↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第三章 水面下の綻び編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
190/271

169話 冒険者の悩み、新たな挑戦①


「すみません! パン売り切れです!」


今日も開店からわずか二十分足らずで、朝に焼き上げたパンが全て完売してしまった。


追加で焼成はしている。


だが、それでも間に合わない。


他の店ならあり得ないとまで言われるほどの状況だった。


そんな状況で不満が生まれないわけもなく――


「最近ここのパン買えなくて困るのよねー」


「朝ごはんも昼ごはんも買えなくて、空腹状態で依頼をこなすから効率が悪くて悪くて......」


「ダンジョンで空腹は無謀だ!!」


そんな声で溢れていた。


当然、メルや私もこの状況を打開しようと様々な対策を講じている。


個数制限を設けたり。


前日のうちから仕込みを始めたり。


できることは一通りやってきた。


だが。


それでも状況は改善しない。


むしろ人気が上がるにつれ、問題はさらに深刻になっていた。


そして今では――


ここ最近の悩みの種として立派に成長してしまっていた。


ーー閉店後


営業を終えたアトリエの一室では、商会の者達と私達による対策会議が開かれていた。


もう何度目かわからない会議だ。


経験豊富な商会の者達。


そして父が商会長を務める大商会の娘であるフィリアさん。


そんな人達ですら頭を悩ませる状況なのだから、問題の深刻さは言うまでもない。


当然。


会議を開いたからといって、根本的な解決策が出るとは限らない。


だが、それでも考え続けるしかなかった。


今の状況を打開するためには、皆で知恵を出し合う他ないのだから。


「さて......」


メルが資料を机の上へ広げる。


「現状の問題点を改めて整理しましょう」


その一言で会議が始まった。


会議室にある黒板には、これまで実施した対策とその結果がびっしりと書き出されている。


列を分ける

→ 冒険者から不満続出で失敗


個数制限を設ける

→ 主に食べる量を必要とする冒険者や職人から不満続出


前日から仕込む

→ それでも足りない


追加焼成の回数を増やす

→ 焼き上がる前に売り切れる


黒板に書かれているのは、全て試行錯誤の末に失敗した対策ばかりだった。


「こうして見ると酷いですね......」


思わず本音が漏れる。


「私もそう思います」


メルは即答した。


「ですが問題はどの対策も間違っていないことです」


一拍。


「それでも需要が供給を上回っているんです」


会議室に重い空気が流れる。


誰も怠けたわけではない。


むしろ出来ることは全てやった。


それでも追いつかない。


だからこそ厄介だった。


本来、パンは王国で最も食べられている主食の一つだ。


そして冒険者にとっても手軽に食べられる携行食として広く親しまれている。


故に売り切れること自体は珍しくない。


だが。


需要が大きいとはいえ、一日に何度も追加焼成を行わなければならないほどではない。


ましてや、うちのパンは酵母による発酵という違いこそあるものの、根本的にはパンであることに変わりはない。


貴族向けの高級菓子のような希少品でもなければ、他では手に入らない特別な食材を使っているわけでもない。


それなのに。


何故か需要だけが異常な速度で増え続けていた。


「うちのパンって何か特別な物でしたっけ......?」


本音をぽつりと呟く。


その言葉にフィリアさんは少し考え込む。


「強いて言えば、他では見ないような種類があるということと、ここが一番美味しいという声があるくらいですかね?」


「それだけですか?」


思わず聞き返してしまう。


「それだけと言いますが......」


フィリアさんは苦笑した。


「美味しくて種類が豊富というだけで十分な強みですよ?」


一拍。


「それにエレノア様の考案するパンは、甘い物から食事向けまで幅広いですからね」


「確かに他では見ませんな」


商会の者も頷く。


「普通のパン屋は数種類が限界です」


「ですがこちらは新商品が次々と出てきますからな」


「それにしても需要高すぎません......?」


思わず本音が漏れる。


「それはそうですね......」


フィリアさんも苦笑する。


「正直なところ、私達もここまでとは思っていませんでした」


一拍。


「値段も他店より一割から三割ほど高いですし、市民や冒険者にとって手が届かない価格ではありませんが、決して安いわけではありませんからね......」


「確かに」


私も頷く。


安さだけであれば他にも選択肢はある。


それなのに。


皆わざわざうちのパンを買いに来ているのだ。


