131話 第一次ゲームブーム、神はガチャに敗れる①
NTE楽しい!!!!
あんまり原神系のシステムのゲーム好きじゃないけど珍しくはまりましたwww
事の発端は一週間前ーー
休息日の今日はいつも通り居間でのんびりとお茶を飲みながら溜まりに溜まった本を静かに呼んでいた。
隣でメルとカイルとルーカスお兄様は、大型のテレビでマ〇オカートを楽しんでおり平和そのものだった。
「くそ! 誰だよ!ここにバナナを置いたのは!!」
「それ私のだよー!!」
「いや絶対わざとだろそれ!」
「ただの前方不注意ですよね?」
「メルー!!」
画面の向こうでは、派手な効果音とともに誰かがコースアウトしていた。
実に騒がしい。
でも、こういう賑やかさは嫌いじゃない。
私はカップを口元へ運びながら、ぱらりと本のページをめくる。
静かな読書時間――とは少し違うけれど、これはこれで休日らしい。
平和だ。
本当に平和だった。
……その時までは。
バァンッ!!
ものすごい勢いで、居間の扉が開いた。
「エレノアーーー!!!」
聞き慣れた声。
というか、この登場の仕方をする人は一人しかいない。
私は本から視線を上げることなく、小さくため息を吐いた。
「……扉は静かに開けるものですよ、ミストルティン様」
「そんなことより大変なの!!」
大変じゃない時があっただろうか、この人。
勢いそのままに、ミストルティン様は私の正面のソファへ飛び込むように座った。
空間収納からド〇パラと書かれた袋やGA〇LERIAと書かれた箱を大量に床に置く
「......なんですかこれ??」
ミストルティン様は、きらきらした笑顔で胸を張った。
「超ツヨツヨハイエンドのゲーミングPC!!」
「はい??」
私は一瞬、言葉を失った。
いや、待ってほしい。
今なんて?
「……もう一度お願いします」
「超ツヨツヨハイエンドのゲーミングPC!!」
元気よく二回目が返ってきた。
何ひとつ情報量が減っていない。
むしろ増した。
私は静かに床に積み上がった箱を見る。
ド〇パラの袋。
GA〇LERIAの大きな箱。
さらに周辺機器らしき小箱まで山のようにある。
どう見ても、一式。
しかも明らかに高い。
かなり高い。
というか、嫌な予感しかしない。
私はゆっくりと、その箱の数を数えた。
一台。
……ではない。
二台。
……でもない。
明らかに複数。
しかも、ちゃんと周辺機器まで揃っている。
嫌な予感がさらに強くなる。
私は静かに顔を上げた。
「……これ、まさか」
ミストルティン様は、これ以上ないくらい嬉しそうな笑顔で親指を立てた。
「人数分あるよ!」
「なぜ」
反射だった。
即答だった。
しかもかなり真剣だった。
ミストルティン様は当然のように胸を張る。
「だって一人だけだと寂しいじゃん!」
「そういう問題ではありません」
「みんなでやったほうが絶対楽しいよ!」
「それは……まあ……」
そこは否定しづらい。
悔しいけれど、事実だった。
一人でやるより、複数人で騒いだほうがゲームはたぶん楽しい。
でも、だからといって。
私は改めて床を見た。
「これ......いくらしたんですか?」
「一台あたり125万円でそこに周辺機器とかモニターもあるから大体全部で1280万円くらいかな?」
「…………」
思考が止まった。
私は今、何を聞いた?
1台あたり。
125万。
全部で。
1280万。
……。
……。
「はい?」
ようやく出た言葉が、それだった。
「一体どんなゲームをさせるつもりですか......?
というかパソコンの値段で合ってますよね?」
「だってフルカスタマイズして、ラインナップの中でもツヨツヨだったのをさらにツヨツヨにしているからね」
まるで「今日はいいお茶を買ったよ」くらいの軽さで言わないでほしい。
私は無言でミストルティン様を見つめた。
この人、本当に金銭感覚が壊れている。
いや、神様だからそもそも人間基準で考えるのが間違いなのかもしれない。
でも納得はしたくない。
絶対にしたくない。
「1280万円って、どのくらいなんですか……?」
カイルがぽつりとそう呟きながら考え込んだ。
「前にみんなでアイスを買いに行った時よりも物価が上がっているから何とも言えないけど、家は間違いなく買えるね」
ミストルティン様が、涼しい顔でとんでもないことを言った。
「やっぱり家なんですね……」
夢も希望もなかった。
私は静かに頭を抱える。
メルは素直に「ひえぇ……」と声を漏らし、ルーカスお兄様は腕を組んだまま遠い目をしていた。
「俺の感覚だと、もはや買い物じゃなくて事件なんだが」
全面的に同意だった。
私は紅茶を一口飲む。
落ち着きたい。
でも全然落ち着かない。
ミストルティン様はきらきらした笑顔のまま続ける。
「だって!! そのくらい面白そうなゲームなんだもん!!」
「まだ始めてもいないのにそこまで課金してるのが怖いんです」
私は即座に突っ込んだ。
普通は遊んでから判断するものではないだろうか。
少なくとも、いきなり1280万円を投じる判断ではない。
ミストルティン様は胸を張る。
「事前準備は大事だよ!」
「規模が国家事業なんですよ」
「推し活は戦いだから」
「どこと戦ってるんですか」
「運営」
真顔だった。
あ、これは本物だ。
私は静かに視線を逸らした。
メルは完全に目を輝かせている。
「えっ、そんなに面白いの!?」
「面白いよ!!
