143話 夜空の下の休息、緊迫する会議室
この日、セレディア王国には満天の星空が広がっていた。
夜空を埋め尽くす無数の星々。
その輝きは、まるで空そのものが宝石で彩られているかのようだった。
中でも今夜は、数年に一度しか訪れない特別な夜。
白銀の環を纏う《白環月》と、枝分かれする光の帯を夜空へ広げる《星樹》が同時に現れる日だった。
その幻想的な光景を見るため、王都では灯りを控える家も多い。
普段なら夜遅くまで賑やかな通りですら、今日はどこか静かだった。
そのおかげか、夜空はいつも以上にはっきりと見える。
星々は瞬くたびに色を変え、《星樹》の淡い蒼光が空をゆっくりと横断していく。
そして――
セレスティア伯爵家二階の大きなバルコニーでも、その絶景を楽しむ姿があった。
設置された天体望遠鏡を真剣な表情で覗き込むカイル。
王都全体が静まり返っているからこそ、その美しさはより際立っていた。
「今日は天気に恵まれてよかったね」
圧巻の光景を目にしつつ私はぽつりと呟く
月明かりを楽しみながら、優雅に紅茶を口にするエリシアとアメリアお姉さま。
その隣では、身を乗り出すように夜空を見上げるメルとルーカスお兄様の姿。
「わぁ……すごい……!」
メルの声が、静かな夜へ溶けていく。
白環月の銀光が私たちの髪を淡く照らし、《星樹》の蒼い輝きがゆっくりと瞳へ映り込む。
王都全体が静まり返っているからこそ、その美しさはより際立っていた。
「今日は天気に恵まれてよかったね」
圧巻の光景を前に、私はぽつりと呟く。
本来なら《星樹》は薄雲一つで見え方が大きく変わってしまうらしい。
けれど今夜の空には雲一つない。
どこまでも澄み切った夜空の中で、白環月の銀色と《星樹》の淡い蒼光が静かに重なっていた。
「ここまで綺麗に見えるのは久しぶりね」
ティーカップを傾けながら、エリシアが穏やかに微笑む。
「王都でも今日はかなり話題になっていたもの。みんな早めに店を閉めて空を見ているみたいよ」
「なるほど……だから今日は静かなんだ」
確かに、いつもなら遠くから聞こえてくる夜の喧騒も今日はかなり少ない。
聞こえるのは風の音と、時折カップが触れ合う小さな音くらいだった。
「エレノア様! 見てください! 星が流れました!」
興奮した様子でメルが夜空を指差す。
その勢いのまま身を乗り出しかけて――
「おっと」
すぐ隣にいたルーカスお兄様が、苦笑しながらメルの肩を支えた。
「落ちるぞ」
「えへへ……つい」
「気持ちはわかるけどね」
私も思わず笑ってしまう。
それくらい、今日の夜空は綺麗だった。
白環月の周囲には淡い光輪が広がり、《星樹》は巨大な樹木のように空を横断している。
まるで夜空そのものが幻想画になったみたいだ。
そして、その光景を眺めながら――私は小さく息を吐いた。
「……平和だなぁ」
ぽつりと漏れた言葉と同時。
背後から、聞き慣れた声が響いた。
「お待たせしましたー!」
振り返ると、ミストルティン様が大きなトレーを抱えて立っていた。
その後ろには、同じく大量の飲み物を持ったパルシア様の姿もある。
「夜空を眺めるなら、お菓子と飲み物は必須でしょう?」
「今日はいい日になりそうだわ」
ソフィア様も遅れてバルコニーへとやって来る。
夜風に揺れる銀髪をかき上げながら、どこか機嫌良さそうに夜空を見上げていた。
ミストルティン様は机の上にトレーを置き、慣れた手つきでコップを配り始める。
「はい、エレノアちゃん」
「ありがとうございます……って」
私は差し出された飲み物を見て固まった。
黒い液体。
細かく弾ける泡。
どう見ても炭酸飲料だった。
「これ絶対コーラですよね?」
「こーら?」
メルが首を傾げる。
「エレノアちゃんの記憶を参考に再現した特製飲料です!」
「再現度高すぎません!?」
しかも机の上には、どう見てもポテトチップスやクッキーっぽいものまで並んでいる。
