184話 需要の行方、サンドイッチの可能性④
「うぷっ......」
とある神様の暴走により、二十人前ものサンドイッチやハンバーガーにシロノワールを何とか気合で食べきることができた。
だが――
待っていたのは勝利ではない。
イ〇ンモールのベンチで、全員がぐったりと座り込むというあまりお行儀の良くない光景だった。
「......」
「......」
「......」
誰も喋らない。
喋る元気がない。
「調査......」
ルーカスお兄様が掠れた声を出す。
「どうしました?」
「調査ってこんな命懸けだったか......?」
「私も初めて知りました」
即答だった。
「もう夕飯いらない......」
アメリアお姉様が遠い目をする。
「俺もです......」
カイルも同意した。
「明日の朝まで何も食べなくていい気がします......」
リュシアさんも完全に沈んでいる。
すると――
「でも収穫はあったわね」
ミストルティン様だけが妙に満足そうだった。
「元凶が言う台詞じゃありません」
即答だった。
「だってサンドイッチが売れるって証明されたじゃない」
「それはそうですね......」
誰も否定できなかった。
実際問題。
コンビニ。
専門店。
そして大量に並ぶ様々な種類。
少なくとも――
『罪人の食事』
などという扱いを受けるような食べ物ではないことだけは十分理解できた。
「ほら! 次行くわよ!」
ミストルティン様は相変わらず笑顔で手をパンと叩く。
「行くって......どこへ......?」
私が静かに聞く。
「イ〇ンのサンドイッチを見に行くに決まっているじゃない!」
会話が止まった。
「......」
「......」
「......」
全員の動きが止まる。
「今からですか?」
カイルが確認する。
「今からよ」
「食後ですよ?」
「食後ね」
「満腹ですよ?」
「満腹ね」
「......」
「......」
会話になっていなかった。
「待ってください」
私は手を挙げる。
「どうしたの?」
「私達今何人前食べました?」
「二十人前くらいかしら?」
「そうですね」
一拍。
「その状態でさらにサンドイッチを見るんですか?」
「見るだけよ?」
「絶対見るだけで終わらないですよね?」
即答だった。
メルはベンチにもたれかかりながら力なく呟く。
「ニューチキの食べすぎかなー......」
「絶対それだけじゃないでしょう」
私は即答した。
「ニューチキ」
「サンドイッチ」
「ハンバーガー」
「シロノワール」
一拍。
「心当たりが多すぎます」
「......あれ?」
メルが指を折りながら数え始める。
「もしかして食べ過ぎた?」
「今気付いたの!?」
全員のツッコミが綺麗に重なった。
「いやでもニューチキは別腹だし......」
「その理論で食べた結果が今ですよ」
カイルが冷静に指摘する。
「うぅ......」
メルがぐったりする。
「動きたくない......」
「安心しろ」
ルーカスお兄様が真顔で頷く。
「私もだ」
「私もです......」
リュシアさんも静かに手を挙げた。
「お腹いっぱいで眠くなってきました......」
「奇遇ね」
アメリアお姉様も苦笑する。
「私もよ」
そして――
全員の視線が一人へ集まる。
「?」
ミストルティン様だけが元気だった。
「なんでそんなに平気なんですか......?」
私が聞く。
「神様だから?」
「便利ですね神様......」
「便利よ」
一拍。
「だからほら、行くわよ!」
「「「「「お願いだから休ませて!!!!!!!」」」」」
物の見事にミストルティン様以外の声が重なる。
「えぇ......」
ミストルティン様が露骨に不満そうな顔をした。
「えぇじゃありません」
私は即答した。
「普通は食後に休憩するんですよ」
「今休憩してるじゃない」
「強制的にダウンしているだけです」
即答だった。
「確かに......」
アメリアお姉様がベンチにもたれかかる。
「久しぶりに食べ過ぎたかもしれないわね......」
「かもしれないじゃないですよ......」
カイルが遠い目をする。
「二十人前ですからね......」
「二十人前......」
ルーカスお兄様が呟く。
一拍。
「改めて聞くとおかしいな」
「今更ですか?」
全員のツッコミが重なった。
すると――
「私はもう動けない......」
メルがベンチの上で完全に溶けていた。
「ニューチキの食べ過ぎかなー......」
「絶対それだけじゃないでしょう」
私は即答する。
「でもニューチキは別腹だもん......」
「別腹の結果が今です」
