183話 需要の行方、サンドイッチの可能性③
NEW〇AYSのサンドイッチを食べた後、私たちは電車に乗り次の目的地へと向かっていた。
「まもなく杜せきのした、杜せきのしたです」
女性の機械音声が車内に流れる。
やがて電車が減速を始め、窓の外には巨大な建物が見えてきた。
「あれか?」
ルーカスお兄様が窓の外を指差す。
「そうですね」
私は頷く。
「次の目的地です」
そして――
プシュー。
ドアが開く。
私たちは人の流れに合わせてホームへ降り立った。
数年ぶりのイ〇ンモール名取――
だが。
「......あれ?」
思わず足が止まる。
「どうしたの?」
ミストルティン様が首を傾げる。
「いや......」
一拍。
「私の知ってる外観じゃないんですけど」
目の前に広がる建物を見る。
記憶にあるイ〇ンモール名取より明らかに大きい。
というより――
「増築してません?」
「してるわね」
ミストルティン様が即答した。
「何年か前に増床オープンしたのよ」
一拍。
「東北初のお店も結構入ったし、エレノアの知ってるイ〇ンじゃないかもしれないわね」
「なるほど......」
私は巨大な建物を見上げる。
確かに記憶と違う。
前世で来ていた頃よりも明らかに大きい。
「待て」
ルーカスお兄様が建物を指差した。
「あれ全部店なのか?」
「全部ですね」
「......」
「......」
「王城より大きくないか?」
「多分大きいですね」
即答だった。
会話が止まった。
「店......ですよね?」
リュシアさんが確認する。
「店ですよ」
「なんでそんな大きい必要があるんですか......?」
「色々売るからですね」
「色々?」
「服」
「本」
「家具」
「家電」
「食べ物」
「映画館」
「ゲームセンター」
「......」
「......」
「前言ったお店とどっちが大きい?」
「T〇E・MALL?」
「それだ」
「ラ〇ガーデンも合わせるなら同じくらいですね」
一拍。
「単体ならこっちの方が大きいです」
「待て」
「あれ以上なのか?」
「はい」
「店とは......?」
「昔はそれこそ東北最大級のお店でしたから......」
会話が止まった。
「最大級?」
リュシアさんが聞き返す。
「はい」
私は頷く。
「少なくとも私が子供の頃はかなり有名でしたね」
一拍。
「県外から来る人もいましたし」
「店のためだけにか?」
「店のためだけにです」
「......」
「......」
「理解できん」
ルーカスお兄様が頭を抱えた。
「私も最初はそうでした」
メルが頷く。
「でも来ると分かるよ!」
「何がだ?」
「楽しい!」
「参考にならんな......」
即答だった。
「因みに今調べた感じーー」
一拍。
「今は、イ〇ンモール新利府の方が圧倒的に大きいみたいですね」
さらに一拍。
「日本全国で3位の大きさらしいです」
「言われてもわからん......」
「王都の商業区画と比べてどうなんですか?」
カイルが静かに聞く。
「比べる物じゃないと思いますけど......」
一拍。
「それは流石に商業区画の方が大きいと思いますよ?」
「そうなのか?」
ルーカスお兄様が少し安心したような表情を浮かべる。
「はい」
私は頷く。
「王都の商業区画って市場も職人街も飲食店街も含まれますし」
一拍。
「あれ全部合わせたら流石にこっちの方が負けます」
「なるほど」
「ただ――」
「?」
私は目の前の建物を指差した。
「この建物の中だけで250店舗くらいはあります。」
「......」
「......」
「250?」
「250です」
会話が止まった。
「待て」
ルーカスお兄様が真顔になる。
「一つの建物の中にか?」
「一つの建物の中です」
「......」
「......」
「やっぱり理解できん」
結論は変わらなかった。
「安心してください」
私は頷く。
「私も理解してません」
「理解してないのか!?」