異世界の夜空を眺めながらポテチと炭酸。
前世の私が見たら絶対混乱する光景だった。
ルーカスお兄様は興味深そうに袋を持ち上げる。
「これが例の“じゃんくふーど”か」
「そうですね。立派なジャンクフードです」
「随分嬉しそうだな」
「美味しいので」
即答すると、ルーカスお兄様が小さく笑った。
メルは早速ポテトチップスを一枚摘まみ――次の瞬間、目を輝かせる。
「お、おいしいです……!」
「でしょう?」
ミストルティン様が得意げに胸を張る。
「塩味と油の組み合わせは正義なんですよ!」
「神様が言うと説得力がおかしいんですよね……」
そんなやり取りをしながら、私はグラスへ口をつける。
しゅわり、と炭酸が弾けた。
……うん。
完全にコーラだこれ。
しかも妙に再現度が高い。
白環月の銀光がテーブルを照らし、《星樹》の蒼い光が静かに夜空を流れていく。
幻想的な景色。
穏やかな時間。
そして前世のジャンクフード。
「……異世界感が行方不明なんだけど」
思わず漏れた私の呟きに、みんなが小さく笑う。
静かな夜だった。
風は穏やかで、王都の喧騒も今日は遠い。
まるで世界そのものが、この夜空を楽しむために静まり返っているみたいだった。
――だが、その頃。
護衛棟の一角に設けられた会議室では、陛下と影の諜報機関からの報告により空気が張り詰めていた。
「その情報は確かなんだな?」
低く響いた声に、室内の視線が集まる。
問いを発したのは、王命錬金護衛隊隊長――アラン。
普段なら多少のことでは表情を崩さない彼ですら、今は眉間に深い皺を刻んでいた。
その正面に立つ隊員は、緊張した様子で報告書を握りしめる。
「影の諜報機関第一隊からの報告なので、誤報の可能性は非常に低いかと」
室内の空気がさらに重くなる。
影の諜報機関。
第一隊から第四隊まで存在する、王族直属の極秘諜報組織。
構成員は全員が厳選された実力者であり、諜報・潜入・暗殺・護衛・対魔導戦闘まであらゆる任務へ対応可能。
まさに“王国の裏側”を支える存在だった。
その中でも――第一隊は別格。
一国の精鋭小隊すら凌ぐ戦力を保有し、過去には国家転覆未遂事件の制圧、大規模密輸組織の壊滅、敵国諜報網への単独潜入など、数々の高難易度任務を成功させてきた“トップオブトップ”の部隊。
表に名が出ることはない。
だが王国上層部において、“第一隊が動いた”という事実は、それだけで国家級案件を意味する。
そして今回――。
その第一隊が、“裏市場とセレスティア伯爵家に関わる不穏な動き”を正式報告してきた。
つまりこの件は、もはや“警戒案件”などという軽い言葉で済む話ではない。
王命錬金護衛隊の面々が無言になる。
誰もが理解していた。
これは、エレノア個人を狙った問題では終わらない可能性がある、と。
「パトロンに関する報告は?」
副隊長のミィナが問う。
鋭い視線が報告役の隊員へ向けられる。
「パトロンに関する情報は、第一隊でも掴めていないようで現時点では不明です」
一拍。
「ですが……エレノア様に接触する機会はそうそうありません。加えて、夜会時にクラウゼル男爵が過剰にエレノア様へ接触していたという報告を、当日警備を担当した騎士団より受けています」
その瞬間。
会議室の空気がさらに冷え込んだ。
「……クラウゼル男爵か」
誰かが低く呟く。
アランは腕を組んだまま、静かに目を細める。
夜会での一件は、当然こちらでも把握済みだった。
必要以上の接触。
不自然な距離感。
そして、エレノアへ向けられていた執着にも似た視線。
当時から違和感はあった。
だが――。
「証拠がないとなると、不用意に動けんな……」
アランが低く呟く。
陛下からは既に命令が出ている。
――エレノア様へ危害を加える可能性がある存在は、敵性存在として扱え。
それほどまでに、王国はエレノアを重視していた。