「うぅ......」
反論できなかった。
そんな中――
「仕方ないわね」
珍しくミストルティン様が折れた。
「本当ですか?」
私は思わず聞き返す。
「今日はここまでにしてどこかに泊まりに行きましょう」
会話が止まった。
「......」
「......」
「......え?」
最初に反応したのはルーカスお兄様だった。
「帰らないのか?」
「帰らないわよ?」
ミストルティン様が当然のように答える。
「だって明日も調査あるもの」
「まだあるのか......」
ルーカスお兄様が遠い目をした。
「サンドイッチだけじゃないわよ?」
ミストルティン様は指を折る。
「お弁当」
「惣菜」
「パン」
「飲み物」
「お菓子」
「待ってください」
私は手を挙げる。
「何かしら?」
「それ全部見る気ですか?」
「もちろん」
即答だった。
「......」
「......」
「......」
誰も言葉が出なかった。
すると――
「泊まるってことは野宿ですか?」
リュシアさんが尋ねる。
「最悪そうなるわね」
会話が止まった。
「......」
「......」
「......最悪?」
私が聞き返す。
「だって今から宿探すんだもの」
ミストルティン様が当然のように言う。
「予約とかしてないし」
「計画性なさすぎません!?」
思わず叫んでしまった。
「大丈夫よ」
「その言葉を今日だけで何回聞いたと思ってるんですか」
即答だった。
「今から宿に行って部屋取れますかね……」
リュシアさんが少し不安そうな表情を浮かべる。
すると――
「最悪誰でも無料で泊まれる宿があるから!!!」
ミストルティン様が胸を張る。
私はその言葉に非常に嫌な予感がした。
「それって……」
「駅のベンチ!!!!」
「ホームレスじゃないんですよ!?」
私のツッコミが綺麗に炸裂する。
「大丈夫よ」
「何がですか」
「屋根あるし」
「そういう問題じゃありません」
私は即答する。
「せめてネットカフェとかありますよね!?」
「だってエレノア達この世界の身分証ないじゃない」
会話が止まった。
「……」
「……」
「……あっ」
私も止まった。
確かに。
無い。
運転免許証も。
マイナンバーカードも。
保険証も。
学生証も。
何一つ持っていない。
「……」
「……」
「……」
「詰みでは?」
カイルが静かに呟く。
「詰みですね」
私は静かに頷いた。
「この世界、身分証ないと泊まれないのか?」
ルーカスお兄様が聞く。
「場所によりますけど」
一拍。
「かなり怪しまれますね」
「なるほど」
「なるほどじゃありません」
私は頭を抱える。
「そもそも私達戸籍すらありませんよ!?」
「確かに」
ミストルティン様が頷く。
「存在しない人間ね」
「笑い事じゃありません!!!!」
即答だった。
すると――
「待ってください」
リュシアさんが手を挙げる。
「なんでしょう?」
「つまり私達は」
一拍。
「この世界では不法入国者なんですか?」
会話が止まった。
「……」
「……」
「……理論上はそうなりますね」
私が答える。
「怖っ!?」
メルが飛び起きた。
さっきまで死にかけていたのに。
「大丈夫よ」
ミストルティン様が胸を張る。
「私が許可してるから」
「誰の許可なんですか」
「神様の許可」
「管轄違いです!!!!」
今日一番のツッコミだった。
「じゃあどうするんですか……」
アメリアお姉様が呆れたように聞く。
すると――
ミストルティン様はニヤリと笑った。
「安心しなさい」
「その台詞もう聞き飽きました」
「ちゃんと考えてあるわ」
一拍。
「エレノアの実家に泊まればいいじゃない」
「……」
「……」
「……」
今度は私が固まる番だった。
「いやちょっと待ってください!?!?!?!?」
私は大慌てで即答する。
「最終手段としてはありですね」
カイルが冷静に言う。
「なしです!!!!」
即答だった。
「なんでよ?」
ミストルティン様が首を傾げる。
「なんでじゃありません!」
私は立ち上がる。
「大体にして私はもうこの世界の住人じゃないんですよ!?」
一拍。
「容姿も違うですし普通に不審者案件です!!!」
「確かに」
カイルが頷いた。
「知らない少女が突然訪ねてきて」
一拍。
「私はあなたの娘の生まれ変わりです」
「アウトです」
即答だった。
「ですよね!?」
ようやく理解者が現れた。
「しかも」
私は続ける。
「お父さんとお母さんから見たら私はただの知らない女の子なんですよ!?」
「まぁそうね」
アメリアお姉様も頷く。
「私でも信じないと思うわ」
「ですよね!?」
