173話 冒険者の悩み、新たな挑戦⑤
ーーセレスティア伯爵家・会議室
おにぎりの試食会を終えた私たちは、再び会議室へと戻っていた。
先程まで流れていた重苦しい空気は、今ではかなり薄れている。
食中毒。
保存性。
流通。
価格。
次々と問題が浮かび上がっていた弁当計画だったが、おにぎりという一つの形が見えたことで状況は大きく変わっていた。
もちろん課題がなくなったわけではない。
だが少なくとも――
「売れるかもしれない」
そう思えるだけの手応えを全員が感じていた。
実際、試食会で用意したおにぎりは綺麗になくなっている。
あれだけ半信半疑だった商会の人達ですら、おかわりを要求するほどだったのだ。
そして今。
私たちは改めて商品化に向けた話し合いを始めようとしていた。
先程まで流れていた重い空気から一転。
光明が差し込んだことで、会議室の空気は僅かに軽くなっていた。
「さて......」
商会の人が静かに口を開く。
「少なくとも味については問題なさそうですな」
何人もの商会員が頷いた。
「あれだけシンプルな料理であの反応ですからな」
「正直、ここまでとは思いませんでした」
「腹持ちも良さそうでしたし」
次々と肯定的な意見が上がる。
そして。
「ですが」
商会の人は表情を引き締めた。
「商品として販売するのであれば、中の具材やお弁当として成立するようなおかずを三種類程度決めないといけませんな」
その声に一人の商会の人がある提案をする。
「まず原価をどのくらいまで許容するかを決めませんか?」
一拍。
「人件費は0だとしても原材料の原価は決められると思います」
その言葉に会議室の空気が少しだけ引き締まる。
確かにその通りだった。
どれだけ美味しくても。
どれだけ話題になっても。
利益が出なければ商売として成立しない。
「そうですな」
別の商会員も頷く。
「具材を決めてから価格を考えるのではなく、先に価格帯を決めた方が整理しやすいでしょう」
「販売対象は冒険者ですからな」
一拍。
「高すぎれば売れません」
さらに一拍。
「安すぎれば利益が出ません」
商人らしい現実的な意見だった。
私は黙って話を聞く。
正直なところ、料理の内容ならともかく価格設定は専門外だ。
「皆さんなら、どのくらいが妥当だと思いますか?」
私が尋ねると、商会の人達は資料を見ながら考え始める。
フィリアさんは少し考え込み提案をする。
「王都の昼食の平均金額が700ルミナから800ルミナです。」
一拍。
「どれだけ高くても実際の売価は1000ルミナまでには抑えなきゃいけないので、500ルミナ前後が妥当じゃないですかね?」
「なるほど......」
商会の人達も頷く。
「確かにその辺りが現実的ですな」
一人が腕を組みながら呟く。
「1000ルミナは絶対に死守すべきでしょうな」
別の商会員も続けた。
「それ以上になると、毎日買うには少々厳しくなります」
さらに別の人物が資料へ目を落とす。
「もっとも1000ルミナでも十分に贅沢な昼食です」
一拍。
「ですが、おにぎりにおかずを付けることを考えれば妥当な価格帯かと」
その意見に私も頷く。
「では、500ルミナを目安に献立を決めますか」
会議室の空気が少しだけ引き締まる。
価格が決まった以上、次は実際に何を入れるかを考えなければならない。
「そうですな」
商会の人が資料を手に取る。
「まずは具材候補から出していきましょう」
一拍。
「エレノア様、何か良いものはありますか?」
「えっ......私!?」
思わず聞き返してしまう。
「当然ですな」
商会の人が即答した。
「おにぎりを提案されたのはエレノア様ですし」
「むしろ我々の方が何も知りませんぞ」
「食べたのも今日が初めてですからな」
次々と頷く商会の人達。
確かにその通りだった。
私は少しだけ考え込む。
「そうですね......」
一拍。
「保存性を重視するのであれば、梅干しと塩が良いと思います」
「ほう」
商会の人達が耳を傾ける。