実際、王命錬金護衛隊には通常ではあり得ないレベルの権限が与えられている。
必要と判断した場合、その場での排除すら容認。
通常時でも、ありとあらゆる権限を持つ王命錬金護衛隊。
接近する不審者の排除、拘束、状況に応じた事前警戒行動など、その裁量は極めて広い。
必要であれば騎士団への命令権すら一時的に行使可能。
まさに“王冠案件”という言葉がそのまま当てはまる、王国最上位クラスの独立権限を保有していた。
加えて、同じ王族直属組織である影の諜報機関とも常時連携状態にあり、通常時から情報共有や共同監視体制が敷かれている。
だが――。
それでも、“排除”という言葉だけは違った。
設立から現在に至るまで、その単語が正式命令として使われたことは一度もない。
なぜならそれは、単なる武力行使許可ではない。
対象の立場、爵位、政治的影響力すら無視し、“王国への脅威として処理せよ”と認定する行為だからだ。
つまり、“法より優先される王命”。
それほど重い。
そして今回。
陛下から下された命令は、明らかに異常だった。
――排除・事前警戒行動は確実に実行せよ。
それだけではない。
通常では制限される令状・王命なしでの貴族への強制調査権限。
王国監視網への優先アクセス。
騎士団を含む各機関への即時協力命令権。
さらには、捜査権限そのものの大幅拡充まで通達されている。
完全な“実戦対応体制”。
つまり王国は今回の件を、単なる護衛対象への脅迫ではなく――国家安全保障案件として扱い始めていた。
「流石に現時点でクラウゼル男爵家へ踏み込むのは無理ね」
ミィナが静かに言った。
「材料が薄すぎる」
夜会での不自然な接触。
執着に近い視線。
裏市場側の不穏な動き。
第一隊の警戒報告。
確かに怪しい。
怪しすぎる。
だが、それだけだ。
決定打がない。
「現状では“疑わしい”止まりです」
隊員の一人が報告書を握りながら続ける。
「強制捜査を行えば、こちらが“権限を濫用した”と見られる危険があります」
それが最悪だった。
王命錬金護衛隊の権限は強大。
だからこそ、使い方を誤れば一瞬で政治問題へ変わる。
しかも相手は正式な貴族。
証拠不十分のまま踏み込めば、“王家直属部隊による貴族弾圧”という口実を与えかねない。
「向こうもそれを理解した上で動いている可能性が高いな……」
アランが目を細める。
裏市場を経由。
直接接触を避ける。
痕跡を残さない。
あまりにも典型的な“切断型”。
失敗時に自分へ火の粉が飛ばない構造だ。
「厄介ですね……」
「ああ。だが――」
アランの声色が変わる。
「逆に言えば、“現場”を押さえれば終わる」
その瞬間、会議室の空気が鋭く変質した。
王命錬金護衛隊が欲しいのは推測ではない。
確定。
もし実行犯が動けば。
もしエレノアへ危害が向けば。
その瞬間、すべてが敵性行動として成立する。
「現状は相手の行動を待つのが最善だろう……」
一拍。
「だが、問題はエレノア様の関係者に対しても尾行がされている点だ」
その言葉で、会議室の空気が再び重く沈む。
ただ本人を狙っているだけではない。
周囲まで探られている。
それが意味するものを、この場の誰もが理解していた。
「確認されているのは、メル様、カイル様、エレノア様の近親者に加え、複数人の使用人が最多。回数は少ないですが、ローディス殿の工房関係者への尾行も報告されています」
一拍。
「……あとはエリシア様への尾行も確認されていますが、こちらは完全に尾行だけではなさそうだという報告も受けています」
その瞬間。
会議室の空気が、明確に変わった。
アランの視線が鋭く細まる。
「どういう意味だ」
低い声。
報告していた隊員が僅かに呼吸を整える。
「監視対象が接触機会を探っている形跡があります」
一拍。
「加えて、護衛配置や移動時間を測っている可能性も」
沈黙。
重い沈黙だった。
尾行だけならまだいい。
