表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第三章 水面下の綻び編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
222/251

198話 実りの準備、農地完成①

ーー王都・セレスティア伯爵家屋敷


休めたのか、休めていないのか。


自分でもよく分からない休日を過ごした翌日。


「「今日も本来ならご不在の予定だったので、休んでいてください!!」」


そう言われたものの、どうやら私は一日休むと調子が狂ってしまうらしい。


「とりあえず、完成した農地を見に行こうかな……」


私がぽつりと呟くと、隣を歩くリュシアさんはじっと私を見つめた。


「……エレノア様って、休むの下手ですよね」


「下手ではないですよ?」


私は首を横に振る。


一拍。


「休むことに慣れていないだけです」


「それを世間一般では『休むのが下手』と言うんです」


「……」


あまりにも正論すぎる。


ぐうの音も出なかった。


「でも、今日はお仕事というより確認ですから」


私は小さく付け加える。


「完成した農地を見るだけですよ?」


「その『見るだけ』で済んだ試しがありません」


即答だった。


「『ここをこうした方がいいですね』」


「『あれも追加しましょう』」


「『ついでに新しい設備も作りましょう』」


リュシアさんは私の口調を真似しながら指を折って数えていく。


「最終的には一日仕事になります」


「うぅ……」


否定できない。


「……そんなにですか?」


「そんなにです」


再び即答。


「だから今日は、“視察だけ”ですよ?」


「努力します……」


「善処ではなく、実行してください」


「はい……」


私は苦笑しながら頷いた。


もっとも今日は実際に植え付けを行ったり何か作業をするわけではない。


ただ本当に完成した農地を視察するだけだ。


何もなければの話だがーー


「……なんか怪しいですが」


一拍。


「とりあえず行きましょうか」


そう言って実験棟の方向へと行く。


「馬車で行かないんですか?」


農場予定地は、王都南門から馬車で10分ほどの場所にある。


そのため、私は屋敷の門へと向かうものだと思っていた。


しかしーー


リュシアさんは門のある方向とは真逆の実験棟の方へ歩いていく。


「実験棟に何か用事があるんですか?」


私は首を傾げながら尋ねた。


「いえ」


リュシアさんは小さく微笑む。


「転移門を使います」


「アトリエ経由で行くんですか?」


確かに、アトリエを経由すれば大幅な時間短縮になる。


よく考えれば理にかなっている。


だが――


「アトリエは経由しませんよ?」


その言葉に、私は思わず目をぱちくりさせた。


「はい……?」


ますます意味が分からない。


「私も報告を受けて初めて知ったのですが……」


リュシアさんは少し苦笑しながら続ける。


「エレノア様が『夢巡る回廊』へ向かわれている間に、転移門の改修工事が行われたそうです」


「改修工事ですか?」


「はい」


リュシアさんは頷く。


「これまでは屋敷とアトリエを結ぶだけでしたが、新たに農場まで直接接続できるようになりました」


「えっ……!」


思わず声が漏れる。


「それと……」


「??」


私は首を傾げる。


「同時にアトリエの方でも追加工事を行うことが決まりまして」


「追加工事ですか?」


私は思わず聞き返した。


アトリエは完成してから、まだそれほど時間は経っていない。


設備も必要十分以上に整っているし、修繕が必要な箇所も見当たらない。


「何か作るんですか……?」


「私も詳しい概要までは聞いていないのですが」


一拍置き、リュシアさんは続ける。


「お弁当やサンドイッチセットの流行を踏まえて、『店舗を分けた方がいいのではないか』という陛下のご意見があったそうです」


「なるほど……」


確かに、最近のアトリエは混雑が激しい。


ポーションを買いに来た人と、パンやお弁当を買いに来た人が同じ列へ並ぶことも珍しくなくなっていた。


「特に昼前後は、お弁当を求めるお客様で入口付近まで行列ができますからね」


リュシアさんは苦笑する。


「その影響で、ポーションを購入されるお客様まで待たせてしまうことが増えているそうです」


「言われてみれば……」


以前、メルも『レジが足りないですー!』と泣きそうになっていた。


あの混雑ぶりを考えれば、販売場所を分けるというのは自然な発想なのかもしれない。


「陛下としても、王都の名所になりつつある以上、利用しやすい環境を整えたいというお考えのようですよ」


「そこまで考えてくださっていたんですね」


私は少し驚きながら頷いた。


「それと、ついでに食堂でも開いたらどうだというお話も出たそうです」


「はい……?」


一瞬、思考が止まる。


……今、何て言ったんだろう。


「もう一回お願いします」


「陛下としても――」


「その後です」


「ついでに食堂でも開いたらどうだ、と」


「……」


私は数回まばたきを繰り返した。


「誰が言ったんですか……?」


「陛下です」


「陛下が!?」


