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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第三章 水面下の綻び編

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閑話 夢見る神様、新たな拠点


「なんでこうなったんだろう......」


私の目の前には不動産屋さんがあり、今まさにミストルティン様が入ろうとしている。


ことの発端は一時間前に遡る。


ミストルティン様が従量課金という名のタクシーで行く案を出した時のこと――


「今財布に2000万くらいあるしそんな2000円くらい端金よ!」


「だったらこっち側の拠点の家買ったほうが良くないですか……?」


「エレノアナイスアイディア!!」


……あの一言が、すべての始まりだった。


私としては、


「タクシーを使うくらいなら、家を買った方が有意義じゃないですか?」


程度の軽い冗談だった。


本当にそれだけだった。


……なのに。


どうやらミストルティン様は、それを本気で捉えてしまったらしい。


そして今に至る。


「ミストルティン様......?」


「なーにー?」


「目的それてません......?」


「どこからどう見ても不動産屋さんですよね......?」


私とリュシアさんが静かに言う。


「ここも目的地よ!」


「絶対さっき追加した目的地ですよね!?」


「細かいことは気にしない!」


「気にしてください!!!!」


「ほら入るよ!!」


「だから人の話聞いてください!!!!!!!!」


そうして私の抵抗も虚しく――


私たちは不動産屋さんの中へと吸い込まれていく。


「いらっしゃいませ!」


店員さんが笑顔で出迎えてくれる。


「本日はお部屋探しでしょうか? それともご購入のご相談でしょうか?」


「家を買いたいんだけどいいかしら?」


「もちろんです。では、こちらへどうぞ」


店員さんに案内され、私たちは店内奥の打ち合わせスペースへ移動する。


そしてミストルティン様は何の迷いもなく椅子に腰掛けた。


「では、まずご希望の条件をお聞かせください」


「築10年以内で、庭付き、駅チカで2000万円以内」


「……」


店員さんの笑顔が一瞬だけ固まった。


「何か問題でも?」


ミストルティン様が首を傾げる。


「いえ、お客様のご希望でしたらお探しいたします」


営業スマイルは崩さない。


さすがプロである。


「ただ、その条件ですと……」


一拍。


「ご予算をもう少し上げていただけると、ご紹介できる物件が増えるかと思います」


「その条件だとないのかしら?」


「あることにはあります」


一拍。


「ただ、作並駅周辺など市街地から離れたエリアになりますね」


「作並って仙山線沿線の作並であってるかしら?」


「はい」


店員さんが頷く。


「なら予算は気にしないからいい物件ないかしら?」


「変わるんですか!?」


私は思わず叫ぶ。


「駅チカが無理なら予算を上げればいいだけでしょ?」


「そういう問題なんですか!?」


「お客様でしたら、駅から近い物件もご紹介できます」


店員さんは営業スマイルを崩さない。


「ありがとうございます!」


「話が進んでるんですが!?」


店員さんはパソコンへ条件を入力すると、カタカタとキーボードを打ち始めた。


数分後――


「予算を気にしないとのことでしたので、おすすめの物件をいくつかご用意いたしました」


そう言って四枚の資料を机の上へ並べる。


「どれどれ?」


ミストルティン様は物件情報を一枚一枚見ていく。


「将監に、泉パークタウンに、富沢に、愛子ねー」


一拍。


「どれもパッとしないわ」


その言葉に、流石の店員さんも営業スマイルが崩れる。


「戸建てなら鉄板のエリアですよ!?」


私は思わず店員さんをフォローする。


「そうですね」


一拍。


「こちらのエリアは、とても人気のある住宅地でして――」


「そんなの分かってるわ」


一拍。


「ただ家が狭いのよ!」


「......」


店員さんの営業スマイルが完全に消えた。


「えーと......」


珍しく言葉に詰まる。


「ご、ご希望の広さはどのくらいでしょうか......?」


「最低でも5LDKね」


「……はい?」


店員さんの手が止まる。


「5LDKをご希望ですか?」


「そうよ」


「かしこまりました」


一拍。


「ただ、築10年以内で駅から近い物件ですと、4LDKが中心になりますので、5LDKですと物件数がかなり限られます」


「だから予算を気にしないのよ」


「か......かしこまりました」


店員さんは一瞬だけ言葉を失った。


「可能な限り条件に近い物件をお探しいたします」


「それなら土地を買って建てた方がよくないですか......?」


私は思わずそう口にした。


「それも考えたんだけどね......」


一拍。


「同じ広さなら、買った方が結果的に安いのよ」


「......値段気にしないんじゃないんですか?」


「さーて、何かいい物件ないかしら?」


ミストルティン様は何事もなかったかのように資料へ視線を落とす。