「だって映画館とかゲームセンターとかちょっとした病院とか入ってるんですよ?」
「病院?」
「病院です」
「......」
「......」
「店とは?」
「私もそう思います」
即答だった。
「なんでそんなものを一箇所に集める必要があるんだ......」
「便利だからですね」
「便利なのか......」
「便利です」
「理解できん......」
結論は変わらなかった。
「ほら、ここで見てたってしょうがないから改札を出るわよ!」
ミストルティン様がパンと手を叩く。
「実際に見た方が早いわ」
「それはそうだな......」
ルーカスお兄様も渋々頷く。
「どうせ説明されても理解できそうにありませんし」
リュシアさんも苦笑した。
「賢明な判断ね」
「褒められている気がしないんですが......」
「気のせいよ」
即答だった。
そして私達は改札を抜ける。
目の前には巨大な連絡通路。
その先には――
イ〇ンモール名取。
「......」
「......」
「......」
「待て」
数秒後。
ルーカスお兄様が再び足を止めた。
「今度は何ですか?」
「あれ本当に店なのか?」
「店です」
「やっぱり理解できん」
「前に進めば進むほど圧を感じるんだが......」
「そういうものです」
一拍。
「諦めてください」
「諦めろと言われてもな......」
ルーカスお兄様が巨大な建物を見上げる。
「安心してください」
「何がだ?」
「多分中に入った瞬間はしゃぐのは目に見えているので」
会話が止まった。
「そんなことはない」
ルーカスお兄様が即答する。
「そうですか?」
「そうだ」
「本当ですか?」
「本当だ」
一拍。
「少なくとも私ははしゃがんだ記憶がありません」
「それは記憶から消してるだけよ」
ミストルティン様が即座に切り返した。
「え?」
「ゲームセンター見つけた瞬間走り出してたわ」
「待ってください」
「映画館見つけた時も似たような反応してたわね」
「待ってください」
「フードコートでは迷子になりかけてたし」
「やめてください!!!!」
私は思わず叫ぶ。
「......」
「......」
「......」
異世界組の視線が痛い。
「説得力がありますね」
カイルが静かに呟く。
「ありますね......」
リュシアさんも頷いた。
「いや、でもあれは初見だったので!」
「私達も初見だぞ?」
ルーカスお兄様の一言で反論が封じられた。
「......」
「......」
「ほら見なさい」
ミストルティン様が勝ち誇ったように笑う。
「だから大丈夫よ」
一拍。
「全員同じ反応するから」
「安心できる要素が一つもないんだが......」
そして――
私の予想は想像通りの結果になった。
「すげぇ!!!!!!!!!!!!!」
ルーカスお兄様が目を輝かせる。
「このお店いいわね」
アメリアお姉様は隣の雑貨屋さんを見ながら楽しそうに微笑んだ。
「......」
「......」
私はミストルティン様を見る。
ミストルティン様も私を見る。
「ほら」
「ほらですね」
二人同時だった。
「誰だ?」
「はしゃがないって言ったの」
「言ってないわよ?」
「言いました」
「言ってない」
「言いました」
「言ってない」
「......」
「......」
「いや、これは仕方ないだろう!?」
ルーカスお兄様が反論する。
「店の中に広場があるんだぞ!?」
一拍。
「しかも子供が遊んでいる!」
「そこなんですね......」
カイルが苦笑した。
「だって普通ないだろう!?」
「まぁ無いですね」
即答だった。
「とりあえずショッピングは後でするとしてサンドイッチ食べるわよ!」
「「「「はーい」」」」
それぞれ散っていた面々が集合し、私達はエレベーターホールへ向かう。
そしてミストルティン様は上のボタンを押した。
「あれ?」
私は首を傾げる。
「スーパーは下ですよ?」
「知ってるわよ」
ミストルティン様は当然のように答えた。
「?」
「まずは上」
