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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第三章 水面下の綻び編

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197話 休日の一日、思わぬ昼食

『夢巡る回廊』に関する報告を終え、私たちは屋敷へと戻った。


負傷者の治療や亡くなられた方々への対応は、王城と冒険者ギルドへ引き継がれている。


「なんだか、とても濃い調査でしたね……」


私はぽつりと呟く。


「あれは本当に調査だったんですかね……?」


リュシアさんは苦笑しながら肩を落とした。


私も思わず苦笑する。


「途中から完全に救助活動でしたし……」


「その後はベヒーモスとの戦闘でしたからね」


「そう考えると、調査らしいことは最初くらいしかしていない気がします」


「夢見の花や毒キノコを見つけたあたりまでですね」


「ですね……」


私とリュシアさんは顔を見合わせ、小さく笑う。


結局、予定していた中層の調査はほとんどできなかった。


それでも――


得られたものは決して少なくない。


エングラムの異常。


ベヒーモスの出現。


そして、大地の精霊王が動くほどの事態になっているという事実。


「……調査というより、大事件でしたね」


「間違いないです」


二人揃ってため息をついた。


ーー屋敷・居間


本来であれば今頃帰り支度を準備している頃だろう。


だが、緊急事態に転移で帰ることとなり思いがけない休息日を過ごすことになった。


「「エレノア様は働きすぎなので、今日は一日ゆっくりしていてください!!」」


こうもはっきり言われると、反論する気も失せてしまう。


「……そんなに働いてましたか?」


恐る恐る尋ねる。


「「働いてます」」


間髪入れずに返ってきた。


「うぅ……」


私はソファへ腰を下ろし、小さく肩を落とす。


「エレノア様は少し目を離すと、すぐ研究を始めますからね」


リュシアさんは呆れたように苦笑する。


「それに、帰ってきたばかりだというのに『農地を見に行こう』なんて言い出しそうですし」


「……」


図星だった。


思わず視線を逸らす。


「やっぱり考えてたんですね」


「だって、完成したって聞いてましたし……」


「今日は駄目です」


「即答ですか!?」


「即答です」


リュシアさんは微笑みながらも、一歩も譲る気はないようだった。


「休みって何をすればいいんでしたっけ……?」


「そこからですか!?」


リュシアさんは思わず額へ手を当てた。


「普通は好きなことをしたり、のんびり過ごしたりするんですよ」


「好きなことですか?」


私は少し考え込む。


「錬金術の研究とか……」


「駄目です」


「新しいポーションの開発とか……」


「駄目です」


「農地の様子を見に行くとか……」


「それも駄目です」


三連続で却下されてしまった。


「うぅ……」


思わず肩を落とす。


「全部仕事じゃないですか」


リュシアさんは呆れたようにため息をついた。


「エレノア様は、まず仕事から頭を離してください」


「難しいですね……」


私は苦笑するしかなかった。


「えぇ……」


リュシアさんは苦笑を浮かべる。


「なら、N◯Eでもやればいいんじゃないですか……?」


「夜のルーティンなので……」


「別に今からでもいいじゃないですか!?」


「みんなでやった方が楽しいですし……」


「ゲームまで予定に組み込まれてるんですか……」


リュシアさんは呆れたようにため息をつく。


「じゃあ、本でも読みます?」


「魔導書でもいいですか?」


「ダメです」


「お昼寝とかもありますよ?」


「お昼寝する習慣があまりないです」


「なら市場にでも行きます?」


「……護衛が大量についてきてもいいなら」


私は恐る恐る答えた。


「別に構いませんよ?」


「え?」


予想外の返事に思わず聞き返す。


「エレノア様を屋敷へ閉じ込めておく方が難しいですから」


リュシアさんは苦笑する。


「それなら、護衛を付けて市場を散策していただいた方が、まだ安心できます」


「本当ですか?」


「ただし」


一拍。


「研究は禁止です」


「うっ……」


「素材を見つけても立ち止まらないこと」


「うぅ……」


「面白そうなお店を見つけても、勝手に入らないこと」


「それは市場に行く意味が……」


「ちゃんと案内します」


リュシアさんはきっぱりと言い切る。


「護衛の目が届く範囲で、ゆっくり見て回りましょう」


「……分かりました」


私は渋々頷いた。


「それなら、久しぶりに市場を見て回りましょうか」


「決まりですね」


リュシアさんはどこか安堵したように微笑む。


「では、護衛の手配をしてきます」


そう言って部屋を後にした。


一人残された私は、小さく息をつく。


「……市場、楽しみですね?」


自分で言っておきながら、なぜか疑問形になってしまう。


調合素材や魔道具用の素材探し以外で市場を訪れることなど、ほとんどなかったからだ。


思い返してみれば、市場へ行く時はいつも目的が決まっていた。