「それに」


フィリアさんは続ける。


「冒険者の方々は依頼の合間やダンジョンへ向かう前に購入される方が多いんです」


「......なるほど」


少しだけ見えてきた気がした。


「つまり需要が高いのはパンだからではなく――」


一拍。


「手軽に食べられる食事だから、ということですか?」


その言葉にフィリアさんが頷く。


「可能性としては高いですね......」


そして商会の者も口を開く。


「利用者の割合は冒険者が四割を占めており、続いて主婦、職人と続きます。」


一拍。


「そう考えると、一度冒険者向けの新商品を出すなり、何らかの対策を講じるのが自然かと......」


「冒険者向けですか......」


私は考え込む。


確かに。


現在最も困っているのは冒険者達だ。


朝食として。


昼食として。


携行食として。


パンを購入している。


故に売り切れの影響を最も受けているのも彼らだった。


「ですが、何を売るんですか?」


私が首を傾げる。


「そこなんですよね......」


フィリアさんが苦笑する。


結局そこへ戻ってしまうのが現状だった。


少額でも利益を出しつつ、誰でも手が出せる価格にする。


言葉にするのは簡単だが、その条件を満たす商品を作るとなると話は別だ。


会議室には再び沈黙が訪れる。


「......」


「......」


「......」


私自身は、別の意味でお金に困っているので赤字でも全然気にしない。


むしろ困っている人がいるなら安く提供した方が良いとすら思っている。


だが。


「それは駄目です」


メルが即答した。


「何故ですか?」


「商売だからです」


これまた即答だった。


「利益が出なければ継続できません」


「うっ......」


反論できなかった。


「それに」


今度はフィリアさんが口を開く。


「赤字で販売すると周囲のお店にも影響が出ますからね」


「うっ......」


あまりにも正論だった。


実際、過去にも似たような提案をしたことがある。


困っている人がいるなら安く売ればいいのではないか。


そんな私の提案は――


『市場が壊れます』


の一言で却下された。


そしてその後、商会の人達から「安さだけで競争が始まると、最終的に誰も利益を出せなくなる」と説明を受け、私も無闇に値下げする危険性を理解した。


「赤字前提の対策はだめですからね?」


メルが念を押すように言う。


「わかってますよ......」


私は小さく肩を落とした。


結局。


利益を出しつつ。


誰でも手が届く価格に抑え。


なおかつ冒険者の需要を満たす。


そんな都合の良い商品は見つかっていない。


そして今日も――


有効な解決策が出ることはなかった。


会議室には重苦しい沈黙が流れる。


「......」


「......」


「......」


誰もが頭を悩ませていた、その時だった。


「でしたら」


静寂を破ったのはメルだった。


「発想そのものを変えてみませんか?」


「発想を変える......?」


「はい!」


正直なところ、メルの言いたいことがよくわからなかった。


だが、メルは構わず続ける。


「そもそも、なんで冒険者はパンを多く買うんでしょうか?」


「それは......」


私は少し考える。


「手軽だから?」


すると。


後ろで静かに話を聞いていた隊員の一人がぽつりと呟いた。


「少量だけでは、消費するカロリーに対して全然足りないからですかね」


「カロリー?」


聞き慣れない商会の人達が首を傾げる。


「ああ、食事から得られるエネルギー量のことです」


私は補足する。


「例えばパン一個だけだと昼過ぎにはお腹が空きます」


隊員は続けた。


「特にダンジョンに潜る日はかなり動きますからね」


一拍。


「正直なところ、パンを何個も買うのは腹を満たすためです」


「......なるほど」


フィリアさんが頷く。


「つまりパンが欲しいわけではない、と」


「そうですね」


隊員も頷いた。


「手軽に食べられて、お腹に溜まる物なら別にパンじゃなくてもいいです」


その言葉にメルが補足するように続ける。


「私のお父さんもお母さんも王都を出る時は、いつもすごい量の食料を準備していましたからね」


一拍。


「パンだけだと追いつかないと思うんです」


「......確かに」


フィリアさんも頷く。


「長期間の移動や仕事となると、それだけでは足りませんね」


「ですよね?」


メルは嬉しそうに頷く。


そして。


「つまり皆さんが求めているのはパンではありません」


会議室を見回しながら言った。


「食事です」


「......!」


その言葉に私は思わず目を見開く。


そうか。


今まで私達はパンが足りないと思っていた。


だが違う。


