表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第三章 水面下の綻び編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
248/251

221話 絶対に負けられないNTEレース大会、第一回戦

動物の検体を終えた私たちは、一つひとつのサンプルを確認しながら感染源の調査を進めていた。


だが――


「ここ最近、一日が濃すぎてなんだか集中できない……」


ある日は治療薬の製作と改良を行い。


ある日は発情してしまった患者さんの対応に追われ。


そして今日は牧場で一日中、家畜や魔物の調査。


「あの羊型の魔物、かわいかったなぁ……」


気付けば頭の中は、もふもふの羊型魔物でいっぱいになっていた。


「メェ~♪」


「……かわいかった」


「エレノア様」


「はい?」


リュシアさんが呆れたようにこちらを見る。


「現実へ戻ってきてください」


「……はっ!」


私は慌てて首を振る。


「いけないいけない。今は羊型魔物を思い出している場合じゃない」


「思い出していたんですね……」


リュシアさんも思い浮かべているのか少しだけ笑っている。


「少し休憩したほうがいいわよ?」


そう言いながらパルシア様が紅茶とクッキーを机に置く。


「そうね」


ソファに座っていたミストルティン様も頷く。


「ここ最近、根を詰めすぎよ」


「神様もたまには休みなさいって言ってるくらいなんだから」


「でも……」


私は机の上に並ぶ検体へ視線を向ける。


「一日くらい休んでも、結果は変わりません」


パルシア様は優しく微笑んだ。


「だからこそ休むのよ」


「疲れた頭で考えても、良い答えは出ないもの」


「……それは確かに」


私が苦笑すると、ミストルティン様がニヤリと笑った。


「というわけで、今日は仕事はもうお終い!」


「えっ!?」


「その代わり――」


「今日はいっぱい遊びましょう!!」


その言葉に、私は首を傾げる。


「遊ぶって言っても、ほとんどのお店閉まってますよ?」


「NTEがあるじゃない!!」


「……あ」


言われてみれば、ここ最近はまともに遊べていない。


真紅とイロヒのピックアップを回収して、ブラインドガチャを引いたくらいで、ストーリーもイベントもほとんど進められていなかった。


「そういえば、次のバージョンもそろそろですもんね……」


「九百九十九夜、本当に最高だったわよ!!」


「ネタバレしないでくださいよ!?」


「大丈夫大丈夫! 一番大事なところは何も言ってないから!」


「その言い方が一番怖いんです!」


「それに今日はストーリーじゃなくて勝負するのよ!!」


その言葉に、非常に嫌な予感がした。


「……普通の勝負ですよね?」


「そんなわけないじゃん!!」


……予感的中。


ミストルティン様は満面の笑みを浮かべながら、人差し指をピンと立てた。


「今回は特別ルールがあります!」


「やっぱり……」


私は額へ手を当てる。


「優勝した人は、他の人に好きな命令を言える権利!!」


「「「えぇぇぇぇっ!?」」」


部屋中に驚きの声が響いた。


「もちろん常識の範囲内よ?」


「その『常識の範囲内』が信用できないんですが……」


私は思わずツッコミを入れる。


「安心して! 命の危険があることとか、倫理的にダメなことは禁止!」


「そこを前提にされる時点で不安しかありません!」


パルシア様はクスクスと笑う。


「ふふっ、面白そうじゃない」


「パルシア様まで乗り気なんですか……」


「もちろん♪」


ミストルティン様はニヤリと笑う。


「じゃあ、NTEレース大会開幕よ!!」


こうして、絶対に負けられない戦いが始まった。


公平を期すため、参加者はくじ引きで第一回戦と第二回戦に振り分けられた。


私は第二回戦で出場することになった。


人数を揃えるため、屋敷で留守番をしていたルーカスお兄様、アメリアお姉様、カイルもリモートで参戦する。


私の組は、私、リュシアさん、アメリアお姉様、カイルの四人だ。


リュシアさんは地味にレースが上手い。


正直、勝てる自信はあまりない。


一方、第一回戦はミストルティン様、パルシア様、ルーカスお兄様、メル。


パソコンの画面にはコース選択画面が表示されている。


「そう言えばコースってどうするのー?」


メルが首を傾げる。


「公平を期すために、この箱の中に入っているくじを第二回戦のメンバーに引いてもらう方式にするわ」


一拍。


「私たち第一回戦のメンバーが引いたら、好きなコースを選んだって疑われそうだしね」


「それはそうね」


パルシア様が静かに頷く。


「じゃあ、私が引きますね」


私は箱へ手を入れ、一枚のくじを取り出した。


「第一回戦のコースは――」


「『橋間地環状線・順走』です」


「あんまり盛り上がらなそう……」


メルは少しだけがっかりした様子で呟く。


「序盤のコースだし仕方ないわよ」


ミストルティン様もどこか残念そうな表情を浮かべる。


「まぁいいわ! どんなコースだろうと勝てばいいのよ!」


そう言ってミストルティン様は気合い十分にコントローラーを握り締めた。


「絶対に一位取って、命令権を手に入れてみせるわ!!」


「ミストルティン様、気合い入りすぎじゃないですか……?」


「だって何でも一つ命令できるのよ!?」


一体何を命令するつもりなんだろう……。


知りたいような、知りたくないような。


「それじゃあ準備できた?」


「いつでもいいわよ!」


「こちらも大丈夫よ」


「僕も大丈夫です」


「私も大丈夫だよー!」


全員の準備が整い、レース前のコース紹介映像が流れる。


その後画面の中央にはカウントダウンが表示された。


3


「絶対勝つ……!」


ミストルティン様が小さく呟く。


2


「絶対に勝つ……!!」


1


「絶対勝つわよぉぉぉぉ!!」


START!


