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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第二章 アトリエ開業編

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133話 第一次ゲームブーム、神はガチャに敗れる③

翌日の夜――


「今日は絶対に、デイリーだけで終わらせます」


私は真剣な顔でそう宣言した。


夕食を終え、自然な流れでゲーム部屋へ向かいながら。


誰に向けた宣言なのかはわからない。


たぶん、自分自身にだ。


昨日の時点でかなり危うかった。


かなり、というか完全に危うかった。


「少しだけ」


その言葉ほど信用できないものはない。


私はもう知っている。


デイリークエスト。


素材回収。


装備集め。


寄り道。


探索。


「そういえば俺もデイリーやらないと」


ルーカスお兄様が何気ない口調でそう言いながら立ち上がる。


私はぴたりと動きを止めた。


「……今、なんて?」


「デイリー」


当然のように返ってきた。


おかしい。


非常におかしい。


昨日まで「課金が理解できない」とか言っていた人の発言ではない。


私は静かに目を細める。


「ルーカスお兄様、順応が早すぎません?」


「違う。合理的判断だ」


聞いたことがある。


ものすごく聞いたことがある言い訳だった。


たぶん私もよく使っている。


つまり反論しづらい。


悔しい。


カイルも苦笑しながら立ち上がる。


「俺も素材回収をしないと......」


「カイルまで」


「あのゲーム面白いので.......」


否定できない。


すごく否定できない。


メルは最初からやる気満々だった。


「私は今日こそ絶対にあのボス倒す!」


「昨日すごい勢いで吹き飛ばされてましたよね」


「今日は勝つの!」


根性論だった。


でも嫌いじゃない。


そして、すでにゲーム部屋の扉の前で待機していたミストルティン様が、満面の笑みで両手を広げる。


「ようこそ、こちら側へ!」


「その言い方やめてください」


完全に沼の住人を増やした人の台詞だった。


否定できないのがさらに腹立たしい。


こうして、誰か一人が言い出したのを皮切りに。


気づけば、ぞろぞろと全員でゲーム部屋へ向かうことになった。


昨日作ったばかりのはずなのに、すでに妙な帰属意識がある。


白いPC。


水色のデスク。


強そうな椅子。


控えめに光る照明。


扉を開けた瞬間、ここだけ文明レベルが違う。


やっぱり異質だった。


でも。


妙に落ち着く。


それが一番悔しい。


私は小さくため息を吐きながら、自分の席へ向かった。


「……今日は本当に、デイリーだけですからね」


誰に向けた宣言なのかは、もうよくわからなかった。


それからしばらくしてーー


時計の針が、ゆっくりと深夜を指す。


気づけば、今日もかなりの時間が経っていた。


イベント周回。


素材回収。


装備更新。


メルのボス戦再挑戦。


ルーカスお兄様の「あと一回だけ」。


カイルの「この素材だけ回収したい」。


そして私の「この依頼だけ確認したい」。


――誰一人として、デイリーだけで終わっていなかった。


おかしい。


非常におかしい。


私は静かにキーボードから手を離し、深いため息を吐く。


「……寝ようかな」


ようやく出た、理性的な判断だった。


このままだと確実に明日に響く。


というか、もう響いている気がする。


健康的な生活を守るためにも、ここで終わるべきだ。


うん。


そうしよう。


私は立ち上がろうとして――


ぴこん。


軽やかな通知音が鳴った。


全員の視線が、一斉にモニターへ向く。


そこに表示された文字。


【限定ピックアップ開催】


数秒の沈黙。


嫌な予感しかしない。


というか、昨日からずっとしていた。


ついに来た。