「何故ですか?」
「だって――」
ミストルティン様がニヤリと笑う。
「コンビニのサンドイッチは見たでしょ?」
「見ましたね」
「次はスーパーのサンドイッチを見る予定でしょ?」
「そうですね」
「でもその前に、もっと分かりやすいものを見せた方が早いと思うのよ」
「?」
私は首を傾げた。
エレベーターが到着する。
チン。
扉が開いた。
「付いてきなさい」
ミストルティン様は自信満々に歩き出す。
数分後――
「......」
目の前にコ〇ダ珈琲と書かれたお店を見て、私は非常に《・》嫌な予感がした。
「わぁおいしそう!!」
「サンドイッチってこんなに種類があるんですね......」
「このシロノワールってやつおいしそうね」
全員の視線は既にメニューへ釘付けだった。
「......」
「......」
「ミストルティン様」
「なにかしら?」
「サンドイッチの調査ですよね?」
「そうよ?」
即答だった。
「ここで食べたら調査どころではなくなると思うんですが......」
会話が止まった。
「何言ってるの?」
ミストルティン様が不思議そうに首を傾げる。
「食べなきゃ調査できないじゃない」
「そういう意味じゃありません」
即答だった。
「ここで食べたら全員お腹いっぱいになります!!!!」
「大丈夫よ!」
ミストルティン様は自信満々にそう言う。
嫌な予感しかしない。
そして――
「ほら行くわよ!」
「待ってください!!」
私の制止も虚しく、ミストルティン様は店内へ入っていく。
数分後。
案内された席に全員で腰を下ろす。
店員さんがお冷を並べながらメニューを渡してくれた。
「ほぅ......」
「なるほど......」
「美味しそうですね」
「写真が綺麗だな」
異世界組は興味津々でメニューを眺めている。
そして――
ミストルティン様が静かにメニューを閉じた。
「決まったわ」
「早いですね」
私は嫌な予感を覚える。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
店員さんが笑顔で尋ねる。
「はい」
ミストルティン様はにっこり微笑んだ。
一拍。
「このページのもの全部」
静寂。
「......」
「......」
「......」
店員さんの笑顔が固まった。
「申し訳ございません」
「はい?」
「確認なのですが」
一拍。
「こちらのページ全てでよろしいでしょうか?」
「ええ」
「サンドイッチ六種類とハンバーガー二種類とカツパン一種類になりますが」
「ええ」
「シロノワールも含まれますが」
「ええ」
「......」
「......」
店員さんが私を見る。
私を見るのはやめてほしい。
「相当な量になりますが......」
店員さんが恐る恐る聞く。
「大丈夫よ」
ミストルティン様が自信満々に頷く。
「かしこまりました......」
店員さんは一瞬だけ私を見る。
私を見るのはやめてほしい。
「......」
「......」
やがて店員さんが去っていく。
「ミストルティン様」
「なにかしら?」
「大丈夫じゃないと思うんですが」
「大丈夫よ」
即答だった。
「だって七人いるじゃない」
「そういう問題ではありません」
「問題あるかしら?」
「あります」
一拍。
「私達、さっきサンドイッチ食べましたよね?」
会話が止まった。
「......」
「......」
「......食べたわね」
「食べました」
「でもあれは試食でしょ?」
「普通に一人前近く食べてます」
「細かいことは気にしない」
「気にしてください」
即答だった。
すると――
「でも楽しみだな!」
ルーカスお兄様が笑う。
「これだけ種類があるなら比較もしやすそうだ」
「ルーカスお兄様まで!?」
「私も少し興味がありますね」
リュシアさんも頷く。
「専門店が成立するほど人気なのでしょう?」
「そういうことね」
ミストルティン様が満足そうに頷いた。
一方の私はというと......