「......誤魔化しましたね?」


「一応、三件ほど条件に近い物件が見つかりました」


そう言って店員さんが物件資料をテーブルの上へ並べる。


「ただ、築10年以内という条件ですと該当する物件はございませんでした」


一拍。


「こちらは築15年から20年ほどになりますが、ご希望の広さや立地に近い物件です」


さらに一拍。


「価格は最低でも6,000万円からとなります」


「どれどれ?」


ミストルティン様が身を乗り出した。


「荒井に、八乙女に、大野田ね......」


一拍。


「今度は悪くないわね」


「基準が急に変わりましたね......」


私は思わず呟く。


「だってかなり広いんだもの」


そう言ってミストルティン様は三枚の物件資料を私へ手渡す。


「......本気で言ってます?」


恐る恐る価格欄へ目を向ける。


確かに最低価格でも6000万円を超えている。


だが、その中の一枚だけ――


ミストルティン様が今にも「これにするわ!」と言い出しそうなほど熱い視線を送っている物件があった。


価格。


1億円。


「1億ですよ!?」


「長町エリアで7LDK、しかも広い庭付きなら妥当だと思うわよ?」


「妥当なんですか!?」


そのやり取りに店員さんは目をぱちぱちさせている。


「そちらをご検討されるんですか......?」


「一応確認だけど、これ中古よね?」


「いえ、新古住宅ですね」


店員さんが資料へ目を落とす。


「完成後に一度も入居されていない未入居物件になります」


「買った!!!!」


「早!?」


私は思わず立ち上がる。


「ありがとうございます」


店員さんは一瞬驚いた表情を見せたものの、すぐに営業スマイルへ戻った。


「正式なお申し込みやご契約の前に、一度ご内覧されることをおすすめしております」


「不要よ」


「......はい?」


「あと今払うわ」


そう言って、おもむろに空間収納から札束を取り出し、机の上へ次々と積み上げていく。


「2000万しかなかったんじゃないんですか!?」


「私の空間収納で神域からお金を取り出しただけよ?」


「......」


店員さんの思考が止まった。


「お客様......」


一拍。


「申し訳ございません」


さらに一拍。


「現金で1億円のお支払いは、さすがに想定しておりません......」


「あら? じゃあカードの方がいい?」


「......少々お待ちください」


店員さんは静かに席を立つ。


「店長を呼んできます」


そう言って店員さんは大急ぎで奥へと向かっていく。


「店員さん困っちゃったじゃないですか!?」


「1億って結構な金額よね!?」


私とアメリアお姉様のツッコミが綺麗に重なった。


「だっていい物件なんだもの」


「「そういう問題じゃありません!!!」」


また綺麗に重なった。


「......お客様、お待たせいたしました」


先程の店員さんと入れ替わるように、店長さんがあまりにも完璧すぎる営業スマイルで席に着く。


「新生活を始めるにあたり、ローンのご利用もおすすめしておりますが――」


「一括で買うわ」


「......」


店長さんの営業スマイルが、一瞬だけ止まった。


「承知いたしました」


一拍。


「こちらは弊社が売主の物件ですので、このまま購入手続きを進めさせていただきます」


さらに一拍。


「こちらの現金は一度お預かりしてもよろしいでしょうか?」


「いいわよ」


「ありがとうございます」


店長さんが軽く会釈する。


「現金確認をお願いいたします」


「かしこまりました」


店長さんの一声で、店員さんたちが慌ただしく動き始めた。


次々と札束を運び始める店員さんたち。


「……」


「……」


「……」


「こんな光景、一生見ることないですよね……」


私は思わず呟いた。


「いい経験になったわね!」


「こんな経験したくないです!!」


「人生、経験よ!」


「経験にも限度があります!!!!」


そして数十分後――


「お待たせいたしました」


店長さんが書類を手に戻ってくる。


「必要なお手続きが完了いたしました」


一拍。


「こちらが鍵になります」


そう言って、テーブルの上へ真新しい鍵をそっと置いた。


「これで地球側の拠点の完成ね!」


ミストルティン様は満足そうに鍵を受け取る。


「そういえば」


一拍。


「いい機会だから、エレノアの空間収納とも繋げておいたわ」


「......はい?」


会話が止まった。


「え?」


「え?」


「え?」


「どういうことですか?」


「そのままの意味よ」


ミストルティン様がさらりと言う。


「これからは空間収納を開けば、この家にも直接出入りできるわ」


「そんなことできるんですか!?」


「神様だから」


「便利ですね神様!!!!」


「これで荷物を運ぶのも楽になるわね」


「そっちが本命だったんですか!?」


こうして――


私たちはサンドイッチの研究をするために地球へ来たはずが、いつの間にか私の空間収納は"収納魔法"から"異世界と地球を繋ぐ玄関"へと進化してしまったのだった。


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