来てしまった。


私はものすごく嫌な顔をした。


隣で、ミストルティン様の目が完全に輝いていた。


危険な光だった。


非常に危険なやつだった。


「……ねえ」


その声音が、もうだめだった。


私は反射的に一歩引く。


「嫌な予感しかしません」


ミストルティン様は、満面の笑みで立ち上がる。


そして、びしっと画面を指差した。


「ピックアップ含めて、ガチャから出る全キャラ出すまで終われません――やろうよ!!」


「絶対に嫌です」


即答だった。


反射だった。


本能が全力で拒否した。


「なんでそんな恐ろしい企画を深夜に始めようとしてるんですか!?」


「お祭りだから!」


「理由になってません!」


むしろ悪化していた。


私は全力で首を横に振る。


「そもそも私はまだそこまで乗り気じゃないんです。

課金の沼に入るつもりは――」


「えっ、楽しそう!!」


メルが目を輝かせた。


早い。


裏切りが早い。


「メル!?」


「だって全キャラってすごくない!?」


「すごいけど危険なんです!」


「見てみたい」


カイルまで頷いた。


「カイルまで!?」


「いや、純粋にどこまで出るのか気になる」


わかる。


わかるけど。


味方でいてほしかった。


ルーカスお兄様は腕を組みながら、非常に渋い顔をしていた。


よかった。


ここにきてようやく理性側の人間が――


「……まあ、一度くらいなら」


「最後の砦が崩れた」


私は静かに絶望した。


ルーカスお兄様は視線を逸らす。


「いや、経験として知っておくのも大事だろう」


「その理屈、完全に危険なやつです」


でも誰も止まらない。


止まる気配がない。


ミストルティン様は、すでに財布ではなく“覚悟”を決めた顔をしていた。


一番怖い。


私は椅子に座り直しながら、小さく呟く。


「……絶対にろくなことにならない」


「大丈夫!」


「その言葉が一番信用できないんです」


それでも。


みんなの目は完全にイベント前のそれだった。


わくわくしている。


すごくしている。


……少しだけ。


ほんの少しだけ。


私も気になってしまっているのが、最悪だった。


「……じゃあ、ルールを確認します」


私は半ば諦めたような気持ちで、静かに口を開いた。


もう誰も止まらないなら、せめて整理だけはしておきたい。


被害を最小限にするために。


たぶん無理だけど。


「ピックアップを含めて、ガチャから出る全キャラを揃えるまで終わらない」


「うん!」


ミストルティン様が満面の笑みで頷く。


その笑顔が怖い。


非常に怖い。


「つまり、限定ピックアップを確保して、そのあと常設側も含めて全部埋めるってことですね」


「そう!」


「勝負にしないでください」


心の底からそう思った。


これは競技ではない。


事故である。


でももう遅い。


メルはきらきらした目で身を乗り出している。


「私、こういうの運いい気がする!」


「その台詞はだいたいフラグです」


「大丈夫!」


根拠がなかった。


でも妙な説得力だけはある。


ルーカスお兄様は腕を組んで渋い顔をしている。


「俺はこういうの、本当に弱いんだが……」


「珍しく同意します」


「いや、お前もだろ」


否定できない。


私は素材ドロップ運はあるのに、こういう時だけ妙に外す。


本当に理不尽だと思う。


カイルは苦笑しながら肩をすくめた。


「まあ、見る側に回るよ。

俺はこの空気だけで十分怖い」


賢い。


非常に賢い。


たぶん今日一番正しい判断をしている。


そして。


ミストルティン様が、ゆっくりとガチャ画面を開いた。


煌びやかな演出。


美しい立ち絵。


圧倒的な“引け”の空気。


私は静かに深呼吸をする。


「……始めましょう」


その瞬間。


地獄の幕が上がった。


◇


結果だけ言おう。


地獄だった。


本当に地獄だった。


まず最初に終わったのは、メルだった。


「えっ!?

えっ!?