キャラは可愛いし、エモートはすごくかっこいいし、グラフィックも超きれいだし、ガチャは地獄だし!」
「最後おかしくないですか?」
「正常だよ?」
何ひとつ正常ではなかった。
「金を払って苦しむのは理解できないんだが......」
ルーカスお兄様が腕を組みながら、渋い表情を浮かべている。
「お金がなきゃ維持できないでしょ? 推し活はね、運営にいくら貢ぐかで決まるんだよ!」
ミストルティン様は、なぜかものすごく誇らしげだった。
言っていることはだいぶ危ないのに、本人は完全に正論を語っている顔である。
私は静かに額を押さえた。
「その価値観、かなり危険だと思うんですが……」
「とりあえずみんなでやろうよ!!」
話を強引に切り替えた。
絶対に都合の悪い部分を流した。
ミストルティン様は勢いそのままに立ち上がり、びしっと私たちを指差す。
「せっかく人数分あるんだから!
一人で始めるより、みんなでやったほうが絶対楽しいでしょ!」
床に並ぶ、超ツヨツヨハイエンドのゲーミングPCたち。
人数分。
改めて見ると、やっぱり圧がすごい。
そして金額の圧もすごい。
私は遠い目をした。
「人数分って、本当に全員分だったんですね……」
「当然!」
当然ではない。
メルはすでに完全に乗り気だった。
「やりたい!!
私こういうの気になってた!」
「裏切りが早い」
「だって楽しそうだもん!」
その気持ちはわかる。
わかるのが悔しい。
「とりあえず開いている部屋に持っていくね!」
ミストルティン様は、ものすごく軽い調子でそう言った。
次の瞬間。
床に積まれていた大量の箱が、ふわりと浮かび上がる。
「待ってください」
私は即座に止めた。
「その量を一人で運ばないでください。
というか普通に危ないです」
「大丈夫だよ?」
「その“大丈夫”が信用できないんです」
過去の実績が多すぎる。
非常に多すぎる。
ミストルティン様はむむっと頬を膨らませた。
「今回はちゃんとしてる!」
「前回もその前も聞きました」
「今回は本当に!」
信用度は低かった。
メルはきらきらした目で箱を見上げている。
「すごーい!
なんか秘密基地作るみたい!」
「秘密基地にしては値段が重すぎる」
「家が買える秘密基地だね!」
それはもう別の何かだった。
カイルは普通に一箱持ち上げながら頷く。
「じゃあ俺も手伝うよ」
「カイルまで順応が早い」
「運ぶのは早いほうがいいだろ?」
正論だった。
悔しい。
ルーカスお兄様は深いため息を吐きながら立ち上がる。
「……結局やる流れなんだな」
「はい!」
ミストルティン様の返事だけが異様に元気だった。
もはや誰も止められない。
私は本をそっと閉じる。
静かな休日は、ここで終わった。
「……せめて配線は綺麗にしてください」
「まかせて!」
「その返事が一番不安です」
そうして私たちは、半ば強制的に“ゲーミング部屋”の設営を始めることになった。
使っていない客室のひとつ。
本来なら静かで落ち着いた部屋のはずなのに、今は巨大なモニターと高性能PCが並ぶ異空間になりつつある。
「そういえば、机とか椅子ないですけどどうするんですか?」
客室用とはいえ、使う予定がないため部屋には家具のひとつもない。
こんな状況でデスクトップパソコンを設置したら、明らかに遊びづらい。
ミストルティン様は、待ってましたと言わんばかりに胸を張った。
「もう買って組み立て済みだよ!」
そう言って、空間収納へ手を突っ込む。
次の瞬間。
どんっ!!
