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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第三章 水面下の綻び編

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212話 裏切りの始まり、緊急指令

ーーセレディア王国・王城


夏の朝。


王都は今日も、いつもと変わらぬ活気に包まれていた。


市民は職場へ向かい、貴族たちは次々と王城へ姿を見せる。


誰もが、この日も普段通りの一日になると信じていた。


「何だと!? クラウゼル男爵がまだ登城していないだと!?」


執務室に怒号が響き渡る。


報告を受けた文官長は勢いよく立ち上がった。


「はい!」


「屋敷へは向かったのか!?」


「既に確認しております! ですが、人の気配すらありません!」


「わかった! 至急、陛下へ報告する!」


文官長は椅子を蹴るように立ち上がると、そのまま執務室を飛び出した。


ただの遅刻であれば、それで済む。


だが、屋敷に人の気配すらないという報告が、胸騒ぎを強くさせていた。


ーー執務室


「失礼いたします!!」


国王執務室の扉が勢いよく開かれる。


「何事だ、朝から騒々しい」


執務中だったセドリック国王は、手を止めることなく静かに問い掛けた。


飛び込んできた文官は息を整える間もなく、深々と頭を下げる。


「ご報告いたします! クラウゼル男爵が、定刻になっても登城しておりません!」


「ただの寝坊ではないのか?」


「屋敷に行った者の報告では人の気配がしないとのことです」


「……何だと?」


その一言で、セドリックの手が止まる。


ゆっくりと顔を上げた金色の瞳には、鋭い光が宿っていた。


「屋敷内には入ったか!?」


「いえ。男爵家の屋敷でございますので、許可なく立ち入ることはできません。外部からの確認のみ行っております」


「余が許可する。直ちに屋敷を捜索せよ」


「はっ!」


「第五騎士団と第六騎士団の出動も命ずる!」


セドリックの命令が下った瞬間、執務室の空気が一変した。


「ははっ!」


文官は一礼すると、慌ただしく執務室を飛び出していく。


その命令は瞬く間に王城中へ伝達された。


「国王陛下の勅命だ!」


「第五騎士団、直ちに出動!」


「第六騎士団も総員招集!」


王城内を伝令が駆け抜ける。


静かだった廊下は慌ただしい足音に包まれ、騎士たちは鎧を身に着けながら次々と中庭へ集結していく。


「目的地はクラウゼル男爵邸!」


「直ちに現地を封鎖! 一人たりとも見逃すな!」


「「はっ!」」


騎士たちは一斉に馬へ跨り、土煙を巻き上げながら王城を飛び出した。


その様子を窓から見つめるセドリックは、小さく目を細める。


「……ただの遅刻で終わればよいのだが」


だが、その胸騒ぎが消えることはなかった。


ーー王都・クラウゼル男爵家屋敷


「国王陛下の勅命である! 門を開けよ!」


第五騎士団長の声が屋敷へ響き渡る。


しかし、返事はない。


門番の姿も見当たらず、屋敷は不気味な静寂に包まれていた。


「……応答なし」


第六騎士団長が周囲を見回し、小さく呟く。


庭園には手入れの跡が残っている。


昨夜までは確かに人が生活していたはずだ。


それなのに、人の気配だけが綺麗に消えていた。


「警告する! 直ちに門を開けよ!」


静寂だけが返ってくる。


第五騎士団長は一度だけ頷いた。


「応答なきため、騎士団の権限により強制突破を実施する!」


「門を破れ!」


「「はっ!」」


数名の騎士が丸太を構え、一斉に門へと突撃する。


轟音と共に門が大きく揺れ、二度、三度と激しい衝撃が響き渡る。


そして――。


バキッ!!