パルシア様、ルーカスお兄様、メルの三台が一斉に飛び出した。


そして――


「よぉぉぉし!! いっけぇぇぇぇ――って、あれ?」


ミストルティン様のポルシェだけが、その場に取り残されていた。


「ミストルティン様!?」


「ボタン間違えた!!!!!!」


ミストルティン様の悲鳴が部屋中に響き渡る。


「何してるんですか!?」


「だって気合い入りすぎて手が滑ったのよ!!」


「気合いでボタンを間違えないでください!!」


その間にも、三台のポルシェはどんどん先へ進んでいく。


ようやく正しいボタンを押したのか、ミストルティン様のポルシェが勢いよく発進した。


「待ちなさぁぁぁぁい!!」


「待つわけないでしょ」


パルシア様が淡々と答える。


「勝負ですからね」


ルーカスお兄様も容赦なく先へ進んでいく。


「ミストルティン様、頑張ってくださーい!」


メルだけは優しく応援していた。


「メルぅぅぅ!! あなたはいい子ね!!」


「でも待ちませんよー!」


「メルぅぅぅぅぅ!?」


開始早々、ミストルティン様は大きく出遅れた。


しかし――


「まだ序盤よ! ここから全員抜けばいいだけじゃない!!」


「切り替え早っ!?」


さっきまで叫んでいたのが嘘のように、ミストルティン様の表情が真剣なものへ変わる。


そして猛スピードで三人との差を縮め始めた。


「……やっぱり速い」


私は思わず呟く。


出遅れたとはいえ、ミストルティン様もかなりやり込んでいる。


この程度で勝負が決まる相手ではなさそうだった。


「この程度ならなんとかなりそうではあるけど……」


そう言いながらミストルティン様は最初のカーブを綺麗なドリフトで突き抜ける。


「流石ミストルティン様……」


やがて……


「おっさきー♫」


ルーカスお兄様をあっという間に抜かしていった。


「何!?」


通話ソフトから、ルーカスお兄様の驚いた声が響く。


「ふふーん♪ 出遅れたくらいで私に勝てると思った?」


「さっきまでボタンを間違えて叫んでいた人の台詞とは思えませんね……」


私が呆れながら言うと、


「それはそれ! これはこれよ!」


ミストルティン様は楽しそうに答えながら、さらに加速していく。


現在の順位は――


一位、パルシア様。


二位、メル。


三位、ミストルティン様。


四位、ルーカスお兄様。


開始直後は完全に置いていかれていたはずなのに、もう三位まで上がっている。


「やっぱり速いですね……」


「まだまだここからよ!」


ミストルティン様の視線は、すぐ前を走るメルのポルシェへ向けられていた。


「次はメルね!」


「そう簡単には抜かせませんよー!」


メルも負けじと速度を上げる。


二台のポルシェがほとんど並ぶように次のカーブへ突入した。


「ここっ!」


ミストルティン様が少し早めにブレーキを入れる。


そのまま車体を滑らせながら内側へ――


「あっ!」


メルが声を上げた時には遅かった。


コーナーを抜けた瞬間、ミストルティン様のポルシェが僅かに前へ出る。


「おっさきー♪」


「抜かれましたー!」


「これで二位!」


「……あの出遅れ、なんだったんでしょうね」


リュシアさんが私の隣で呟く。


「ハンデだったんじゃないですか?」


「自分で勝手に作ったハンデですけどね……」


残るは一位のパルシア様。


しかしパルシア様は、後ろで繰り広げられている争いなど気にも留めていないのか、安定した走りで先頭を維持していた。


「さすがにパルシアは簡単には抜けないわね……」


「あら?」


パルシア様の楽しそうな声が聞こえてくる。


「追いつけるものなら、追いついてみなさい?」


「言ったわね!?」


……なんだろう。


さっきまで仕事を休ませるために始めたゲームだったはずなのに。


神様二人が一番本気になっている気がする。


一方――


「やべっ!」


ルーカスお兄様はカーブを曲がりきれず、そのままコンクリート障壁へ激突した。


ガシャーン!!


画面の中でポルシェが派手に跳ね返る。


「お兄様!?」


「大丈夫だ! まだ走れる!」


「いや、ゲームだから大丈夫なのは分かってますけど!」


慌ててバックし、コースへ復帰しようとするルーカスお兄様。


しかし――


「あっ」


ガンッ!