「むしろ通報するかもしれない」
「やめてください!?」
想像したくない。
すると――
「キャンプに行った時にT◯E・MALLに行ったわよね?」
その言葉に嫌な予感がする。
「その時エレノアの元お母さんがいたわよね?」
「そうですね」
私は頷く。
「気づいていたわよ?」
「……」
会話が止まった。
「……はい?」
私の思考が追いつかない。
「つまりどう言うことですか?」
ミストルティン様は少しだけ困ったように笑う。
「そのままの意味よ」
「意味が分かりません」
即答だった。
「大体にして今十三歳ですよね」
「そうね」
「髪の色も違います」
「違うわね」
「顔も違います」
「違うわね」
「じゃあ何をどうやったら気付くんですか!?」
私は思わず立ち上がる。
すると――
「因みにたまに様子を見に行ったりしているし大丈夫よ?」
会話が止まった。
「......」
「......」
「......はい?」
私の思考が完全に停止する。
「今なんて言いました?」
「だから」
ミストルティン様は当然のように言う。
「たまに様子を見に行ってるって」
「待ってください」
私は手を前に出す。
「待ってください」
「何かしら?」
「様子を見に行っているってどういうことですか!?」
「いやー何回か自殺しようとしていたからね」
会話が止まった。
「......」
「......」
「......はい?」
今なんて言った。
「キャンプに行ったとき以降、近況報告も兼ねてたまに様子を見に行ってたのよ」
「......」
「それってありなんですか!?」
私は思わず叫んだ。
「神様だし」
「そういう問題ですか!?」
即答だった。
「というか」
私は身を乗り出す。
「何回かって何ですか!?」
「何回かは何回かよ」
「回数を聞いてるんです!!!」
するとミストルティン様は少しだけ視線を逸らした。
「完全に把握しているわけじゃないけど......」
一拍。
「三回はしているわね」
会話が止まった。
「......」
「......」
「......」
誰も何も言えなかった。
さっきまでの騒がしさが嘘みたいに消える。
「三回......」
私は小さく呟く。
正直。
想像していなかった。
いや――
想像しないようにしていた。
私が死んだ後のことを。
「でも」
ミストルティン様が続ける。
「今は落ち着いているわ」
「......」
「普通に起きて家事をして生活しているわね」
私は何も言えなかった。
ただ。
胸の奥に引っかかっていた何かが少しだけ軽くなった気がした。
そして――
「だから実家に泊まるのはありだと思うのよね!」
「七人も泊められるほど広くありません!!!!」
私は即答した。
会話が止まる。
「......」
「......」
「......そうなの?」
ミストルティン様が首を傾げる。
「そうなんです!」
私は力強く頷く。
「持ち家ですけど私と兄の部屋と両親の部屋しかありません!!!!」
会話が止まった。
「......」
「......」
「......三部屋?」
カイルが確認する。
「三部屋です」
「七人は?」
「入りません」
即答だった。
「お母さん」
「うん」
「お父さん」
「うん」
「お兄ちゃん」
「うん」
「そして私達七人」
「うん」
「合計十人です」
「十人ね」
「十人です」
一拍。
「どう考えても無理ですよね?」
会話が止まる。
「......」
「......」
「......確かに」
ようやくミストルティン様が頷いた。
「でしょう!?」
私は思わずガッツポーズを取る。
すると――
「でも雑魚寝なら」
「無理です!!!!」
反射だった。
「まだ何も言ってないわよ?」
「言おうとしましたよね!?」
「言おうとはしたわね」
「ほら!!!!!」
ルーカスお兄様が頭を抱える。
「待て」
「なんですか?」
「雑魚寝とは何だ?」
会話が止まった。
「あっ」
今度は別の地雷を踏んだ。
「簡単に言うとですね......」
私は少し考える。
「十人くらいで同じ部屋で寝ることです」
「......」
「......」
「......」
異世界組が固まった。
「祭りか?」
ルーカスお兄様が真顔で聞く。
「祭りじゃありません」
「軍の野営では?」
リュシアさんも聞く。
「違います」
「この世界怖い......」
「そこなんですか!?」
すると――
「ほら!」
ミストルティン様が笑顔になる。
「何とかなるじゃない!」
「何ともなってません!!!!」
その日何度目か分からないツッコミがイ〇ンモールに響いたのだった。




