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[毎日更新中]転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第二章 アトリエ開業編

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120話 選別過程、実地確認①

とある休息日の午後ーー


屋敷には四人の少年・少女が屋敷の実験室に集められていた。


「じゃあ、まず自己紹介からお願いしてもいいですか?」


「それじゃあ、自己紹介から」


 私の一言で、四人の視線が揃った。


 一歩前に出たのは、落ち着いた雰囲気の少女。


「リナです」


 短く、無駄のない言葉。

 視線はまっすぐで、余計な緊張もない。


(……安定してる)


 次に、少し柔らかい印象の少女が続く。


「セレナです。よろしくお願いします」


 軽く頭を下げる。

 声音は穏やかだが、芯はある。


  三人目。


 一瞬だけ、空気が変わる。


「……エリシアです」


 ほんのわずかに、間があった。


 それだけ。


 名前自体に違和感はない。

 だが――


(……何かある)


 直感的にそう思った。


 理由は分からない。

 ただ、他の三人とは“質”が違う。


 立ち方。

 視線の置き方。

 言葉を発するまでの間。


 どれもが、どこか整いすぎている。


(……まぁ、いい)


 今はそこを掘る場面じゃない。


 私は何も言わず、小さく頷いた。


 最後に、少年が一歩前に出る。


「リオルです」


 短く、簡潔に。


 だが、その声音にはわずかな力が込められていた。


 四人。


 それぞれ違うが――最低限の芯は通っている。


「……うん」


 小さく頷く。


「話は聞いてると思うけど、ここは“採用を約束する場”じゃありません。」


 一人ずつ視線を合わせる。


「これから一定期間、適性を見ます。」


「その結果次第で――決めることになります。」


 空気が、わずかに引き締まる。


「それでもいいですか?」


「「はい」」


 迷いのない返答。


(悪くない)


 そう思った、その時だった。


 コンコン。


 控えめなノックが響く。


「……?」


 このタイミングで?