今度は信号機を薙ぎ倒す。


「お兄様!?」


「だ、大丈夫だ! まだ走れる!」


「だからゲームだから大丈夫なのは分かってますって!」


ルーカスお兄様は慌ててハンドルを切る。


しかし、薙ぎ倒された信号機が派手な音を立てながら道路へ倒れていった。


「信号機がぁぁぁ!?」


「ゲームだから問題ない!」


「そういう問題じゃないですよ!?」


「事故は事故だ! 切り替える!」


そう言ってルーカスお兄様は何事もなかったかのようにアクセルを踏み込む。


「切り替えだけは早いですね……」


リュシアさんが苦笑する。


「まだ序盤だ! ここから追いつけば――」


「あっ!」


ガシャァン!!


「今度は何ですか!?」


「電柱……」


画面の中では、見事に薙ぎ倒された電柱が道路へ転がっていた。


「お兄様、落ち着いてください!!」


「分かってる! 分かってるんだが……!」


明らかに分かっていない。


信号機へ激突したことで焦っているのか、普段ならしないような操作ミスを連発している。


「よし、今度こそ――」


ルーカスお兄様のポルシェが再び加速する。


そして次のカーブ。


「ここは慎重に……」


車体がゆっくりと曲がっていく。


「よし!」


今度は綺麗に曲がれ――


ガシャァァァン!!


「フェンスぅぅぅぅ!?」


曲がった直後、今度は道路脇のフェンスへ真正面から突っ込んだ。


「なんでぇぇぇ!?」


「お兄様が聞かないでください!!」


通話ソフトからアメリアお姉様の笑い声が響いてくる。


「ちょっとお兄様、さっきから何と戦ってるの?」


「俺が一番知りたい!!」


その間にも、先頭の三人との差は無情にも広がっていく。


「……レースって、一度焦るとこうなるんですね」


リュシアさんがしみじみと呟く。


「完全に負の連鎖に入ってますね……」


信号機。


電柱。


フェンス。


次々と街の設備を犠牲にしながら、ルーカスお兄様の第一回戦は続いていく。


……お願いだから、次はちゃんと道路を走ってください。


一方、先頭では――


「ちょっと! しつこいわね!!」


「そっちこそ諦めたらどう?」


ミストルティン様とパルシア様が、ゴール目前で激しい首位争いを繰り広げていた。


最後のカーブを抜けた時点で、二台の差はほとんどない。


「うわっ、並んだ!」


私は思わず画面へ身を乗り出す。


「ここからはほぼ直線ですね」


リュシアさんも画面を食い入るように見つめている。


「絶対に負けないわよ!!」


「それはこっちの台詞よ!」


二台のポルシェが並んだまま、一気に加速する。


少しだけミストルティン様が前へ出る。


しかし、すぐにパルシア様が追いつく。


「あと少し!!」


「いっけぇぇぇぇぇ!!」


「抜かせないわよ!!」


ゴールまで、あと僅か。


二台は完全に横並び。


どちらが前にいるのか、画面を見ているだけではほとんど分からない。


「どっち!?」


「分かりません!」


そして――


二台のポルシェが、ほぼ同時にゴールラインを駆け抜けた。


「「勝った!!」」


ミストルティン様とパルシア様の声が綺麗に重なる。


「絶対私の方が速かったわ!」


「いいえ、私よ」


「私!」


「私」


「むぅぅ……!」


「結果を見れば分かりますよ!」


私がそう言うと、全員の視線がリザルト画面へ集中する。


そして――


一位 ミストルティン様


二位 パルシア様


その差、僅か0.3秒。


「やったぁぁぁぁぁ!!」


ミストルティン様が両手を上げて喜ぶ。


「0.3秒……」


パルシア様は悔しそうに画面を見つめる。


「あと少しだったのに……」


「ふふーん! 0.3秒でも勝ちは勝ちよ!」


「最初にボタンを間違えた人とは思えないですね……」


「それはもう忘れなさい!」


私たちが笑っている間に、三位のメルも無事ゴールする。


「三位でしたー!」


「お疲れさまです!」


これで第一回戦はほぼ終了。


……のはずなのだが。


「あれ?」


リュシアさんが画面を見ながら首を傾げた。


「ルーカス様は?」


「……まだ走ってます」


画面を切り替える。


そこには――


「よし! 今度こそちゃんと曲がれた!」


必死にコースを走るルーカスお兄様の姿があった。


「お兄様、みんなもうゴールしましたよ!?」


「分かってる! せめて完走だけでも――」


その瞬間。


TIME UP


無情にも画面中央へ文字が表示された。


「…………」


「…………」


「…………」


通話ソフトの向こうも静まり返る。


「……お兄様?」


「…………」


「ルーカスお兄様?」


「……信号機にぶつからなければ……」


「その後に電柱とフェンスにも突っ込んでますよ」


「言わないでくれ……」


第一回戦。


一位、ミストルティン様。


二位、パルシア様。


三位、メル。


そしてルーカスお兄様――未完走。


……ある意味、一番目立っていたのはお兄様だった気がする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