思わず大きな声が出てしまう。


「はい」


リュシアさんは苦笑しながら頷いた。


「『どうせ昼時にはあれだけ人が集まるのだ。いっそのこと腰を据えて食事のできる場所もあった方がいいのではないか』とのことです」


「どうせって……」


思わず苦笑する。


確かに、最近はパンやお弁当を求める人だけでも大行列だ。


そこへポーションを買いに来る人や、アトリエを見学に来る人まで加わる。


昼前後ともなれば、小さなお祭りのような賑わいになっている。


「しかも、食堂ならメル様の料理ももっと提供できますからね」


「確かに……」


お弁当だけでは出せない料理も作れるようになる。


焼きたてをその場で提供できるし、スープや煮込み料理のような持ち帰りに向かない料理も出せる。


「……あれ?」


ふと違和感を覚えた。


「それって、メルの仕事、また増えませんか?」


「増えますね」


リュシアさんは即答した。


「メル泣きますよ?」


「ええ」


一拍。


「恐らく泣きます」


「ですよね……」


私はまだ何も決まっていないメルの未来を想像し、小さく手を合わせた。


(……頑張れ、メル)


まだ本人は、この話を知らないのだから。


ーー王都郊外・農地


転移門を抜けると白を基調とした石造りの小屋だった。


「ここは警備用の小屋でして、主に夜間の詰め所として機能します」


リュシアさんの説明に耳を傾ける。


「よく短期間で作りましたね……」


「王命案件らしいですよ?」


「この農場が!?」


思わず聞き返してしまう。


「はい」


リュシアさんは当然のように頷いた。


「食料の安定供給は、国そのものを支える基盤ですから」


一拍。


「しかも、王都では初の試みとなるお米の栽培も含まれますし……」


そう言ってリュシアさんは苦笑する。


「どうせ、エレノア様のことですから、そのうち季節を問わず収穫できる魔道具くらい作るだろう。だから最初から思い切り派手に作れ、と……」


「……作りませんよ!?」


私は思わず声を上げる。


以前、屋敷をもっと快適にできないかと思い、空調用の魔道具を試作したことがある。


その結果――


屋敷どころか、貴族街から王城周辺に至るまで広範囲の気温が変化するという、とんでもない事件を引き起こしてしまった。


通称――


**『エアコン事件』**である。


あの一件以来、私は大規模な魔道具を開発する際には、以前とは比べ物にならないほど慎重に術式を組むようになった。


何度も検証を重ね、影響範囲を細かく確認しながら改良を続けた結果、ようやく現在の空調用魔道具が完成したのだ。


「ですから、もうあんな無茶なことはしません」


私はきっぱりと言い切る。


「……本当ですか?」


「本当です」


「本当に?」


「本当ですって」


すると、リュシアさんは「あっ」というような表情を浮かべた。


「そういえば、陛下から伝言も預かっていました」


「伝言ですか?」


「はい」


一拍。


「『王都全体を快適な温度にする魔道具はまだか?』とのことです」


「なんでですか!?」


思わず全力でツッコんでしまった。


「しかもエアコン事件のあとですよね!?」


「はい」


「反省した私の気持ちは!?」


「陛下曰く――」


さらに一拍。


「『あんな高性能な魔道具を失敗作と呼ぶには惜しい』とのことです」


「失敗作は失敗作ですからね?」


私は即座に言い返す。


「でも、理論上はいけるんですよね?」


「いけますけども……」


「じゃあいいじゃないですか」


「なんでリュシアさんまで外堀を埋めるんですか!?」


思わず抗議する。


「私はもう少し平和に研究したいんです!」


「無理でしょうね」


「即答!?」


「エレノア様ですから」


「それ理由になってませんよ!?」


「なっています」


リュシアさんは迷いなく頷いた。


「点耳薬を作れば王国中へ広まり、ポーションを作れば王命になり、空調用魔道具を作れば貴族街ごと快適にしてしまうんです」


一拍。


「そんな方が『平和に研究したい』と言っても、誰も信じません」


「うぅ……」


何も言い返せない。


「それに陛下も、『どうせそのうち思いつきで作る』とおっしゃっていましたし」


「思いつきで王都全体の空調なんて作りません!」


そう強く否定した、その時だった。


「……あ」


ふと、一つの術式が頭をよぎる。


風属性魔法と温度制御術式を広域結界へ応用すれば――。


「エレノア様?」


リュシアさんがじっと私の顔を覗き込む。


「まさかとは思いますが……」


「い、いえ!」


私は慌てて首を横に振る。


「今、一瞬だけ考えましたよね?」


「……」


「考えましたね」


「…………少しだけです」


「やっぱりじゃないですか!!」


リュシアさんの叫びが、小屋の中へ響き渡る。


「エレノア様だけは、本当に油断できませんね……」


隊員たちも苦笑を浮かべる。


私は少しだけ頬をかきながら、小屋の出口へ視線を向けた。


この扉の向こうには、完成した農場が広がっている。


「……行きましょう」


私はゆっくりと扉へ手を掛けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