「入ってください」


 扉が開く。


 入ってきたのは――変装した陛下。


 私にとってはバレバレだが、四人は気づいていない。


「エレノア嬢、少しいいかな?」


「……構いません」


 即答する。


 このタイミングで来る理由は、だいたい察しがつく。


「少し席を外します」


 四人に向けてそう告げる。


「ここで待機していてください」


「「はい」」


 揃った返事を確認してから、立ち上がる。


 そのまま陛下と共に、部屋を出た。


 扉が閉まる。


 ――廊下。


 人の気配が遠ざかったところで、足を止める。


「ここでいい」


 陛下が静かに言う。


 そして――


 空気が変わった。


「……やはり気づいていたか」


「最初から」


 短く返す。


 隠す気もない。


 陛下は小さく笑った。


「だろうな」


 一拍。


「本題に入ろう」


 視線がまっすぐに向けられる。


「先ほどの四人の中に――一人、事情を抱えている者がいる」


「……エリシアですね」


「話が早い」


 即座に肯定される。


「クラウゼル男爵家の娘だ」


「やっぱり」


 違和感の正体が、はっきりする。


「あの娘の家系は、代々文官の家系なのだが――」


 一拍。


「錬金術師の職を授かったことに腹を立て、そのまま家系図から外された娘だ」


「……」


 言葉が、少しだけ重く落ちる。


 貴族としての価値。

 家としての期待。


 それに合わなかった、ただそれだけで――切り捨てられた。


「現在は、孤児院扱いとして王城側で保護している」


「……なるほど」


 静かに頷く。


 表情や所作に違和感があった理由も、それで説明がつく。


「腕は確かだ」


 陛下は続ける。


「基礎理論、魔力制御ともに同年代では頭一つ抜けている」


「……でしょうね」


 短く返す。


 あの一瞬で分かる程度には、完成度が違った。


 だが――


「問題は、そこではない」 


 私がそう言うと、陛下は小さく目を細めた。


「……何が気になる?」


「周囲との距離感です」


 はっきりと答える。


「能力はあっても、環境に適応できなければ意味がありません」


 一拍。


「特にここは、少人数で回しているので」


「……確かにな」


 陛下は静かに頷く。


「だからこそ、頼みがある」


 視線が、まっすぐ向けられる。


「もし、採用が出来そうだったらで構わない」


 一拍。


「セレスティア伯爵家の養子として迎えてくれないだろうか?」


「……は?」


 一瞬、理解が追いつかなかった。


「養子……ですか?」


「そうだ」


 淡々と、しかし揺るがない声。


「今のままでは、あの娘に“帰る場所”はない」


「孤児院所属のままでは、いずれ限界が来る」


「……」


「貴族としての後ろ盾があれば、将来的な立場も安定する」


「そして何より――」


 一拍。


「あの娘自身が、堂々と錬金術師として立てる」


 静かな言葉だった。


 だが、その重みは軽くない。


「私は、構いませんが」


 一拍置いて、続ける。


「あの子の気持ちと、他の三人にはどう説明すればいいんですか?」


 空気が、わずかに張る。


 陛下は少しだけ目を細めた。


「……いい質問だな」


 小さく息を吐く。


「まず前提として、今回の話は“採用とは別軸”だ」


「……別軸?」


「そうだ」


 頷く。


「雇用は、あくまで能力と適性で決める」


「そこに例外は作らない」


「……」


 それはつまり――


(贔屓はしない、ということ)


「エリシアも例外ではない」


 はっきりと言い切る。


「他の三人と同じ土俵で評価される」


「その上で」


 一拍。


「もし採用に至り、なおかつ君が“家として迎える価値がある”と判断した場合のみ、この話が成立する」


「……なるほど」


 筋は通っている。


「では、他の三人には?」


 重ねて問う。


 ここを曖昧にすると、確実に歪む。


 陛下は即答した。


「説明は不要だ」


「……」


 思わず、眉が動く。


「正確には、“今の段階では伝える必要がない”」


「採用が決まっていない以上、共有すべき情報ではないからな」


「……採用後は?」


「その時は、“家の判断”として説明すればいい」


 淡々と続ける。


「雇用と身分は別問題だ」


「同じ職場にいるからといって、全てを平等にする必要はない」


「……」


 正論ではある。


 だが同時に――


(感情の問題は残る)


 それを察したのか、陛下はわずかに口調を緩めた。


「無論、不満が出る可能性はある」


「だがそれは、“結果を見てからの話”だ」


 一拍。


「先に余計な情報を与えても、混乱を招くだけだろう」


「……確かに」


 納得せざるを得ない。


「それに」


 陛下は静かに付け加える。


「君なら、そこを誤魔化さずに説明するだろう」


「……」


「だからこそ、任せている」


 真っすぐな言葉だった。


 責任を押し付けるでもなく、逃げるでもなく。


 ただ、判断を委ねている。


 私は小さく息を吐いた。


「……分かりました」


 短く答える。


「ただし」


 一つだけ、線を引く。


「最終的に決めるのは、私です」


「当然だ」


 即答だった。


「それでいい」


 迷いのない肯定。


 それを聞いて、ようやく小さく頷く。


(……やることは変わらない)


