182話 需要の行方、サンドイッチの可能性②
ーー地球・仙台駅東西自由通路
眩しい光が落ち着くとそこは前回来た時に転移した場所だった。
相変わらず改札機の音や人やキャリーケースの音が騒がしく聞こえる。
「ついたー!!」
メルが軽く伸びをし辺りを見回す。
「ミストルティン様......めっちゃ私たちのこと見てる人いますけど大丈夫ですか......?」
私の視線の先には外国人旅行者と思われる人が目をギョッとさせこちらを見つめていた。
「あー......」
ミストルティン様はそっと目を閉じる。
そしてーー
「ガッツリ私たちが転移する瞬間を目撃してたからそこの記憶だけ削除してきたわ」
「削除ってそんな簡単にできるんですか……?」
「神だもの」
ミストルティン様は当然のように答えた。
「便利ですね……」
「便利よ?」
一拍。
「でも多用するとソフィアに怒られるから普段はやらないだけ」
「怒られるんですね」
「そりゃあそうよ......」
一拍。
「そんな簡単に記憶消してたら人類にとって何もいいことないもの」
ミストルティン様は肩を竦める。
「確かに」
私も素直に頷いた。
「嫌なことがあったら全部忘れさせればいいという話になりますもんね」
「そういうこと」
一拍。
「それにね」
ミストルティン様は珍しく真面目な表情になる。
「失敗も後悔も悲しみも、その人を形作る大事な経験なのよ」
「......」
「だから神でも勝手には弄らない」
さらに一拍。
「今回は転移そのものを見られちゃったから仕方なくやっただけ」
「なるほど」
私が頷くと――
「でもエレノアの黒歴史なら消してあげてもいいわよ?」
「結構です」
即答だった。
「即答されたわ」
「当たり前です」
ミストルティン様が少しだけ残念そうな顔をした。
「それは置いといて、ここ人がいることなんて基本ないんですけどね......」
私は辺りを見回す。
「確かに駅ビルの本館と東館の間の隙間だものね......」
ミストルティン様も周囲を見回した。
一拍。
「ちょっと次から転移先を考え直した方がいいかもしれないわね」
「そうですね」
私も素直に頷く。
前回は偶然上手くいった。
だが今回は普通に目撃されてしまった。
「人が少ない場所の方がいいんじゃないかしら?」
アメリアお姉さまが静かに言う。
「いや......ここもかなり人が少ないんですよ......?」
私は苦笑する。
一拍。
「仙台駅の中で考えたらかなりマシな方です」
「これで?」
ルーカスお兄様が周囲を見渡す。
「これでです」
即答だった。
改札機の電子音。
行き交う人々。
キャリーケースを引く音。
そして絶えず流れる館内放送。
異世界の人からすれば十分異常な光景なのだろう。
「祭りではないんですよね?」
リュシアさんの確認に、私はこっちへ来る時用に持ち歩いているスマホで検索する。
「特に何もやってませんね」
「だとしたら多くないですか......?」
リュシアさんが困惑したように周囲を見回す。
「確かに多いですね」
私も頷く。
もっとも――
「休日ならもっと多いですよ?」
「これよりですか!?」
リュシアさんが目を見開く。
「人口だけで言えば王都の方が多いですけどね......」
私は苦笑する。
「では何故こんなに......?」
リュシアさんが不思議そうに首を傾げた。
「こっちの世界は交通が発達している分、人の往来が激しいのよ」
ミストルティン様が説明する。
一拍。
「この場所も色々な場所へ移動するための中継地点みたいなものね」
「なるほど......?」
あまり理解できていないようだった。
「前、一番くじ買いに来た時もこんな感じだったよー!」
メルが元気よく手を挙げる。
「むしろ今日は少ない方かも!」
「夜に来た時も多かったが、昼はもっと多いんだな......」
ルーカスお兄様が周囲を見回しながら呟く。
一拍。
「これで少ないというのが信じられん」
「私もそう思います」
リュシアさんも真顔で頷いた。
「組織の本部前でもここまで人はいませんでした」
「比較対象がおかしい気がするんですけど......」
思わずそう突っ込んでしまう。
「そうかですか?」
「そうですよ」
即答だった。