「梅干しは以前お話しした通りです」
一拍。
「食材が傷みにくくなりますし、おにぎりとの相性も良いです」
さらに一拍。
「塩も有力ですね」
商会の人達が耳を傾ける。
「私が読んだ古い文献の中には、さっき私が作ったような塩だけのおにぎりが登場しています」
一拍。
「かなり大きなサイズだったそうですが、それを昼食として持ち歩いていた記録が残っています」
「ほう......」
「昔から存在するんですね......」
「はい」
私は頷く。
「作るのも簡単ですし、塩分補給にもなります」
さらに一拍。
「汗を大量にかく肉体労働者や冒険者にとっては相性が良いと思います」
はっきりとした答えだった。
商会の人達も納得したように頷く。
私はさらに続ける。
「幸いなことに、梅干しの原材料も塩も王都では比較的安価に入手できます」
一拍。
「原価を抑えるという意味では、この二つが一番理にかなっていますね」
「なるほど......」
商会の人が顎に手を当てて考え込む。
「確かにエレノア様の言う通り、塩分やミネラルの補給は冒険者にとってかなり重要ですな」
「夏病の対策にももってこいですね」
別の商会員も頷いた。
「王都周辺の依頼でも、夏場は倒れる者が毎年出ますからな」
一拍。
「水だけではどうにもならないこともありますし」
「なるほど......」
フィリアさんも納得したように頷く。
「ただお腹を満たすだけではなく、そういった利点もあるんですね」
一拍。
「保存性もあって、原価も安い」
さらに一拍。
「それなら十分候補として考えられそうですね」
すると別の商会員が口を開いた。
「他に候補として何か良いものはありますか?」
「ないですね......」
私は少し考えてから答える。
一拍。
「予算が500ルミナですし、お弁当にするのであればむしろシンプルな方が良いと思います」
会議室が静まり返る。
「シンプルな方が良い、と言いますと?」
フィリアさんが尋ねる。
「具材を増やせば確かに豪華にはなります」
一拍。
「ですが、その分原価も上がりますし、味も散らかります」
さらに一拍。
「先程試食してもらったように、おにぎりそのものの完成度は十分高いです」
私はそう言って資料へ視線を落とす。
「だからこそ、最初は梅干しと塩くらいで十分だと思います」
「なるほど......」
商会の人が頷く。
「確かに最初から種類を増やし過ぎる必要はありませんな」
一拍。
「まずは売れるかどうかを確かめる方が先です」
「ですな」
別の商会員も同意する。
「具材を増やすのは人気が出てからでも遅くありません」
会議室の空気が少しだけ和らぐ。
少なくとも具材については方向性が見えてきた。
だがまだ重要な議題が残っている
「問題はおかずをどうするかですね......」
その言葉で、わずかに会議室へ不穏な空気が流れた。
「やはり腸詰め肉が良いのでは?」
一人の商会員が真剣な表情で言う。
すると別の商会員が即座に反論した。
「いや、そこは厚切りのベーコンだろう」
「ベーコンですか?」
「燻製の香りは食欲を刺激しますからな」
腕を組みながら力説する。
だが。
「個人的には、おにぎりだけでも十分だと思いますがね」
さらに別の商会員が口を挟んだ。
会議室が静まり返る。
「......」
「......」
「......それは商売としてどうなんですかな?」
誰かが呟く。
「いや、先程食べた結果を考えると十分売れると思うんですが」
「気持ちはわかりますぞ」
「非常にわかりますな」
予想以上に賛同者が現れた。
だが、おかずでここまで荒れるのは想定していなかった。
「考えてみろ! 腸詰め肉とベーコン、どっちが夢だったかを!」
一人の商会員が机を叩く。
すると別の商会員が即座に反論した。
「いや! そこは腸詰め肉特有の香草の香りだろう!」
「わかってないな!」
さらに別の商会員が身を乗り出す。
「香草を使うなら茹でだ!」
「は?」
「茹でだと?」
会議室の空気が張り詰める。
