223話 絶対に負けられないNTEレース大会、順位決定戦
第二回戦を終え、少しだけ休憩を挟む。
「それじゃあ次は順位決定戦ね!」
ミストルティン様が楽しそうに声を上げる。
順位決定戦に参加するのは、第一回戦と第二回戦で三位、四位になった四人。
メル。
ルーカスお兄様。
アメリアお姉様。
そしてカイルだ。
「今度こそ……」
通話越しに、ルーカスお兄様の低い声が響く。
「今度こそ絶対に完走する!!」
「目標そこなんですか?」
思わずツッコミを入れてしまった。
「仕方ないだろ! さっきは完走すらできなかったんだから!」
「信号機にぶつかってましたからねー」
メルが楽しそうに言う。
「電柱にもね」
アメリアお姉様が続ける。
「フェンスにも突っ込んでいましたね」
最後にカイルが追い打ちをかけた。
「お前たち、まだ言うのか!?」
「だって事実だもん」
「ぐっ……!」
ルーカスお兄様は言葉に詰まる。
……完全に第一回戦の事故が持ちネタになってしまっている。
「でも、今回は同じ失敗はしない!」
ルーカスお兄様は気合いを入れ直す。
「安全第一! 無理な追い越しはしない! カーブの前ではしっかり減速する!」
「なんか急に教習所みたいになりましたね……」
リュシアさんが苦笑する。
「それで勝てるの?」
アメリアお姉様が尋ねると、
「まず完走してから考える!!」
「順位決定戦なんですけど!?」
もはや勝つことより完走することが目的になっている。
まあ、お兄様の場合はそれくらい慎重な方がいいのかもしれない。
「それじゃあコースを決めましょう!」
私は先ほどと同じ箱を手元へ引き寄せる。
今回は決勝戦へ進む私たちがコースを引く番だ。
「誰が引きます?」
「エレノアでいいんじゃない?」
ミストルティン様に促され、私は箱の中へ手を入れる。
「それじゃあ……」
一枚のくじを掴み、ゆっくりと取り出した。
「順位決定戦のコースは――」
「ニューホランド高架線です!」
「順位決定戦にはピッタリね」
「電柱とか薙ぎ倒す心配もなさそうです」
「中央分離帯はありますよ?」
「「「あぁ……」」」
「『あぁ……』ってなんだよ!?」
ルーカスお兄様の抗議が通話越しに響く。
「いや……」
私はなんとも言えない表情を浮かべる。
「中央分離帯も壊せますからね……」
「ぶつかる前提で話すな!!」
「でも、お兄様ならやりそう」
アメリアお姉様が即答する。
「やらない!!」
「本当ですか?」
カイルが疑わしそうに尋ねる。
「今度は絶対にぶつからない!!」
「フラグにしか聞こえませんね」
「カイル!!」
「でも中央分離帯なら、信号機より大きな音がしそうだねー」
メルが楽しそうに言う。
「メルまで事故を期待するな!!」
……なんだか、お兄様が中央分離帯へ突っ込む未来が見える。
でも――
流石に二回連続でそんなことにはならないよね?
たぶん。
「それよりお兄様、早くして!?」
「すまん……」
そう言ってお兄様が準備完了ボタンを押した。
「Good Luck!」
「誰だ!? 『Good Luck!』って言ったの!?」
ルーカスお兄様が即座に反応する。
「私よ?」
ミストルティン様が悪びれる様子もなく答えた。
「悪意しか感じないのだが!!!」
「他意はないわよ?」
「その笑いながら言うのをやめてくれ!!」
「純粋に応援してあげてるだけじゃない」
「絶対嘘だ!!」
ミストルティン様はケラケラと楽しそうに笑っている。
……まあ、気持ちは分からなくもない。
第一回戦であれだけ盛大に事故を起こした直後に『Good Luck!』なんて言われたら、私だって何かの前振りかと思ってしまう。
「お兄様、今度は大丈夫ですよ」
「エレノア……!」
「中央分離帯くらいしか壊せそうなものありませんから」
「お前もそっち側かぁぁぁぁ!!」
「冗談ですって!」
「今の俺には冗談に聞こえないんだよ!!」
「ほら、そろそろ始まるよー!」
アメリアお姉様の声で、全員が画面へ意識を戻す。
四台のポルシェがスタートラインへ並ぶ。
先ほどとは違い、ルーカスお兄様も準備は万全。
「よし……」
お兄様が小さく息を吐く。
「今度こそ絶対に完走する……!」
「だから目標が低いんですよ」
「カイル! お前には絶対負けないからな!!」
「望むところです」
……なんだか順位決定戦というより、ルーカスお兄様とカイルの因縁の対決みたいになってきた。
そして――
画面中央にカウントダウンが表示された。
3
「落ち着け……」
2
「今度は大丈夫……」
1
「絶対に事故らない!!」
START!
