167話 同盟国からの依頼、突然の来訪
ーー王城・応接室
この日、王城には一人の来客が訪れていた。
ユグアッシュ王国より派遣された外交官。
長旅の疲れを感じさせる様子こそないが、その表情には隠しきれない焦りが浮かんでいる。
対面するのはセレディア王国の外務大臣ーー
応接室内は、緊張感に包まれていた。
「セレスティア伯爵をそちらに派遣して欲しい......ですか......」
「はい......」
ユグアッシュ王国の外交官は申し訳なさそうな表情を浮かべている。
情報によれば、ユグアッシュ王国では季節外れの風邪が猛威を振るっており、経済そのものが麻痺しているという報告を事前に受けていた。
「ある程度事情は把握しておりますが、念のため理由をお聞かせいただいてもよろしいですか?」
外務大臣の問いに、外交官は静かに頷いた。
「お察しの通りです」
一拍。
「我が国では現在、原因不明の風邪が流行しております」
「……」
「当初はよくある流行病だと考えられていました」
外交官の表情が曇る。
「しかし症状が長引く者が多く、治療を受けても快方へ向かわない者が続出しました」
一拍。
「そして貴族や大商会の一部の者達が保有していたセレスティア伯爵製のポーションを使用したところ、症状が改善したという報告が相次いだのです」
外務大臣は静かに眉をひそめた。
「つまり」
「はい」
外交官は深く頭を下げる。
「藁にも縋る思いで参りました」
「どうかセレスティア伯爵のお力をお貸し頂きたいのです」
その光景や逼迫した様子から誰の目から見ても急を要するのは理解できる状態ではあるのは確かだった。
だがーー
「申し訳ないのですが、私だけでは判断出来ませんので回答までにお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
外務大臣は静かにそう答えた。
外交官の表情に僅かな落胆が浮かぶ。
しかし。
「もちろんです」
すぐに頭を下げた。
「本来であれば国王陛下へ直接お願いすべき案件であることは理解しております」
「ご理解いただき感謝します」
外務大臣は頷く。
「それと、正直申し上げますと派遣はかなり難しいかと思います……」
外交官の表情が僅かに強張る。
「やはり、ですか……」
落胆を隠しきれない声だった。
だが外務大臣は首を横に振る。
「誤解しないでいただきたいのですが、我々も貴国の状況を軽視している訳ではありません」
一拍。
「むしろ事態は想像以上に深刻だと認識しております」
「でしたら……」
「問題は別にあります」
外交官は口を閉じた。
外務大臣は静かに言葉を続ける。
「理由はいくつかあるのですが……」
外務大臣はそう前置きすると、静かに言葉を続けた。
「まず一つ目ですが、セレスティア伯爵への直接的な窓口は陛下となっております」
一拍。
「最終的な判断を下すのも陛下です」
外交官は静かに頷く。
それは当然だ。
他国への派遣要請。
しかも国家規模の問題である。
一大臣の判断だけで決められる話ではない。
「そして二つ目」
外務大臣は少し表情を引き締めた。
「セレスティア伯爵は、陛下ですら直接的な命令を下すことが難しい立場にあります」
外交官が目を見開く。
「……それはどういう意味でしょうか?」
当然の疑問だった。
貴族である以上、国王の臣下である。
ならば命令できるのではないか。
そう考えるのが普通だ。
「詳細は国家機密に該当するため申し上げることは出来ません」
外務大臣は静かに答える。
「ですが、国家運営において非常に重要なお方とだけお伝えしておきましょう」
外交官は思わず息を呑んだ。
国家運営。
その言葉の重みは理解できる。
伯爵一人に対して使う言葉ではない。
少なくとも普通ならば。
「……それほど、なのですか」
「はい」
外務大臣は迷うことなく頷いた。
「セレスティア伯爵が関係するものだけで、王国全体の総生産の三割は確実に超えます」
沈黙。
外交官は思考が停止した。
聞き間違いかと思った。
だが、外務大臣の表情に冗談を言っている様子は一切ない。