「腸詰め肉は焼いた時の皮の張りだろうが!」
一拍。
「噛んだ瞬間の、あのパリッとした食感が良いんだろう!」
「何を言っている!」
「茹でた時の肉汁こそ至高だ!」
「焼きだ!」
「茹でだ!」
「焼きだ!」
「茹でだ!」
先程までの一体感とは異なり、その光景は最早ディベートのようになってしまっていた。
フィリアさんが、
「会議中ですよ!?」
と声を張る。
だが、まったく静かにならない。
「だからこそ真剣なんです!」
「重要な問題ですぞ!」
「腸詰め肉の調理法を軽視してはいけない!」
何故か全員が真面目だった。
私は思わずメルへ視線を向ける。
「......なんでこんなことになっているんでしょう?」
「おいしいものの話だからじゃないですか?」
即答だった。
「そんな理由で?」
「そんな理由です」
メルは力強く頷く。
「だって私も茹でた方が好きですし」
「裏切ったな!?」
「誰も味方になってないんですが!?」
メルの突然の好み発表により焼き派の商会員が悲鳴を上げた。
一体どうしようかと考えていると扉がゆっくりと開く。
「あら......会議中だったのね」
掃除道具を持って入室してきたのはパルシア様だった。
パルシア様は会議室を見回した。
そして。
「......何をしているの?」
静かな一言だった。
会議室が少しだけ静まる。
「会議ですな」
商会の人が答える。
「会議?」
「はい」
一拍。
「お弁当に入れる腸詰め肉は焼くべきか茹でるべきかを――」
「会議じゃないわね」
即答だった。
会議室が静まり返る。
「えっ」
「ただの言い争いよね?」
反論できる者はいなかった。
パルシア様は深いため息を吐く。
そして私の方を見る。
「エレノアちゃん?」
「はい」
「何で止めなかったの?」
「私も途中からわからなくなりまして......」
正直に答える。
パルシア様は額を押さえた。
「エレノアちゃんが状況を整理できなくなるなんて、よっぽどね」
パルシア様はため息をつきながら静かに言う。
すると一人の商会の人が勢いよく手を挙げた。
「それではパルシア様は、茹でと焼きどっちが好みなんですか!?」
会議室が静まり返った。
「おい」
「聞くのか......」
「今それを聞きますかな......」
誰かが呆れたように呟く。
だが本人は真剣そのものだった。
パルシア様は一瞬だけ目を瞬かせる。
「私?」
「はい!」
「重要な問題ですぞ!」
「全然重要じゃないです......」
フィリアさんが即座に否定した。
しかし誰も聞いていない。
会議室中の視線がパルシア様へ集まる。
数秒の沈黙。
そして――
「腸詰肉の状態と種類にもよるけど」
一拍。
「私は、茹でてから弱火で表面を香ばしくさせたものをエレノアちゃん達に出しているわね」
会議室が静まり返った。
「......」
「......」
「......」
誰も何も言わない。
「どうかしたかしら?」
パルシア様が首を傾げる。
「つまり......」
一人の商会員が震える声で呟く。
「茹ででも焼きでもある、と?」
「そうね」
パルシア様は頷く。
「茹でて火を通してから焼けば、肉汁も残るし香りも良くなるわ」
再び沈黙。
そして――
「その発想はなかった」
誰かが呟いた。
「確かに......」
「両方の利点を取れますな......」
「何故我々は争っていたんだ......」
焼き派と茹で派が同時に遠い目をした。
パルシア様はそんな様子を見ながら黒板へ視線を向ける。
そして。
「お弁当の具材なら、多少手は掛かるでしょうけど」
一拍。
「鶏肉の唐揚げと腸詰め肉、それに卵焼きとトマト辺りが良いと思うわよ?」
会議室が静まり返った。
「ほう......」
「確かに彩りは良いですな」
「栄養のバランスも悪くない」
「保存性もそこそこありますね」
パルシア様は満足そうに頷く。
「じゃあ私は掃除の続きがあるから」
それだけを言い残し、会議室から退出していった。
扉が閉まる。
数秒の沈黙。
......