四台のポルシェが、一斉にスタートラインを飛び出した。
ルーカスお兄様とカイルが並び激しい体当たりが繰り広げられている。
「ぶつかってくるなよ!!」
「それはこっちのセリフです!」
両者一歩も譲らないと言わんばかりだ。
だがーー
「ええぃ!!」
「な!?」
ルーカスお兄様の一撃で、カイルのポルシェが大きく弾かれる。
そのまま――
ガシャァァァン!!
中央分離帯へ派手に突っ込んだ。
「カイル!?」
「中央分離帯ぃぃぃ!!」
ミストルティン様が楽しそうに声を上げる。
「ほらぁぁぁ!!」
ルーカスお兄様はここぞとばかりに叫ぶ。
「中央分離帯に突っ込んだじゃないか!!」
「ルーカス様が押したんでしょうが!!」
珍しくカイルが声を荒らげる。
「俺は知らん!」
「思いっきり体当たりしてきましたよね!?」
「レースなんだから仕方ないだろ!」
「先ほどまで事故を恐れていた人の運転とは思えませんね!!」
「うるさい! 勝てばいいんだ!!」
……さっきまで、
『絶対に事故らない』
と言っていた人はどこへ行ったのだろう。
しかし――
「この程度で……!」
カイルはすぐさまバックすると、車体を切り返す。
「終わると思わないでください!!」
タイヤを激しく滑らせながら、一気にコースへ復帰した。
「復帰早っ!?」
私が思わず声を上げる。
確かにタイムロスはした。
だが、まだ序盤。
前を走る三台との差も、決定的というほどではない。
「ルーカス様ぁぁぁ!!」
「なんだその声!?」
「絶対に抜き返しますからね!!」
「来れるものなら来い!!」
「二人ともレースの目的変わってません!?」
その隙に――
「お先ー!」
メルが二人の横を抜けていく。
「私も先に行くね!」
続いてアメリアお姉様も前へ出る。
「「あっ!!」」
ようやく二人も気付いたらしい。
現在、一位メル。
二位アメリアお姉様。
三位ルーカスお兄様。
四位カイル。
とはいえ、四台の差はまだ小さい。
順位決定戦は、まだ始まったばかりだった。
四人はそのままもつれ込むようにジャンクションへと突入する。
「このままの勢いだと、絶対に誰か派手に衝突しますよね……?」
「絶対しますね」
リュシアさんが即答する。
そんなことを言っていると――
ガシャァン!!
「あっ!?」
メルがカーブを曲がりきれず、道路脇の障壁へ派手に衝突した。
そして、そのすぐ後ろを走っていたアメリアお姉様も――
「ちょっ、メル!?」
避ける暇もなく、
ガンッ!!
「きゃあっ!?」
メルのポルシェへ突っ込んだ。
二台が絡み合うようにして道路脇へ押し出される。
「言ったそばからぁぁぁ!?」
「本当に事故りましたね……」
リュシアさんは苦笑している。
「ご、ごめんなさい!」
メルが慌てて謝る。
「大丈夫! ゲームだから!」
アメリアお姉様はそう答えながら車体を切り返す。
「それより早く戻らないと――」
その横を、
ブォォォン!!
