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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第三章 水面下の綻び編

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217話 作れない理由、見えなかった答え

ーーユグアッシュ王国・錬金術師ギルド


王立中央病院を後にした私は、錬金術師ギルドへとやってきた。


というのも、私が提供したレシピで薬が作れないらしい。


正直、最初は何かの間違いだと思っていた。


レシピは何度も見直した。


分量も、温度も、攪拌時間も、一つひとつ確認してから渡している。


それでも失敗するというのなら、私が見落としている何かがあるのかもしれない。


「エレノア殿」


工房で待っていたギルド長が、私の姿を見つけると深々と頭を下げた。


「この度はお忙しいところお越しいただき、ありがとうございます」


「お気になさらないでください」


私は軽く頭を下げ返す。


「まずは失敗した薬を見せていただけますか?」


「もちろんです」


ギルド長に案内され、工房の奥へと足を進める。


そこには、調合台いっぱいに並べられた失敗作があった。


黒く変色し物体X化したもの。


途中で凝固してしまったもの。


二層に分離してしまったもの。


一見すると同じ失敗作のように見えるが、その状態は一つひとつ微妙に異なっている。


「全部……今回作られたものですか?」


「はい」


ギルド長は悔しそうに頷いた。


「両ギルドの腕利きが総出で挑みましたが、成功したものは一本もありませんでした」


「そこまで難しい調合手順ではないはずなのですが……」


私が首を傾げると、工房中の錬金術師たちが一斉にこちらを見た。


「「「いや、十分難しいです!!」」」


思わず声が揃う。


「えっ?」


私はきょとんと目を瞬かせた。


「この工程だけでも一流の錬金術師しか再現できません!」


「魔力の流し方も繊細ですし、温度管理も普通のポーションとは比べものになりません!」


「私たちからすれば、十分高難易度ですよ!」


「そ、そうなんですか……?」


私は少しだけ困ったように頬をかいた。


「私にとってはいつも通りだったので……」


「「…………」」


錬金術師ギルド長と薬剤師ギルド長は、揃って固まった。


「今、さらっととんでもないことを言わなかったか?」


「言ったな……」


「これが"いつも通り"だと?」


二人は思わず顔を見合わせる。


「私のお店では、毎日これの二十倍もの量を作っているので……」


一拍。


「自然と身についたのかもしれませんね」


「「…………」」


工房が静まり返る。


「エレノア殿」


錬金術師ギルド長が震える声で口を開いた。


「それを……もっと早く言っていただけませんか?」


「え?」


「毎日それだけの量を調合している方の『普通』と、我々の『普通』は違うのです……」


薬剤師ギルド長も深く頷く。


「ようやく納得しました」


「我々は最初から、規格外の錬金術師を基準に量産を考えていたのですね……」


「これ、人員足りないよな……」


「足りないな」


「エレノア殿一人で、我々何人分なんだ?」


「……考えたくもない」


その言葉に工房内は静寂に包まれる。


「作成手順を知っていて、なおかつ自ら調合できる人材がいなければ、どうやっても無理だな」


私は少し考え込む。


「……なら、エリシアを派遣しますか?」


「エリシア殿を?」


錬金術師ギルド長が聞き返す。


「はい」


私は軽く頷く。


「私ほどではありませんが、この治療薬なら問題なく調合できます」


「……その『私ほどではない』という言葉が、一番信用できないんですが」


工房中から苦笑が漏れた。


「えっ?」


私はきょとんと首を傾げる。


「少なくとも、私が不在の時はアトリエの調合を任せていますし、最高品質のポーションも普通に作れますよ?」


「……普通?」


錬金術師ギルド長は苦笑しながら肩を落とす。


「その『普通』も、エレノア殿基準なのですね……」


「そう……なんでしょうか?」


「……まぁなんにせよ、作れる人が一人いるだけで助かる」


一拍。


「ぜひ力添えをお願いしたい」


「分かりました」


私はリュシアさんへ視線を向ける。


「リュシアさん」


「はい」


「エリシアを呼んできてもらえますか?」


「了解です」


「お願いします」


「すぐ連れてきますね」


そう言ってリュシアさんは、そのまま工房を後にした。


私は再び調合台へ視線を向ける。


「エリシアが来るまで、原因を探しましょう」


「失敗作を全てこちらへ集めてください」


「「「はい!」」」


錬金術師たちは慌ただしく失敗作を運び始める。


私は一本目の薬瓶を手に取り、ゆっくりと鑑定魔法を発動した。


「……まずは、どこで調合が狂ったのかを調べます」


完成品だけでは分からない。


失敗した理由にも、必ず共通点があるはずだ。


私は一本ずつ鑑定しながら、原因を分類していく。


「これは魔力を流す工程が間違っていますね」


そう言って左側へ置く。


「これは魔力の流し込みすぎです」


今度は別の場所へ移動させる。


「これは……論外ですね」


私は黒く変色した物体Xを見つめ、小さくため息をついた。


「素材同士が完全に変質しています」


「ここまでいくと、原因を探す資料にもなりません」


そう言って物体Xを工房の隅へそっと移動させる。


「論外……」


「そこまで酷いのか……」


「はい」


私は静かに頷く。


「これは薬ではなく、ただの失敗作です」


「根本的に間違っていないと物体Xは調合物としてでませんので」


私はそう言うと、次々と失敗作を鑑定しながら種類ごとに並べ替えていく。