......それ、あっちの世界の定番のお弁当じゃん。
内心そう思いながら聞いていた。
いや。
偶然なのだろう。
多分。
おそらく。
「唐揚げとは、時折昼食で出る揚げ物のことですよね?」
商会の人が静かに聞く。
「そうですね」
私は頷いた。
「鶏肉に下味を付けて衣をまとわせ、油で揚げた料理です」
「ほう......」
「確かに美味しかった記憶がありますな」
「ですが、揚げ物ですし逆に原価高くなりませんかね?」
商会の人が資料を見ながら尋ねる。
「そこまででもないと思います」
私は首を横に振った。
「もちろん大量の油は必要です」
一拍。
「少ない量を作るのであれば割高ですが、大量調理を前提とするのであれば、むしろ高コスパですね」
私はそう答えた。
揚げ物は一見すると贅沢な料理に見える。
だが実際には違う。
油を用意する手間こそ掛かるものの、一度準備してしまえば大量の食材を効率よく調理できる。
特に販売を前提とするのであれば、その恩恵は大きい。
「なるほど......」
商会の人達も納得したように頷く。
「個人で作るのと店で作るのでは話が違うわけですな」
「そういうことです」
私は頷いた。
「むしろ一定数以上を販売するのであれば、唐揚げはかなり優秀なおかずになると思います」
「なるほど......」
商会の人が頷く。
「ただし」
私はそこで言葉を区切った。
「揚げ物は調理直後の温度が非常に高いんです」
一拍。
「そのまま弁当に詰めると内部に熱や水分がこもり、傷みやすくなります」
「確かに......」
フィリアさんも納得したように頷く。
「ですので、採用するのであれば十分に冷ます工程が必須ですね」
一拍。
「大量生産を前提とするなら、前日のうちに揚げて温度を落とし、劣化防止用の魔道戸棚で保管するのが一番現実的だと思います」
「なるほど......」
「味だけではなく安全性の問題ですな」
「はい」
私は頷いた。
「今回の商品は食事である前に商品です」
一拍。
「美味しくても安全でなければ意味がありません」
さらに一拍。
「ただでさえポーションの需要が異常なのに、さらに増える要因は作りたくないので......」
私は苦笑しながらはっきりと告げる。
会議室が静まり返った。
「......」
「......」
「......確かに」
誰かがぽつりと呟く。
「食中毒で治療用ポーションの消費が増えたら本末転倒ですな」
「むしろ原因を作っている側になりますからね」
フィリアさんも苦笑した。
「エレノア様らしい理由ですけど、正論ですね」
「そうですな」
商会の人達も頷く。
「安全性を最優先に考えるのであれば、その辺りの管理方法も最初に決めておくべきでしょう」
「はい」
私は頷いた。
「ですので唐揚げを採用するのであれば、調理方法だけではなく保管方法も含めて商品設計を行う必要があります」
だが、ここで別の疑問が浮上する。
「その理由でいけば、トマトもかなり危険だと思いますけど......」
フィリアさんが静かに呟く。
「確かに......」
「卵焼きは同様の工程を挟めばいけますけど、トマトは流石に......」
商会の人達も顔を見合わせる。
生野菜。
しかも水分が多い。
保存性という観点では決して優秀とは言えない食材だった。
「その通りですね」
私は素直に頷いた。
「トマトは水分が多い上甘いので、普通は向きませんね」
会議室が静まり返る。
「......普通は?」
フィリアさんが聞き返した。
「ええ」
私は頷く。
「例えば、お店には冷凍設備がありますよね?」
私のその発言に、すぐ意味を理解できた者はほとんどいなかった。
実際、それも当然だった。
この世界では飲食店に冷凍設備や冷蔵設備を備えている店は決して多くない。
それこそ王都の高級店や繁盛店くらいだ。
一般的には、冷たい井戸水に浸したり、保冷効果のある魔道具を利用したりして食材を保管する。
それでも十分実用的ではある。
だが――