「まぁおしゃべりはここまでにしてーー」
ミストルティン様は手をパンと叩く。
「今日は回るとこ多いからスピーディーに巡るわよ!」
「それもそうね」
アメリアお姉さまが頷く。
「じゃあまずはここの近くにスーパーが二件あるからそこ行ってみるわよ」
「成〇石井とロ〇アですか......?」
私は眉をひそめた。
「見事に何を言ってるか分かりません」
リュシアさんが何かを呟いたが耳には入らない。
「ダメかしら?」
ミストルティン様が首を傾げる。
「成〇石井は高級路線のスーパーなので、あまり参考にならないと思います」
一拍。
「ロピアはそもそもサンドイッチをあまり置いていなかったはずですよ?」
「あれ?」
ミストルティン様が目を瞬く。
「エレノア行ったことあったかしら?」
「ありませんよ?」
「じゃあ何で知ってるの?」
「予習したんですよ」
会話が止まった。
「予習?」
「はい」
私は頷く。
「せっかく来るなら効率よく回りたいですし」
一拍。
「昨日の夜に調べておきました」
「......」
「......」
「......」
全員が黙り込む。
「なによその準備の良さ」
ミストルティン様が呆れたように呟いた。
「エレノア様らしいですね」
メルが苦笑する。
「ではどこへ行くんですか?」
リュシアさんが首を傾げる。
「まずはここの近くにJR系のコンビニがあるのでそこで買いましょう」
「あー、NEW〇AYSね」
「なんかミストルティン様とエレノアだけで会話進んでない......?」
「気のせいではないな」
「そうですね......」
アメリアお姉様とリュシアさんが静かに呟く。
「ついでだからニューチキ買うー!!」
魔法で猫耳を隠しているものの、メルは耳を嬉しそうにぴんと立てていた。
「メル!?」
カイルも驚いている。
「だっておいしいんだもん!」
「目的を忘れてないか!?」
「忘れてないよ!」
一拍。
「サンドイッチとニューチキ両方買う!」
「忘れてるな」
即答だった。
「違うもん!」
メルが抗議する。
「前回来た時も食べたけど美味しかったんだもん!」
「だとしても今か!?」
「それにニューチキとパンって合うと思うんだよね!」
「確かに合いそうですね」
「エレノア様まで!?」
カイルが頭を抱えた。
すると――
「待って!」
ミストルティン様が手を挙げる。
僅かに静寂が走る。
「そこはななチキでしょ!!!!!」
「「「「まさかのそっち!?!?!?!?」」」」
「ななチキもおいしいですよね」
私も頷く。
「でしょ!?」
「てっきり脱線を止めるものだと思っていたんだが......」
ルーカスお兄様が頭を抱える。
「違うの?」
ミストルティン様が首を傾げる。
「違います」
即答だった。
「今の流れなら普通は『目的を忘れるな』とかではないんですか?」
リュシアさんが疲れたように呟く。
「でも大事なことでしょう?」
「何がですか」
「どっちのチキンが美味しいか」
「大事じゃありません」
即答だった。
「あれ?」
ミストルティン様が本気で不思議そうな顔をする。
「この神様ダメだ......」
カイルが遠い目をした。
「とりあえず行きません......?」
アメリアお姉様が静かに呟く。
「そうね」
ミストルティン様も何事もなかったかのように頷く。
「サンドイッチを見に来たのにチキンの話で終わるところだったわ」
「誰のせいですか」
即答だった。
「え?」
「え?じゃありません」
私がため息を吐く。
「ほら行くわよ!」
ミストルティン様はそう言うと、さっさと歩き始めた。
「話を逸らしましたね......」
リュシアさんが小さく呟く。
「いつものことだよー!」
メルが元気よく答える。
「慣れてるんですね......」
「慣れたくなくても慣れるよ!」
何とも悲しい回答だった。
そして私達は、まず最初の目的地であるコンビニへ向かう。
東西自由通路近くの路地のような場所から、杜の陽だまりガレリアと呼ばれる大きな通路へ出る。
通路の中央では様々な催事出店が並び、野菜や果物を販売するお店から威勢の良い声が響いていた。
「いらっしゃいませー!」
「本日限定ですよー!」
「こちら試食できますよー!」
