも多いしヘアピンカーブだってあるんですよ!?」


「だから面白いんじゃない!」


「この人、本気だ……」


「エレノア様」


リュシアさんが苦笑しながらコントローラーを握り直す。


「覚悟を決めましょう」


「リュシアさんまで……」


「ふふっ」


パルシア様も楽しそうに笑う。


「ここまで来たんだもの。最後くらい、一番難しいところで決めましょう?」


「…………」


私は三人の顔を見る。


……全員、やる気満々だった。


「分かりましたよ!」


私もコントローラーを強く握り直す。


「絶対に勝ちますからね!!」


「あら?」


ミストルティン様がニヤリと笑う。


「言ったわね?」


「言いました!」


何しろ――


優勝者には、他の参加者へ好きな命令を一つ出せる権利が与えられる。


そして何より。


「ミストルティン様にだけは絶対負けません!」


「なんで私限定なのよ!?」


「一番何を命令するか分からないからですよ!!」


「失礼ね!!」


……とは言ったものの。


ミストルティン様の笑顔を見る限り――


やっぱり絶対に負けたくない。


「それじゃあ、全員準備はいい?」


パルシア様の言葉に、私たちはそれぞれ頷く。


「いつでも大丈夫です!」


「こちらも問題ありません」


「私もいいわよ」


「もちろん!」


全員が準備完了ボタンを押す。


画面が切り替わり、白尾樹山路公道のコース紹介映像が流れ始めた。


山肌に沿って続く細い道路。


次から次へと現れる急カーブ。


場所によっては、少し操作を誤っただけで大きくタイムを失いかねない。


「……何度見ても嫌なコースですね」


「決勝には最高じゃない!」


「ミストルティン様は楽しそうですね……」


「だって一番面白いところでしょ?」


否定はできない。


難しいからこそ、上手く走れた時は楽しい。


……ただし。


「今回は事故祭りにならないといいですね」


リュシアさんが苦笑する。


「大丈夫よ」


パルシア様がさらりと答える。


「少なくとも、さっきみたいにはならないでしょう?」


「聞こえてるぞ!?」


ルーカスお兄様の声が通話越しに響いた。


「誰もルーカスのことだなんて言ってないわよ?」


「絶対俺のことだろ!!」


「お兄様、決勝始まるので静かにしてください!」


「はい……」


一瞬で大人しくなった。


やがてコース紹介が終わり、四台のポルシェがスタートラインへ並ぶ。


私。


リュシアさん。


ミストルティン様。


パルシア様。


ここまでとは空気が違う。


順位決定戦ではスタート前から騒がしかったのに、今は全員が画面へ集中している。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


静かだ。


静かすぎて、逆に緊張する。


「なんか急にガチっぽくなったねー」


メルが小さく呟く。


「実際ガチなんでしょうね」


カイルも答える。


「さっきまでのレースと雰囲気が全然違う……」


アメリアお姉様の声も聞こえてくる。


そして――


画面中央にカウントダウンが表示された。


3


私はコントローラーを握り直す。


2


絶対に勝つ。


1


特に――


ミストルティン様には!!


START!


