187話 需要の行方、サンドイッチの可能性⑦
ーー地球・名取駅前
電車を降り、改札を抜けた私たちは、駅の近くにある大型ディスカウントスーパーへとやって来た。
「ここはかなり大きいわね」
アメリアお姉様が思わず呟く。
「昨日行ったイ◯ンモールほどではありませんけどね……」
私は苦笑しながら答えた。
「それでも十分大きいですけどね……」
リュシアさんも店を見上げる。
「ここは文字通り何でも売っていますから、あながち間違いではないですけどね……」
「何でも?」
ルーカスお兄様が聞き返す。
「食料品から日用品に薬まで売ってますよ」
一拍。
「何なら家電も売っていますね」
「本当に何でも売っているな……」
ルーカスお兄様が感心する。
「これだけ揃うなら近くの人は便利だわね」
アメリアお姉様も店内を見渡した。
「実際便利だと思いますよ」
私は頷く。
一拍。
「夜は少し雰囲気が変わりますけどね」
その言葉にアメリアお姉様は眉をひそめる。
「どういうこと?」
「ここ、二十四時間営業なんです」
私は店内を見回す。
「深夜でも買い物できるのは便利なんですけど、その時間帯は酔っぱらった人や騒がしい人を見かけることもありますね」
「なるほど……」
アメリアお姉様が納得したように頷く。
すると――
「私も深夜のド◯キとかはあまり行きたくないわね」
ミストルティン様も苦笑した。
「昼間と夜で雰囲気が全然違うもの」
「それは分かります」
私は素直に頷いた。
メルが不思議そうに首を傾げる。
すると――
「王都の飲み屋街や宿が集まる地区と同じですね」
リュシアさんが静かに答えた。
「昼間は普通でも、夜になると酔った人や騒がしい人が増えますから」
「なるほど!」
メルも納得したように頷く。
「そんな感じです」
私も苦笑した。
「危険というほどではありませんけどね」
そんな話をしていると――
「嘘!?!?!?!」
ミストルティン様が突然叫んだ。
「どうしたんですか!?!?!?」
全員が一斉に振り返る。
ミストルティン様の視線の先へ目を向けると――
「……ない」
思わず私も呟いた。
お目当てだった激安たまごサンドが、ものの見事に棚から消えていた。
「売り切れ……?」
メルがぽつりと呟く。
「そんな……」
ミストルティン様が膝から崩れ落ちる。
「私のたまごサンドが……」
「あなたのじゃありません」
即答だった。
「こんな早くに売り切れるものだったかしら……」
ミストルティン様がそう言いながらスマホの時計を見る。
「12時15分……」
静かに呟く。
「つまり……?」
アメリアお姉さまが静かに聞く。
「売り切れの可能性が高いわね……」
店内はすごく賑やかなのに私たちの周りだけ静寂に包まれる。
私は念のためスマホで近隣店舗を検索した。
「一応、この近くだと錦ヶ丘と利府、それから塩釜にもありますけど……」
スマホの画面を見せる。
「どれも微妙に遠いじゃない!!!!!」
悲痛な叫びが店内に響いた。
「そんなに遠いんですか……?」
リュシアさんが私のスマホを覗き込む。
「……結構遠いですね……」
「そのようですね……」
カイルも静かに頷く。
「そもそもここまでしてここのサンドイッチを求めたいものなのか……?」
ルーカスお兄様が首を傾げる。
「地獄の果てまで追いかけるわよ!!」
「神様が言うと怖いんだが……」
ルーカスお兄様が少し引いた。
「ここのサンドイッチ、コンビニよりも安くて結構量が多いんです」
私は静かに補足する。
一拍。
「正直、私が求める形に一番近いと言っても過言ではないんですよね……」
「味だけじゃなくて価格も参考になるんです」
「なるほど……」
カイルが納得したように頷く。
「商品そのものではなく、売り方も研究しているわけですね」
「そういうことです」
私は頷いた。
「なら遠くてもその錦ヶ丘とかいう店に行ったらいいんじゃないか?」
ルーカスお兄様が静かに言う。
「駅から最低でも三十分は歩きますよ?」
私は即答した。
一拍。
「しかも後半はずっと上り坂です」
会話が止まった。
「……」
「……」
「……」
「なら却下で」
ルーカスお兄様も即答だった。