「……三割、とおっしゃいましたか?」
「はい」
外務大臣は即答した。
「それらのほぼ全てがセレスティア伯爵のポーション事業、及びそこから派生した産業によるものです」
外交官は息を呑む。
「……」
外務大臣は淡々と続ける。
「ポーションの製作」
「錬金術によって生み出された数々の製品」
「エレノアのアトリエが生み出す利益」
一拍。
「それら全てが、現在のセレディア王国を支える重要な産業となっています」
外交官の表情が徐々に強張っていく。
「故に」
外務大臣は静かに告げた。
「よほどの事情がない限り、我が国とて簡単にセレスティア伯爵家を動かすことは出来ません」
「……」
「それが例え陛下からの要請であったとしてもです」
応接室に沈黙が落ちる。
外交官はようやく理解した。
セレスティア伯爵は単なる優秀な錬金術師ではない。
国家を支える巨大産業の中心人物なのだと。
「それほどのお方なのですね......」
外交官は静かに呟いた。
「それほどのお方なのです」
外務大臣は即答した。
その声に迷いはない。
一拍。
「仮にセレスティア伯爵本人が了承し、陛下からの承認も得られたとしましょう」
外交官は黙って耳を傾ける。
「ですが」
外務大臣の表情が僅かに厳しくなる。
「もし派遣先でセレスティア伯爵に万が一のことがあった場合――」
応接室の空気が張り詰めた。
「貴国にも相応の責任を負っていただくことが絶対条件となります」
「......っ」
外交官の表情が強張る。
外務大臣は淡々と続けた。
「怪我」
「誘拐」
「暗殺未遂」
「事故」
「その他あらゆる不測の事態」
一拍。
「その全てに対し、我が国は極めて重く受け止めることになるでしょう」
脅しではない。
事実だった。
それほどまでにセレスティア伯爵という存在は大きい。
「もちろん我々も護衛を付けます」
「ですが国外となれば、我が国だけで全てを管理することは出来ません」
外交官は無意識に唾を飲み込む。
今、自分が招こうとしている人物が何者なのか。
ようやく実感し始めていた。
「そして何より――」
外務大臣の声が低くなる。
「セレスティア伯爵には絶対に“万が一”が許されません」
応接室の空気が張り詰めた。
「エレノア様は裏社会では非常に有名なお方です」
外交官の眉が僅かに動く。
「有名……ですか?」
「はい」
外務大臣は迷いなく頷いた。
「莫大な利益を生み出すポーション」
「他国ですら再現できない錬金術」
「数々の新技術」
「そして膨大な富」
一拍。
「当然ながら、それを狙う者も存在します」
外交官は静かに息を呑んだ。
「誘拐」
「脅迫」
「技術の強奪」
「暗殺」
「過去にも未遂は複数回確認されています」
淡々とした説明だった。
だからこそ重い。
「貴国は――」
外務大臣は真っ直ぐ外交官を見据える。
「それでもセレスティア伯爵を招きたいとお考えですか?」
一拍。
「命に代えてでも守り切る覚悟はありますか?」
「......」
外務大臣から発せられる言葉一言一言に、とてつもない重みがのしかかっていた。
外交官は拳を握り締める。
正直なところ。
ここまでの話になるとは思っていなかった。
季節外れの風邪が流行している。
それを治療できる可能性がある人物がいる。
だから助力を願いに来た。
ただ、それだけだった。
だが。
話を聞けば聞くほど、その認識が甘かったことを思い知らされる。
セレスティア伯爵は単なる錬金術師ではない。
一国の経済を支える存在。
一つ一つの技術が他国が欲する物であること。
そして。
裏社会ですらその名を知らぬ者がいないほどの人物。
「......」
外交官は静かに息を吐いた。
もしそんな人物がユグアッシュ王国で傷付けばどうなるか。
想像するだけで背筋が冷える。
友好国ではなくなるだけだったらまだいい。
だが実態は確実に国家間の問題になりかねない。
最悪の場合、戦争すら起こり得る。
もちろん。
外務大臣はそこまで一言も口にしていない。
だが。
国家に仕える外交官だからこそ理解できる。
セレスティア伯爵という存在は、それほどまでに重い。
一人の伯爵。