活気に満ちた空間に、アメリアお姉様が目を丸くする。
「すごいわね......」
「仙台の中心部ですからね......」
そんな会話をしていると、東改札近くのNE〇DAYSへと続く自動扉の前に到着する。
「ここが最初の目的地です」
「ニューチキ! ニューチキ!」
「メル落ち着きなさい......」
アメリアお姉様が恥ずかしそうな表情を浮かべながらメルの肩を掴む。
「まずはサンドイッチでしょう?」
「両方!」
「両方なんですね......」
リュシアさんが苦笑した。
そして――
「こんなところに食べ物なんて売っているのか......?」
ルーカスお兄様が首を傾げる。
一拍。
「キャンプの時に来た店と比べて明らかに小さいが......」
「確かにそうですね」
私は頷く。
「イメージとしては王都の八百屋さんやお肉屋さんとかを合体して二で割った感じのお店です」
一拍。
「見た目は小さいですけど最低限の物は揃いますね」
「羊皮紙とかもか?」
「それは流石にないです......」
「ないのか」
ルーカスお兄様が少し残念そうに呟く。
「この世界は普通に紙なんてゴミとしてあっちこっちにあるからね......」
ミストルティン様が苦笑する。
「その分、適切な処理がされていないものも多いけど」
「そうなんですか?」
アメリアお姉様が首を傾げた。
「人口が多いもの」
一拍。
「人が増えればゴミも増える」
「便利さには代償があるってことなのね」
アメリアお姉さまが静かに言う。
「なるほど......」
リュシアさんが感心したように頷いた。
「そしてこれがそのサンドイッチです。」
私は売り場からサンドイッチと言えばの定番の物を持ってくる。
「ミックスサンド......ですか?」
「見た目はおいしくなさそうですね......」
リュシアさんもカイルも微妙そうな表情を浮かべる。
「これって卵かしら?」
「なんだこのクリーム色の物体は......」
ルーカスお兄様は、ツナサンドを見て明らかにおいしくなさそうなものを見て眉をひそめている。
「......なんというか、罪人が食べる食べ物ってイメージが何となく想像がつくというか......」
リュシアさんが複雑そうな表情を浮かべる。
「私が拘束されていた時に食べたものよりは豪華ですけど......」
「だろうな」
ルーカスお兄様も頷く。
一拍。
「だが見た目だけなら、そこまで特別な料理には見えん」
「そうですね......」
カイルも苦笑する。
「お弁当の方が美味しそうです」
「それは否定できないですね」
私も頷いた。
実際、ミックスサンドは派手な料理ではない。
卵。
ハム。
野菜。
それらをパンで挟んでいるだけだ。
だが――
「だからこそなんですけどね」
「?」
全員が首を傾げる。
「とりあえず買いましょう」
「JREポイント貯めてるからこれ提示しておいて!!」
ミストルティン様がスマートフォンを差し出した。
「何言ってるんですかこの神様」
私は即答する。
「大事なことでしょう!?」
「神様がポイントカードを気にしないでください」
「ポイントカードじゃないわ!」
一拍。
「ポイントアプリよ!」
「そこじゃありません!!」
私は思わず突っ込んでしまう。
「だって結構貯まるのよ!?」
「貯めてどうするんですか?」
「お買い物」
「神様がお買い物って......」
カイルが遠い目をする。
「それよりエレノア」
ミストルティン様がスマホを差し出す。
「早く」
「......わかりました」
渋々受け取りレジへと向かう。
「ポイ活! ポイ活!」
「なんかやたら上機嫌ですけど何の意味か分かりませんね......」
リュシアさんが困惑したように呟く。
「私ニューチキ買ってくる!!!!」
「メル!?」
アメリアお姉様が慌てて呼び止める。
だが――
遅かった。
メルは既にレジ横のホットスナックコーナーへ一直線に突撃していた。
「行動が早すぎる......」
ルーカスお兄様が呆れたように呟く。
「あれ絶対お腹いっぱいになって食べられなくなるやつですよね......」
「そうね......」
アメリアお姉様も苦笑する。
そして会計を終えた私達は、駅ビル五階にあるSKY GARDENへ移動した。