「これ絶対に食べきれないやつだ......」
嫌な予感しかしなかった。
「そんなに多いのか?」
ルーカスお兄様が首を傾げる。
「多いですね」
私は即答した。
「逆見本詐欺で有名なお店ですし」
「逆見本詐欺?」
「見本より大きいんですよ」
「そんなことあるのか?」
「あります」
即答だった。
「むしろ見本より大きいことが売りです」
「意味が分からん......」
ルーカスお兄様が頭を抱える。
「安心してください」
ミストルティン様が笑顔を浮かべた。
「七人もいるんだから何とかなるわ」
「その理屈で何とかならなかったことを私は何度も見ています」
「失礼ね」
「事実です」
すると――
「お待たせいたしました」
店員さんが最初の料理を運んできた。
「......」
「......」
「......」
会話が止まった。
「待て」
ルーカスお兄様が真顔になる。
「写真の二倍くらいないか?」
「ありますね」
「あるのか」
「あります」
一拍。
「ようこそコ〇ダへ」
私は静かにそう呟いた。
「「「いやどう見ても食べきれないでしょ!!!!!!」」」
全員のツッコミが綺麗に重なった。
「大丈夫よ」
ミストルティン様は余裕の表情を崩さない。
「七人もいるんだから」
「その理屈で何度失敗したと思ってるんですか」
即答だった。
すると――
「お待たせいたしました」
さらに別の店員さんが料理を運んでくる。
ドン。
「......」
ドン。
「......」
ドン。
「......」
テーブルの上がみるみる埋まっていく。
「待って」
アメリアお姉様が手を挙げる。
「まだ来るの?」
「来ますね」
私が答える。
「まだ注文した物の半分も来てません」
会話が止まった。
「半分?」
「半分です」
「......」
「......」
「帰っていいか?」
ルーカスお兄様が真顔で呟く。
「ダメよ」
ミストルティン様が即答する。
「調査なんだから」
「絶対違うだろう」
誰も反論しなかった。
そして――
最後の一皿が運ばれてきた時。
テーブルの上は完全に戦場と化していた。
「......」
「......」
「......」
「これ」
リュシアさんが静かに呟く。
「本当に七人前なんですか?」
「多分二十人前くらいありますね」
私も静かに答えた。
その瞬間。
全員の視線がミストルティン様へ集まった。
「......」
「......」
「えへっ☆」
「誤魔化せると思ってるんですか!!!!!!」
「オーバーキルにも程がある!!」
ルーカスお兄様の叫びが店内に響く。
もっとも――
運ばれてきてしまった以上、食べないという選択肢はない。
「とりあえず食べましょう」
私は一番近くにあったミックスサンドを手に取る。
「そうだな」
ルーカスお兄様も渋々頷く。
そして――
全員が一口食べた。
「......」
「......」
「......」
会話が止まった。
「どうしました?」
私が尋ねる。
「いや......」
ルーカスお兄様がサンドイッチを見つめる。
「美味いな」
「ですよね」
即答だった。
「正直もっとこう......」
一拍。
「罪人の食事みたいなものを想像していた」
「私もです」
リュシアさんが静かに頷く。
「むしろ普通にご馳走では?」
「それもそうですね」
アメリアお姉様も頷いた。
「野菜も取れるし食べやすいし」
「持ち運びもできますしね」
カイルも続く。
すると――
「だから言ったでしょ?」
ミストルティン様が得意げな顔をする。
「専門店が成立するくらい人気だって」
「......」
「......」
「ただ」
ルーカスお兄様がサンドイッチを見つめる。
「一つ問題がある」
「なんでしょう?」
「これ」
一拍。
「食いきれるか......?」
会話が止まった。
そして全員、机にギリギリ収まりきった数々のサンドイッチやシロノワールを見つめる。
「「「「「無理では??」」」」」
声が重なった。
「大丈夫よ!!!」
ミストルティン様が胸を張る。
一拍。
「残ったらテイクアウトできるから!!」
「「「「「そういう問題じゃない!!!!!!」」」」」
再び声が綺麗に重なった。
「というか最初から持ち帰る前提なんですか!?」
私は思わず机を叩く。
「保険は大事よ」
「保険の方向性がおかしいんですよ!」
即答だった。
「でも確かに便利ですね......」
リュシアさんが感心したように呟く。
「食べきれなかったら持ち帰れるんですか?」
「持ち帰れますよ」
「凄いな......」
ルーカスお兄様も頷く。
「それなら多少多くても――」
一拍。
「多少?」
私とカイルの声が重なった。
「いや、これは多少ではないだろう」
「ようやく気付きましたか」
私は深いため息を吐く。
すると――
「冷静に考えたら」
アメリアお姉様がシロノワールを見る。
「サンドイッチの調査なのに何で甘い物があるのかしら?」
会話が止まった。
「......」
「......」
「......」
全員の視線がミストルティン様へ集まる。
「え?」
「え?じゃありません」
「調査よ?」
「絶対違います」
誰一人として信じていなかった。




