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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第三章 水面下の綻び編

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閑話 願いを空へ、思い出を胸に

これは、ユグアッシュ王国へ旅立つ少し前のお話――。


「人がいっぱいですね!」


エリシアは辺りをきょろきょろと見まわしている。


「前が見えないんだが……」


ルーカスお兄様は、あまりの人の多さに若干引いている。


今日はリナ、セリナ、リオルを除いた私たちで、仙台七夕まつりへとやって来た。


夏空の下、色とりどりの吹き流しが商店街を埋め尽くし、多くの人々が足を止めて見上げている。


「綺麗……」


リュシアさんは圧巻の光景に思わず足を止めた。


メルは目を輝かせながら、風に揺れる七夕飾りを見つめている。


「すごく綺麗ですー!」


「一年で一番華やかな時期の一つだからね」


ミストルティン様は両手にフランクフルトと焼き鳥を持ったまま、満足そうに頷いた。


「ミストルティン様は、はしゃぎすぎです!!」


思わず私はツッコミを入れた。


「あれ? エレノアも前に屋台で両手いっぱいに食べ物を抱えていたような――」


「人の黒歴史を語らないでください!!!!!」


「ふふっ、エレノア様らしいわね」


アメリアお姉さまがくすくすと笑う。


「まぁまぁ。今日はお祭りなんですから、細かいことは気にしないことですよ」


カイルも微笑みながら周囲を見回した。


その時――。


「わぁぁぁ!」


「見て! すごーい!」


子どもたちの歓声が聞こえ、私たちも思わず足を止める。


頭上には色鮮やかな吹き流しが風に揺れ、さらさらと心地よい音を立てていた。


赤、青、黄、緑、紫――。


何百、何千という七夕飾りが商店街いっぱいに飾られ、まるで色鮮やかな天の川が街へ降りてきたかのようだ。


「エレノア様! 写真撮ろう! 写真!」


エリシアが私の腕を引っ張る。


「はいはい、慌てなくても逃げませんよ」


私はスマートフォンを取り出し、みんなを七夕飾りの前へ並ばせた。


「それじゃあ、撮りますよー!」


『はい、チーズ!』


カシャッ。


笑顔のみんなが一枚の写真に収まった。


その一枚は、みんなで過ごした夏の思い出として、スマートフォンの中に大切に残ることになる。


「次はあれです!」


エリシアが指差した先には、昔ながらの射的屋さんがあった。


棚にはお菓子やぬいぐるみ、小さなフィギュアなどがずらりと並んでいる。


「しゃてき……ですか?」


メルが首を傾げる。


「コルクの弾で景品を落とす遊びだよ」


「なるほど!」


メルは興味津々だ。


「面白そうじゃないか」


ルーカスお兄様も少し興味を示した。


「では、誰が一番多く景品を取れるか勝負といこうか」


ミストルティン様がにやりと笑う。


「えっ!? 神様が本気になるんですか!?」


「もちろん。本気だから面白いの」


「大人げないです!!」


私のツッコミに、みんなが笑い出した。


「それじゃあ、一人五発ですね!」


店主さんがコルク銃を手渡してくれる。


「最初はエリシアからどうぞ!」


「はい!」


エリシアは勢いよく銃を構えた。


「えいっ!」


ポンッ!


コルク玉は景品のはるか手前へ落ちる。


「あれぇ!?」


「エリシア様、惜しいです!」


メルが笑顔で拍手を送る。


「惜しくないと思うんだけど……」


ルーカスお兄様が苦笑した。


そして最後の一発――。


ポンッ!


狙いは外れたものの、下段に並んでいたココアシガレットへ偶然命中し、景品がコトンと棚から落ちた。


「やったー!」


エリシアは両手を上げて大喜びする。


「これ難しくない!?」


「慣れないと難しいですね……」


私は苦笑しながら頷いた。


「次、私ですー!」


そう言ってメルは元気よく射的銃を構える。


「えいっ!」


ポンッ!


