149話 護衛対象、地球で暴走中②
いよいよ決戦の日――5月30日。
前日のうちに出来る準備は全て終わらせていた。
店舗位置確認。
移動導線整理。
交通機関確認。
販売店舗情報精査。
さらには“売り切れ時代替ルート”まで作成済み。
後はもう。
くじ運を存分に発揮するだけだった。
アトリエ側の対応も完璧である。
三日前の時点で店頭には臨時休業の張り紙を掲示。
突然の休業に驚かれはしたものの、
『体調不良ではありません』
という説明だけは徹底して周知した。
というのも。
現在のアトリエは、少し休むだけでも王都側が妙にざわつく。
ポーション供給。
薬理統制局。
予約待機列。
全部が絡んでいるせいで、下手をすると“何かあったのでは”と騒ぎになりかねない。
なので。
理由だけは絶対に誤解させない必要があった。
なお。
休業理由そのものは当然伏せている。
流石に。
『推し活のため地球遠征します』
とは書けない。
絶対に。
護衛隊の皆さんにも、
『ミストルティン様の領域へ遊びに行く』
とだけ伝えてある。
まあ。
嘘ではない。
地球へ行く際はミストルティン様の領域経由なので。
たぶんセーフである。
「絶対アウトですよね……」
エリシアが遠い目をした。
現在、ミストルティン様の部屋では今回の参加メンバーが集合している。
参加するのは――
ミストルティン様。
ソフィア様。
パルシア様。
エルヴィータ様。
そして私とメルとエリシア。
合計七人。
改めて見ると、妙に濃い集団だった。
なお。
アメリアお姉様とルーカスお兄様は学院があるため不参加である。
『流石に平日に休めないわよ!!』
『バレた時にお父様に何て説明するんだ……』
という、非常に真っ当な理由だった。
正論である。
一方カイル達は、事前予約されていた明日分のポーション制作があるためアトリエ側へ残留。
流石に全員で消えるわけにはいかなかった。
そして。
問題はエリシアである。
『エリシア』
『はい?』
『お願い』
一拍。
『あの二人が暴走しないように見張ってて!!』
――アメリアお姉様に、かなり強めに言われたらしい。
なお。
エリシア本人は。
「いや本当に何で私まで……」
現在進行形で納得していなかった。
まあ気持ちは分かる。
というか普通そうなる。
ミストルティン様の部屋には既に大量の地球グッズが並んでおり、その一角にはアイカツ!関連コーナーまで存在していた。
完全に趣味部屋だった。
「前から思ってましたけど、神様の部屋じゃないですよねここ」
エリシアが真顔で呟く。
「失礼ね!」
ミストルティン様が即座に反応した。
「ちゃんと神様っぽい場所もあるわよ!」
「どこですか?」
「……」
一瞬の沈黙。
「……魔導書棚?」
「疑問形じゃないですか」
エリシアのツッコミが鋭い。
だがその横で。
「この前のライブグッズ増えてますね」
メルが自然に棚を見ていた。
もう馴染みすぎている。
「増えた!」
ミストルティン様が嬉しそうに頷く。
「地球行くたびに買っちゃうのよねー!」
「絶対“つい”で済む量じゃないですよねこれ……」
棚には大量のグッズ。
ぬいぐるみ。
アクリル。
CD。
雑誌。
かなり本格的だった。
ソフィア様がくすりと笑う。
「好きなものに全力なのはいいことだと思うけどね」
「だよね!!」
ミストルティン様が勢いよく頷いた。
そのまま棚へ向かい、誇らしげにグッズ群を見せ始める。
「これこの前のライブ限定アクスタ!」
「あとこっちがコラボカフェ!」
「このぬいぐるみは再販瞬殺だったやつ!」
完全に早口だった。
愛が重い。
「ミストルティン様、これ絶対収納限界超えてますよね?」
メルが苦笑する。
「まだ大丈夫!」
「その返答する人、大体大丈夫じゃないんですよ」
エリシアのツッコミが鋭い。
だが。