重厚な門が耐え切れず、内側へと倒れ込んだ。


「総員、突入!!」


第五騎士団長の号令と共に、騎士たちが一斉に屋敷へ雪崩れ込む。


「第六騎士団は地下室と使用人棟を捜索!」


「第五騎士団は本館を制圧! 一部隊は庭園を警戒し、逃走者がいれば直ちに確保せよ!」


「「はっ!!」」


騎士たちはそれぞれの持ち場へ散開する。


鎧の音だけが静まり返った屋敷に響き渡る。


「玄関、異常なし!」


「応接間、異常なし!」


「食堂、異常なし!」


次々と報告が飛び交う。


しかし、そのどれもが同じ内容だった。


「……誰もいません!」


一人の騎士が困惑した表情で叫ぶ。


屋敷には争った形跡はない。


家具も調度品も整然と並び、生活感さえ残っている。


それなのに、人だけが跡形もなく姿を消していた。


「団長!」


書斎へ向かった騎士が血相を変えて駆け寄る。


「至急、お越しください!」


第五騎士団長は表情を引き締め、その場へ向かった。


書斎へ入ると室内は書類が床に散乱しておりまるで強盗でも入ったかのような惨状だった。


「……お前たちがやったのか?」


第五騎士団長の問いに対して騎士団は首を横に振る。


「我々が室内に入った時には既にこの状態でした」


「なら、人攫いか?」


第五騎士団長が眉をひそめる。


「それが……」


騎士は言葉を濁し、部屋の奥へ視線を向けた。


その先には、扉が開いたままの金庫があった。


第五騎士団長はゆっくりと歩み寄り、中を確認する。


「……空か」


「はい。しかし、不思議なことがあります」


「何だ?」


「金貨はほとんど手付かずです」


一拍置き、騎士は続ける。


「その代わり、宝飾品や貴金属など、持ち運びやすく換金しやすい品が持ち出されております」


「……現金ではなく、足の付きにくい資産を選んだということか」


「加えて、帳簿や書簡などの書類も見当たりません」


「なるほど……」


第五騎士団長は静かに周囲を見回した。


通常の人攫いや強盗であれば、目に付く金品から奪っていく。


金貨や宝飾品を選り好みする理由はない。


しかし、この屋敷で持ち出されたのは、換金しても足の付きにくい宝飾品と、他人から見れば何の価値もない書類ばかり。


その一方で、金貨や大型の調度品などはほとんど手付かずのまま残されている。


「……違うな」


第五騎士団長は低く呟く。


「これは奪われたのではない」


散乱した書類と開け放たれた金庫へ視線を向ける。


「――本人が、自ら持ち出したんだ」


「となると……」


騎士団員の表情はみるみる青ざめていく。


「直ちに陛下へ報告!! 第一級国外逃亡の可能性あり!」


「直ちに報告します!!!」


「お前たちは国境警備隊へ急報! 各関所を封鎖し、通過記録を確認しろ!」


「はっ!!」


「まだ国外へ出ていない可能性もある。一刻も早く足取りを掴め!」


第五騎士団長のその言葉で、王都は緊迫した一日へと変わっていくのだった。


ーー王城・第一会議室


第五騎士団と第六騎士団による家宅捜索を終え、王城では緊急会議が開かれていた。


第一会議室には、国王セドリックを筆頭に、宰相セヴラン、近衛騎士団長、第五騎士団長、第六騎士団長、財務大臣、外務大臣ら王国中枢の面々が集結している。


重苦しい沈黙が室内を支配していた。


「……第五騎士団長、報告せよ」


セドリックの低い声が響く。


「はっ」


第五騎士団長は一歩前へ進み、敬礼した。


「クラウゼル男爵邸の捜索を実施しましたが、屋敷内に男爵を含め、一人の人影も確認できませんでした」


「争った形跡は?」


「ありません。血痕もなく、遺体も発見されておりません」


会議室の空気がさらに重くなる。


「続けろ」


「金庫は開け放たれ、帳簿、書簡などの重要書類が持ち出されていました。また、換金しても足の付きにくい宝飾品や貴金属もなくなっております」


「金貨はどうだ」


財務大臣が口を挟む。


「ほとんど手付かずでした」


「……何?」


その一言に、会議室がざわつく。


「強盗であれば金貨を優先するはずです。しかし今回持ち出された物には明確な選別が見られます」


第五騎士団長は一呼吸置き、全員を見回した。


「以上の状況から、我々は第一級国外逃亡の可能性が極めて高いと判断いたしました」


その報告に、誰も言葉を発しなかった。


国家機密を知る貴族が、自ら機密書類と資金を携え姿を消した――その意味を、この場にいる誰もが理解していた


「持ち出された書類の特定は?」


「残念ながら出来ておりません」


「となるとクラウゼル男爵が知り得る機密情報は全て持っていかれたと判断しても良さそうだな……」


セドリックは静かに呟く。


「国境の通過記録は?」


セヴランが問い掛ける。


「現時点で、不審な馬車が帝国側国境で二件、ユグアッシュ王国側で十三件確認されております」


「……既に国境を越えた可能性があるということか」


会議室の空気が一段と重くなる。


「はい。現在、各関所に照会を掛けておりますが、クラウゼル男爵本人と断定できる情報はまだありません」


「だが、この状況で偶然とは考えられん」


セドリックは静かに立ち上がった。


「第一級国外逃亡として正式に受理する」


その一言に、会議室にいた全員の表情が引き締まる。


「帝国及びユグアッシュ王国へ緊急照会を送れ。該当する馬車を一台残らず追跡する」


「はっ!」


セドリックは一瞬だけ目を閉じる。


そして、何かを思い出したように顔を上げた。


「……待て」


会議室の視線が一斉に国王へ集まる。


「特にユグアッシュ王国方面を最優先で調査せよ」


一拍。


「あやつはエレノア嬢に異常な執着を見せていた」


セドリックの表情が険しくなる。


「万が一にも、エレノア嬢を狙っているのであれば看過できん」


「直ちにユグアッシュ王国へ急報を送れ! クラウゼル男爵の特徴、護衛の人数、馬車の特徴、判明している情報は全て伝達しろ!」


「はっ!!」


その時――。


「陛下!! この度は申し訳ございません!!!」


第一会議室の扉が勢いよく開かれ、一人の男が駆け込んでくる。


男はセドリックの前まで進むと、その場で深く膝をついた。


影の諜報機関統括官であった。


「……顔を上げよ」


静かな声が響く。


「今回の件は、あまりにも用意周到だ」


一拍。


「ましてやエレノア嬢がユグアッシュ王国へ調査に向かうタイミングを狙ってのことだ」


セドリックは統括官を真っ直ぐ見据える。


「恐らく数か月……いや、それ以上前から計画されていたのだろう」


「……」


「そのような相手を事前に見抜けと言う方が酷だ」


統括官は目を見開いた。


「よって、この件についてお前たちに非はない」


「陛下……」


「責めるべきは、王国を裏切り、民と国家を危険に晒したクラウゼル男爵ただ一人だ」


セドリックの声には、静かな怒りが滲んでいた。


「影はこれまで通り任務を続行せよ。奴を必ず見つけ出すのだ」


「――はっ!! この命に代えましても!!」


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