本来であればそう表現されるはずの人物。
しかし実際は違う。
その背後には王国経済の根幹を支える巨大産業がある。
数え切れない雇用がある。
莫大な税収がある。
そして。
セレディア王国という国家そのものがある。
「......」
外交官は拳を握り締めた。
自分は今。
優秀な錬金術師の派遣を願っているのではない。
一国の重要人物。
場合によっては国家戦略級とも言える人物の派遣を願っているのだ。
その事実が今更ながら重くのしかかる。
「......失礼を承知でお聞きします」
外交官はゆっくりと顔を上げた。
「そこまで重要なお方であるならば、何故セレディア王国はセレスティア伯爵を自由に活動させているのですか?」
外務大臣は一瞬だけ目を見開いた。
だが。
すぐに苦笑を浮かべる。
「簡単な話です」
一拍。
「誰も止められないからですよ」
外交官は思わず固まった。
「......はい?」
「セレスティア伯爵を拘束することによる損失と、自由に活動していただく利益を比較した結果です」
外務大臣はさらりと言う。
「王国は後者を選びました」
その答えに。
外交官は改めて理解する。
セレスティア伯爵は王国に従属する存在ではない。
王国が最大限の敬意を払って共存している存在なのだと。
「それに先程も申し上げましたが、セレスティア伯爵は王国にとって非常に重要なお方です。」
一拍。
「そのようなお方の不興を買いでもしたらどうなるかわかりませんので......」
「......」
外交官は思わず言葉を失う。
国家の外務大臣が。
一人の伯爵に対してそこまで言うとは思わなかった。
もちろん。
それは恐怖ではない。
少なくとも外務大臣の表情からはそう読み取れた。
むしろ。
敬意。
そして感謝。
その二つが近いように見える。
「誤解しないで頂きたいのですが」
外務大臣は静かに続ける。
「セレスティア伯爵は非常に温厚なお方です」
「......そうなのですか?」
「ええ」
即答だった。
「寧ろこちらが心配になるほどお人好しです」
一拍。
「利益にならない依頼でも引き受けますし、困っている人がいれば手を差し伸べる。」
「王都では有名な話ですよ」
外交官は少し驚いた表情を浮かべる。
ここまで聞いてきた話だけなら。
もっと近寄りがたい人物を想像していた。
「ですが」
外務大臣の声色が少しだけ変わる。
「だからこそです」
「?」
「善意に甘え続ければ、いずれその善意は失われます」
応接室が静まり返る。
「我々はセレスティア伯爵を利用するのではなく、協力をお願いしているのです。」
「それは陛下も同じです。」
一拍。
「だからこそ、王国はセレスティア伯爵の意思を最優先します。」
外交官は静かに頷いた。
ようやく理解できた気がした。
セレディア王国がエレノアを特別扱いしているのではない。
エレノアが積み上げてきた功績と信頼に対し、相応の敬意を払っているだけなのだ。
そして。
その敬意を失えば。
最も困るのはセレスティア伯爵ではなく、王国の方なのだろう。
「......なるほど」
外交官は深く息を吐いた。
「ようやく理解できました」
彼は当初、優秀な錬金術師の派遣を願いに来たつもりだった。
だが今は違う。
自分は一国の重要人物に対し、命懸けの依頼をしようとしているのだと理解していた。
「それほどのお方なのでしたら、覚悟を決めたうえで是非お力添えをいただきたいと私自身は考えています」
「ですが――」
一拍。
「恥ずかしながら、これほどまでのお方だとは想定しておりませんでした故、一度上の者と協議の上お願いしてもよろしいでしょうか?」
外務大臣は小さく目を見開いた。
そして。
静かに頷く。
「ええ。その方がよろしいでしょう」
即答だった。
「むしろ私としてもそのようにしていただきたい」
外交官は少しだけ安堵した表情を浮かべる。
外務大臣は続けた。
「先程申し上げた内容は決して大袈裟な話ではありません」
「はい」
「セレスティア伯爵の身に何かあれば、王国全体が揺らぎます」
一拍。
「だからこそ我々も軽々しく了承することは出来ません」