コルク玉は景品どころか棚にも当たらず、勢いよく奥の壁へ。


「うぇーん!!」


「メルさん、まだ四発ありますよ」


カイルが優しく励ます。


「そうでした!」


気を取り直して二発目、三発目、四発目。


しかし景品はびくともしない。


「最後ですー!」


祈るような気持ちで放たれた五発目。


コツン。


景品に当たりはしたものの、少し揺れただけだった。


「あとちょっとだったのにー!」


メルは悔しそうに肩を落とす。


「じゃあ次は私ですね」


私は狙いを定め、一発。


コトン。


狙っていた景品が綺麗に棚から落ちた。


「すごいです!」


「エレノア様、お見事です」


その後もカイル、ルーカスお兄様、アメリアお姉さまが順番に挑戦し、それぞれ見事に景品を獲得していく。


「最後は私だな」


ミストルティン様がゆっくりと銃を受け取った。


「ちゃんと加減してくださいね?」


「もちろんよ」


そう言って構えた瞬間――。


景品が、誰も触れていないのにカタカタと揺れ始めた。


「……ミストルティン様?」


「何もしていないわよ?」


にこりと微笑むミストルティン様。


次の瞬間。


ガタンッ!


狙っていた景品だけでなく、その周りに並んでいた景品まで次々と棚から落ちてきた。


「「「…………」」」


「神の加護というものよ」


「チートは禁止です!!!!」


店員さんは苦笑しながら、落ちた景品を一つずつ机の上へ戻していく。


「……次は普通に遊んでくださいね」


「はい……」


珍しく素直に返事をするミストルティン様。


「怒られたじゃないですか!!」


思わず私は額に手を当てた。


「いやぁ、加減が難しくてね」


「全然加減できてません!!」


そのやり取りを見ていた店員さんは、小さく吹き出した。


「仲がいいんですね」


「ええ、まあ……色々と大変なんです」


「さて、次はどこへ行きましょうか」


辺りを見回していると、一軒のくじ引き屋さんの前に見覚えのある二人の姿が見えた。


「あら?」


「あっ、ソフィア様とパルシア様です!」


二人は真剣な表情で景品を見つめている。


「どうしたんですか?」


私が声を掛けると、ソフィア様が静かに振り返った。


「あら、エレノアちゃん」


「実はですね……」


パルシア様が景品棚の一番上を指差す。


そこには、ふわふわとした大きなインコのぬいぐるみが飾られていた。


「とても可愛らしいでしょう?」


「確かに可愛いですね」


「ええ。それで運試しをしているのですが……」


ソフィア様は手元の残念賞のお菓子を見つめる。


「なかなか当たりらなくて」


「もう二十回目です」


パルシア様が少し恥ずかしそうに答えた。


「えっ!? 二十回!?」


私は思わず声を上げた。


「あと少しで当たる気がするのです」


「その気持ち、分かります」


そして数十分後――。


「また残念賞です」


「こちらも残念賞になります」


店員さんは慣れた手つきで景品を渡していく。


テーブルの上には、残念賞のお菓子が山積みになっていた。


「……」


「……」


ソフィア様とパルシア様は無言で景品棚を見つめる。


「ソフィア様……もうやめませんか?」


「ここまで来ると引き返せません」


珍しく真剣な表情だった。


「では、残っている分をすべていただきましょう」


「まさかの大人買い!?」


さらに数十分後――。


「本日のくじは完売となります」


店員さんの一言で静寂が訪れる。


「…………」


「…………」


「結局、特賞は一本も出ませんでしたね」


店員さんは首を傾げながら、空になったくじ箱を確認した。


「……あれ?」


もう一度確認する。


「えっ?」


さらに箱をひっくり返して中を調べ始めた。


「そんな……」


店員さんの顔から血の気が引いていく。


「ど、どうしました?」


「特賞の当たりくじが……ありません」


「「「え?」」」


「最初から入っていなかったみたいです……」


辺りが一瞬静まり返る。


ソフィア様は静かに目を閉じた。


ゆっくりと息を吐き、穏やかな笑みを浮かべる。


「少々、お話をいたしましょうか」


「ひぃっ!?」


店員さんは思わず一歩後ずさった。


「「OHANASIAIだ……」」


私とミストルティン様は同時に小さく呟いた。


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