明らかにゲーム用に設計された机と椅子が、部屋の中央に現れた。
白いパソコンに合わせた、水色の大きなデスク。
天板は広く、モニターを複数置いても余裕がありそうだ。
淡い色合いなのに妙に存在感がある。
しかも、控えめに光るLED付き。
そして、いかにも“長時間座っても疲れません”と言わんばかりの高級そうなゲーミングチェア。
こちらも白を基調にした、ふかふかで強そうなやつだった。
しかも人数分。
「…………」
私は無言になった。
いや、予感はしていた。
していたけれど。
ここまで本気だとは思わなかった。
メルは完全に目を輝かせている。
「すごーい!!
なんかすっごく可愛い!!」
「可愛いの方向に全力ですね……」
「大事だよ!
見た目のモチベーションって!」
ミストルティン様は力強く頷いた。
その理屈だけは、ちょっとわかるのが悔しい。
カイルが机を軽く叩きながら感心したように頷く。
「かなりしっかりしてるな。
これ普通にいいやつだろ」
「もちろん!
配線しやすいし、モニターも置きやすいし、飲み物こぼしても多少大丈夫!」
「最後の情報いります?」
「大事だよ?」
確かに大事ではある。
悔しいけれど。
ルーカスお兄様は椅子を見下ろしながら、なんとも言えない顔をしていた。
「……なんでこんなに椅子が強そうなんだ」
「わかります。
座るだけで戦闘力上がりそうです」
「だろ?」
なぜか納得してしまう。
あの椅子、座るだけでバフがかかりそうだった。
ミストルティン様は得意げに椅子をくるりと回す。
「しかもリクライニング付き!」
「そこだけちょっと羨ましいです」
思わず本音が漏れた。
研究室にも欲しい。
かなり欲しい。
長時間作業する時、絶対に便利だ。
ミストルティン様がにやりと笑う。
「でしょ?
つまりゲームを始めるしかない」
「その理論の飛躍がすごい」
でも、ちょっとだけ気持ちは揺らぐ。
ほんの少しだけ。
私は静かに額を押さえた。
気づけば、どんどん外堀が埋められている。
逃げ道がない。
本当にない。
ミストルティン様は満足そうに両手を叩いた。
「よし! じゃあ設置開始!」
「待ってください、まだ心の準備が」
「大丈夫、始めれば慣れる!」
その言葉が一番危ない。
私は深いため息を吐きながら、本をそっと閉じた。
――静かな休日は、完全に終わった。
……はずだった。
設置が終わり、全員分の席が綺麗に並ぶ。
白いPC。
水色のデスク。
強そうな椅子。
巨大なモニター。
もはや完全に、客室ではない。
小規模なゲーム大会会場だった。
圧がすごい。
本当にすごい。
私はその光景を見つめながら、小さく呟く。
「……もう後戻りできない気がする」
後ろでルーカスお兄様が静かに頷いた。
「安心しろ。最初からだ」
ひどい。
でも否定できない。
すると、ミストルティン様が部屋をぐるりと見回し――
何かに気づいたように、はっと目を見開いた。
「……足りない」
嫌な予感しかしない。
私は反射的に一歩下がった。
「今度は何ですか」
ミストルティン様は、真剣な顔で言い放つ。
「ヘッドセット!
マウスパッド!
可愛いマグカップ!
あとクッション!」
「最後の二つ急に生活感が強いですね」
「快適さは大事だよ!」
「そこは否定しづらいですけど」
メルがぴょこんと手を挙げた。
「あとお菓子!!」
「それは必要」
カイルが即答した。
早い。
ルーカスお兄様まで腕を組んで頷いている。
「長時間やるなら飲み物置く場所も欲しいな」
「みんな順応が早すぎません?」
さっきまで抵抗していたはずなのに。
なぜこうなった。
ミストルティン様は、にこにこと笑いながら宣言する。
「というわけで!
みんなで買いに行こう!!」
「どういうわけですか」
「せっかくなら完璧にしたいでしょ!」
それは、まあ。
……ちょっとだけ、わかる。
ものすごく悔しいけれど。
私はしばらく黙り込み、そして静かにため息を吐いた。
「……可愛いマグカップだけなら」
「エレノアが落ちた!!」
「違います」
「でも行くんだよね?」
「…………」
否定できない。
最悪だった。
こうして私は、休日の読書時間を失い。
なぜか家族みんなで、“最高のゲーム環境を作るための買い物”へ向かうことになった。
ちなみに。
その時点ではまだ誰も知らなかった。
――この日を境に、我が家の課金額がさらにおかしなことになる未来を。