だが接触を前提に動き始めているとなれば話は別だ。
「エリシア様へも護衛は当然つけていますが、エレノア様と比べて手薄です」
隊員の報告に、会議室の空気がさらに沈む。
当然だった。
現在の護衛戦力は、ほぼエレノア中心で構築されている。
王命錬金護衛隊の本部そのものがセレスティア伯爵家へ置かれている以上、常時防衛網もエレノア周辺が最も厚い。
だが逆に言えば――。
「向こうから見れば、“狙い目”に映る可能性があるな」
アランが低く呟く。
エレノア本人への直接接触は難しい。
だから周囲を崩す。
護衛の薄い場所。
移動中。
外出先。
あるいは精神的揺さぶり。
典型的な手口だ。
「最悪、エリシア様を利用してエレノア様を誘導する可能性もあります」
ミィナの声が静かに落ちる。
その瞬間、室内の温度がさらに下がった。
あり得る。
十分にあり得た。
エレノア本人は異常なまでに家族を優先する。
もしエリシアへ危険が及べば、自ら動く可能性は高い。
そして――それこそが敵の狙いかもしれない。
「護衛配置を再編する」
アランが即座に決断する。
「セレスティア伯爵家の関係者に対しても厳重警戒網を敷く。人員は騎士団とも連携の上実施し、使用人に至るまで指一本触れさせるな」
低い声だった。
だが、その一言だけで室内の空気が完全に切り替わる。
王命錬金護衛隊単独ではない。
騎士団まで巻き込む。
つまり王国規模での警戒体制へ移行するという意味だ。
「警戒対象範囲は?」
「セレスティア伯爵家本邸、レーヴェン子爵家、アトリエ、ローディス殿の工房周辺まで含めろ」
一拍。
「加えて関係者の移動経路を全て洗い直せ。固定化しているルートがあれば即変更だ」
「了解」
隊員たちが即座に動き始める。
机の上へ次々と資料が広げられ、警戒区域と人員配置が高速で組み替えられていく。
その様子を見ながら、ミィナが静かに口を開く。
「……かなり大規模になるわね」
「ああ」
アランは短く返した。
「だが、ここで躊躇すれば必ず突かれる」
敵は既に尾行を始めている。
監視もしている。
つまり“選別”に入っている。
ならばこちらも、最悪を前提に動くしかない。
「使用人への警戒も徹底しろ」
アランがさらに続ける。
「買収、脅迫、偽装接触……裏市場が絡んでいるなら何でもありだと思え」
その言葉に、会議室の空気がさらに張り詰めた。
裏市場。
その単語だけで意味が変わる。
常識が通じない。
倫理も通じない。
金で動き、必要なら人も消す。
だから厄介だった。
「方法は構わん」
アランが低く言い切る。
「最悪、買い出し等も我々で担当して構わない」
一瞬、室内が静まり返る。
それは異常な発言だった。
王命錬金護衛隊は王国直属の特殊部隊。
本来なら国家級案件へ対応する存在だ。
そんな者たちが、使用人の代わりに買い出しを行う。
普通ならあり得ない。
だが――誰も笑わなかった。
それだけ今回の状況が危険だと理解しているからだ。
「接触機会そのものを消す、ですか……」
ミィナが静かに呟く。
「ああ」
アランは即答した。
「相手が狙っているのは“穴”だ」
一拍。
「なら、その穴を潰し切る」
静かな声。
だが、その内容は徹底していた。
護衛ではない。
隔離に近い。
「外部との接触は可能な限り制限。配送、仕入れ、移動経路も全て再確認しろ」
「了解」
「加えて、使用人への護衛も増員だ。単独行動は極力避けさせろ」
その指示に、隊員たちが一斉に動き始める。
地図。
勤務表。
巡回経路。
王都監視網。
あらゆる情報が机上へ展開されていく。
そして、その中心で。
アランだけが静かに目を細めていた。
「……裏市場か」
低い呟き。
もし本当にそこまで絡んでいるなら、相手は想像以上に本気だ。
だからこそ――こちらも、一切容赦するつもりはなかった。
「外部との接触は可能な限り制限。配送、仕入れ、移動経路も全て再確認しろ」