二台のポルシェが猛スピードで通過した。
「お先ぃぃぃぃ!!」
「失礼します!!」
ルーカスお兄様とカイルだった。
「あああっ!?」
「待ってくださーい!!」
一気に順位が入れ替わる。
一位、ルーカスお兄様。
二位、カイル。
三位、メル。
四位、アメリアお姉様。
「よっしゃああああ!! 一位!!」
ルーカスお兄様が歓喜する。
「まだ序盤ですよ!」
すぐ後ろからカイルが食らいつく。
「それでも一位は一位だ!!」
「今のうちだけです!」
「言ったな!?」
再び二台が横並びになる。
「……結局あの二人、また始めましたね」
「さっき中央分離帯に突っ込んだばかりなのに……」
私とリュシアさんが呆れている一方で、メルとアメリアお姉様もすぐにコースへ復帰する。
「まだ追いつけるよ!」
「もちろん!」
二人も一気に加速を始めた。
ジャンクションでの事故によって順位こそ大きく入れ替わったものの、四台の差はまだそれほど開いていない。
そして――
「……なんかこの順位決定戦、第一回戦より事故多くない?」
ミストルティン様が呟く。
「気のせいだと思いたいです……」
まだ一周目。
なのに既に四人中三人が何かしらにぶつかっている。
残る一人は――
私は画面の中で先頭を走るルーカスお兄様を見る。
「…………」
「エレノア、なんで俺の配信を見るんだ!?」
「いえ、別に」
「絶対何か考えてただろ!?」
「気のせいですよ」
私はそっと視線を逸らす。
……だって。
ここまでカイル、メル、アメリアお姉様の三人が何かしらにぶつかっている。
残るは――
「だから俺を見るな!!」
「何も言ってないじゃないですか!」
「顔に書いてあるんだよ!」
「エレノア様」
リュシアさんが静かに声を掛ける。
「ルーカス様、前……」
「え?」
私はもう一度、お兄様の配信画面を見る。
「お兄様、前!!」
「だからその手には――」
ガシャァァァン!!
「…………」
「…………」
「…………」
お兄様のポルシェが、道路脇の障壁へ綺麗に突っ込んでいた。
「お兄様ぁぁぁぁぁぁ!?」
「なんでだぁぁぁぁぁぁ!!」
「配信画面見ながら喋ってるからですよ!!」
「エレノアが変な目で見るからだろ!?」
「私のせいなんですか!?」
「あはははははっ!!」
ミストルティン様はお腹を抱えて笑っている。
「これで全員一回はぶつかったわね!」
「そんな記録いらないよ!?」
アメリアお姉様が叫ぶ。
「……なるほど」
カイルが妙に納得したような声を出す。
「何が『なるほど』なんだ?」
「これで条件は平等ですね」
「どこがだよ!?」
「全員事故経験者です」
「そんなところで公平性を取るな!!」
ルーカスお兄様が叫びながら、慌ててポルシェをバックさせる。
「くそっ、早く戻らないと――」
その瞬間。
ブォォォン!!
一台のポルシェが、お兄様の横を猛スピードで駆け抜けていった。
「…………」
「…………」
「では、お先に失礼します」
「カイルぅぅぅぅぅぅ!!」
「レース中ですので」
「さっきまで俺と話してただろ!?」
「話しながらでもアクセルは踏めます」
「ずるいぞ!!」
「何がずるいんですか!?」
カイルはそのまま一気に加速し、先頭へ躍り出る。
「待てぇぇぇぇぇ!!」
お兄様もようやく障壁から離れ、すぐさま後を追う。
「絶対抜き返してやる!!」
「できるものならどうぞ」
「言ったなぁぁぁ!!」
……さっき中央分離帯へ叩き込まれた仕返しもあるのだろうか。
カイルの声が、いつもより少しだけ楽しそうに聞こえる。
一方――
「あれ?」
私は順位表示を見て首を傾げた。
「メルとお姉様もかなり追いついてません?」
「本当ですね」
リュシアさんも画面を覗き込む。
先ほどジャンクションで衝突した二人も、いつの間にかすぐ後ろまで迫っている。
一位、カイル。
二位、ルーカスお兄様。
三位、メル。
四位、アメリアお姉様。
しかし、その差はほとんどない。
全員一度は事故っているのに、なぜかものすごい接戦になっていた。
「……これ、誰が一番上手いかを決めるレースですよね?」