その横で私は棚の一角へ目を向けた。
「……あ」
「気付いた?」
ミストルティン様がにやりと笑う。
そこには以前一緒に行ったライブのグッズが綺麗に並べられていた。
ペンライト。
タオル。
限定缶バッジ。
そして。
「この時のチェキ風カード、ちゃんと飾ってたんですね」
「当然でしょ!」
ミストルティン様が胸を張る。
「思い出は大事なの!」
その顔が本当に嬉しそうで。
私は思わず少し笑ってしまった。
すると。
「……なんか普通に仲良し旅行前みたいですね」
エリシアがぽつりと呟く。
一瞬、空気が静かになる。
確かにそうだった。
最近は忙しかった。
護衛。
警戒体制。
薬理統制局。
増産。
周囲はずっと慌ただしく動き続けている。
だからこそ。
こうして集まって騒いでいる時間は、少しだけ特別だった。
「まあ今回は完全に遊びだしね!」
パルシア様が笑う。
「久しぶりに何も考えず楽しめそう!」
「久しぶりに何も考えず楽しめそう!」
「いや、一番くじのことはめちゃくちゃ考えてません?」
エリシアが即座に突っ込む。
その瞬間。
「「「あ」」」
私とメルとミストルティン様の声が綺麗に重なった。
「……忘れてた」
「忘れてないですよね絶対」
エリシアが真顔になる。
だがミストルティン様はすぐに切り替えた。
「じゃあ最終確認する?」
空気が一瞬で変わる。
「店舗ルート」
「確認済み」
「交通機関」
「問題なし」
「販売開始時間」
「全部把握済み」
「よし」
ミストルティン様が満足そうに頷く。
だがそこで、メルがふと首を傾げた。
「そういえば資金ってどうするんです?」
一瞬の沈黙。
そして。
「あ」
今度は私達全員の声が重なった。
完全に忘れていた。
地球側通貨。
つまり現金問題である。
「……流石にこっちのお金は使えないわよね」
私が小さく呟く。
「当たり前です」
エリシアが即答した。
だがミストルティン様はまったく慌てない。
「大丈夫!」
胸を張る。
「神域に地球用のお金置いてあるから!」
数秒の沈黙。
「……なんで?」
エリシアが真顔で聞いた。
「いや、地球行く時普通に必要だし?」
「“普通”の基準がおかしいんですよ……」
エリシアが疲れ切った声で呟く。
だが。
ミストルティン様はまったく気にした様子もなく、さらりと言った。
「いざとなったら金塊でも売れば百万単位のお金作れるし問題ないよ!」
一瞬。
空気が止まった。
「…………は?」
エリシアの思考が完全に停止する。
ミストルティン様は首を傾げた。
「え?」
「え? じゃないですよ!!」
ついにエリシアが叫んだ。
「発想が怖いんですよ!!」
「でも神域に普通にあるし……」
「“普通にある”の時点でおかしいんですって!!」
完全に限界だった。
エリシアがその場で頭を抱えてしゃがみ込む。
その横で。
「まあ神域、たまに宝物庫みたいになってるものね」
ソフィア様が普通に頷いた。
「前見た時、宝石山積みだったよねー!」
パルシア様も自然に会話へ混ざる。
「あと昔の貨幣コレクションもありましたよね」
メルまで頷いた。
エリシアがゆっくり顔を上げた。
「待ってください」
一拍。
「この空間、私だけ常識側なんですか?」
「今さら?」
私が素直に返すと。
エリシアは静かに天井を見上げた。
そして。
「帰りたい……」
心の底から呟いた。
だが。
「まだ出発してもないわよ?」
ミストルティン様が不思議そうに首を傾げる。
「そこなんですよ問題は!!」
エリシアの悲鳴が、ミストルティン様の部屋へ綺麗に響き渡った。
だが。
「とりあえず行くわよー!」
ミストルティン様は完全に気にしていなかった。
ぱんっと手を叩く。
次の瞬間。
床面へ巨大な魔法陣が展開される。
淡い金色の光。
空間そのものが震えるような濃密な魔力。