「魔力制御の失敗……こちらへ」


「温度管理の失敗……こちらですね」


「攪拌速度のずれ……これも同じ分類です」


失敗作は少しずつ山ごとに分けられていく。


その様子を見ていた錬金術師たちは、思わず息を呑んだ。


「まるで講義だな……」


「いや、それ以前に失敗作だけで原因を分類しているぞ」


私は最後の一本を鑑定し終えると、小さく頷いた。


「やはりです」


「何か分かったのですか?」


ギルド長が身を乗り出す。


「皆さん、失敗している箇所はそれぞれ違います」


「ですが、共通している点が一つだけあります」


工房内の視線が一斉に私へ集まる。


私は調合台の上に置かれたレシピへ目を落とした。


「レシピに書かれていることは、皆さん完璧に再現できています」


「……ですが、それだけでは足りません」


その一言に、工房内の空気が張り詰めた。


「一番の原因は、素材の品質です」


「……素材?」


工房中から困惑の声が上がる。


「普通のポーションを作るときと同じ品質なのですが……」


「……ちなみに、そのポーションってありますか?」


「あります!」


薬剤師の一人が慌てて棚から一本のポーションを取り出し、私へ差し出した。


「こちらです!」


私はポーションを受け取り、調合台の上へ静かに置く。


「では、私が普段作っているものと比較してみましょう」


そう言って私は空間収納を開いた。


何かあった時のために持ち歩いている予備のポーションを取り出し、調合台へ並べていく。


「左から順に、ローポーション、ポーション、ハイポーションです」


三本のポーションは、どれも透き通るような輝きを放ち、工房の照明を受けて静かに煌めいていた。


「見た目からして……違う」


薬剤師の一人が思わず息を呑む。


「同じポーションとは思えません……」


「この工房で作ったポーションは、色も薄いのでローポーションより少し回復する程度の物です」


「見ただけで分かるのですか……?」


薬剤師ギルド長が驚いたように尋ねる。


「はい」


私は静かに頷いた。


「普段から調合していますので、このくらいの品質差であれば見分けられます」


私は工房で作られたポーションと、自分のローポーションを並べる。


「ポーションも薬もそうですが、品質が劣化すれば劣化するほど有効成分は失われていきます」


一拍。


「なので理想は、採取したての素材をその日のうちに使うか、劣化防止の魔道戸棚で保管しているものを使うのが一番です」


「……そういうことか」


薬剤師ギルド長が苦い表情を浮かべる。


「確かに劣化防止の魔道戸棚なら品質は維持できる」


「だが、あれは一台で工房一つ建つほど高価だ」


「うちでも薬草専用に一台あるだけだぞ」


錬金術師ギルド長もため息をつく。


「まさか、セレスティア伯爵のアトリエは……」


「はい」


私は何でもないことのように頷く。


「素材ごとに分けて保管しています」


「「…………」」


工房内が静まり返った。


「素材ごと……だと?」


「アトリエにも屋敷にもかなりの数あります」


誰も言葉を発することができなかった。


「とりあえず調合する前に新鮮な素材を準備するとこからですね」


「だが、流通網がストップしていて仕入れられないのだが……」


錬金術師ギルド長が苦々しい表情で言う。


「それでしたら大丈夫ですよ」


私は空間収納へ手を伸ばす。


次の瞬間。


工房の床へ、アルファインフルエンザ用治療薬の調合素材が次々と積み上がっていく。


「なっ……!」


「まだ出てくるのか!?」


工房の一角があっという間に素材の山になった。


私は収納を閉じ、小さく頷く。


「採れたての物と、劣化防止の魔道戸棚で保管していた物です」


「品質は問題ありません」


「こんなにも……」


薬剤師ギルド長が呆然と呟く。


「アトリエにはまだありますので、お気になさらないでください」


「「「…………」」」


誰も言葉を失った。


「これだけあれば、当面は素材不足で困ることはなさそうだな……」


コンコンッ。


工房の扉が軽くノックされた。


「エレノア様、お連れしました」


リュシアさんが静かに扉を開ける。


その後ろから、小さく頭を下げながらエリシアが姿を現した。


「お、お待たせしました!」


「エリシア、ちょうどいいところに来ました」


私は調合台を指差す。


「この治療薬を作ってみてもらえますか?」


「はい!」


エリシアは迷うことなく素材の前へ立つ。


「えっ……今説明は?」


錬金術師ギルド長が思わず声を漏らす。


「必要ありません」


私は首を横に振る。


「私と一緒に調合していますので」


「「…………」」


工房内が静まり返る中、エリシアは慣れた手つきで薬草を計量し、ビーカーへ投入していく。


魔力を流し込み。


温度を調整し。


攪拌する。


その一連の動作には、一切の無駄がなかった。


やがて——


コトッ。


澄んだ青色の薬液が、静かに薬瓶へ注がれる。


「できました!」


エリシアはにこりと笑って薬瓶を差し出した。


私は受け取ると軽く鑑定する。


「はい。問題ありません」


「最高品質です」


その一言で、工房内は再び静まり返った。


「「「……………………」」」


誰一人として言葉が出ない。


「……本当に一回で成功した」


薬剤師ギルド長が呆然と呟く。


「しかも最高品質だと……」


錬金術師ギルド長も額を押さえた。


「エレノア殿」


「はい?」


「あなたの周りだけ、錬金術の難易度がおかしい」


「そうでしょうか?」


私は首を傾げる。


「アトリエでは普通ですよ?」


「「「それが普通じゃないんです!!」」」


工房中から一斉にツッコミが飛んだ。


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