「判断が早いですね」
「坂は嫌いだ」
「分かります」
私も頷いた。
「従量課金すれば問題解決よ!」
「従量課金……って何ですか?」
私は嫌な予感を覚えつつ、ミストルティン様に聞く。
「決まってるじゃない!」
一拍。
「タクシーよ!」
「却下で!!!!」
私は即座に否定した。
「なんでよ!?」
「往復でサンドイッチより交通費の方が高くなります!」
「……」
「……」
「本末転倒では?」
カイルが静かに呟く。
「そういうことです」
私は大きく頷いた。
「今財布に2000万くらいあるしそんな2000円くらい端金よ!」
「だったらこっち側の拠点の家買ったほうが良くないですか……?」
反射的に口から出てしまった。
「エレノアナイスアイディア!!!」
「しまった」
思わず口を押さえる。
「余計なこと言いました……」
「じゃあ後で不動産屋寄るわね!!」
「まずはサンドイッチです!!!!!」
私は強めに言い切る。
「……分かったわ」
ミストルティン様は素直に頷いた。
一拍。
「でも不動産屋には行くから」
「話聞いてました!?」
思わず叫んでしまう。
すると――
「いらっしゃいませー!」
バックヤードへと続く扉から店員さんが姿を現した。
「あ! そこのお兄さん!!」
ミストルティン様が店員さんを指差す。
「だから話を聞いてください!!!!!!」
また私の叫びがスルーされた。
「たまごサンドってもうないのかしら?」
「確認してきますね」
店員さんはそう言うと、バックヤードへと戻っていった。
「あるといいですね……」
リュシアさんが小さく呟く。
「あります!」
ミストルティン様が即答する。
「まだ希望は捨ててないんですね……」
私は苦笑した。
数十秒後――
店員さんが戻ってくる。
「今ちょうど作っておりまして、お一つでしたらご用意できますが……」
「本当ですか!?」
ミストルティン様が勢いよく身を乗り出す。
「お願いします!!」
「かしこまりました」
店員さんは再びバックヤードへ戻っていく。
「……」
「……」
「……」
「神様、一つしかありませんよ?」
私は静かに呟く。
「分かってるわ」
ミストルティン様も真剣な表情で頷く。
一拍。
「半分こしましょう」
「え?」
思わず聞き返す。
「研究なんだから、みんなで味見した方がいいでしょ?」
「……」
「……」
「珍しくまともだ」
ルーカスお兄様がぽつりと呟いた。
「『珍しく』は余計よ!」
その後、店員さんからサンドイッチを受け取り、お会計を済ませて一度店外へ出る。
「確かに値段の割に具の量と厚みがすごいですね......」
私は断面を眺めながら呟く。
「今までのサンドイッチとまるで違うな......」
ルーカスお兄様も感心したように頷く。
ミストルティン様の手には、これでもかと言わんばかりに卵が詰まったサンドイッチ。
「これでこの値段なんですか?」
リュシアさんが驚いたように聞く。
「そうなんですよ」
私は頷く。
「正直、この価格でこのボリュームはかなり頑張ってると思います」
そう説明すると、メルが一口食べる。
「これマヨネーズの味が濃くてすごくおいしい!!」
魔法で猫耳や尻尾は見えないが、ぶんぶん振っている気配だけはものすごく感じる。
「どれどれ......」
ルーカスお兄様もメルに続くように一口。
「これでこの値段は安すぎないか!?」
「安いから安かろう悪かろうと思われがちなんだけど、結構おいしいのよね」
ミストルティン様も食べながら言う。
「しかも卵もちゃんと端まで入っていますね」
私は断面を見ながら呟く。
一拍。
「見た目の満足感もかなり考えられてます」
「見た目も重要なのか?」
ルーカスお兄様が聞く。
「重要ですよ」
私は頷く。
「最初に目で『おいしそう』と思ってもらえないと、手に取ってもらえませんから」
「なるほど......」
カイルが納得したように頷いた。
「エレノア様がこのサンドイッチを目指す理由がよく分かりますね......」
リュシアさんが感心したように言う。
「これなら売れますね!!!!」
「そうですよね!」
私も力強く頷く。
「なら材料を買って帰りましょう!」