神域転移特有の感覚だった。
「うわっ……!」
エリシアが思わず身構える。
何度見ても慣れないらしい。
まあ普通は慣れない。
その横で。
「久しぶりねー!」
パルシア様は完全に旅行気分だった。
「この感じ好き!」
「分かる」
ミストルティン様も頷く。
神族側のテンションが軽すぎる。
エルヴィータ様が静かに術式を確認する。
「座標固定完了」
「神域接続安定」
「転移開始するわよ」
「そこなんですよ問題は!!」
エリシアの悲鳴が、ミストルティン様の部屋へ綺麗に響き渡った。
だが。
「とりあえず行くわよー!」
ミストルティン様は完全に気にしていなかった。
ぱんっと手を叩く。
次の瞬間。
床面へ巨大な魔法陣が展開される。
淡い金色の光。
空間そのものが震えるような濃密な魔力。
神域転移特有の感覚だった。
「うわっ……!」
エリシアが思わず身構える。
何度見ても慣れないらしい。
まあ普通は慣れない。
その横で。
「久しぶりねー!」
パルシア様は完全に旅行気分だった。
「この感じ好き!」
「分かる」
ミストルティン様も頷く。
神族側のテンションが軽すぎる。
エルヴィータ様が静かに術式を確認する。
「座標固定完了」
「神域接続安定」
「転移開始する」
直後。
視界が白く染まった。
身体がふわりと浮く感覚。
重力感覚が一瞬曖昧になる。
そして――
次の瞬間。
私達は神域へ到着していた。
どこまでも広がる幻想的な空。
澄み切った空気。
巨大な魔力の流れ。
世界そのものへ神気が溶け込んでいるような独特の感覚。
人間界とは根本から違う場所。
それが神々の領域――神域だった。
「わぁ……」
エリシアが思わず息を呑む。
その反応も無理はない。
初めて来れば、大抵の人間はこうなる。
だが、その直後。
「お、来たか」
聞き覚えのある声が響いた。
振り向くと、そこにはアル様が立っていた。
相変わらず軽い雰囲気だが、神域側管理の仕事中だったらしく、手には大量の書類が抱えられている。
「アル様お久しぶりです!」
「久しぶりだな、エレノア嬢」
アル様が軽く笑う。
「最近全然行けなくて二年位立ってるんじゃないか?」
「こっちもここ最近色々忙しくて……」
「知ってる知ってる」
アル様が苦笑した。
「なんか人間界側、大変なことになってるらしいな?」
「否定できないです……」
私が遠い目をした、その時だった。
「本当に久しいな」
低く穏やかな声。
空気そのものが少しだけ震える。
次の瞬間。
巨大な魔力を纏った存在がゆっくり姿を現した。
大地の精霊王。
圧倒的な存在感。
だが、その表情はどこか穏やかだった。
「本当に久しいな」
低く穏やかな声が響いた。
そこに立っていたのは、大地の精霊王だった。
大地の色を宿した長い髪。
身体には植物そのものが具現化したように蔦や葉が絡みつき、肩から腕にかけては枝葉が自然に伸びている。
静かな存在感。
だが、その雰囲気はどこか優しい。
森そのものが人の姿を取ったような存在だった。
「大地の精霊王様!」
メルとエリシアが慌てて頭を下げる。
私もぺこりと頭を下げた。
「お久しぶりです」
「うむ」
大地の精霊王は静かに頷く。
その動きに合わせ、肩口の葉がさらりと揺れた。
「最近はエングラムの調整箇所が多すぎて、我が愛し子の元へ行けなくて申し訳ないな」
穏やかな声音だった。
だが内容は相変わらず重い。
「大陸単位で流れが乱れていてな」
「地下脈修正だけでも骨が折れた」
「さらっと世界規模の話しないでください……」
エリシアが小さく呟く。
まだ完全に空気へ馴染めていないらしい。
その視線が、おそるおそる大地の精霊王へ向く。
すると。
「む?」
大地の精霊王がゆっくりエリシアを見る。
一瞬、エリシアの肩がびくりと跳ねた。
無理もない。
相手は精霊王。
それも世界そのものへ近い存在だ。