冒険者達が求めていたのは――


手軽に食べられる食事そのものだったのだ。


「ですが、パン以外で手軽にエネルギーを補給する方法って限られませんか?」


商会の人が疑問を投げかけた。


「そうですね......王都ですと安定的に入手できるのは小麦です。」


一拍。


「お米もあることはありますが、輸入頼みになるので安定して生産することはできません。」


「ですよね」


商会の人も頷く。


「だから皆パンを選ぶわけですし」


会議室の空気が再び重くなる。


「気候的には国内でお米を生産することは可能ですよ?」


私がそう言うと。


「そうなんですか?」


商会の人達が驚いたような表情を浮かべた。


「はい」


私は頷く。


「少なくとも栽培自体は可能です。」


一拍。


「ただし問題は別です。」


「別?」


「お米は普通の野菜よりも水の管理や雑草の処理など、手間がかかります。」


一拍。


「気候的には育てられるとしても、生産に適した場所はかなり限られますね。」


「なるほど......」


商会の人が頷く。


「つまり小麦のように王国全土で生産できるわけではないと」


「そういうことです」


私は頷いた。


「ただし、お米には小麦にはない利点もあります。」


「利点ですか?」


「はい」


一拍。


「お米はパンと比べて消化が緩やかなので、腹持ちが良いんです。」


「なるほど......」


隊員が納得したように頷く。


「確かに遠征の時は腹持ちの良い食事の方が助かりますね。」


「そうなんです。」


私は続ける。


「だから本来であれば、お米も選択肢としてはかなり優秀なんですよ。」


一拍。


「安定供給できないという問題さえなければ、ですが。」


私の話を聞いたフィリアさんが顎に手を当てる。


「なら、今月の予算はかなり余っていますね」


「はい?」


何故そこで予算の話になるのだろう。


「試験的に輸入してみるのはどうでしょう?」


「輸入ですか?」


「ええ」


フィリアさんは頷く。


「少なくとも需要があるかどうかは調べられます。」


一拍。


「畑を作るにしても、その後で十分でしょう」


「さっきまで赤字前提はダメって言ってましたよね?」


私は眉をひそめる。


するとフィリアさんは苦笑した。


「エレノア様と違って、大赤字前提ではありませんからね」


「失礼じゃないですか?」


「事実ですので」


即答だった。


「うっ......」


反論できない。


「そもそも今回の話は投資です」


フィリアさんは続ける。


「需要の有無を確認するための試験販売。」


「将来的な生産体制の構築。」


一拍。


「利益を出すためにお金を使うのと、赤字覚悟で安売りするのは全く別の話なんですよ」


「......なるほど?」


正直よくわからない。


だが。


会議室の全員が頷いているので、多分そういうものなのだろう。


「そうと決まればお米をある分だけ買いましょう!」


一拍。


「余ったら余ったで私たちが消費すればいいので」


またしてもとんでもない提案をするフィリアさんーー


「ちょっと待って! 話大分ズレてる!!」


メルの声が会議室に響き、空気が一気に現実へ引き戻された。


「今は“米の輸入計画”じゃなくて、“パン不足の解決”の話です!」


「……そうでしたね」


フィリアさんは悪びれもなく頷いた。


「つい話が広がってしまいました」


「広がりすぎです……」


思わず肩を落とす。


ただ、完全に無駄話というわけでもないのが厄介だった。


米の話は確かに“食事そのものが足りていない”という本質には触れている。


だからこそ余計にややこしい。


メルは咳払いをして、黒板の前に立った。


「では整理します」


チョークが軽く鳴る。


「冒険者が求めているのは“パン”ではなく“腹持ちの良い食事”」


「はい」


「そして現状、パンは手軽だけどカロリー効率と携行性に限界がある」


「そうですね」


メルは一拍置いて、黒板に新しい文字を書く。


『問題:携行食としての限界』


「つまり、方向性を変えればいいんです」


「方向性?」


私は首を傾げる。


メルは少しだけ間を空けてから、はっきりと言った。


「パンにこだわる必要、もうないですよね?」


その瞬間、会議室が静まり返る。


「……それは」


商会の一人が慎重に口を開く。


「看板商品を捨てるという話になりますが」


「捨てません」


メルは即答した。


「“主力を増やす”だけです」


その言葉に、空気が少しだけ動く。


「主力を増やすですか......」


メルの言葉に会議室に一筋の光が見えてきたのだった。

























評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。