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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第三章 水面下の綻び編

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219話  見え始めた希望、浮かび上がる感染源

ーーユグアッシュ王国・第一会議室


アルファインフルエンザ用治療薬は、私がいなくても僅かではあるが増産できるようになった。


今はエリシアの補助が必要だが、そう遠くないうちに錬金術師ギルドと薬剤師ギルドだけでも安定して調合できるようになるだろう。


もちろん、私も引き続き治療薬の調合は続ける。


だが――


私が今回やるべきことは、それだけではない。


アルファインフルエンザの感染源を突き止め、二度と同じことが起こらないよう対策を講じること。


そのため、今日は各地から取り寄せた資料を基に会議が開かれていた。


「……多くないですか?」


思わず本音が漏れる。


「我が国は家畜関連の輸入が非常に多いもので……」


ユグアッシュ王国の担当官が苦笑しながら答えた。


私の目の前には、この一年間に輸入された家畜や畜産加工品をまとめた報告書が山のように積まれている。


牛、羊、山羊、豚、鶏……。


その関連製品まで含めれば、とても一日で読み切れる量ではない。


積み上げられた書類は私の顔をすっかり隠してしまい、会議室にいる皆さんの姿さえ見えない。


「エレノア様、大丈夫ですか?」


「……書類しか見えません」


会議室のあちこちから苦笑が漏れた。


「正直申し上げますと、運んでいる時から思っておりました」


担当官が頭をかく。


一拍。


「これは絶対にエレノア様が困惑されるだろうと……」


「困惑を通り越して絶望しています!」


思わず机へ突っ伏した。


「これ、本当に一年分ですか?」


「はい」


「しかも家畜だけではありません」


担当官は苦笑しながら続ける。


「肉類、乳製品、皮革、飼料など、関連する輸入品も全て含めています」


「増えた理由が分かりました……」


……今の時代なら、あっちの世界のAIに「三行で要約してください」ってお願いしたい。


心の中でそう叫ぶ。


「……ちなみに、これって王国南部だけですか?」


「いえ、王国全土です」


「……できれば地域ごとに分けて欲しいのですが」


私がそうお願いすると、担当官は申し訳なさそうに頭を下げた。


「申し訳ございません」


「とにかく早く資料をお渡しすることを優先した結果、このような形になってしまいました」


「なるほど……」


確かに、この状況では整理している時間すら惜しかったのだろう。


「分かりました」


私は目の前の書類の山を見つめる。


「では、まずは地域ごとに仕分けするところから始めましょう」


「「「はい!」」」


会議室にいた全員が一斉に動き出した。


……感染源を探す前に、まずは書類の山との戦いになりそう


「夕方までに終わるかな……」


私は遠い目をしながら仕分け作業を開始するのであった。


それから数時間後――


「やっと地域ごとに分け終わりました……」


担当官が椅子へもたれ掛かる。


「まだ終わっていませんよ?」


私は苦笑しながら机へ並んだ資料を見つめた。


「今度は家畜、加工品、飼料、皮革……種類ごとに分類します」


「ま、まだあるんですか……」


会議室のあちこちから小さなどよめきが上がる。


「感染源を探す以上、ここで妥協はできません」


「一つでも見落とせば、原因を特定できなくなる可能性があります」


「……ですよね」


担当官たちは顔を見合わせ、小さく頷いた。


「……ですが夕食の時間も近いですし一度休憩しませんか……?」


一人の担当官がそう言う。


「私は馬車で夕食を取るので皆さんは休んでていいですよ?」


私はそう言うと、今度は品目ごとの仕分け作業を始める。


「では、お言葉に甘えて……」


そういい担当官たちは一度離席した。


「……エレノア様、あっちの世界の魔道具に頼ろうとしているの、バレバレですよ?」


リュシアさんが苦笑を浮かべながら言う。