圧倒的な魔力と存在感は、近くにいるだけで本能へ訴えかけてくる。
だが。
「初めて見る顔だな」
大地の精霊王は穏やかに言った。
「あ、えっと……!」
エリシアが慌てて背筋を伸ばす。
「エ、エリシア・フォン・セレスティアです!」
「エレノア様のお世話を――」
「知っている」
一拍。
大地の精霊王は優しく目を細めた。
「セレスティア家の養子になった子であろう?」
「っ……!」
エリシアの目が少しだけ見開かれる。
「最近は我が愛し子の側でよく支えてくれていると聞いている」
「ありがとう」
静かな感謝の言葉だった。
その瞬間。
エリシアの顔が一気に赤くなる。
「い、いえそんな……!」
完全に動揺していた。
大地の精霊王は見た目こそ圧倒的だが、話し方自体はとても穏やかだ。
むしろ優しい。
だから余計に緊張する。
「ふむ」
大地の精霊王は少し考えるようにエリシアを見る。
「……なるほど」
「え?」
「よく働いている顔をしている」
「顔で分かるんですか!?」
「分かる」
即答だった。
その横でアルが吹き出す。
「ははっ、精霊王様そういうとこあるよな」
「土や植物は誤魔化せぬからな」
「意味分からないんですけど!?」
エリシアがついに悲鳴を上げた。
だが。
大地の精霊王は少しだけ楽しそうだった。
真面目な性格なのに、たまに妙なところでお茶目なのである。
そんな会話をしている間だった。
「準備できたわよー!」
奥の部屋から、やたら元気なミストルティン様の声が響く。
直後。
ガラガラガラ――。
何か重いものを運ぶ音が聞こえてきた。
一同がそちらを見る。
そして。
「……え?」
エリシアが固まった。
そこにいたのは。
大量のバッグを抱えたミストルティン様達だった。
ソフィア様。
パルシア様。
エルヴィータ様。
全員が普通に旅行準備みたいな顔をしている。
だが問題はそこではない。
問題は――
「なんで台車使ってるんですか……?」
エリシアの声が震える。
ミストルティン様は当然のように答えた。
「お金重いから」
「お金」
嫌な予感しかしなかった。
ミストルティン様は満面の笑みで袋を開ける。
次の瞬間。
ぎっしり詰まった札束が見えた。
「…………」
空気が止まる。
「あと金塊」
ゴトン。
追加で置かれた木箱。
中に入っていたのは、眩しいぐらい綺麗な金塊だった。
「なんであるんですかそんなもの!!!」
エリシアの絶叫が神域へ響き渡る。
だがミストルティン様は不思議そうに首を傾げた。
「いや、地球行く時普通に必要だし?」
「“普通”の基準がおかしいんですよ……!!」
その横で、パルシア様が穏やかに笑う。
「一応、地球側通貨への換金用ね~」
「一応って量じゃないですよね!?」
「まあ余ったら向こうで美味しいもの食べればいいし」
「旅行感覚で言わないでください!!」
もうエリシアのツッコミが追いついていない。
ソフィア様が小さく苦笑する。
「ミストルティン、流石に持ち込み量多すぎない?」
「えー? でもラストワンまで行く可能性あるし」
「本気すぎる……」
メルが引きながらも若干目を輝かせている。
もう駄目かもしれない。
さらに。
「あと念のため店舗巡回用交通費!」
ドサッ。
「緊急追加戦費!」
ドサッ。
「予備資金!」
ドサッ。
「どれだけ回る気なんですかぁぁぁ!!!」
エリシアがついに頭を抱えてしゃがみ込んだ。
その横で。
大地の精霊王が静かに木箱を見る。
「……相変わらず極端だな」
「推し活に妥協は不要よ」
ミストルティン様が真顔で返す。
アルがとうとう吹き出した。
「はははっ! いやもう完全に遠征軍なんだわこれ!」
だが。
ミストルティン様はまったく気にしていなかった。
むしろ当然と言わんばかりに腕を組む。
「まあ最悪、足りなくなっても大丈夫だし」