「たぶん」
「エレノア様まで自信なくさないでください!」
そのまま四人はラスト一周を迎える。
一位、カイル。
二位、ルーカスお兄様。
三位、メル。
四位、アメリアお姉様。
とはいえ、その差はほとんどない。
誰が五位になっても。
誰が最下位になってもおかしくない。
誰もが展開を読めない――
そんなことを思っていると。
「ふっ……」
先頭を走るカイルから、小さな笑い声が聞こえてきた。
「どうしました?」
「いえ」
カイルは余裕たっぷりに答える。
「このまま普通に走れば、私が五位は私で決まりでしょう」
「カイル、そういうこと言うと――」
アメリアお姉様が呆れたように言う。
「フラグになるよ?」
「大丈夫です」
カイルは自信満々だった。
「先ほどの失敗で、このコースの感覚は掴みました」
「お前……」
ルーカスお兄様が呟く。
「そういうこと言うと本当に事故るぞ?」
「ルーカス様にだけは言われたくありません」
「なんだと!?」
「事実です」
「カイル!!」
「それに、この程度のカーブなら――」
カイルのポルシェが高速のままコーナーへ突入する。
「減速しなくても問題ありません」
「いや、それは――」
私が言い終わるより早く。
車体が大きく外側へ膨らんだ。
「…………あ」
ガシャァァァァァン!!!
「「「「ああああああああ!!!!」」」」
カイルのポルシェが盛大に障壁へ激突した。
それだけでは終わらない。
激突した勢いで車体が大きく跳ね返り――
ガンッ!!
反対側の中央分離帯へ。
「カイルぅぅぅぅぅぅ!!!」
「何してるの!?」
「…………」
カイルは何も答えない。
画面の中では、ポルシェが完全に進行方向とは違う方向を向いて止まっている。
「……カイル?」
「…………」
「大丈夫ですか?」
「…………」
数秒の沈黙。
そして――
「……調子に乗りました」
「認めたぁぁぁぁ!!」
その横を、
ブォォォン!!
「悪いなカイル! お先!!」
ルーカスお兄様が通過する。
「私もー!」
続いてメル。
「カイル、また後でねー!」
最後にアメリアお姉様。
三台のポルシェが次々と走り去っていく。
「…………」
一位から――
一瞬にして四位。
「カイル……」
私はなんと声を掛ければいいのか分からず、しばらく考える。
「まだラスト一周始まったばかりですから!」
「その励まし、今はかなり辛いです……」
……どうやら。
一番展開を読めていなかったのは、カイル本人だったらしい。
「まだ追いつけます!」
私はカイルを励ます。
「はい!」
カイルもすぐに車体を立て直し、三人を追いかける。
「ここから挽回します!」
「頑張ってください!」
そして――
「ルーカス様との差が縮まりません!」
「頑張ってください!」
「むしろ開いてませんか!?」
「……頑張ってください!」
「エレノア様、他に言うことないんですか!?」
ない。
というより、本当に何も起きない。
カイルはその後、一度も事故を起こすことなく綺麗な走りを続けていた。
しかし――
それだけだった。
「カイル、頑張れー!」
メルの声が聞こえる。
「メル! レース中ですよ!?」
「だってもう結構離れてるよ?」
「言わないでください!!」
一方、前方では三人による順位争いが続いている。
ルーカスお兄様を先頭に、メルとアメリアお姉様がすぐ後ろへ食らいつく。
「絶対このまま逃げ切る!!」
「お兄様、今度はちゃんとゴールできそうだね!」
「その言い方やめろ! また何か起きそうだろ!?」
「ルーカスお兄様、後ろ後ろー!」
「うおっ!?」
メルが一気に横へ並ぶ。
「抜かせるかぁぁぁ!!」
「こっちも行くよ!」
アメリアお姉様まで加わり、三台が激しい争いを繰り広げる。
その頃――
「…………」
カイルは一人。
普通に走っていた。
「……カイルだけ別のレースしてません?」
リュシアさんが呟く。
「言わないであげてください……」
「聞こえてますよ!!」
そして先頭の三台は、そのままゴール目前へ。
最後まで大きな差はつかず――
GOAL!