 まずは見る。


 能力を。


 適性を。


 そして――人として。


「では、その前提で進めます」


「ああ、頼んだ」


 短いやり取り。


 だが、それで十分だった。


 応接室を出て、実験室へと戻る。


 扉を開けると、四人の視線が一斉にこちらへ向いた。


「お待たせしました」


 短く告げる。


 余計な説明はしない。


 今は、それよりも優先することがある。


「これから、実技を行います」


 一瞬、空気が引き締まる。


「内容はシンプルです」


 机の上に並べられた素材を指し示す。


「ポーション、及びハイポーションの作成」


 その一言で、四人の表情がわずかに変わった。


 驚き。

 緊張。

 そして――覚悟。


「できるかどうか、ではなく」


 一拍置く。


「“どう作るか”を見ます」


 視線を順に向ける。


「失敗しても構いません」


「ですが、理由のない失敗は評価しません」


 淡々と告げる。


 その意味は重い。


「……はい」


 四人が揃って頷いた。


「まずは手順の確認から入ります」


 そう言って、隣に立つカイルへ視線を向ける。


「お願いします」


「ああ」


 短く応じ、カイルが前に出る。


「基本工程は変わらない」


 低く、落ち着いた声。


「だが、ここで求めるのは“再現性”だ」


 素材を手に取りながら続ける。


「ポーションは、ただ混ぜればいいわけじゃない」


「魔力の流し方、反応の維持、温度管理」


「その全てが揃って初めて“安定した効果”になる」


 実際に手を動かしながら、工程を見せていく。


 無駄のない動き。


 迷いのない判断。


 そして――一切のブレがない。


(……相変わらず、綺麗)


 思わず内心でそう評価する。


「見て覚えろ、とは言わない」


 カイルが手を止めずに言う。


「だが“何をしているか”は理解しろ」


 完成したポーションが、静かに机へ置かれる。


「次にハイポーション」


 空気が、さらに引き締まる。


「ここからは難易度が上がる」


 素材が変わる。


 魔力の扱いも、段違いになる。


「反応速度が速い分、誤差が出やすい」


「制御できなければ、ただの失敗作だ」


 淡々とした説明。


 だが、その実――


 “できて当然”という圧がある。


 そして。


 数分後。


 ハイポーションが完成する。


 透明度、粘度、魔力の安定。


 どれを取っても、完成度は高い。


「以上だ」


 カイルが一歩下がる。


 そこで、私は前に出る。


「補足します」


 四人の視線が集まる。


「今の工程は“理想形”です」


「ですが、全てを再現する必要はありません」


 一拍。


「自分なりの最適解を見つけてください」


 そして、はっきりと言う。


「ただし――結果は見ます」


 空気が張る。


「ポーションは最低条件」


「ハイポーションは加点対象」


「どちらも安定して作れるかどうかを評価します」


 視線を一人ずつに向ける。


「準備はいいですか?」


「……はい」


 短く、しかし迷いのない返答。


 私は小さく頷く。


「では、始めてください」


 その合図で――


 四人が一斉に動き出した。


 素材を手に取り、魔力を流し、反応を組み立てる。


 動きはそれぞれ違う。


 速い者。

 慎重な者。

 迷いを見せる者。


 そして――


(……ここから、か)


 私は静かに腕を組み、観察に入った。


 “できるか”ではない。


 “どこまでできるか”。


 そして――


(誰を残すか)


 その判断が、ここで決まる。


 静かに時間が流れる。


 やがて――一人、また一人と手が止まった。


「……できました」


 差し出されるポーション。


 私は一つずつ確認していく。


(……悪くない)


 安定しているもの。

 粗さはあるが伸び代が見えるもの。

 そして――


(やっぱり、差はある)


 全員が“最低限”には届いている。


 だが、それだけでは足りない。


「次、ハイポーション」


 短く告げる。


 一瞬の緊張。


 そして再び、手が動き出した。


 結果――


「……以上です」


 全員が作り終えたところで、私はそう区切った。


 机の上に並ぶ完成品。


 その出来を、静かに見渡す。


(判断はできる)


 だが――


「今日はここまでにします」


 四人が顔を上げる。


「評価と判断は、後日行います」


 一拍。


「現時点で、採用は決めません」


 はっきりと告げる。


 わずかに緊張が走るが、誰も口を挟まない。


「明日以降も同様に確認を続けます」


「それを踏まえて最終判断を出します」


 短く、それだけ伝える。


「以上です。今日は解散してください」


 四人は揃って頭を下げ、静かに部屋を出ていった。


 扉が閉まる。


 残るのは、静寂。


「……エレノア様どうでしたか?」


 隣でカイルが呟く。


「大方採用するかは決まったよ」


 短く答える。


 そして、机の上のポーションへ視線を落とす。


(でも――まだ足りない)


 小さく息を吐く。


「明日も見る」


「ああ」


 それだけで十分だった。


 私は一つ帳簿を閉じる。


(ここからが本番)


 選ぶのは――次だ。


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