「え?」
エリシアが顔を上げる。
ミストルティン様はさらっと言った。
「いつでもその気になれば生成できるし」
一瞬。
空気が止まった。
「……………………はい?」
エリシアの声が完全に死んでいた。
ソフィア様が苦笑する。
「そもそも私たちに生成できないものなんてないし、ダンジョン用に定期的に生成するからこのくらい問題ないのよ」
一瞬。
エリシアの思考が止まった。
「……はい?」
「だから、金とか希少鉱石とかは定期補充してるの」
ソフィア様はさらっと続ける。
「ダンジョン内資源が完全固定だと循環が止まるでしょう?」
「循環」
「生態系維持も兼ねてるから、一定周期で再生成してるのよ」
「再生成」
単語だけは理解できる。
だが。
内容が理解できない。
「ちなみに高純度魔鉱石系はエルヴィータ担当ね」
「ええ」
エルヴィータ様が静かに頷いた。
「属性偏りが出ないよう調整する必要があるので」
「調整」
「地下深層部は特に難しいわねぇ」
パルシア様まで普通に会話へ混ざる。
「この前なんて火属性濃度上がりすぎて溶岩層暴走しかけたし」
「そうそう」
「笑い話じゃないですよね!?」
エリシアが限界顔で叫ぶ。
だが誰も止まらない。
大地の精霊王が静かに頷いた。
「資源循環は世界維持に必要だからな」
「精霊王様まで自然に会話へ参加しないでください!!」
「む?」
本気で不思議そうな顔だった。
アルはもう完全に笑っている。
「いやー、一般人視点だと結構衝撃なんだわそれ」
「一般人じゃなくても衝撃ですよ!!!」
エリシアが即座に反論した。
するとミストルティン様が真顔で言う。
「でもお金は必要でしょ?」
「論点そこじゃないんですよ!!」
「推し活には資金力も大事だし」
「そのために世界法則レベルの話しないでください!!」
もう収拾がつかなかった。
その横で。
私は金塊を見ながら小さく呟く。
「でもこれ、地球側換金かなり大変そうね」
「あ、それ用の身分とか口座も作ってあるわよ?」
「準備が良すぎるんですよぉぉぉ!!!」
エリシアの悲鳴が神域へ綺麗に響き渡る。
だが。
そんな空気の中でも、ミストルティン様は完全に通常運転だった。
「よーし、それじゃそろそろ行きましょうか!」
ぱん、と手を叩く。
瞬間。
部屋の中央へ巨大な魔法陣が展開された。
淡い光。
複雑な紋様。
そして空間そのものが揺らぐような神力。
「うわっ……!?」
エリシアが思わず後ずさる。
「大丈夫よー」
パルシア様が笑う。
「いつもの転移だから」
「“いつもの”が怖いんですよ……!」
その横で、メルは既に荷物確認を始めていた。
「財布よし、スマホよし、充電器よし……」
「完全に旅行前なのよねぇ」
ソフィア様が楽しそうに笑う。
アルは呆れたように肩を竦めた。
「しかし本当に一番くじのためだけに異世界移動するとはなぁ」
「大事なことでしょ?」
ミストルティン様が真顔で返す。
「……否定はしない」
アルが遠い目になった。
大地の精霊王も静かに頷く。
「好きなものへ全力なのは良いことだ」
「精霊王様まで肯定しないでください……」
エリシアの声がどんどん弱くなっていく。
もう諦め始めていた。
ミストルティン様は満足そうに笑うと、転移陣の中心へ立った。
「それじゃ――」
一拍。
満面の笑み。
「推し活遠征、開始よ!!」
「おー!!」
私とメルの声が重なる。
「なんでメルまでノリノリなんですかぁぁぁ!!」
エリシアの叫びを置き去りにしながら。
神族と伯爵令嬢による、あまりにも規模がおかしい一番くじ遠征が――
ついに始まったのだった。
そして。
「じゃあまたあとでねー!」
ミストルティン様の軽い声と同時に。
眩い光が、全員を包み込む。
次の瞬間。
神域から、七人の姿が綺麗に消え去った。
行き先――地球。