ベンチとテーブルが設置された開放的な空間は、平日ということもあり比較的空いている。
私達は購入した商品を机の上へ並べていく。
すると――
「ニューチキ全員分買ってきたよー!」
「「「「「全員分!?」」」」」
全員の声が見事に重なった。
「流石メル!」
ミストルティン様だけが拍手していた。
「褒めるところじゃありませんよ!?」
私は思わず突っ込む。
「だって気配りできる良い子じゃない」
「方向性が違います」
即答だった。
「でもみんなで食べた方がおいしいよ?」
メルが首を傾げる。
「それはそうなんだが......」
ルーカスお兄様が苦笑する。
「問題はそこじゃない」
「え?」
「サンドイッチを食べに来たんですよね?」
カイルが冷静に指摘した。
「あっ」
メルの動きが止まる。
一拍。
「......大丈夫!」
「何がですか?」
「別腹だから!」
「ダメそうですね」
リュシアさんが即答した。
「というか」
アメリアお姉さまが机の上を見渡す。
「サンドイッチより先にニューチキが主役になってないかしら?」
全員が机を見る。
ニューチキ。
サンドイッチ。
ニューチキ。
サンドイッチ。
「......」
「......」
「確かに」
私は静かに頷いた。
「なんでこんなことになったんでしょうね」
「エレノアも途中から乗り気だったでしょう?」
ミストルティン様のツッコミが綺麗に刺さった。
「と……とりあえずサンドイッチを分解して具材とか構造を見てみましょう!」
私は慌てて話題を戻す。
「露骨ですね」
リュシアさんが即答した。
「露骨だな」
「露骨ですね」
「露骨ね」
全員が頷く。
「ほら!」
私はミックスサンドの包装を開く。
「見てください!」
一拍。
「卵!」
「はい」
「ハム!」
「はい」
「野菜!」
「はい」
「以上です!」
「雑!!!!」
カイルのツッコミが炸裂した。
「もっとあるでしょう!?」
「ありませんよ?」
私は首を傾げる。
「サンドイッチって基本そんなものですし」
「そうなのか?」
ルーカスお兄様が興味深そうに覗き込む。
「本当にただ挟んでいるだけなんだな」
「だからこそ売れるんです」
一拍。
「作るのも簡単ですし」
「持ち運びもできますし」
「片手でも食べられます」
「なるほど……」
アメリアお姉様が感心したように頷く。
「確かに冒険者や職人さん向けかもしれませんね」
「そういうことです」
私も頷いた。
「とりあえずこれはなんだ......」
ルーカスお兄様は明らかに嫌そうな表情を浮かべながらツナサンドを持ち上げる。
一拍。
「色が終わっている」
「お兄様!?」
あまりにも率直だった。
「いや、だって見てみろ」
ルーカスお兄様は断面を指差す。
「明らかに腐ってるだろ!」
「それは魚です!!!!」
「魚なのか?」
「魚ですね」
「腐ってないか?」
「腐ってません」
「本当にか?」
「本当です」
即答だった。
「むしろ人気商品ですよ」
「人気......?」
ルーカスお兄様が信じられないという顔をする。
「これが?」
「これがです」
「嘘だろう......」
「とりあえず食べなきゃ意味ないので嫌でも食べてください!!!!」
私は半ば強引にツナサンドを押し付ける。
「横暴ではないか!?」
「試食会です」
「試食会だな」
「試食会ですね」
「試食会だわ」
誰も助けてくれなかった。
「くっ......」
ルーカスお兄様は観念したようにツナサンドを見る。
一拍。
「本当に食べるのか......」
「食べます」
「毒ではないんだな?」
「毒ではありません」
「本当に?」
「本当です」
「......」
「......」
「早く食べてください」
「圧が凄いな!?」
そして――
ルーカスお兄様は意を決したようにツナサンドへかぶりついた。
一口。
二口。
三口。
「......」
「......」
「......」
全員が固唾を飲んで見守る。
すると――
「待て」
ルーカスお兄様が真顔で呟いた。
「どうしました?」
「これ」
一拍。
「見た目の割に普通に美味いぞ」
「でしょう?」
私は勝ち誇ったように頷いた。
「悔しいが否定できん......」
お兄様はもう一口食べる。
「魚の風味はある」