この店は違う。
主に陛下が中心となって建設された店舗だ。
だからこそ設備は極めて充実している。
冷蔵設備。
冷凍設備。
食材保管用の魔道具。
どれも王都では一級品と言っていい。
そして。
せっかく存在するのであれば、使わない手はなかった。
「どういうことですか......?」
「前日のうちに軽く冷凍すればいいんですよ」
一拍。
「溶けるまでの間、気持ち程度ではありますけど多少劣化を遅らせられます」
さらに一拍。
「容器の中の温度も多少は保ってくれますしね」
会議室が静まり返る。
「なるほど......」
商会の人が感心したように頷く。
「そういう発想はありませんでしたな」
「冷凍設備がある前提だからこそ出来る方法ですか」
「はい」
私は頷く。
「もっとも万能ではありません」
一拍。
「結局は当日中に食べることが前提です」
さらに一拍。
「過信は禁物ですね」
その言葉にフィリアさんも頷いた。
「安全第一ということですね」
「そういうことです」
私は答える。
「それに――」
一拍。
「そこまでしてトマトを入れる必要もありませんしね」
「ですよね」
フィリアさんが即答した。
「ではトマトは今回は見送りですな」
その言葉に会議室に小さな笑いが広がる。
先程まで真剣に議論していた内容だっただけに、その反応は少しだけ可笑しかった。
「では整理しましょう」
商会の人が資料を手に取る。
「おにぎりは塩と梅干しの二種類」
「おかずは卵焼き、唐揚げ、腸詰め肉」
「腸詰め肉は茹でた後に軽く焼く」
その瞬間。
焼き派と茹で派が同時に顔を見合わせた。
「......」
「......」
そして。
「パルシア様案ですな」
「パルシア様案ですな」
綺麗に意見が一致した。
「決まりですね」
フィリアさんが頷く。
「問題は梅干しです」
その言葉に視線が私へ向いた。
私は小さくため息を吐く。
「そこなんですよね......」
梅そのものはある。
塩もある。
だが。
本来であればかなり時間がかかる。
それこそ半年は普通にかかる。
「出来ないんですか?」
メルが首を傾げる。
「出来ますよ」
私は即答した。
「錬金術がありますので」
会議室が静まり返った。
「......」
「......」
「......便利ですな」
誰かがぽつりと呟く。
「便利ですね」
私も否定しなかった。
「味の調整も必要ですし、試作もしないといけません」
一拍。
「ですが明日中には何とかなると思います」
「明日中......」
商会の人達が遠い目をする。
もはや驚くことにも慣れてきたらしい。
フィリアさんは資料へ視線を落とした。
そして。
「でしたら」
静かに口を開く。
「明日は最終調整」
一拍。
「問題がなければ――」
さらに一拍。
「明後日から試験販売を開始しましょう」
会議室の空気が変わった。
ここまでは企画だった。
可能性だった。
だが今の一言で違う。
商品として世に出ることが決まったのだ。
「異議はありますか?」
誰も口を開かない。
いや。
開けなかった。
ここまで来て反対する理由などなかったからだ。
「では決定です」
フィリアさんが静かに告げる。
「おにぎり弁当の試験販売を明後日より開始します」
その瞬間。
会議室の空気が一気に緩んだ。
長かった会議もようやく終わりが見えたのだ。
そして私は。
「まずは梅干し作りですね......」
ぽつりと呟く。
すると。
「頑張ってください」
「頑張ってください」
「頑張ってください」
商会の人達が綺麗に声を揃えた。
「他人事ですね?」
思わずそう返すと、
「そこはエレノア様の担当ですからな」
誰かが笑いながら答えた。
まったくその通りだった。
こうして――
王都初となるおにぎり弁当の販売計画は、ついに動き始めるのだった。
だがこのときただ一つだけ大きな誤算があることをこの会議室のメンバーは誰も知る由もなかった。
このお弁当が原因で更に事業が拡大することになるとは