「この薬草は品質がいいですね」


「この鉱石なら魔道具に使えそうです」


そんな会話をしながら必要な素材だけを買い、用事が済めばそのまま屋敷へ戻る。


ゆっくりと店を見て回ることも、食べ歩きをすることもほとんどない。


「……市場って、皆さん何を楽しんでいるんでしょう?」


ふと、そんな疑問が浮かぶ。


美味しそうな屋台。


珍しい雑貨。


旅の商人が持ち込んだ各地の特産品。


そういうものを見て歩くだけでも楽しいと、以前メルが話していた気がする。


「たまには、そういう過ごし方もいいのかもしれませんね」


私は小さく微笑んだ。


――もっとも。


途中で珍しい調合素材でも見つけてしまえば、その時点で"お休み"ではなくなってしまう気もするのだけれど。


そう考えると、思わず苦笑が漏れた。


ちょうどその時、廊下の向こうからリュシアさんの声が聞こえてくる。


「エレノア様、準備ができました!」


「はーい!」


私は返事をすると、少しだけ胸を躍らせながら部屋を後にした。


今日は珍しく、"研究のため"ではなく、ただ市場を歩くための外出。


そんな一日も、悪くないのかもしれない。


ーー王都・市場


ゆっくり市場を見て回るのもいいのではないか。


そんな隊員の提案もあり、今回は馬車ではなく徒歩で向かうことになった。


護衛も、なるべく目立たないよう必要最小限の人数だけが配置されている。


もっとも――


「……それでも多い気がするんですけど」


私の前後には騎士団の隊員が数名。


さらに少し離れた場所にも、護衛を兼ねた隊員たちがさりげなく周囲を警戒している。


「これで必要最小限ですよ」


隣を歩くリュシアさんは、何でもないことのように答えた。


「そうなんですか?」


「はい」


即答だった。


「本当なら、この三倍は付けたいくらいです」


「増えてませんか?」


私は思わず立ち止まる。


「前回、エレノア様は一人で災害級のベヒーモスを足止めしましたからね」


リュシアさんは苦笑を浮かべる。


「護衛する側としては、何が起きてもすぐ対応できる体制くらいは整えておきたいんです」


「そういうものなんですね……」


私は少し複雑な気持ちになりながら、市場の賑わいへ目を向けた。


パンの焼ける香ばしい匂い。


露店から聞こえる威勢のいい呼び込み。


買い物を楽しむ人々の笑い声。


いつもは必要な物だけ買って足早に通り過ぎる市場も、こうしてゆっくり歩いてみると、どこか新鮮に感じられた。


「とりあえず、時間も時間ですしお昼を食べましょう」


「そうですね」


まずは、昼食を食べようとお店を探す。


付近には香ばしい匂いを漂わせた屋台グルメから大衆食堂みたいなとても雰囲気のいいレストランーー


明らかに敷居が高そうな高級レストランまで様々ある。


「エレノア様って、何かおすすめのお店はありますか?」


リュシアさんが辺りを見回しながら尋ねる。


「外で食べることがほとんどないので、分からないです……」


私は苦笑しながら首を横に振った。


思い返してみれば、外食した経験自体があまり多くない。


フィリアさんたちと訪れた王都でも指折りの高級レストラン。


冒険者たちに人気だという、料理の量が尋常ではない大衆食堂。


そして、バレンシア滞在中に立ち寄った海鮮料理店。


数えてみても、それくらいだった。


「ですよね……」


リュシアさんは苦笑する。


「……絶対、知ってて聞きましたよね?」


私はじっとリュシアさんを見つめる。


「ね、念のための確認ですよ」


視線が泳いでいる。


「本当に?」


「ほ、本当です」


「……」


「……」


「ごめんなさい。知ってました」


「やっぱり」


私は盛大なため息をつく。


「エレノア様の場合、研究か仕事ばかりですからね……」


リュシアさんは申し訳なさそうに苦笑した。


「たまには、こうして気分転換をするのも大切ですよ」


「気分転換ですか……」


そう言われても、いまいち実感が湧かない。


市場へ来るのも、私の中では「必要な物を買いに来る場所」という認識しかなかったからだ。


「今日は素材探しは禁止ですからね?」


「……善処します」


「善処じゃ駄目です」


即座に返されてしまう。


「とりあえず、何を食べましょう」


私は話を切り替えるように尋ねた。


「何にしましょうね?」


リュシアさんは市場を見回す。


一拍。


「お肉が食べたい、とかありますか?」


「うーん……」


私は少し考え込む。


「なんか野菜を多めに食べたいですね」


「ちょっと確認しますね」


そう言うと、近くにいたミィナさんへ何やら耳打ちする。


「……??」


私は首を傾げる。


話はほんの数十秒で終わり、今度は別の隊員へ何かを伝えると、その隊員は軽く頷き、人混みの中へ走っていった。


「何かあったんですか?」


気になって尋ねると、


「いえ、大したことではありません」


リュシアさんは苦笑を浮かべる。


「エレノア様をお連れする以上、お店選びも慎重にしないといけませんから」


「別に、そこら辺の食堂でもいいですよ……?」


「いえ……そういうわけにもいかないので」


リュシアさんは苦笑しながら首を横に振る。


「エレノア様がその辺のお店へふらっと入られると、お客様も店員さんも大騒ぎになってしまいますから」