「了解」
「加えて、使用人への護衛も増員だ。単独行動は極力避けさせろ」
その指示に、隊員たちが一斉に動き始める。
地図。
勤務表。
巡回経路。
王都監視網。
あらゆる情報が机上へ展開されていく。
そして、その中心で。
アランだけが静かに目を細めていた。
「……裏市場か」
低い呟き。
もし本当にそこまで絡んでいるなら、相手は想像以上に本気だ。
だからこそ――こちらも、一切容赦するつもりはなかった。
一方で。
「……待ってください」
資料を確認していたミィナが、ふと顔を上げる。
「これ、エレノア様の行動範囲が広すぎません?」
その一言で、会議室の視線が一斉に集まった。
「本邸、アトリエ、商業ギルド、ローディス殿の工房、薬理統制局……」
一枚一枚、資料をめくっていく。
「これ全部を常時護衛するの、現実的じゃないわよ」
沈黙。
誰も否定できない。
エレノアは、錬金術関連に関してだけは異常なまでに行動力が高い。
しかも思いついたら即行動するタイプだ。
突発的に市場へ行く。
工房へ行く。
新素材を探しに行く。
気付けば神族組まで増えている。
護衛する側からすれば、予定表など“参考資料”でしかなかった。
「……いっそ行動範囲そのものを減らした方が早いのでは?」
ぽつりと漏れた一言。
その瞬間、会議室の空気がわずかに止まる。
そして――。
「あ」
数人が同時に声を漏らした。
ミィナが資料を見ながら、ゆっくりと口を開く。
「アトリエ営業を商会側だけで回せばいいのよ」
一拍。
「商品は本邸から供給。エレノア様達は極力外へ出さない」
沈黙。
だが次の瞬間には、隊員たちが一斉に資料を確認し始める。
「……可能ですね」
「王城への納品や配送ルートを固定すれば警備もしやすい」
「商会側のスタッフにも護衛を付ければ運営自体は問題ないかと」
「そもそも最近は客数が多すぎて、エレノア様達が店頭対応する時間ほとんどありませんしね……」
次々と現実的な案が積み上がっていく。
アランも静かに腕を組む。
「悪くない」
一拍。
「少なくとも今よりは遥かに守りやすくなる」
エレノアが動くから警備範囲が広がる。
ならば動線を減らせばいい。
極めて合理的だった。
だが――。
「問題はエレノア様本人が納得するかですね」
その瞬間。
会議室の空気が妙に静かになった。
「……」
「……」
「……説得班を編成するか?」
誰かの呟きに、数人が本気で頷く。
そしてアランは、深くため息を吐いた。
――その頃。
「わぁ……このクッキーすごく美味しい!」
「でしょー? ミストルティン特製だよ!」
満天の星空の下。
バルコニーでは、相変わらず穏やかな時間が流れていた。
白環月の淡い光。
空を横断する《星樹》の蒼い輝き。
優雅に紅茶を楽しむエリシアとアメリアお姉さま。
お菓子を囲んで盛り上がるメル達。
そして――。
「これ、絶対ポテチだよね?」
「ポテチだねぇ」
「異世界に存在していい食感じゃないと思うのですが……?」
前世由来のお菓子に困惑するルーカスお兄様。
その横で、エリシアが恐る恐る透明な袋へ手を伸ばした。
「……あの、これ本当に食べ物なのですか?」
一枚摘まみ、ぱり、と小さな音が鳴る。
そして次の瞬間。
「……なにこれ美味しい……」
衝撃を受けたように目を見開く。
「でしょう!」
なぜか得意げなミストルティン様。
「塩と油と芋というシンプル構成なのに完成されすぎてるんだよねぇ」
「完成されすぎてるのはわかりますけど、これ危険な食べ物では……?」
ルーカスお兄様が真顔で呟く。
その横で、ソフィア様が静かにジュースを飲みながら夜空を見上げる。
平和だった。
あまりにも平和だった。
一方その頃、護衛棟会議室では。
「……まずはアメリア様に協力を頼む」
王命錬金護衛隊による、“エレノア屋敷引きこもり計画”が満場一致で可決されていた。