「書類の分類だけで何日かかるか分からないんですもん……」


私はそう言いながら、空間収納からノートパソコンとハンドスキャナーを取り出した。


「誰もいませんし、効率も悪すぎます」


「ここからは、あっちの世界の技術に頑張ってもらいます!」


「まぁ、いいんじゃないですか?」


リュシアさんは肩をすくめて笑う。


「推理まで任せるわけではないんですよね?」


「異世界の事情をAIが推理できると思います……?」


私はリュシアさんをじっと見つめる。


「できるわけがないですね……」


「ですよね」


私は小さく頷いた。


「これはあくまで書類整理用です」


「大量の資料を地域ごとや品目ごとに分類したり、一覧表を作ったりするのは得意なんですよ」


「でも、その先の『何が感染源なのか』を考えるのは私の仕事です」


「なるほど」


リュシアさんは納得したように笑う。


「便利な事務員が一人増えたようなものですね」


「そんな感じです」


私はノートパソコンを起動し、AIソフトを立ち上げる。


「それじゃあ始めます」


ハンドスキャナーを手に取り、一枚ずつ書類を読み込ませていく。


ピッ。


ピッ。


ピッ。


取り込まれた書類はAIが内容を判別し、品目ごとへ次々と分類していく。


私は画面に表示された分類先へ合わせて、紙の書類もどんどん仕分けしていく。


「あー!! 効率がいいって、やっぱり最高ですねー!!!」


思わず叫んでしまった。


「エレノア様! 声が大きいです!!」


リュシアさんが慌てて注意する。


「はっ……!」


私は慌てて口を押さえる。


「す、すみません……」


「気持ちは分かりますけどね」


リュシアさんは苦笑しながら扉の外へ耳を澄ませる。


「幸い、誰にも聞こえていないようです」


私は胸を撫で下ろし、再びハンドスキャナーを手に取った。


ピッ。


ピッ。


一定のリズムで電子音が会議室へ響く。


書類を読み込ませるたびに、AIが内容を判別し、品目ごとへ次々と分類していく。


私は画面を確認しながら、紙の書類も同じ分類ごとに並べ替えていった。


――気付けば、一時間ほどが経過していた。


「……終わったぁ!」


最後の一枚を読み込み、私は大きく伸びをする。


画面には、品目ごとに綺麗に整理された一覧が表示されていた。


そしてその隣にはーー


綺麗に整理された書類の束がテーブルを埋め尽くしていた。


「やっぱあの世界の魔道具は便利ですね……」


「魔法みたいになんでもできるわけではないですけどね」


私はそう言いながらパソコン達を空間収納に戻す。


「ここからは推理の時間ですね」


本当は推理もAIができるなら、それでいいに越したことはない。


一人でも多くの命を救えるのなら、使える手段は何だって使う。


だが、この世界は前世とは違う。


牛や豚、鶏だけではない。


魔物を家畜化している地域もあれば、魔獣を食用として流通させている地域もある。


一流の冒険者ともなれば、高位魔物を食卓へ並べることすら珍しくない。


そんな世界の事情までAIが知っているはずもない。


仮に解析させたところで、


『判断に必要な情報が不足しています』


あるいは、


『よく分かりませんでした』


そう返ってくるのが関の山だろう。


「だからここから先は、私の仕事です」


私は品目ごとに並べられた書類へ手を伸ばした。


「最初の感染地域が王国南部の港町でしたよね?」


「はい」


私は南部地域の輸入記録へ目を通していく。


家畜。


乳製品。


皮革。


飼料。


どれも特に不自然な点はない。


……だが。


「ん?」


私は一枚の書類で手を止めた。


「どうかされましたか?」


リュシアさんが覗き込む。


私は書類を指差した。


「この動物、聞いたことありますか?」


「……見たことはありませんね」


リュシアさんは首を横に振る。


「輸入元を見る限り、東の国の特産のようですが……」


私は小さく眉をひそめた。


「東の国の特産、ですか……」


もう一度書類へ視線を落とす。


輸入量は決して多くない。


それなのに、この動物だけが何故か王国南部へ優先的に運ばれている。


「……気になりますね」


私は静かに呟いた。


まだ確証はない。