「そんなにですか……?」


「はい」


一拍。


「想像してみてください」


そう言われ、私はその光景を頭の中で思い浮かべた。


『おい! セレスティア伯爵だぞ!?』


『エレノア様に近づくな!!』


『エレノア様だー!!』


『店長! 席を空けろ!!』


『今日の営業は一旦中止だ!』


「……」


どう考えても、ゆっくり食事ができる雰囲気ではなかった。


「……確かに、迷惑ですね」


私は素直に頷いた。


「ご理解いただけて何よりです」


リュシアさんはほっと胸を撫で下ろす。


「じゃあ、どこへ行くんですか?」


「隊員がお店へ確認に行っていますので、もう少しお待ちください」


「確認って、そんなに時間が掛かるものなんですか?」


「エレノア様がお食事をされる以上、貸切の可否や警備体制なども確認しなければいけませんから」


「そんな大げさな……」


思わず苦笑する。


「私、一人ですよ?」


「今のエレノア様は、一人だからこそ目立つんです」


「うぅ……」


少しだけ有名になった実感が湧いてきた。


そんな話をしていると、先ほど走っていった隊員が戻ってくる。


「リュシア様、手配が完了しました!」


「ありがとうございます」


リュシアさんは頷くと、私の方を向いた。


「では行きましょう」


「はい」


私は何気なく後を付いて歩く。


市場の大通りを抜け、人通りの多い場所を離れる。


「あれ?」


さらに歩く。


「リュシアさん?」


「はい?」


「市場から離れてません?」


「気のせいですよ」


「絶対気のせいじゃないですよね?」


それでも一行は歩き続ける。


やがて目の前に現れたのは、白を基調とした荘厳な石造りの建物だった。


大きな噴水。


丁寧に手入れされた庭園。


正装した従業員が入口へ整列している。


どう見ても――


「……高級レストランですよね?」


「高級レストランですね」


リュシアさんはあっさり認めた。


「市場でお昼ご飯じゃなかったんですか?」


「市場で食べる予定でした」


一拍。


「ですが、どのお店も混雑していて、安全を確保しながらゆっくりお食事できる場所がありませんでした」


「それでこちらへ?」


「はい」


私は建物を見上げる。


豪華な外観から見ても、かなり格式の高い店なのは間違いない。


「ここ、有名なお店なんですか?」


「有名どころの話ではありませんよ……」


リュシアさんは苦笑した。


「王都でも五本の指に入る、名店中の名店です」


「そうなんですか?」


「通常であれば、予約は一年待ちですね」


「……はい?」


思わず聞き返した。


「一年、ですか?」


「ええ」


あまりにもさらりと言われたため、逆に実感が湧かない。


「では、どうして今日入れるんですか?」


「それは……」


リュシアさんは少し言いづらそうに視線を逸らす。


「セレスティア伯爵家からの正式な利用依頼でしたので、急な来店に備えて確保されている特別個室をご用意いただけたそうです」


「そんな部屋まであるんですか……?」


「王族や高位貴族が急遽来店されることもありますからね」


「なるほど……」


そういう世界もあるらしい。


私が驚いていると、店の支配人らしき男性が深々と頭を下げた。


「セレスティア伯爵様、本日はご来店いただき、誠にありがとうございます」


「こちらこそ、急なお願いをしてしまってすみません」


私が頭を下げると、支配人は慌てたように首を横へ振った。


「とんでもございません」


一拍。


「セレスティア伯爵様にご来店いただけることは、当店にとりましても大変名誉なことでございます」


「そういうものなんですか……?」


「はい」


支配人はにこやかに微笑む。


「それに、エレノア様がお作りになったポーションには、当店の従業員も何度となく助けられております」


一拍。


「少しでも恩返しができるのであれば、これ以上の喜びはございません」


「……ありがとうございます」


私は少し照れくさくなりながら、もう一度頭を下げた。


「それでは、本日は特別ランチビュッフェをご用意しております」


「ビュッフェ?」


「はい。当店の料理を少しずつお楽しみいただけるよう、さまざまな品をご用意いたしました」


案内された部屋には、色鮮やかな料理が所狭しと並べられていた。


香草を添えた肉料理。


新鮮な野菜をふんだんに使った料理。


魚介料理や焼きたてのパン。


さらには、見たことのない美しいデザートまで用意されている。


「……市場で、お昼ご飯を食べる予定だったんですけど」


私は思わず呟いた。


「ええ。その予定でした」


リュシアさんも料理を眺めながら頷く。


「それが、どうしてこうなったんでしょうね……?」


「私にも分かりません……」


市場をのんびり散策し、適当な食堂で野菜の多い昼食を取る。


それだけの予定だったはずなのに――


気が付けば私は、通常なら予約が一年先になる格式高いレストランで、特別なランチビュッフェを楽しむことになっていた。


どうやら私にとって、普通の休日を過ごすことは思っていた以上に難しいらしい。


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