三台が次々とゴールラインを駆け抜ける。
「よっしゃああああ!!」
ルーカスお兄様の歓声が響く。
「完走したぞぉぉぉぉ!!」
「だから喜ぶところそこなんですか!?」
「第一回戦を経験した俺には重要なんだ!!」
リザルトには次々と順位が表示されていく。
五位――ルーカスお兄様。
六位――メル。
七位――アメリアお姉様。
そして。
「…………」
少し遅れて、一台のポルシェが静かにゴールラインを通過した。
八位――カイル。
「…………」
「…………」
「カイル?」
「……はい」
「お疲れさまでした」
「……ありがとうございます」
あれだけ序盤はルーカスお兄様と激しく争い。
中央分離帯へ突っ込み。
一時はトップにまで立ったというのに。
最後は――
特に何の見せ場もなく、普通に最下位でゴールした。
「カイル!!」
ルーカスお兄様の声が、ものすごく楽しそうに響く。
「……なんでしょうか」
「最下位だな!!」
「…………」
「さっきまで俺のこと散々――」
「ルーカス様」
「なんだ?」
「今だけは黙っていただけませんか?」
「嫌だ!!」
「でしょうね……」
カイルの深いため息が、通話越しに聞こえてきた。
「まあまあ、カイル」
私は苦笑しながら声を掛ける。
「今回は途中まで一位だったんですし、そんなに落ち込まなくても――」
「途中まで一位だったからこそ悔しいんです……」
「あー……」
それは確かに。
あのまま余裕をぶっこかず普通に走っていれば、五位になっていた可能性は十分にあった。
「これで順位決定戦も終了ね!」
ミストルティン様がパンッと手を叩く。
「五位ルーカス、六位メル、七位アメリア、そして――」
一拍。
「最下位、カイル!」
「改めて言わないでください……」
「はははははっ!」
「ルーカス様も笑わないでください!」
第一回戦で散々いじられていた反動なのか、お兄様はものすごく楽しそうだった。
「それじゃあ、少し休憩したら決勝戦ですね」
私がそう言って席を立とうとすると――
「あっ、そうそう!」
ミストルティン様が何かを思い出したように手を叩いた。
「言い忘れてたんだけど」
「はい?」
「最下位には罰ゲームがあります!」
「…………」
「…………」
私とカイルが同時に動きを止める。
「……罰ゲーム?」
カイルが恐る恐る聞き返した。
「そう!」
ミストルティン様は満面の笑みを浮かべる。
「最下位になった人には――」
妙に長い間を置いて、
「エレノア特製、超激苦のお茶を飲んでもらいまーす!!」
「…………」
「…………」
カイルが固まる。
私も固まる。
「……ちょっと待ってください」
「なに?」
「なんで私が作ることになってるんですか?」
「エレノアなら、とびっきり苦いの作れるでしょ?」
「作れますけど!!」
問題はそこじゃない。
「エレノア様……」
通話越しに、カイルの震えた声が聞こえてくる。
「はい……」
「私、その話を聞いていないのですが……」
「奇遇ですね」
私はゆっくりとミストルティン様を見る。
「私も聞いていません」
「え?」
「…………」
「…………」
私とカイルは一度黙り――
次の瞬間。
「「そんなの聞いてない!!!!!!」」
二人の叫び声が綺麗に重なった。
「あははははははっ!!」
ミストルティン様の大爆笑が部屋中に響き渡る。
「ちなみに材料はもう用意してあるわよ!」
「準備良すぎません!?」
「エレノア様!!」
「私に言わないでください!! 私も被害者です!!」
「作る側でしょう!?」
「好きで作るわけじゃありません!!」
「手加減してください!!」
「罰ゲームなんだから駄目よ!」
「「ミストルティン様は黙っててください!!」」
……こうして順位決定戦は無事に終了した。
ただし――
最下位になったカイルだけでなく、なぜか私まで罰ゲームに巻き込まれることになった。
……決勝戦では、絶対にミストルティン様にだけは負けたくない。