だが、経験が告げている。


こういう『他と少しだけ違う』ものほど、見逃してはいけない。


その時――


コンコン。


「すみません、休憩を――って、えぇっ!?」


戻ってきた担当官が会議室へ入るなり、目を丸くした。


先ほどまで山のように積まれていた書類は、品目ごとに綺麗に並べられている。


机の上には一覧表まで作られていた。


「お、お、お、おわってる……?」


「一時間前まであんな量だったよな……?」


「ど、どうやったんですか!?」


担当官たちが一斉に固まる。


私は何事もなかったかのように書類から顔を上げた。


「あ、おかえりなさい」


「ちょうど終わったところです」


「「「ちょうど終わったところです……?」」」


会議室に、なんとも言えない沈黙が流れた。


リュシアさんはその様子を見て、小さく肩を震わせる。


「皆さん」


「細かいことは気にしたら負けですよ?」


その一言で、担当官たちは揃って頭を抱えた。


「それよりも聞きたいことがあるのですが……」


私は半ば強引に話題を戻した。


「この動物について、ご存じの方はいらっしゃいますか?」


私は気になった書類を皆さんの前へ差し出す。


会議室は静まり返る。


担当官たちは順番に書類へ目を通していくが、誰も首を横に振るばかりだった。


「見たことがありません」


「名前も初めて聞きました」


「東の国の家畜でしょうか……?」


誰も知らない。


そう思った、その時だった。


「……あの」


部屋の隅で資料整理を手伝っていた一人の年配の担当官が、おずおずと手を挙げた。


「知っているのですか?」


私が尋ねると、担当官は少し考え込むように頷いた。


「ええ。一度だけですが、実物を見たことがあります」


その一言で、会議室中の視線が彼へ集中する。


「十数年前、東の国との交易に同行した際のことです」


「現地では食用として飼育されていました」


「具体的にはどんな魔物ですか?」


私が尋ねると、年配の担当官はゆっくりと口を開いた。


「鳥型魔物です」


「大きさは大人の前腕ほどでしょうか」


「体つきは丸みがあり、尾羽は短めです」


「全身は灰白色の羽毛に覆われていますが、翼の先端だけは淡い琥珀色をしています」


「嘴は短く丈夫で、木の実や穀物を砕くのに適した形をしています」


「飛ぶこともできますが、長距離を飛ぶのは苦手です」


「普段は群れで行動し、人にもよく馴れるため、東の国では家禽として広く飼育されています」


「肉は柔らかく脂が少ない。卵も栄養価が高く、祝いの席では欠かせない食材だと聞きました」


「ただ――」


担当官は少し眉をひそめる。


「十数年も前の話なので、うろ覚えなのですが……」


「確か、その鳥は東の国から持ち出すことをあまり良く思われていなかったはずです」


「持ち出すことを?」


私が聞き返す。


「ええ」


「理由までは覚えていませんが、『他国で飼育するのは難しい』と現地の商人が話していた記憶があります」


「環境の問題でしょうか……」


リュシアさんが首を傾げる。


「さぁ……そこまでは」


担当官は申し訳なさそうに首を横に振った。


「当時は雑談程度に聞き流してしまいましたので」


「いえ、それだけでも十分です」


私は小さく頷く。


「少なくとも、この鳥型魔物が東の国では珍しい存在ではなく、何らかの注意点があることだけは分かりました」


「エレノア様、まさか……」


リュシアさんが私を見る。


「まだ分かりません」


私は静かに首を横へ振った。


「ですが、感染が最初に確認されたのは南部の港町です」


「そして、この鳥型魔物も南部へ優先的に輸入されている」


「何よりも、アルファインフルエンザは主に鳥類が媒介するんです」


私は書類を指先で軽く叩く。


「もちろん、この世界の鳥型魔物が同じとは限りません」


「ですが、前世の知識と現在の状況が一致している以上、調べないという選択肢はありません」


会議室にいた全員が静かに頷いた。


「まずは、この鳥型魔物を最優先で調査しましょう」


アルファインフルエンザ収束へ向けた希望の光が、ようやく見え始めていた。


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