外交官は静かに頷いた。
その言葉の重みは十分理解している。
「その上で」
外務大臣は真っ直ぐ外交官を見る。
「貴国が正式に依頼されるのであれば、我々も陛下へ上申いたしましょう」
「……ありがとうございます」
外交官は深く頭を下げた。
だが。
外務大臣の表情はまだ真剣なままだった。
「ただし」
「?」
「仮に陛下が承認されたとしても、最後に決めるのはセレスティア伯爵ご本人です」
外交官は一瞬だけ固まる。
「ご本人……ですか?」
「はい」
外務大臣は迷うことなく頷いた。
「セレスティア伯爵は王国の臣下です」
一拍。
「ですが同時に、誰にも代えられない存在でもあります」
「故に最終的な意思は本人の判断を尊重しております」
外交官は内心驚いていた。
普通ならあり得ない。
国王が命じれば終わる話だ。
しかし。
ここまで話を聞いた今なら理解できる。
セレディア王国はエレノアを縛るのではなく、信頼によって共に歩んでいるのだと。
「……承知しました」
外交官は静かに立ち上がった。
「まずは本国へ戻り、正式な回答を持って参ります」
その声には、先程までの焦りではなく覚悟が宿っていた。
そして外務大臣は心の中で思う。
――さて。
問題は陛下でもない。
ユグアッシュ王国でもない。
一番の問題は。
「エレノア様が面白そうだからという理由で即答しないことを祈るばかりですね……」
思わず本音が漏れた。
「え?」
外交官が聞き返す。
「いえ、何でもありません」
外務大臣は即座に誤魔化したのだった。
ーーユグアッシュ王国・執務室
「外交官からの報告は以上です」
その言葉と同時にユグアッシュ国王は、外務大臣より手渡された報告書を見始める。
「セレディア王国がそれほど重要視する方か......」
その横で宰相は眉をひそめる。
「これが帝国なら100%嘘だと結論付けることもできますが、セレディア王国となると事実でしょうな......」
宰相は静かにそう告げた。
「理由は?」
国王が尋ねる。
「セレディア王国にそのような虚偽を述べる理由がありません」
一拍。
「むしろ逆です」
「逆?」
「もし誇張であれば、セレスティア伯爵を派遣しない理由として使うはずです」
国王は報告書へ視線を落とす。
確かにその通りだった。
断るのであれば、
"現在多忙である"
"国内事業を優先する"
"護衛上の問題がある"
その程度で十分だ。
わざわざ国家機密に触れながら説明する必要はない。
「それにも関わらず詳細な説明を行った......か」
「はい」
宰相は頷く。
「つまりあの国は脅したいのではなく、我々に正しく理解させたかったのでしょう」
「私もそう結論付けています」
その言葉と共に執務室は沈黙に包まれた。
普通なら――
"そんな話はありえない"
その一言で片付いてしまう。
事実、多くの外交をこなしていると嫌というほどありえない話が飛び出してくる。
存在しない鉱山の採掘権。
誇張された軍事力。
水増しされた生産量。
王族や貴族による見栄や虚勢。
国益のための駆け引き。
それらは外交の場では珍しくもない。
だからこそ。
外交官も宰相も国王も、他国からもたらされる情報を鵜呑みにすることはない。
まず疑う。
そして裏を取る。
それが当然だった。
だが今回に限っては違う。
その話が――
"誇張も嘘もあり得ないセレディア王国自身が詳細に語ったうえで告げられた事実"
だからだ。
もし相手が別の国であれば。
話半分で聞き流していただろう。
あるいは大袈裟に語っているだけだと結論付けていたかもしれない。
だが。
セレディア王国は違う。
対帝国派諸国の中で最大の強国。
経済。
軍事。
人口。
外交。
どれを取ってもセレディア王国を上回る国は存在しない。
少なくとも現在の大陸情勢においては事実上の盟主と言っても差し支えない存在だった。
そんな国が。
わざわざ一人の伯爵を大袈裟に見せるためだけに虚偽を語る。
そのようなメリットはどこにも存在しない。
むしろ失うものの方が遥かに大きい。
国家としての信用。
外交的な発言力。
同盟国からの信頼。
それら全てを危険に晒してまで行う価値がない。