「不動産屋も忘れないでね!!」
「「「行きません!!!」」」
ト〇イアルの店内に、私たちのツッコミが響き渡るのだった。
ーー地球・仙台一番町
ト〇イアルを後にした私たちは、JRと地下鉄を乗り継ぎ勾当台公園駅にやってきた。
途中ミストルティン様が強引に寄り道をしたせいで、辺りはもう日が沈み、オレンジ色と夜特有の濃い青色が混ざった空になっていた。
道行く人たちが仕事終わりの一杯を求めアーケードを練り歩く姿が目立つ。
「今回最後の目的地はここですね!」
私の視線の先には緑色の看板に「業〇スーパー」と書かれたお店があった。
「一般のお客様歓迎って......本当なんですか?」
リュシアさんが眉をひそめる。
「私の前世でのお母さんも業務スーパーはよく来てたので大丈夫ですよ」
そう言いエスカレーターを下り店内へと入る。
「こんな狭い空間に人がいっぱい!!!!!!」
店内には、お店の仕入れと思われる大量の商品をカートに積む人と、夕飯の買い物をする一般のお客さんが入り混じっていた。
「野菜とかハムとかはあっちでも買えるのでここでないと買えない物だけ買いますね」
そう言い一目散に調味料のコーナーへと向かう。
「どのくらいあればいいですかね?」
ミストルティン様に相談する。
「別にいくらあってもいいと思うけど」
一拍。
「強いて言うならこっちに来る頻度は一か月に一回くらいがいいと思うから......」
さらに一拍。
「結構多いほうがいいんじゃない?」
「ですよね」
そう言い、カートにマヨネーズを箱ごと乗せる。
「ちょ......エレノア!?」
その光景にアメリアお姉様が若干引いた。
「いくらこっちの世界の物は日持ちすると言っても、それは買いすぎよ!」
「大丈夫です」
私は即答する。
「アトリエでサンドイッチを販売するなら、これくらいあっという間になくなりますから」
会話が止まった。
「......」
「......」
「......」
「確かに」
ルーカスお兄様が静かに頷いた。
「あとは......」
そう言って、目の前に積まれていた中農ソースも箱ごとカートへ入れる。
「「「「......」」」」
アメリアお姉様たちは、もはや驚くことすら放棄していた。
「エレノア様! 折角だし、あっちだと高いスパイスも買いませんか!」
メルが目を輝かせる。
「メルナイス!」
私は勢いよく親指を立てた。
「じゃあマスタードと黒コショウに、あとは......」
「まだ買うの!?」
アメリアお姉様が思わずツッコむ。
「揚げ油も多めにあっていいかもしれませんね」
私は指折り数え始める。
「ケチャップに、マヨネーズ、中濃ソース......」
一拍。
「サンドイッチ以外にも揚げ物を出すなら、どうせ全部使いますし」
「本気でお店一軒分買うつもりなのね......」
アメリアお姉様が遠い目をした。
そうして必要な物をどんどんカゴへ入れた結果――
「10万2980円になります!」
「「「「......」」」」
会話が止まった。
「......10万?」
ルーカスお兄様が聞き返す。
「10万です」
店員さんが笑顔で答えた。
「......」
「......」
「......」
「買いすぎでは?」
カイルが静かに呟く。
「業務用なので」
私は即答した。
「支払いはこれでお願い」
ミストルティン様がクレジットカードを店員さんへ手渡す。
「現金ではないのか?」
ルーカスお兄様が不思議そうに尋ねる。
「後払いですね」
私は簡潔に答える。
「先に商品を受け取って、後からまとめて支払う仕組みです」
「そんなことができるのか......」
カイルが感心したように呟いた。
「便利な世界ね」
アメリアお姉様も頷く。
「じゃあ必要な物も買ったし戻って試作するわよ!!」
そう言いながらミストルティン様が空間収納へ大量の商品を放り込む。
「......」
「......」
「......」
「そういえば誰も驚かなくなりましたね」
私はぽつりと呟く。
「毎回見てるからな」
ルーカスお兄様が即答した。
一拍。
「店員さんは驚いてましたけどね」
「「「あっ」」」
明日から2日間閑話会です。