また出た!?!?」


本人が一番驚いていた。


信じられないほど引きが良かった。


ピックアップは一発で確保。


その後の常設ガチャでも、欲しいキャラがするすると揃っていく。


気づけば、必要なキャラが全部埋まっていた。


天井――一回。


「なんで!?」


私が叫んだ。


「私そんなに運いいタイプだったの!?」


「今日だけ神に愛されてる」


カイルが冷静に言った。


本当にそうだった。


メルは完全に勝者の顔をしていた。


眩しい。


非常に眩しい。


次に終わったのは――私だった。


「……出ました」


私は静かに椅子にもたれかかる。


勝った。


いや、勝ってはいない。


でも生き残った。


それだけで十分だった。


ピックアップ自体は比較的早かった。


問題はその後だった。


常設。


常設が、終わらない。


欲しいキャラだけが、綺麗に来ない。


なぜ。


本当に、なぜ。


結果。


天井――三回。


「エレノア様、顔が研究失敗した時みたいになってる」


「気のせいです」


気のせいではなかった。


財布ではなく、精神が削られた。


ルーカスお兄様は、無言だった。


とても無言だった。


画面を見つめる目が死んでいる。


「……あと何回だ」


「次で五回目です」


カイルの静かな返答。


「そうか」


その声に感情がなかった。


途中から、誰も彼を煽らなくなっていた。


それくらいには壮絶だった。


ピックアップは普通に終わった。


問題は常設だった。


まったく終わらない。


狙ったように、必要なキャラだけ来ない。


結果。


天井――五回。


「もう二度とやらん」


「たぶんまたやりますよ」


「やめろ」


切実だった。


でもきっとやる。


私たちはもう知っている。


このゲームはそういうものだ。


そして――


最後まで終わらなかった人がいた。


ミストルティン様である。


「なんで!?!?!」


部屋に響く、神の絶叫。


誰もが思った。


それはこちらの台詞だと。


ピックアップ。


天井。


常設。


天井。


また天井。


さらに天井。


全部。


全部、天井だった。


「嘘でしょ……」


メルが引いていた。


「ここまでくると逆に才能ですね……」


私は真顔で言った。


ルーカスお兄様は遠い目をしている。


「神にも救えないものがあるんだな」


「やめて」


ミストルティン様の声が、少しだけ弱かった。


珍しい。


かなり珍しい。


でも。


最後の最後。


全キャラが揃った瞬間。


ミストルティン様は、静かに天を仰いで言った。


「……これだから、ガチャはやめられないんだよね」


「理解したくないです」


私は即答した。


深夜。


全員の顔が、少しだけ死んでいた。


でも。


妙な達成感だけはあった。


それが一番恐ろしかった。


深夜。


全員の顔が、少しだけ死んでいた。


でも。


妙な達成感だけはあった。


それが一番恐ろしかった。


私はぐったりと椅子にもたれかかりながら、小さく息を吐く。


「……もう二度とやりたくありません」


心の底からの本音だった。


精神的な消耗がひどい。


戦闘より疲れる。


素材周回より疲れる。


なんなら薬理統制局の会議より疲れる。


あれは本当に地獄だった。


メルはクッションを抱えたまま、まだ少しふわふわした顔をしている。


「でも、ちょっと楽しかった……」


「否定できないのが悔しいですね」


すごく悔しい。


でも、あの演出。


あの一瞬の高揚感。


あれは確かに危険だった。


人を狂わせる。


よくわかった。


ルーカスお兄様は遠い目をしたまま呟く。


「人が破滅する理由を理解した気がする」


「すごくわかります」


全面的に同意だった。


カイルは苦笑しながら端末を覗き込んでいる。


「で、結局いくら使ったんだ?」


その一言で、部屋の空気が止まった。


……聞いてはいけないものを聞いた気がする。


私は静かに視線を逸らした。


知らないほうが幸せなこともある。


たぶんこれはその代表例だ。


しかし。


ミストルティン様は、なぜか晴れやかな笑顔だった。


すごく嫌な予感しかしない。


「えーっとね」


軽い。


ものすごく軽い。


その軽さで言う話ではない。


「全部合わせて、だいたい120万円くらい!」


「はい?」


反射だった。


即答だった。


部屋の全員が固まった。


私は数秒、思考を放棄した。


今なんて?


120万?


聞き間違いであってほしい。


ぜひそうであってほしい。


「……課金額ですよね?」


「うん!」


元気よく返ってきた。


何ひとつ救いがなかった。


メルが小さく震えている。


「家がまた買える……」


「そこまでではないけど、だいぶ事件だな」


ルーカスお兄様の声が乾いていた。


カイルは額を押さえている。


「思ったよりってレベルじゃないだろ……」


すると。


ミストルティン様は、きょとんとした顔で首を傾げた。


「え?

でも思ったよりかからなかったなーって感じだよ?」


「その感覚が一番怖いんです」


私は即座に突っ込んだ。


本当に。


本当にそこだった。


もっとかかる想定だったのが怖い。


非常に怖い。


「だって全部天井したわりには安いよ?」


「その言葉を普通の顔で言わないでください」


神の金銭感覚は、やはり理解してはいけないものだった。


私は静かに天を仰ぐ。


昨日まで、私は平和に本を読んでいたはずなのに。


どうしてこうなった。


どうして、ゲーム部屋ができて。


どうして、深夜に120万円の課金報告を聞いているのか。


人生とは、本当にわからない。


ミストルティン様は満足そうに頷いた。


「まあでも、推しが全員揃ったから実質無料だね!」


「無料の概念を壊さないでください」


私は心の底からそう言った。


誰か、この人を止めてほしい。


たぶん無理だけど。


その日。


私は改めて理解した。


――ガチャは、人生を狂わせる。


そして。


明日のログインボーナスを確認してから寝ようと思ってしまった時点で。


たぶん私も、もう手遅れだった。

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