「もし虚偽だと発覚すれば、失うのはセレスティア伯爵の評価ではありません」
宰相が静かに告げる。
「セレディア王国そのものの信用です」
国王は無言で頷いた。
強国であればあるほど信用は重い。
一度失われれば取り戻すのは容易ではない。
ましてやセレディア王国ほどの立場であれば尚更だ。
「つまり」
外交官が口を開く。
「彼らは嘘をつく必要がない」
一拍。
「そして、嘘をつく利益もない」
「その通りです」
宰相は即答した。
「だからこそ我々は、この話を事実として扱わなければならないのです」
再び沈黙が落ちる。
誰も反論しなかった。
反論できなかったと言った方が正しい。
なぜなら。
彼ら自身も理解していたからだ。
セレディア王国がここまで明確に語った以上、
"セレスティア伯爵は国家にとって極めて重要な人物である"
その前提だけは疑いようがないことを。
そして――
そのような人物を国外へ招こうとしている自分たちの依頼が、どれほど重大なものなのかも。
執務室は静まり返っていた。
誰も軽々しく言葉を発せない。
それほどまでに報告書の内容は重かった。
そして。
ユグアッシュ国王は静かに立ち上がる。
「......私自身がもう一度セレディア王国へ行く」
その一言に。
執務室の空気が変わった。
「陛下!?」
外交官が思わず声を上げる。
宰相も目を見開いていた。
「それはあまりにも危険です」
「いくら友好国で同盟国であるといえど危険すぎます!!」
当然の反応だった。
一国の王が国外へ赴く。
それだけでも十分な大事である。
まして今回は視察ではない。
事実上の要請。
いや――
場合によっては懇願と言ってもいい。
「危険なのは理解している」
国王は静かに答えた。
「ですが陛下――」
外交官が言葉を続けようとする。
しかし。
国王はそれを手で制した。
「では聞こう」
静かな声だった。
だが。
その場にいた誰もが口を閉ざす。
「余が行かずに済む理由はあるのか?」
「それは......」
外交官は言葉に詰まる。
国王は続けた。
「セレディア王国は我が国へ誠意を示した」
「本来ならば国家機密として伏せてもよい情報まで開示した」
一拍。
「それほどの話を聞かされた以上、こちらも相応の誠意を示さねばならん」
誰も否定できなかった。
「それに」
国王は静かに続ける。
「これほどまでの話を、私自身が判断する必要があると思わないかね?」
「......」
外交官は言葉を失う。
「報告書だけで判断できる話ではない」
「セレスティア伯爵という人物がどのようなお方なのか」
「セレディア王国が何故そこまで重要視するのか」
一拍。
「そして本当に我が国へお招きして良いお方なのか」
国王は真っ直ぐ二人を見据えた。
「それを確かめる責任が余にはある」
宰相は静かに目を閉じる。
確かにその通りだった。
普通の貴族ならば話は別だ。
だが今回の相手は違う。
王国総生産の四割以上に関わる人物。
国家機密に触れるほど重要な存在。
そのような人物を招くか否かを、報告書だけで決める方が無責任と言える。
「......確かに」
宰相がゆっくりと口を開いた。
「陛下のお言葉にも一理ございますな」
外交官が驚いた顔を向ける。
「宰相閣下まで!?」
「だが危険なのも事実だ」
宰相は真剣な表情で続ける。
「故に護衛は最大限に増やします」
「移動経路も全て再確認する」
「もちろんだ」
国王は頷いた。
そして。
「何より」
一拍。
「余は一度、セレスティア伯爵本人と話をしてみたい」
その言葉に執務室は再び静まり返った。
報告書に記された人物像。
国家を支える錬金術師。
数々の産業を生み出した天才。
そして。
セレディア王国が王族ですら簡単には動かせないと語る存在。
そんな人物が一体どのような人間なのか。
国王自身、純粋に興味を抱いていた。
「......わかりました」
外交官は深く頭を下げる。
「陛下がそこまでお考えなのであれば、私も全力で準備いたします」
こうして。
ユグアッシュ国王自らによるセレディア王国訪問が決定したのだった。