四台のポルシェが一斉に飛び出した。


「よしっ!!」


今度は誰一人として出遅れない。


四台がほぼ横一線のまま、一気に加速していく。


「ちょっ!?」


「誰も引かないんですか!?」


最初のカーブが迫っているというのに、誰一人として前を譲ろうとしない。


「当然でしょ!」


ミストルティン様が楽しそうに叫ぶ。


「ここで引いたら負けよ!」


「まだ最初のカーブですよ!?」


「だからこそよ!」


「意味分かりません!!」


それでも誰も減速しない。


いや――


減速するタイミングをギリギリまで遅らせている。


「来ますよ!」


リュシアさんの声が響く。


最初の急カーブ。


四台がほとんど横並びのまま突入する。


「そこっ!!」


私は一気にブレーキを入れ、イン側へ車体を滑り込ませた。


しかし――


「甘いわよ!」


「えっ!?」


さらに内側へ、ミストルティン様のポルシェが飛び込んでくる。


「そこ入るんですか!?」


「空いてたから!」


「ほとんど空いてませんでしたよ!?」


二台が接触寸前の距離で並ぶ。


その外側では――


「こちらも行きます!」


リュシアさん。


「私も忘れないでね?」


パルシア様。


四台がそれぞれ違うラインを取りながら、一斉にカーブを駆け抜ける。


そして――


「うそっ!?」


コーナーを抜けても。


誰一人、大きく遅れていなかった。


一位、ミストルティン様。


二位、私。


三位、リュシアさん。


四位、パルシア様。


だが――


一位から四位まで、ほとんど差がない。


「なんですかこれ!?」


「決勝戦よ!!」


「それは分かってます!!」


次のカーブが迫る。


今度はリュシアさんが私の横へ並んできた。


「エレノア様!」


「来ますか!」


「もちろんです!」


そのさらに後ろからパルシア様も距離を詰めてくる。


前にはミストルティン様。


横にはリュシアさん。


後ろにはパルシア様。


……息をつく暇すらない。


「第一回戦と第二回戦の上位って、こんなに違うの……?」


アメリアお姉様が呆然と呟く。


「誰も事故らないどころか、誰も離されませんね……」


カイルも驚いている。


「すげぇ……」


ルーカスお兄様まで、今度ばかりは茶化さず画面を見つめていた。


そんな中――


「エレノア!」


先頭を走るミストルティン様が声を上げる。


「はい!?」


「絶対に負けないからね!!」


「こっちの台詞です!!」


「ふふっ! その意気よ!」


ミストルティン様のポルシェが次の急カーブへ飛び込む。


私もその後ろへぴったりと食らいつく。


絶対に離されない。


だって――


この人にだけは。


何が何でも、優勝させるわけにはいかないのだから。


「次の難関がくるわよ!!」


一個目のヘアピンカーブを抜けた先に待ち受けるのは、蛇のようにグネグネと曲がる連続したカーブ。


一度でもコースアウトすれば、それだけで致命的な差がつきかねない場所だった。


だが――


「皆さん、スピード緩めてもいいんですよ?」


私は牽制するように声を掛ける。


「あら、その台詞はこっちの台詞ね」


パルシア様が楽しそうに返す。


「エレノア様こそ、安全運転をおすすめしますよ?」


リュシアさんまで乗ってきた。


「そうそう! 無理は良くないわよ!」


「一番信用できない人が言ってるんですが!?」


ミストルティン様はケラケラと笑っている。


……誰も譲る気がない。


四台はほとんど速度を落とさないまま、最初のカーブへ突入した。


「ここっ!」


私はブレーキを入れ、車体を滑らせる。


右。


すぐに左。


そしてまた右。


一つ一つのカーブが短く、立て直す暇もない。


「うわっ!?」


僅かに操作を誤り、私のポルシェが外側へ膨らむ。


「エレノア様、お先に!」


その隙をリュシアさんは見逃さなかった。


私の内側へ一気に飛び込み――


「させません!」


私もすぐに車体を寄せる。


「くっ!」


二台が並んだまま次のカーブへ。


「ちょっと二人とも!」


そのさらに内側へ、今度はミストルティン様が突っ込んでくる。


「そこ三台で入るんですか!?」


「入れるなら入る!!」


「無茶苦茶です!!」


三台がほとんど接触しそうな距離で連続カーブを駆け抜ける。


しかし――


「私もいることを忘れてない?」


「えっ!?」


一瞬だけ後方へ視線を向ける。


いつの間にかパルシア様が私たちのすぐ後ろまで迫っていた。


「ちょっ、パルシア様!?」


「前ばかり見ていると――」


次の左カーブ。


パルシア様は私たち三台がイン側へ集中した瞬間、あえて大きく外へ振る。


そして――


「こういうことになるわよ?」


速度をほとんど落とさないまま、一気にアウト側を駆け抜けた。


「うそっ!?」


コーナーを抜けた瞬間。


パルシア様のポルシェが、私たち三台の横へ並ぶ。


「アウトから三台まとめて!?」


「綺麗に抜けたわね♪」


「まだ抜かれてません!!」


ミストルティン様がすぐさま加速する。


私も。


リュシアさんも。


誰一人として譲らない。


右。


左。


右。


左。


次々と迫るカーブを、四台がほとんど団子状態のまま駆け抜けていく。


「ちょっと待って」


観戦していたアメリアお姉様が呟く。


「この人たち、白尾樹山路公道を走ってるんだよね?」


「そのはずです」


カイルが答える。


「なんで誰も事故らないの?」


「私にも分かりません」


「第一回戦の俺がおかしかったみたいな言い方やめてくれないか!?」


「お兄様は実際おかしかったでしょ!」


「アメリア!?」


そんな会話を聞いている余裕すらない。


「次、右です!」


「分かってます!」


「その次すぐ左よ!」


「見えてるわ!」


「そこ、もらった!!」


「させません!!」


四人の声が飛び交う。


ほんの一瞬。


たった一度ラインを外しただけで、四位まで落ちる。


それなのに――


誰も速度を緩めようとしない。


「もう! 誰か一人くらいミスしてくださいよ!!」


思わず叫ぶ。


「エレノア様がすればいいじゃないですか!」


「嫌です!!」


「なら私も嫌よ!」


「私も!」


……ですよね!!


そして――


連続カーブの終わりが見えてくる。


「あと二つ!!」


ミストルティン様が叫ぶ。


右。


四台が一斉に車体を滑らせる。


そして最後の――


左!


「「「「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」」」」


四台がほとんど同時に連続カーブを抜けた。


「はぁぁぁぁ……!」


思わず息を吐く。


抜けた。


誰一人としてコースアウトせずに。


そして順位は――


一位、パルシア様。


二位、ミストルティン様。


三位、リュシアさん。


四位、私。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


四人とも、一瞬だけ黙り込む。


「……あれだけ争って」


私は順位表示を見つめる。


「一位から四位まで一秒も離れてないんですけど!?」


「楽しくなってきたわね!!」


「ミストルティン様、元気ですね!?」


「だって決勝よ!?」


前を走るパルシア様も楽しそうに笑う。


「まだまだこれからよ」


「もちろんです!」


リュシアさんもすぐさま加速する。


そして私もアクセルを踏み込んだ。


……白尾樹山路公道。


難しいコースだとは分かっていた。


でも――


本当に難しいのはコースじゃない。


この三人を相手にしながら走ることだった。


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