「あるな」
「だが変な臭みもない」
さらに一口。
「それに柔らかい」
「パンも柔らかいですしね」
「確かに」
一拍。
「これなら移動中でも食べられるな」
その言葉に私は思わずニヤリとした。
「はい、一人目陥落です」
「陥落って言うな」
「見た目の割には本当においしいですね!」
「これよこれ!」
「なんでこんな酷い見た目の物が美味しいの......!?」
「ツナマヨネーズの美味しさにはまると妙にこれがないと落ち着かないんですよね......」
一拍。
「私も子供の頃は嫌いでしたけど」
「エレノアはツナサンドを食べた時リバースしてたものね」
「食事中に汚いこと言わないでください!!!!!!!!」
私は思わず机を叩いた。
「えっ、本当なの?」
メルが目を丸くする。
「本当よ」
ミストルティン様が頷く。
「三歳くらいだったかしら?」
「覚えてないです」
「口に入れた瞬間に泣いてたわね」
「やめてください」
「その後、絶対食べないって言ってたわ」
「やめてください」
「それが今ではツナマヨ信者」
「やめてください!!!!」
「信者なのか......」
ルーカスお兄様が複雑そうな表情を浮かべる。
「違います」
即答だった。
「冷蔵庫にツナ缶常備してるよね?」
メルが追撃する。
「常備してますけど」
「信者だな」
「信者ですね」
「信者ね」
「信者ですな」
「違います!!!!」
全員が頷いた。
その後も卵サンドとレタスサンドをあっという間に食べきる。
「大本の味は似ているな......」
ルーカスお兄様が頷く。
「大体はマヨネーズで味付けしてますからね」
「マヨネーズ??」
カイルが首を傾げる。
「卵の黄身とお酢と大量の油でできた調味料ですね」
会話が止まった。
「待て」
一拍。
「今なんと言った?」
「卵の黄身とお酢と大量の油です」
「油?」
「油です」
「大量?」
「大量です」
「......」
「......」
「なんで美味しいんですか?」
カイルが真顔で尋ねる。
「私もそう思います」
即答だった。
「でも美味しいんですよね」
「説明になってないぞ」
ルーカスお兄様が呆れたように言う。
「慣れると癖になるんですよ」
一拍。
「ご飯の上にマヨネーズと醤油を少し垂らして食べたりもしてましたし」
静寂。
「......はい?」
「......はい?」
「......はい?」
全員の反応が揃った。
「ご飯にですか?」
アメリアお姉様が恐る恐る確認する。
「ご飯にです」
「油を?」
「油をです」
「???」
リュシアさんの思考が停止した。
「この世界の食文化怖い......」
「さっきからそればっかりですね」
「だって怖いんですもん」
即答だった。
「ちなみに手作りもできますけど、日持ちしないので、もし使うならこっちで買う必要がありますね」
会話が止まった。
「作れるのか?」
ルーカスお兄様が尋ねる。
「作れますよ」
私は頷く。
「卵と油とお酢があればできます」
一拍。
「ただし保存性が最悪です」
「そんなにか?」
「そんなにです」
即答だった。
「生卵を使いますからね」
「あー......」
カイルが納得したように頷く。
「確かにそれは怖いですね」
「なので地球では基本的に工場で作ったものを買います」
「工場?」
「大量生産用の施設ですね」
「なるほど......」
リュシアさんが感心したように頷く。
「ではアトリエで販売するなら?」
アメリアお姉様が尋ねる。
「地球から仕入れですね」
私は即答した。
「少なくとも当面はその方が安全です」
「なるほど」
「つまりまた買い物に来れるってこと!?」
メルの目が輝いた。
「そこに反応するんですね......」
サンドイッチの第一印象を変えることは少なくとも大丈夫そう......
私はそう確信する。
「じゃあ次のお店行くよー!」
メルが勢いよく立ち上がる。
「今度は何を見に行くんですか?」
リュシアさんが尋ねた。
「サンドイッチだよ!」
「サンドイッチです」
私も頷く。
「なるほど」
全員が立ち上がる。
そして――
「ついでにニューチキおかわり買う?」
「「「「「まだ食べるの!?」」」」」
メルの一言で再び騒がしくなるのだった。




