閑話 新たな住まい、地球でのお買い物
「うーん……これもいいなー……」
予想以上にマヨネーズの在庫が減るのが早く、今日は一人で仕入れに来ていた。
ついでに農具も見ているのだが――
「種類が多すぎる……」
思わずそう呟いてしまう。
ホームセンターの園芸コーナーには、鍬やスコップだけでも何種類も並んでいる。
柄の長さが違うもの。
先端の形が違うもの。
軽量タイプや女性向けと書かれたものまである。
「ここまであると選べないかも……」
それもそのはず――
ここは地下鉄の終点からバスで約20分の場所にある、とても大きなホームセンターだ。
家具屋さん。
100円ショップ。
スーパー。
何でも揃っている。
「……苗も見ようと思ってたけど、時間足りないかも」
そう呟きながら、私はスーパーの方へ歩き出した。
「まずはマヨネーズですね」
スーパーへ入ると、最初に目へ飛び込んできたのは入口近くに並ぶ野菜だった。
「……地元産?」
思わず足を止める。
「〇〇さんが育てたレタス」
「朝採れきゅうり」
「宮城県産トマト」
生産者さんの名前まで書かれた札が並んでいる。
「こういう売り方もあるんだ……」
私は一枚一枚の札を見比べる。
「どこで採れたかまで分かるんですね」
アトリエでも薬草を扱っている。
だからこそ、生産者が分かるという安心感はよく理解できた。
「これは参考になるかも」
そう思いながら、一番みずみずしそうなレタスを買い物かごへ入れる。
そのまま隣の売り場へ目を向ける。
そこには、自家製の梅干しや手作りのお菓子、ジャムなどが並んでいた。
「こういうのも置いてるんだ……」
思わず足を止める。
一つ一つの商品には、生産者さんの名前や簡単な紹介が書かれている。
「手作り味噌」
「手作りこんにゃく」
「季節限定の梅ジャム」
「……見てるだけでも楽しい」
思わず一つ一つ手に取りながら眺めていく。
「これなら、お土産としても喜ばれそう」
そう言いながら私はクッキーも買い物かごへ入れ、レジへ向かう。
「ありがとうございます。1,350円になります」
店員さんは手際よく商品をスキャンしていく。
「お願いします」
私は財布からお金を取り出し、代金を支払う。
「ありがとうございました」
会計を終えると、商品が丁寧に袋へ詰められていく。
「こういうところも参考になりますね……」
商品を1つ1つ素早く、それでいて丁寧に扱う様子を見ながら、小さく呟く。
アトリエでもお店を運営しているからこそ、こうした接客や商品の扱い方は自然と目に入ってしまう。
「……袋詰めまで早いですね」
思わず感心しながら商品を受け取り、私はスーパーを後にした。
「じゃあ、改めて農具を見ようかな」
そう呟きながら歩き出した――その時だった。
「このインコかわいい!!」
「どうしたの、ハムちゃん?」
元気な親子らしき声が聞こえてくる。
気付けば私は、その声に引き寄せられるようにペットコーナーへ足を向けていた。
「……少しだけなら」
その考えは甘かった。
「このインコちゃんかわいい!!!!!!」
気付けば私は、目の前にいたモモイロインコへ釘付けになっていた。
「こんにちは!」
「こんにちはー」
元気よく返事をしてくれる。
「すごい……おしゃべりできるんだ」
思わず目を輝かせながら見つめる。
モモイロインコは首を傾げると、もう一度元気よく口を開いた。
「こんにちはー!」
「ふふっ、かわいいですね」
前世の私だったら、本気で飼うか悩んでいたと思う。
今は屋敷も農場もある。
飼おうと思えば、環境を整えること自体は難しくないかもしれない。
でも――
「命を預かる以上、中途半端な気持ちでは迎えられませんね……」
そう小さく呟きながら、もう一度モモイロインコを見る。
「こんにちはー!」
「ふふっ、本当にかわいいですね」
その後は農具や園芸用品を見て回っていたのだが、気が付けばバスの時間が迫っていた。
「あっ、もうこんな時間!?」
私は慌てて荷物を抱え、そのままバス停へ向かって走り出す。
結局――
地球側の拠点へ帰ってきたのは、夕方6時少し前だった。
「ただいまー」
「エレノア、おかえりー!!」
玄関を開けると、ミストルティン様が満面の笑みで出迎えてくれる。
「今日はいっぱい買えた?」
「はい! 予定より少し寄り道しちゃいましたけど……」
「あはは、なんとなく予想はついてるわ」
「え?」
「ペットコーナーでしょう?」
「……なんで分かったんですか?」
「エレノアだもの」
ミストルティン様は楽しそうに笑った。
「鳥を見つけたら、真っ直ぐ向かうくらいは予想できるわよ」
どうやらミストルティン様には、お見通しだったらしい。
「そんなエレノアに、いいものがあるわ!」
そう言うと、ミストルティン様は私の手をぐいっと引っ張る。
「ミストルティン様!?」
連れてこられた先には、大きな布が掛けられた鳥かごらしきものが置かれていた。
……嫌な予感がする
「ほら、開けてみて!」
恐る恐る布を持ち上げると――
「こんにちは!」
「なんでモモイロインコがいるんですかー!!!!!」
思わず叫ぶと、モモイロインコはびくりと肩を震わせ――
「こんにちはー!」
元気よく挨拶した。
「違います!」
私は思わずツッコミを入れる。
「そこじゃありません!」
「こんにちはー!」
「だからそこじゃないです!」
「ふふっ」
その様子を見て、ミストルティン様は楽しそうに笑う。
「いやー、予想以上に可愛かったから、ついね」
「勢いで迎えるような子じゃありません!
「えー?」
ミストルティン様は不思議そうに首を傾げる。
「だって、エレノア欲しそうに見てたじゃない」
「それは……」
確かに、かわいいとは思った。
思ったけど――
「だからって連れて帰ってくる人います!?」
「神様ならいるわよ?」
「そこを堂々と言わないでください!」
「こんにちはー!」
「あなたもそこで返事しなくていいんです!」
モモイロインコは嬉しそうに羽をぱたぱたさせている。
「ほら、もう懐いてる」
「まだ挨拶しかしてませんよ!?」
「細かいことは気にしない気にしない」
「気にしてください!」
そのやり取りを見ていたルーカスお兄様が苦笑する。
「まぁ……エレノアが一番嬉しそうだけどな」
「えっ?」
言われて初めて気付く。
私はいつの間にか、鳥かごの前へしゃがみ込み、モモイロインコと目線を合わせていた。
「こんにちはー!」
「……こんにちは」
反射的に返事をすると、
「ほら」
ミストルティン様が得意げに笑う。
「もう飼い主みたいじゃない」
「うぅ……」
言い返せない。
モモイロインコは嬉しそうに首を傾げる。
「こんにちはー!」
「……」
私はそっと鳥かごへ手を伸ばした。
すると、
モモイロインコは嬉しそうに私の指へ頬を擦り寄せる。
「かわいい……」
思わず本音が漏れた。
「決まりね!」
「まだ何も言ってません!!」




